子どもの高次脳機能障害はなぜ隠れる? メルマガバックナンバー紹介:支援方法・支援技術・1

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2026.09.11

子どもの高次脳機能障害はなぜ隠れる? メルマガバックナンバー紹介:支援方法・支援技術・1

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■    連載:子どもの高次脳機能障害はなぜ隠れる?
■□   コラム:メルマガバックナンバー紹介:支援方法・支援技術・1
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■ 新連載:子どもの高次脳機能に眼を凝らす
       第2回 子どもの高次脳機能障害はなぜ隠れる?
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■前回までのおさらい
前回、私が子どもの高次脳機能障害と出会い、その見えにくい問題を少しずつ捉えられるようになるまでをお話ししました。その中で浮かび上がってきたのが、「子どもの高次脳機能障害が隠れてしまう」という問題です。今回は、なぜこの問題が起こるのかを考えていきたいと思います。

■子どもの高次脳機能障害を隠す三つの壁
原因を考える鍵となるのが、「発達」です。子どもの高次脳機能障害が見えにくい背景には、大きく三つの難しさがあります。

(1)高次脳機能そのものが発達の途中にある
(2)評価には年齢に応じた「できること」の基準が必要になる
(3)子どもに適した評価法や日本語の基準値が十分に整っていない

この3つは、それぞれ独立した問題ではありません。高次脳機能そのものが発達の途中にあるため、評価には年齢に応じた基準が必要になります。しかし、そのための評価法や基準値が十分に整っていない。このように3つの壁が重なることで、子どもの高次脳機能障害は覆い隠され、本人や家族、医療者、教育関係者が「困りごと」の原因にたどり着く道が隔てられてしまうのです。

■変化しつづける子どもの高次脳機能
まず、(1)について詳しく紐解いていきます。成人では一定の基準に照らして評価しやすい視空間認知や言語などの機能も、子どもでは年齢とともに大きく変化します。

例えば立方体の模写は、成人にとっては簡単な課題ですが、幼い子どもにはまだ難しく、年齢とともに描き方が変わっていきます。本邦で立方体透視図模写課題の達成度を年齢ごとに検討した研究では、この課題は9歳頃から遂行可能となることが示されています1)。したがって、9歳前後の子どもでは、立方体をうまく描けない場合、それが脳の障害によるものなのか、まだその能力が発達の途中にあるためなのかを区別しなければなりません。

言語機能も同様です。成人の失語症評価に用いられる標準失語症検査を子どもに実施した荏原らの研究では、6~7歳ですでに高い正答率を示す項目がある一方、8~12歳になって初めて高い正答率に達する項目も認められました2)。このことからも、成人用の検査結果を子どもにそのまま当てはめるのではなく、年齢ごとの言語発達を踏まえて解釈する必要があることがわかります。

そして、この問題は失語症評価だけにとどまりません。多くの高次脳機能検査では、説明を理解したり、言葉で答えたりすることが求められます。そのため、言語機能の発達段階を考慮することは、記憶や注意、遂行機能など、ほかの高次脳機能を評価するときにも欠かせません。こうした発達への配慮が不可欠であることこそ、子どもの高次脳機能評価を難しくしているのです。

■子どもの高次脳機能評価には「定規」が必要
続いて(2)について考えます。ここまで見てきたように、子どもの高次脳機能は年齢とともに変化します。では、そのように発達し続ける機能を、どのように評価すればよいのでしょうか。

そのためには、一定の年齢幅ごとに、通常どの程度の高次脳機能に到達しているのかを明らかにし、評価の基準を設ける必要があります。もちろん発達には個人差がありますが、その子どもの結果を年齢ごとの基準と比較して初めて、発達の範囲にあるのか、脳の障害による変化が疑われるのかを検討できるようになります。つまり、子どもの高次脳機能評価には、年齢に応じた「定規」が欠かせないのです。

先にご紹介した荏原らの研究は、この「定規」を作るための基礎的な研究でした。標準失語症検査だけでなく、成人ですでに用いられていたウェクスラー記憶検査、Trail Making Testなどの注意機能検査、前頭葉機能を調べるWisconsin Card Sorting Test慶應版などを、6~18歳の健常児133名に実施しました。その結果、それぞれの検査成績が年齢とともにどのように変化するのかが示され、子どもを評価する際の「定規」となる基礎的なデータが得られました。

この研究結果は、小児の高次脳機能評価を行ううえで非常に重要な報告であり、実際、私も今なおこの結果を参考にしながら評価を行っています。ただし、この研究は、信頼できる「定規」を完成させる前段階の予備的な検討です。年齢ごとの基準値を確立するためには、十分な対象者数を確保し、年齢や性別、教育・文化的背景なども考慮した大規模な標準化研究が必要になります。残念ながら、少なくとも私が把握している範囲では、これに続く大規模な標準化研究は日本では行われていません。

■子どもに合った「レンズ」を整える
最後に(3)についてお話しします。ここまで述べてきた問題の延長線上には、そもそも子どもの発達段階に合った評価法を整える必要がある、という課題があります。
この課題は以前から認識され、子どもに適した評価法の開発と標準化が長年進められてきました。実際、ウェクスラー式知能検査には、成人を対象としたWAISと、それに対応する子ども用のWISCがあり、それぞれの年齢層に合わせて作られています。WISCは日本の子どもたちの年齢や文化的背景に合わせて標準化され、臨床現場でも広く用いられています。つまり、「成人用の検査を子どもにそのまま当てはめる」のではなく、成人と子どもそれぞれに適した評価法を用意するという考え方は、すでに実践されているのです。
また、包括的な知能検査だけでなく、8歳以上を対象とするベントン視覚記銘検査のように、視覚認知や視覚記銘、視覚構成能力に焦点を絞った検査を組み合わせることもあります。

英語圏ではさらに、日常生活に現れる遂行機能を保護者や教師が評価するBRIEF2(Behavior Rating Inventory of Executive Function, Second Edition)、注意機能を課題によって調べるTEA-Ch(Test of Everyday Attention for Children)、学習と記憶を包括的に評価するChildren’s Memory Scale(CMS)など、目的に応じた小児用評価法が整備されています。

日本でも、これらの領域における取り組みが皆無というわけではありません。遂行機能領域では幼児期を対象とした日本語版BRIEF-Pの検討3)、注意機能領域ではTrail Making Testの年齢群別成績を示す研究4)、記憶機能領域では未就学児を対象とした研究5)に続き、学齢期用聴覚性言語学習検査(AVLT-JSC)の予備的研究6)が報告されています。もっとも、対象となる年齢や人数には限りがあり、日常診療で広く利用できる標準化された小児用検査が十分にそろっているとはいえません。AVLT-JSCの研究も6~12歳の定型発達児25名を対象とする予備調査です。

そのため臨床現場では、成人用検査を発達段階に配慮しながら応用したり、WISCなどの包括的な検査結果から注意機能やワーキングメモリーの問題を考える手がかりを得たりしています。しかし、それだけでは個々の高次脳機能を直接、十分な精度で捉えられないこともあります。見ようとする眼はあっても、それを十分な解像度で映し出す「レンズ」が、まだそろっていないのです。

しかし、十分な「レンズ」がそろっていないからと手をこまねいていてもしょうがありません。この現状で、私たちはどのように子どもの「困りごと」に近づけばよいのでしょうか。その手がかりは、現状見えることを丁寧に解釈することだと私は考えます。子どもがどのように課題に取り組み、どこでつまずき、どのような助けがあれば先へ進めるのかを丁寧に見ていくのです。ある検査で仮に同じような結果に至っていたとしても、過程が違えば、困難の背景も、必要となる支援も異なるからです。

そして、高次脳機能評価の目的は、子どもに点数や診断名を与えることではありません。評価によって見えてきたその子どもなりの「困り方」を、家庭や学校で実際に活用できる具体的な支援へとつなげることにあります。次回は、検査結果の向こう側にある子どもの姿をどのように捉え、実際の介入へ結びつけていくのかを考えていきます。

文献
1)後藤多可志,石井利奈,春原則子.立方体透視図模写に関する検討―発達的変化と課題遂行に関与する認知機能―.高次脳機能研究 2016;36:470-475.

2)荏原実千代,高橋伸佳,山崎正子,ほか.小児認知機能の発達的変化―小児における高次脳機能評価法の予備的検討―.リハビリテーション医学 2006;43:249-258.

3)浮穴寿香,橋本創一,出口利定.日本語版BRIEF-Pの開発―発達障害児支援への活用をめざして―.発達障害支援システム学研究 2008;7:59?64.

4)眞田敏,新谷真以,福田あやこ,ほか.Trail Making Test指標の発達的変化の検討.岡山大学大学院教育学研究科研究集録 2012;150:9-16.

5)柴玲子,小林範子,石田宏代,ほか.未就学児における聴覚性言語性記憶の発達についての検討―Rey’s Auditory Verbal Learning Test「小児版」作成にむけて―.高次脳機能研究 2006;26:385-396.

6)西田野百合,橋本竜作,村井俊哉,ほか.学齢期用聴覚性言語学習検査の作成とその有用性に関する予備的研究.高次脳機能研究 2025;45:202-209.

◇森 貴幸
東京大学小児科
千葉県市川市出身。山梨大学医学部医学科卒業。東京大学小児科、東京都立小児総合医療センターでの勤務を経て、東京大学小児科助教。その間に東京都立医学総合研究所こどもの脳プロジェクトで急性脳炎・脳症研究に従事。

 
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■ コラム:メルマガ・バックナンバーのおすすめ
           第8回 支援方法・支援技術・1
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当メルマガ15周年記念企画バックナンバーのおすすめ第3弾は、支援方法・支援技術を取り上げます。

1.合理的配慮の誤解を解く鍵は「社会モデル」にある 全4回

学校現場などで提供される「合理的配慮」について、正しく理解できていますか?
本連載では、東京大学の飯野由里子(いいの のりこ)さんが、合理的配慮を適切に運用するための本質的な考え方をわかりやすく解説しています。  

従来の「障害は個人に起因する」という医学モデルから脱却し、障害や困難さは個人と環境との不一致(社会的障壁)によって生じるという「社会モデル」の視点に立つことの重要性を指摘。現場で生じがちな「特別な贔屓(ひいき)」といった誤解を解きほぐします。

全4回の連載を通して、バリアの本質や対話的プロセスの必要性を整理し、子ども一人ひとりの学びの保障と環境改善へつなげる実践的なアプローチを提示しています。

教育・福祉関係者をはじめ、本当の意味でのインクルーシブな環境づくりを目指す全ての方にぜひご一読いただきたい必読のエッセイです。



2.ペアレント・トレーニングの活かし方 全8回

発達障害や育てにくさを抱える子どもへの対応に悩む保護者に向けて、家庭で実践できる具体的な手立てをわかりやすく解説する連載です。

著者は柳下記子(やぎした のりこ)さん。本連載では、行動療法の基本である「行動のABC(先行刺激・行動・結果)」の考え方を軸に、子どもの行動を3つのタイプに分類して整理するアプローチを紹介。マニュアル通りにはいかない現実を踏まえ、コーチングの視点も取り入れた実践的な工夫が盛り込まれています。

子どもを無理に変えようとするのではなく、親の関わり方(ほめる・指示の出し方など)を工夫することで、望ましい行動を引き出し親子関係を改善するコツを提示。子育ての不安やイライラを解消し、前向きに向き合うための具体的なヒントが詰まった、保護者や支援者に強くお勧めするガイドです。

※2015年10月から 

なお、柳下さんは、次の共著の連載で、特別支援教育コーディネーターについても解説していただいています。

 
3.居場所カフェ×ナースの可能性 全4回

看護師であり思春期保健相談士としても活躍する新山愛子(にいやま あいこ)さんが、思春期の子どもたちへの支援と「居場所」の可能性について紐解く全4回の連載です。

著者は病院勤務を通じて、多くの子どもの身体症状の背景に「思春期特有の悩みや不適応」があることに着目。人間関係や多様性を学ぶ「包括的性教育」の視点を取り入れ、学校現場における新たな支援アプローチとして「スクールナース」の着想に至ります。さらに高校内の居場所カフェを活用した実践「ナースカフェ」を開始し、対話を通して生徒の心のSOSを受け止める取り組みを展開しています。

生徒でも教員でもない第三者である看護師だからこそ引き出せる「本音」と、行政や教育現場を横断する柔軟なサポートのあり方を提示。子どもに関わるすべての教育・福祉関係者や保護者へ、寄り添うヒントを届ける注目のエッセイです。

※2024年3月から 

 
■□ あとがき ■□--------------------------
子どもたちにかかわる情報を発信する無料オンラインセミナーを昨年から開催しています。株式会社ネットアーツとのタイアップ企画です。
主に、福祉支援、教育関係の方を想定した内容ですが、どなたでもご参加いただけます。あらかじめお申込みの上でご参加ください。

秋シリーズ第1回は、9月24日(木)午前10時30分から、講師は長崎大学医師薬学総合研究科教授の岩永竜一郎先生、「動作の困りとその対処」です。

次号メルマガは、9月25日(金)を予定しています。

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