視覚障害のある子どもとAI活用 困りの当事者からのメッセージ・2

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2026.06.26

視覚障害のある子どもとAI活用 困りの当事者からのメッセージ・2

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■    連載:視覚障害のある子どもとAI活用
■□   コラム:困りの当事者からのメッセージ・2
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■ 連載:特別支援教育から考えるAIとの付き合い方
        第8回 視覚障害のある子どもとAI活用 ~情報を「得ること」と「理解すること」の間~
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近年、生成AI※1やAIスマートグラス※2の発展により、視覚障害のある人々の生活や学習を支援する新たな技術が注目を集めています。スマートフォンやスマートグラスのカメラを活用し、周囲の状況を説明したり、文字を読み上げたり、目的地まで案内したりする技術は急速に進歩しています。こうした技術の発展を目にすると、「AIによって視覚障害のある人の生活や社会参加のあり方は大きく変わるのではないか」と期待を抱く人も多いでしょう。

※1 生成AI 利用者からの指示(プロンプト)に応じて、テキスト、画像、音声、動画、プログラムコードなどの新しいコンテンツを自動的に生成するAI(人工知能)。

※2 AIスマートグラス カメラやマイク、AI機能を搭載し、周囲の状況の説明や文字の読み上げ、音声による対話などを行うことができる眼鏡型のウェアラブル端末。

しかし、視覚障害教育の視点から考えると、単に「情報が得られるようになること」だけが重要なのではありません。

視覚障害教育では、視覚障害を「情報障害」と捉える考え方があります。私たちは日常生活の多くの情報を視覚から得ています。教室の様子や友達の表情、街の風景、周囲の人の動きなどを瞬時に把握し、その情報をもとに行動しています。一方で、視覚に障害がある場合、これらの情報を得ることが難しくなり、経験や活動の機会が制限されることがあります。その結果、単に情報が不足するだけでなく、概念形成にも影響が及ぶことがあります。例えば、「りんご」という言葉を知っていても、実際に触れたり持ったりした経験がなければ、その大きさや重さ、形状を十分に理解することはできません。言葉だけを知っている状態と、その対象を具体的に理解している状態は異なります。視覚障害教育では、触察や観察、比較や分類などの具体的な活動を通して、言葉と概念を結び付けることが大切にされてきました。

このことを考えると、AIがどれほど発達したとしても、「情報を得ること」と「理解すること」が同義になることはないでしょう。

例えば、AIスマートグラスが「前方に桜の木があります」と説明することはできます。しかし、その説明だけで桜の姿や季節感を十分に理解できるわけではありません。実際に木に触れたり、花びらの感触を確かめたり、春の空気を感じたりする経験があって初めて、その情報は意味をもった知識として定着していきます。AIは情報を提供することはできても、実体験そのものを代替することはできません。

一方で、AIにはこれまでの支援機器にはなかった可能性もあります。視覚障害教育では、歩行指導において「Orientation and Mobility(定位と移動)」という考え方が重視されています。これは単に移動することではなく、自分がどこにいて、周囲とどのような位置関係にあるのかを理解しながら移動することを意味します。また、コミュニケーションにおいても、相手の存在や場の状況を把握することが重要になります。このような視覚障害教育の考え方を踏まえると、近年のAI研究も単なる文字認識や物体認識にとどまらず、利用者が周囲の状況を理解し、自立的に行動することを支援する方向へと発展しつつあります。

Gonzalez Penuelaら(2024)は、視覚障害・弱視のある16名を対象に、AIによる場面描写アプリの利用実態を調査しました。その結果、利用者は物体の識別や文字の読み取りだけでなく、周囲の状況把握や安全確認など、さまざまな目的でAIを活用していることが報告されています。特に興味深いのは、利用者が「触りたくないもの」や「触ることに不安があるもの」を確認するためにAIを活用していた点です。例えば、床に落ちている物が何なのかを確認したり、周囲の状況を安全な距離から把握したりする場面で利用されていました。視覚障害教育では触察を通した学習が重視されますが、実際の生活場面では、必ずしもすべての対象に自由に触れられるわけではありません。AIは実体験を代替するものではありませんが、触れる前の情報収集や安全確認を支援する手段として活用できる可能性があります。

一方で、この研究ではAIの説明に対する満足度や信頼度は決して高いものではありませんでした。利用者はAIの説明をそのまま受け入れるのではなく、自らの経験や他の情報源と照らし合わせながら利用していました。

この結果は、教育的にも示唆に富んでいます。AIは利用者に代わって世界を理解する技術ではなく、利用者自身が世界を理解するための手がかりを増やす技術と捉える方が適切でしょう。

視覚障害教育の歴史を振り返ると、点字、触図、拡大読書器、音声機器、パソコンなど、その時代ごとの新しい技術が積極的に取り入れられてきました。これらの技術は、視覚障害のある人の学習や生活を支える重要な役割を果たしてきました。しかし、それらはいずれも教育そのものに置き換わるものではなく、学びや生活を支えるための道具でした。それはAIも同様です。AIによって情報へのアクセスが容易になったとしても、子ども自身が考えたり、体験したり、人と関わったりすることの重要性は変わりません。むしろ、AIによって得られた情報をどのように解釈し、自らの経験と結び付けていくかが、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。

また、AIスマートグラスの普及に伴い、盗撮やプライバシー侵害への懸念も指摘されています。カメラを搭載した眼鏡型端末は、周囲から見ると撮影されているかどうかが分かりにくく、不安を感じる人もいます。特に、視覚障害のある人の支援機器としてスマートグラスが広く普及した場合、その特性や社会的な信頼を悪用し、不適切な撮影等に利用する人が現れる可能性も否定できません。こうした議論を耳にすると、私たちはつい「AIは危険だ」「スマートグラスには問題がある」と考えてしまいがちです。しかし、本当に問題なのは技術そのものなのでしょうか。スマートフォンにもカメラが搭載されていますが、それ自体が問題なのではありません。重要なのは、それをどのような目的で、どのように利用するのかという利用者の倫理観やモラルです。

視覚障害のある人にとって、AIスマートグラスは情報へのアクセスを広げ、自立や社会参加を支える可能性をもった技術です。その可能性を一部の不適切な利用だけで否定してしまうことは、多くの人々の学びや生活の機会を狭めてしまうことにもつながります。だからこそ、私たちはAIの使い方を学ぶだけでなく、他者の権利やプライバシーを尊重しながら技術を活用する姿勢についても考えていく必要があります。

視覚障害教育は、これまでも新しい技術を取り入れながら、子どもたちの自立と社会参加を支えてきました。生成AIやAIスマートグラスも、その延長線上にある新たな支援技術の一つです。特に、生成AIやスマートグラスが身近なものとなるこれからの時代には、「何ができるか」を学ぶだけではなく、「どのように使うべきか」を考えることも重要です。AIを活用する力と、それを適切に利用する判断力の両方を育てていくことが、これからの特別支援教育に求められているのではないでしょうか。

【参考文献】
Gonzalez Penuela, R. E., Collins, J., Bennett, C., & Azenkot, S. (2024). Investigating Use Cases of AI-Powered Scene Description Applications for Blind and Low Vision People. Proceedings of the CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI '24). 

◇山崎 智仁
山口県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 講師。臨床発達心理士。
特別支援教育を専門とし、知的障害のある子どもを中心に、ICTや生成AIを活用した教育支援の実践・研究に取り組んでいる。
特別支援学校教員としての勤務経験を経て現職。
近年は、AI時代における教師の専門性や倫理的配慮を踏まえた支援の在り方について検討を重ねている

 

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■ コラム:メルマガ・バックナンバーのおすすめ
       第4回 困りの当事者からのメッセージ・2
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3.発達障害の凸凹、死角となりやすい二次障害とは?

発達障害当事者であり、対話の場を作る「イイトコサガシ」の代表でもある冠地情氏による全8回の連載です。

本作で冠地氏は、「凸(強み)は普通レベルなのに、凹(弱み)が致命的である」という多くの当事者が直面する生々しい現実を浮き彫りにします。そして、周囲からの否定や苦手意識からコミュニケーションの機会を避け続けると、脳の機能が徐々に衰えて硬直化し、うつや引きこもりといった「死角となりやすい二次障害」へと繋がっていく危険性を鋭く指摘。早期の予防と周囲の理解が何より重要であると訴えます。

後半では、この悪循環を断ち切るために自身が実践しているコミュニケーション・ワークショップの手法を解説。失敗を恐れる当事者たちが、批判されることなく安心して試行錯誤できる「安全な環境」の必要性を説きます。座学による知識のインプットではなく、実際のやり取りを通して小さな成功体験を積み重ね、自尊心を取り戻していくための実践的なアプローチが詰まっています。当事者目線だからこそ響く、リアルで希望に満ちた道標となるシリーズです。

連載は、2022年12月から第1回 

冠地さんは、発達障害児・者の支援をしようと集まった Variety Cafe の仲間の一人で、本メルマガの初期にも「イイトコサガシから始まるコミュニケーション」という連載をしていただいています。冠地さんのライフワークの当事者啓発セミナー「イイトコサガシ」の紹介です。

2016年2月から全7回 

4.あまり知られていない発達障害のある人の疲労について

 神経科学の研究者であり、ご自身も発達障害の当事者である仲田真理子さんによる全4回の連載「あまり知られていない発達障害のある人の疲労について」を紹介します。

連載は、生活の質を大きく損なう原因でありながらも、まだ研究が少ない「発達障害のある人の疲労」に焦点を当てています。
第1回ではADHDと疲労の関連について紹介しました。第2回ではASDと疲労の関連に加え、その生物学的背景について考察しています。
第3回では、当事者の視点から、生活の中で実際にどのように疲労を感じているかについて、自分の体験を伝えています。
最終回では、同じ分野の研究者であるパートナーとの対談を通じ、疲れ方の違う2人がどのように暮らしているのか、当事者と家族、両方の視点から考えています。

これまで「やる気」や感覚過敏の問題として片付けられがちだったしんどさを「疲労」という軸で紐解き、当事者が社会で健やかに生きるためのヒントを与える貴重な連載です。

次回は、保護者と支援者からのメッセージのバックナンバーを紹介します。




■□ あとがき ■□--------------------------
当メルマガ15周年についてプレスリリースを出しました。おかげさまでたくさんのメディアで紹介されることができました。

プレスリリースの一例

次号メルマガは、7月10日(金)を予定しています。

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