「脳体力」という言葉をご存じですか? 読み書き困難:個人因子としての解決、社会課題としての解決

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2024.03.01

「脳体力」という言葉をご存じですか? 読み書き困難:個人因子としての解決、社会課題としての解決

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■   まえがき
■□  特別寄稿:「脳体力」という言葉をご存じですか?
■□■ 連載:読み書き困難:個人因子としての解決と、社会因子としての解決
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■□まえがき ■□--------------------------
レデックスの提供するプログラムを元に、高齢者や一般の方に認知機能アセスメント・サービスを提供している株式会社トータルブレインケアの河越社長からご寄稿いただきました。

「脳体力」という視点で健康を考えようという提案です。ご一覧いただければと思います。

なお、同社は、3月12日(火)~3月14日(木)に東京ビッグサイトで行われる東京ケアウィークにてブース出展をされるそうです。脳体力の測定に用いられる、脳体力トレーナーCogEvo(コグエボ)が体験できるそうですので、ご関心のある方は訪問されてはいかがでしょうか? ブースは(小間番号9-2)とのことです。

東京ケアウィーク 

また、14日(木)には、今回寄稿していただいた河越社長が専門セミナーにて午前10時から講演されるそうです。

専門セミナー 

 
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■ 特別寄稿 「脳体力」という言葉をご存じですか?
             
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1.脳体力という言葉の持つ意味と意義
「認知機能」という言葉が広く社会に広まり、脳の状態を評価する指標として使用されるようになりました。認知機能は知的な能力を含み、理解力、判断力、論理的思考などを指しますが、実際には主に認知症の指標として使用されています。

そのため、認知機能や脳の年齢を測定する試みが行われていますが、これらの検査は主に認知症の有無を判断するために行われ、「自分には関係ない」と遠ざけられたり、「もし認知症だったらどうしよう」といった心理的な不安がハードルとなっています。

では、「脳体力」という言葉はどうでしょうか。通常、「体力」とは身体を動かすために必要な基本的な機能を指しますが、「脳体力」という言葉は知的な活動を担う精神的な機能を表しています。したがって、身体の機能(体力)と精神の機能(脳体力)は、日常生活におけるパフォーマンスの要素です。これらを両方測定することによって、私たちの生活の質を知ることができます。

一般的な体力測定では、年齢によって基準が異なります。例えば、20歳から64歳までは握力(筋力)、上体起こし(筋持久力)、長座体前屈(柔軟性)、反復横跳び(敏捷性)、立ち幅跳び(跳躍力)の5つの項目が使用されます。同様に、脳体力測定でも40歳以上では認知貯蓄仮説※に基づいた見当識、注意力、記憶力、計画力、空間認識力の5つの項目が推奨されます。

※認知貯蓄仮説

2.脳体力は生活の基盤となる5つの認知機能
「脳体力測定」という言葉をいろんなイベントで見かけるようになりました。
「脳体力」は生活の基盤となる5つの認知機能(見当識、注意力、計画力、記憶力、空間認識力)と定義していますが、測定会ではCogEvo(コグエボ)を実施した際には、あわせて「低下すると、転倒しやすくなったり、台所のガスを消し忘れたり、予定を立てにくくなったりと、生活に差し障りが起きやすくなってしまう」と脳体力の説明をしていることが多いようです。

これまでよく用いられていた「脳年齢」は、「〇〇才です」という結果なので、どうすればいいのかわかりません。しかしながら、「脳体力」は、生活場面に応じたフィードバック、例えば友人とのコミュニケーションにおいては「約束した日を勘違いする(見当識)、「人と話をしている時に、他の事に気を取られ話に集中できない(注意力)」、「会話しているときに相手の話したことを忘れて、話がかみあわない(記憶力)」、「話したいことを段取りよく伝えることができない(計画力)」、「会話中に飲み物をこぼす、資料を相手に向けて説明することができない(空間認識力)」など、生活上の対策がイメージしやすいと評判が良いようです。

3.脳体力という言葉の社会的な役割と期待は?
脳体力振興協会が発足しましたが、先日の発足会の講演では渡辺恭良(わたなべやすよし)理事長(神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 特命教授)から、脳体力という言葉の意味や意義についての説明がありました。

それは、単に認知機能という言葉が難しい、病気に結びつくという理由だけではなく、脳体力は脳力と脳機能を併せ持ったものである。また、防衛脳体力と活動脳体力があり、活動脳体力は仕事に対する効率だったりする、頭がどのくらい使えるのか、防衛脳体力は、慢性疲労の原因になるものに対してどの程度解決する力があるのかなど、様々なものを包含しているのだと。

協会が提唱する「脳体力」の概念は、老若男女を問わず、誰もが日常生活で自分の脳の健康を大切にし、それに対する行動を起こすことの重要性を示唆しています。これは、健康を「社会的、身体的、感情的な問題に直面したときに適応し、本人主導で管理する」とする“ポジティブヘルス”の考え方に近いものです。

渡辺理事長の講演では、認知機能は疲労、過剰なストレス、睡眠不足、不安などの短期的な要因でも低下することが示され、CogEvoを用いることでその機能変化が検出可能であり、この分野での利用が期待されていると説明されました。これは、CogEvoを使用したコンディションチェックが病気の有無ではなく、自分の状態を主観的にどう捉え、何を求めているかを把握するための「対話のツール」として、医療者に頼らずに自分自身の健康を考える「ポジティブヘルス」の概念の広がりにつながります。

脳体力という言葉により、認知機能を含めた脳機能がより前向きな健康へ多くの人々の意識が広がっていくことが期待されます。

4.脳体力トレーナCogEvoについて
脳体力トレーナーCogEvoは、複数の臨床研究に基づいて、認知症やMCI(軽度認知障害)の早期発見に役立つツールとして評価されています。同時に、壮年期からの日常生活のパフォーマンスの一つである脳体力を測るための標準的なツールとして期待されています。

◆ 河越 眞介(かわごえ しんすけ)
株式会社トータルブレインケア 代表取締役社長
一般社団法人神戸健康大学 専務理事
一般社団法人脳体力振興協会 理事

 
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■ 新連載:読み書き困難解決を目指して(最終回)
             第2回 個人因子としての解決と、社会因子としての解決───────────────────────────────────…‥
合理的配慮とは平たく言えば、障害のある人とない人が互いに協力して成し遂げていく「工夫」です。個人と社会の双方の努力が必要であり、KI・KU・TAプログラムは、個人因子の解決として子ども自身に、周囲を巻き込み解決していく力を養っていくプログラムです。

〇KI・KU・TAプログラムの内容
読み書き苦手な子どものスクールKI・KU・TA(機器も・駆使して・楽しく学ぶ)は、2021年にスタートし、2024年1月現在で参加者は110名になります。子どもたちにICTを学びの道具とする方法を教え、学生チューターと共に未来を描き、配慮プレゼンを書いていくプログラムですが、真の目的は「ICTで学ぶ力」「配慮要請の力」「学びを貫く勇気」を育てることにあります。

「ICTで学ぶ力」

読み書き困難は低次の読み書き(言葉を文字に変換する・文字を音に変換して言葉を認識する力)に困難がありますが、高次の読み書き(情報を取得する・思考する・思考を表現する力)には問題がありません。そこで、低次の読み書きをICTで代替することで困難の多くを克服することが可能です。

KI・KU・TAでは1~5回目で下記のような技術を習得していきます。

・読む
タブレットの読み上げ機能を使って読みます。板書などの手書き文字も、テキスト化すれば読むことが可能です。iOSなら写真機能から直接テキスト化できますし、Androidでも「Googleで検索」することでテキスト化し読み上げ機能を使えます。読み上げ速度を速く設定していくことで、短時間により多くの情報を取得することができるようになります。

・書く
タブレットで書く方法です。入力の仕方は音声入力でもフリック入力でもローマ字入力でも構いません。時と場合を使い分けられるように複数のやり方を身につけておくと便利です。

ローマ字入力は、音をキーボードのキーの場所と結びつけて覚えるようにします。例えば「『あ』は『A(エー)』だよ」ではなく、「『あ』は『ここ(Aのキー)』だよ」と教えます。
入力ができるようになったら、たとえばプリントに書き込む場合は写真編集機能で、思考を深めたい場合は思考組み立てツールなどを使って、タブレットを鉛筆の代わりに使えるようにしていきます。

「配慮要請の力」と「学びを貫く勇気」

KI・KU・TAでは6~9回目に配慮要請のプレゼンテーションを作っていきます。技術を身につけたなら、次は学校でも「自分のやり方」を説明して、配慮を求めていかなければならないからです。
その基礎として子どもたちには繰り返し、なりたい未来を考えてもらいます。なりたい自分がなければ配慮を申請してまで学びたいとは思えないからです。

KI・KU・TAの最大の特徴はLD学生も含めたくさんの学生チューターが子どもたちに伴走することです。子ども達はチューターの背中越しに、未来を描いていきます。LDの仲間と出会い、チューターの後を追いかけるうちに自然に勇気が培われていきます。

〇KI・KU・TAプログラムに見る子どもたちの変化
このプログラムを通して子どもたちに起こる変化には驚かされます。数えきれないエピソードの中から、ある一場面をご紹介します。

地方開催の4日目。板書をノートに書き写す実践練習をしていた時のことです。学校さながらにスタッフが板書し、チューターのLD学生がタブレットでノートを取る画面をプロジェクターで投影し、子どもたちはそれを見ながら自分でもタブレットでノートを取っていきます。

Aくんはローマ字入力は全くできない状態で参加しました。でも4日目には全てのキーの位置を覚えてローマ字入力ができるようになっていました。それでも板書の書き写しには速さが追いつかず、涙になりました。するとLD学生が「わかるよ!読めないから書けないんだよね!良い方法を教えるから見てて!」というや否や、板書を写真に撮り、テキスト化してノートに貼って見せたのです。あっという間の出来事に、Aくんはまたワーっと泣きました。
「泣いてる場合じゃないよ、自分でもやってみて!」
周囲に励まされ、Aくんはまた顔を上げてノートに取り組み始めました。

すると、それを見ていたBさんが、とめどなく涙を流し始めました。スタッフが慌てて「どうしたの?」と尋ねると
「もらい泣き」「それと、これまでの自分の人生はなんだったのかなって思ったら涙が止まらなくなった」

KI・KU・TAに参加するにあたってBさんは、「iPadは使っても良いけど、学校へは絶対に行かないんだからね!」と宣言していました。ところがその日、Bさんは家に帰って「ずーっと学校へ行きたかった」とご家族に打ち明けたそうです。そして「学校へ行ってみようかな」と語ったのだそうです。
今、Bさんは高校受験に向けて前向きに歩き始めています。

さて、教室に話を戻しましょう。この2人の光景を見ていたCさんは「今日は夏休みで一番いい日だ?」と嬉しそうに言いました。それはAくんとBさんにとって「一番いい日」というだけでなく、自分にとっても「一番いい日」だったのかもしれません。

CさんはKI・KU・TAに参加するまで、配慮に対していくらか後ろめたい気持ちを持っていました。ところが最終日、Cさんは胸を張って配慮プレゼンを発表しました。そして「読み書きできなくても大体なんとかなります! もし読み書きしたいって思うなら、いろんな機器を駆使して、みんなと同じ方法にこだわらずに頑張っていってほしいと思います!」と仲間にメッセージを送りました。吹っ切れたような満面の笑みと、握りしめた拳に、溢れる自信を感じました。

〇社会課題としての解決
子どもたちの変化に打たれて変わってきた学校もあります。前号で、「学習障害」という診断名を告げられた診察室で、「僕、障害なの?」と発するや否や嘔吐した6年生の話をしました。彼はKI・KU・TAで技術と勇気を身につけて、みるみる元気になっていきました。そして自ら学校に配慮を願い出ました。学校の端末はChromeBookでしたが、機能性から彼はiPadの使用を求めました。そのため、狭い机の上で2台を使い分けることが課題となりました。すると学校は彼の操作性を尊重し、自分のiPadで学校のMicrosoft Teamsを使えるようにする決定をしました。この決定を受け、内向的な彼が自ら校長室の扉を叩き、校長先生にお礼を伝えたのだそうです。

自信を取り戻し、会うたびに逞しく笑う彼を見ると、共に課題解決に歩む学校の姿勢が子どもにもたらす成長の大きさを感じずにはいられません。

この事例を聞いた別の教育委員会でも、私用のiPadを学校のインターネットに繋ぐ対応を始めたと聞きます。

〇KI・KU・TAプログラムを公開しています
私たちは、こうした試みが、全国津々浦々で展開されていくことを願っています。
そのため、このプログラムを書籍にして公開しています。
『読み書き困難のある子どもたちへの支援』(金子書房)

また、検査者養成、指導者要請の講習会も実施しています。


学び方に躓き絶望する子どもたちを助けてほしいと思います。理解者に、指導者に、検査者に、はたまたインフルエンサーになって、解決の道があることを知らせてほしいのです。

この記事をお読みになる皆様にご協力をお願いする次第です。

◆菊田 史子(きくた ふみこ)
一般社団法人読み書き配慮 代表理事 
『読み書き困難のある子どもたちへの支援: 子どもとICTをつなぐKIKUTAメソッド』河野俊寛と共著、金子書房
『これでピタっと! 気づけば伸ばせる学習障害 ーー事例から学ぶ “解決” 教えたいのは挫折ではなく生きる力』Book Trip


■□ あとがき ■□--------------------------
レデックスは東京都町田市で18年間、活動をしています。東京都が多摩島しょ地域(23区以外の東京都全域)の振興のための多摩エコシステムというプロジェクトで当社が紹介されました。当社の目標や最近の活動などにも言及していますのでよろしければご一覧ください。

次回は、3月15日(金)の配信予定です。

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