居場所カフェ×ナースの可能性 映画:夜明けのすべて

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2024.03.15

居場所カフェ×ナースの可能性 映画:夜明けのすべて

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■   まえがき
■□  新連載:居場所カフェ×ナースの可能性
■□■ コラム:映画:夜明けのすべて
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■□まえがき ■□--------------------------
今回から、新山愛子さんの連載「居場所カフェ×ナースの可能性」が始まります。

新山さんは看護師として病院勤務を続けながら、高校内居場所カフェスタッフとして高校生と向き合っていらっしゃいます。また、依頼を受けた外部の講師としても活動されており、依頼元は中学校からが多いそうですが、大学生やPTA、保護者、保育士などからも依頼されるそうです。

その他に、定期的に銭湯で行われている子ども銭湯というイベントのお手伝いもされており、そこでは食育活動も実施しながら子どもたちの居場所を守るお手伝いをされています。

今回から4回の連載を予定していますので、ご期待ください。

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■ 新連載:居場所カフェ×ナースの可能性
                第1回 性教育を始めたきっかけ~ナースカフェに至るまで
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1.性教育をはじめたきっかけ
事の発端は三男出産後の育児休暇も終わりかけの 2017年、看護師として働き続けて 14年経ち、子ども4人の母となりこのままでいいのか?という考えが頭をよぎりました。というのも、2015年当時小学二年生だった長男が元気の有り余る日々で子育ての壁に直面していて、夜勤や休日出勤のある正職員でいることに限界を感じ、非常勤に切り替えたことがありました。

そこから仕事よりも子育てに重点を置くうちに、これからくる個性的な4人の思春期に、私はちゃんと向き合えるのだろうかと思い始めました。また、病院に来る子どもたちは難聴やめまい、ふらふらするなどの身体症状で受診してくるのですが、問診や検査などをしていくうちに悩みやトラブルを抱えていることで身体的症状として訴えていることが見えてくるケースがしばしばありました。

共通点は、「思春期」。自分の思春期を振り返っても、好き勝手していたし親に散々叱られたし、部活も受験もあったりと、心身ともに忙しい時期だったと思います。

そして、思春期時代に「自分は思春期である」と自覚して行動している若者はほとんどいません。しかし、アイデンティティの確立していくことにより、人間関係の変化が伴う時期、性ホルモンが劇的に増えていき、それに伴って心身が劇的に変化していく時期、大人への準備段階で自己責任が言われ始める時期、自分でも何をどうしていいか分からない状態が続くことで不安が生じ、その見えない不安からイライラすることも。そのような時期に突入する前に少しでも生きていく上で必要な知識を得る機会を提供出来たら、思春期を乗り越えるスキルを得るための手助けとなるのではないかと考えました。

2.性教育との出会い
そこで、育児休暇を利用し、色々調べるうちに「思春期保健相談士※1」という資格にたどり着き、全研修を受講し2018年1月に取得しました。研修内容は、いわゆる「包括的性教育」でした。

世間では、性教育は身体的性のイメージが強く、学生に性教育と伝えると「過激な話が聞けますか?」「エロい話」「恥ずかしい」などと言われることもあります。

しかし、国際セクシュアリティ教育ガイダンスによると、(1)人間関係、(2)価値観、人権、
文化、セクシュアリティ、(3)ジェンダーの理解、(4)暴力と安全確保、(5)健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル、(6)人間のからだと発達、(7)セクシュアリティと性的行動、(8)性と生殖に関する健康という8つのキーコンセプトを、5歳から展開することになっています※2。

人間関係を築く、多様な価値観を知る、ジェンダーの問題を知る、加害・被害を知る、心身の健康やからだの仕組みを知ることで初めて、他者との適切な関わり方を学ぶことにつながります。他者との適切な関わりが成立してから性的行動や生殖に関するステップへ進むことになります。

そして、このキーコンセプトは発達段階を考慮して、伝えていく内容も変化していきます。この幼少期からの積み重ねがとても大切で、思春期に性的なイベントが起きていきなり性教育をしようにも土台がないため、伝えられる側の理解に大きな差が生じてしまいます。ただ、成長してからでも、学ぶ機会さえあれば理解は深まっていきます。

※1 思春期保健相談士 思春期の子どもたちに、専門的な知識経験を積みながら適切に対応し支援する。日本家族計画協会が認定する資格

※2 国際セクシュアリティ教育ガイダンス ユネスコ編 明石書店 

※上記の改訂版はこちら 

3.「スクールナース」
学校に来ていれば家庭外の人が関わるチャンスはあるものの、不登校になると一気に社会と遮断された状態になってしまいます。そこで、体調不良を訴えて病院受診や、関係機関に相談などしてくれたらまだ関わる機会を得ることが出来ますが、それすらないと仮定すると、学校が最後の砦になると思っています。

ただ、学校は働き方改革や学習指導要綱の変化などで現場の先生方の負担は相当なものなっていると推測されます。そして、基本的に学校に養護教諭は一人であるため、不調を訴えて保健室に来る子どもたちがいてもじっくり対応する余裕が得られにくかったり、養護教諭自身が抱えこんでしまい疲弊したりする可能性も十分に考えられます。

そこで私が考えたのが、「スクールナース」でした。『教科書にみる世界の性教育』編著:橋本紀子・池谷壽夫・田代美江子、かもがわ出版)という本に出会ったのがきっかけです。本によると、特にヨーロッパでは「スクールナース」が常勤しており、教育職や心理職、福祉職などと連携もしつつ、性教育にも関わったりしています。

※3 『教科書にみる世界の性教育』

日本でもこのシステムがあればと思いましたが、日本には「スクールナース」に相当するのが養護教諭に当たります。歴史をみると、1905年に学校看護婦が配置され、看護師が配置されていたのですが、1941年に教育職員に位置づけられたそうです。そこから心身共に対応していくようになっていき、現在の形になっています。よって、海外は看護師資格を有する従事者がほとんどですが、日本では教育学部卒業者が従事していることがほとんどになります。

学校の中で、子どもたちと話していて共通しているのが「先生には言わないで」の文言でした。現場の先生方は日々子どもたちのことを考え、子どもたちのために頑張っているのに、子どもたちとの間に解離が生じてしまっています。

その中でも、養護教諭は職員室ではなく保健室にいるということで、子どもたちの心身のケアをしたり、学校の先生であって少し違う立場で関わったりすることが出来ます。しかし、実際は業務や他の子どもたちへの影響を考え、保健室滞在に様々な条件を付けざるを得ない現状があります。中には養護教諭も「先生」という肩書きで捉える子どもたちもいるため、「先生」という肩書きに一線を引く子どもたちも一定数います

4.高校内居場所カフェで「ナースカフェ」
以上のことから、「日本版スクールナース」をエリア配置し、エリア内の養護教諭と連携を図り、相談窓口になったり、性教育の講演をしに行ったりしたらどうかと考えました。

養護教諭は、子どもたちから色んな相談を受ける機会が多いと思います。相談事がヘビーであればあるほど相談を受けた側は抱えるものが多くなります。どうしていいか分からない時に、どこに相談していいか分からない上に、「他の先生には言わないで」と言われたら八方塞がりです。そんな時にエリア配置されたスクールナースがいれば適宜チームを作ることができ、相談したり実践に活かしながらフィードバックをおこなったりすることが可能になってくるのではないかと考えました。

そこで、現在自分が高校内居場所カフェで関わっている高校へ打診したところ、趣旨は理解できるものの、「スクールナース」は養護教諭として捉えられるため混同するから現在の日本においてはネーミングを変更する必要があること、養護教諭と役割が被る所もあるため棲み分けが必要ではないかという意見をいただきました。

しかし、試みは賛同出来るとのことで居場所カフェ内で活動をしていくことになりました。それが「ナースカフェ」です。ナースカフェは現在、年3~4回居場所カフェがある日にテーマを決めて少人数で対話をしています。

詳細は次回報告させていただきます。

◆新山愛子(にいやまあいこ)
看護師/思春期保健相談士/性教育認定講師
officeドーナツトーク非常勤スタッフ
 

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■ コラム:本や映画の当事者たち(9)          
      映画:夜明けのすべて
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お互いを理解しようと思うことでどんな人も生きやすくなるはず
観た人が前向きになれる映画『夜明けのすべて』

今回9回目となる不定期での連載です。

タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介します。

今回は映画『夜明けのすべて』です。

この映画は2月9日(金)から公開されています。
ストーリーはこんな感じです。

月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音 かみしらいし もね)は、ある日、会社の隣に座る同僚・山添くん(松村北斗 まつむら ほくと)の些細な行動に怒りが爆発してしまいます。
ふだん穏やかでそんなそぶりも見せない藤沢さんの態度に戸惑う山添くん。怒りのターゲットになった彼にはパニック障害があり、生きがいも気力も失っていて投げやりに生きています。

そんな2人は、プラネタリウム関連の製品を製作する小さな会社で一緒に仕事をするうちに、いつしかお互いの状況を理解しようと思うようになり、同志のような特別な気持ちが芽生え始めるのです。

監督は、『ケイコ 目を澄ませて』※(2022年公開)で多くの賞を受賞した三宅唱(みやけ しょう)。『ケイコ 目を澄ませて』では、第77回毎日映画コンクールで日本映画大賞・監督賞など5冠に輝き、キネマ旬報ベストテン日本映画ベストテン第1位を獲得、第72回ベルリン国際映画祭のほか20以上の映画祭に出品されるなど国内外で高い評価を受けています。

『ケイコ 目を澄ませて』 

その三宅監督が、2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの原作小説を映画化しました。
人気・実力ともに現代を代表する松村北斗と上白石萌音をダブル主演に迎え、芝居巧者が脇を固めています。

すべての世代が生きづらさを抱えている現代だからこそ、人と人とのつながりが希望の光になり、どんな人もお互いを思いやることで、人が人を救っていくのだと感じられます。
病気や障害があるから辛いのではない、相手の辛さを想像し、理解しようとする気持ちがないと人はうまく生きられないと思います。

見終わった後には心のうちからぽかぽかと温かくなり、「よし明日からがんばろう」と前向きになれました。

瀬尾まいこの原作を大きく変えながらも、その大切な芯がぶれることなく、世界観を拡げた映画にした三宅監督は、2021年の6月頃、企画のお話を聞いて、単行本のカバー袖に書かれた人物紹介を読んだ時点で直感的に二人に惹かれたと言っています。
藤沢さんの「どうして私は簡単に、彼のことをやる気のない人間だと決めてかかっていたのだろう」、山添くんの「いや、はたして、本当にそうだろうか」という部分に興味を持ったそうです。「自分なんか」と思っている2人が実はとても個性的で、ちょっとヘンなところもあり、とても愛着が湧いたそうです。

この映画は、恋愛で解決する話ではないのがいいと思います。一組のユニークな男女が恋愛以外の方法でいかに互いに幸せに生きうるかという可能性に挑戦しています。
2人のように、生きづらさを感じている人たちが、誰かと共に過ごすことによって自分の人生を生きることができるお話になっています。

私的には、りょうが演じる、藤沢さんのお母様をピックアップしたこともとても良かったです。別の世代の女性が抱えうる体の変化、年齢が上がっていくと必ずある変化を描いているのです。

私が今までもとても魅力的だと思って好きだった光石研(みついし けん)が、原作でも映画でも大きな意味を持っている2人の勤め先の社長役を演じているのがうれしかったです。その他のキャストも全員素晴らしく、事情を抱えながら生きている人たちがこの会社に多くいて、それが現代社会の状況と重なります。そんな大切な会社の人たちを、魅力的なキャストが演じています。

映画の真ん中には、家族きょうだい以外の関係、2人の恋愛ではない仲間や友情みたいなつながりがあります。病気や障害、そこまでいかなくても、その人の持っている辛い部分は一人ひとり違います。皆が常に、まわりにいる人のことを考えるようにしてくれればきっともっと生きやすい世の中になると思います。

この作品は、第74回ベルリン国際映画祭で上映され、満員の客席から大きな拍手を受けたそうです。三宅監督にとって3度目のベルリン。主演の松村北斗、上白石萌音とそろって訪れました。
三宅監督の作品は、2019年の「きみの鳥はうたえる」がフォーラム部門、22年に「ケイコ 目を澄ませて」がエンカウンターズ部門、そして「夜明けのすべて」が再びフォーラム部門。3作連続上映されています。

世界に打って出ている日本人監督の世界がここでもまたたくさんの人々の心を打っているのはとてもうれしいことです。

(c)瀬尾まいこ/2024 「夜明けのすべて」製作委員会

出演:松村北斗 上白石萌音 渋川清彦 りょう 光石研 ほか
原作:瀬尾まいこ『 夜明けのすべて』 (水鈴社/文春文庫 刊)
監督:三宅唱
脚本:和田清人・三宅唱
音楽:Hi'Spec
製作:「夜明けのすべて」 製作委員会
企画・制作:ホリプロ
制作プロダクション:ザフール
配給・宣伝:バンダイナムコフィルムワークス アスミック・エース
公式サイト
 
◆はら さちこ 
ライター。
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』『発達障害のおはなしシリーズ』、『10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること』などがある。



■□あとがき ■□--------------------------
次回は、3月29日(金)の配信です。


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