離職支援を前向きに捉える 

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2023.06.16

離職支援を前向きに捉える 

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■  連載:離職支援を前向きに捉える 
■□ 連載:こども脳機能バランサー・プラス
■□■ニュース:セミナーの紹介
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■ 連載:知っておいてほしい!「障害者就労支援」アレコレ
             第4回 離職支援を前向きに捉える 
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就労支援というと「就職のための支援」「就労継続のための支援」というイメージを持つ人が多いと思います。
しかし、就職した瞬間から「離職」の可能性、選択肢も出てきます。
「離職」というとマイナスイメージが強く、利用者だけでなく支援員にとっても失敗体験になると思われがちですが、それは誤解です。
就職支援に比べ気まずい場面多くもありますが、前向きに丁寧な「離職支援」をすることは、利用者にも企業にも、そして支援者にとっても成長に繋がります。

担当者の変更のタイミングで利用者から「仕事を辞めたい」という話が出て、焦って対応する…ということは現場で少なくありません。
引き継いですぐに「仕事を辞めたい」と言われてもこれまでの経緯が分からず、関係性もない中で対応するのはとても骨の折れることです。悲観的になる、疲弊してしまう支援者が多いですが、実は「離職支援は可能性の宝庫」なのです。
今回は、「前向きな離職支援」について書いていきます。

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1) 離職あるある1・3・6法則
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一度くらいは「いざ仕事が始まったらイメージと違った…」と思った経験がありませんか?
人は無意識に期待してしまう生き物なので、自分の思う「いい職場」「こんな配慮をしてもらえる」というイメージを持って就職します。
当然100%期待通りになることはありません。期待が大きすぎると裏切られたと感じて「こんなはずじゃなかった。辞めたいな…」と思うことは入社直後によくある話です。
そして障害の有無に関わらず、離職や体調を崩すタイミングというのは1・3・6※1という法則があります。

※1・3・6の法則
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2)「離職支援」は可能性の宝庫
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利用者から「仕事を辞めたい」という話が出た時、利用者・企業・支援者とそれぞれの立場で色々な思いが交錯します。立場により理由は様々ですが、支援者や企業は「離職を思いとどまってもらおう」という関わりをすることが多いです。
反射的に「辞めないでもう少し頑張ろう」という関わりをする時、離職によって困るのは利用者ではなく支援者や企業なのかもしれません。

離職は本当に悪いことなのでしょうか。ここに大きな誤解があります。離職自体は悪いことではないのです。
「辞めたい」という話が出た時こそチャンスです。

辞める、辞めないといった話に終始するのではなく、前向きに「離職という選択肢」について一緒に考えることは利用者との関係性を構築する貴重な機会です。
よく話を聞いたら「辞めたいくらい大変なので、労って欲しい」ということもあります。しっかり気持ちを受け止めて寄り添うことで、利用者からの信頼が深まります。
仮に離職することになっても、次の就職活動をする際の材料を得ることができますし、利用者も「この人のアドバイスは聞いてみようかな」と思ってくれるようになるかもしれません。
辞めたい理由を整理することで、「より良い転職」や「今の仕事を有意義なものにする」ことに繋がります。

また、誠実に離職支援をする姿は企業にも好印象を与えます。離職するまでの話をまとめるのに苦戦することもありますが、利用者のことだけでなく企業のことも考えたやり取りをすることで、企業と信頼関係を築くことにも繋がります。
「この支援者の紹介なら、また障害者雇用をしてもよいかもしれない」と思ってもらえるような関わりをすることも「離職支援」の中では重要な視点になります。

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3)「辞めたい」と思うことは特別なことではない
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とくに大きな理由がなくても、ふとした拍子に「辞めたい」と思うことは誰にでもあります。
問題なのは、辞めたいと思うことではなく、"無計画に、勢いで辞めてしまう"ということ※2。

※2 辞めたいと言われた時に確認すること
 
利用者の勤怠に問題がある、著しい心身の不調が理由の場合は、早期に話を進めるべきです。しかし、支援者や企業の都合でズルズルと辞めるタイミングをずらしてしまうことも起こりやすく、利用者の不利益にならないよう、支援者は注意して臨む必要があります。

社会人、社員としての責務を果たせていない状態なのに雇用を継続してしまうと、利用者は「それでも良いのだ」「自分が変わらなくても周囲が許容してくれる」と誤学習してしまい、自分と向き合い成長する機会を失ってしまいます。
企業側の待遇や雇用環境に問題がある場合も同様です。企業が雇用環境を見直す機会になるよう現状を整理し、改善を促すことも就労支援者の役割です。

理由があって、必要なことであれば、辞めることは立派な選択肢です。
家族や支援者が「辞めたいと思う」と聞くと、焦って引き留めようと反射的に動いてしまいがちなのは、家族や支援者が「辞めたいと思うこと」を悪いことと思っているから、ということもあります。

※3 よく見られる離職理由
 
上記資料の1、2への対応が就労支援員の主な仕事になるが、3、4といった場面もある。
「辞めたいと思うこと」「離職」自体が問題ではないけれど、「辞めたい」という表現の裏にあるものが何なのか、背景を見ていくことが大切。

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4)「辞めたい思い」の背景を見る
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訴えとして多い「職場への不満」「とにかく辛い」「人間関係がうまくいかない」ということの背景にあるものをひも解いていきましょう。

「辞めたいと思う」と言う相談者は疲弊しており、視野も狭くなっています。そんな中、勢いで辞めずに気持ちを伝えてくれたことがまず大きな一歩。
やっとの思いで気まずい話題を切り出したのに、「辞めてはだめだよ」とハナから否定することは利用者を傷つけることにもなります。
「辞めたい」「辞めない方が良い」というループに入ると、表面的で不毛な話し合いにしかならないので、「辞めたい気持ちを伝えてくれたこと」に感謝を伝え、労い、一緒に考えていく姿勢が大切です。

※4 Aさんの事例
 
Aさんは相談することが苦手で、被害的になりやすいということも分かりました。また、不安やストレスを感じると相手に対して不満を感じやすく、攻撃的になりやすいことも分かりました。
今後も部署や担当などの変化が生じた時に、同様な出来事が起こる可能性があるので、「辞めたい」という話がでてきたら、環境調整などをする必要がありそうです…

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「つらい」という表現を、支援者が他の言葉に置き換えることで解決することもあります。
利用者の表現、感じ方・考え方の「クセ」に支援者が振り回されるのではなく、整理していくことが大切です。
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本人の言い分が社会常識から外れている場合は、それを伝えることも重要です。次の会社でも同じようなこと、気持ちが生じることを話していく中で、「やっぱり今のところでもう少し頑張ろう」「他の会社だったらもっと受け入れてもらえないかもしれないな…」と冷静になることもあります。

関わりの中で重要なのは、
・気持ちを受け止めつつ、事実を正確に把握すること
・離職後のリスクについて本人に説明し理解してもらうこと
です。

言葉の背景にある気持ちや問題を整理してもなお、辞めたいという気持ちが変わらないこともあります。
それも1つの選択肢なので、「すぐに就職が決まるとは限らない」「収入が一時的になくなる」ということに本人が納得できているのであれば、辞めることは問題ではありません。

※5 言葉の裏にある、気持ちや事実を把握することが大切
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5) 離職支援は始まりの支援
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「離職」は悪いことではない。「辞めたい」という話題に対して、焦って反射的に反応しないことが大切。

※6 「離職支援」の捉え方と対応について…
 
また、利用者へのサポートだけでなく、企業へのサポートも必要です。
雇用者が一人減ってしまうことに対して、適切な求人を紹介することも視野にいれて動けると良いでしょう。
離職は企業にとっても失敗体験になってしまうことが多いです。企業の課題と利用者の課題を整理し、企業をサポートすることは今後の雇用にも繋がります。
離職は終わりの支援だけではありません。
今後を考える転機だと思って関わることで、可能性をしっかり掴めるようになりましょう。

◆下茉莉(しも まり)
発達特性との付き合い方を考える会「かもみぃる」代表。精神保健福祉士と社会福祉士の資格を持つ、発達障害と発達性トラウマ障害の当事者。障害受容、診断が出た後の相談先や利用できる支援、選択肢が分からずに悩んだ経験を活かし、制度の狭間(グレーゾーン)に落ちてしまう人達の就労支援に力を入れてきた。七転び八起きの精神と突破力で突き進む!
HP
Note


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■ 連載:サービスとアプリ-目標と由来
             第3回 こども脳機能バランサー・プラス
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1.こども脳機能バランサー
高次脳機能障害をもつ人の困りは、自己イメージと事故等の後の現状とのギャップに由来することから起きていると橋本圭司氏(昭和大学医学部准教授)は指摘しています。本連載の第1回で紹介した高次脳機能バランサーは、高次脳機能障害児・者が自身のさまざまな認知機能を把握し、同時に自己イメージにできるだけ近づけるように認知機能をトレーニングするために開発しました。

それに対して、発達障害のある子どもでは生まれつき認知機能ごとのレベル差があり、そのギャップで困りが生じているように思われます。手前味噌ですが、私はADHDの診断を受けており、その根拠がウェクスラーの大人向けの認知検査WAIS(ウエイス)の下位項目、運動領域と言語領域で20の差があることと医師から指摘されています。頭で考えるできることと実際に身体を動かしてできることに差があり、フラストレーションがたまることが多い少年期、青年期でした。

私の診断は50代になってからでしたが、子どもであればすべての認知機能が発展途上であり、その時点で弱い認知機能が伸びてギャップが少なくなれば、困り自体が軽くなるかもしれません。そんなことも頭の片隅において開発したのがこども脳機能バランサーです。

高次脳機能バランサーと比較してより充実を図ったのが言語領域で、4種類のタスク(ゲーム)を考案しました。言語関係は左脳と言われることにヒントを得て、右脳と言われる運動や空間認識関連の認知機能4種類と、前頭前野にあるといわれる注意や記憶、遂行機能など4種類、さらにラスボス的な複合課題1種類を加えて、13のタスクで構成し、2010年5月に発売しました。

2.標準化とこども脳機能バランサー・プラス
子どもの認知機能を測る上で必須なのが指数の概念です。発達指数には2つの考え方があります。その年齢で標準的にできることとと比べて何パーセントかという指数(田中ビネーや新版K式)と、同一年齢のデータを一定数以上集めた分布のどのあたりにいるかを示す指数(WISC)です。こども脳機能バランサーでは後者を選択し、保育園や学習塾の協力を得て、4歳から12歳の子どもたちの、複合課題をのぞく12のタスクの得点データを収集し、標準化を行って発達指数を設定しました。これによりすべてのタスクは平均100と標準偏差15の発達指数で表すことができるようになりました。この標準化された指数とそこから算出される発達年齢を組み込んだバージョンアップ製品として、こども脳機能バランサー・プラスを2011年9月に発売しました。

これによる利点は2つあり、1つ目の利点は発達指数が100より1標準偏差つまり15、あるいは2標準偏差つまり30多いか少ないかで、その認知機能の強さ、弱さが100人中のどのくらいなのかが分かることです。もうひとつの利点は本来は比較できない2つの能力を比べることができ、得意不得意を知って、その子に対応(より活躍しやすい役割を与えたり、力を発揮しやすい環境調整をしたり)できることです。※7

※7 連載「認知テスト/知能検査って何のためにするの?」青木瑛佳 

3.トレーニング効果
タスクの結果が標準化された発達指数で表されるようになったので、これを使って、子どもたちの取り組みがタスクの結果にどのように変化を与えるのかを調べてみることにしました。自宅で2か月間、お子さまにこども脳機能バランサー・プラスを自由に使っていただき、その履歴データを送っていただける方をSNSで公募しました。

協力していただいたお子さまは、2歳から12歳の122名※図1。結果は、アンケートの回答からASD、ADHD、LD、知的障害の傾向に分類し、それぞれの分類ごとに一つひとつのタスクについて、最初の5回の発達指数の平均と2か月後の最後の5回の発達指数の平均と比較しました。発達の困りは重複することがあることから、同じお子様が複数の困りの中で集計されている場合もあります。その結果が以下※図2でした。この調査は、ATAC:中心は中邑賢龍氏(東京大学先端科学技術センター教授)で発表しました。

※図1 デジタルパズルを使った発達指数の調査

※図2 2か月間の自由な利用による困りの改善率

エヴィデンスがあるというレベルではありませんが、図2で例えばLDのレーダーチャートを見ると、3次元把握などの空間認識関係と文法や分類などの言語関係の、LDが本来、弱いとされている認知機能の改善率がそれ以外の認知機能の改善率よりも大きいという結果になっています。前述の研究会で五藤が話した「子どもは自分の得意な認知機能を主に使って生活していて、ゲームを使うと日ごろ使っていない認知機能を使う機会が与えられるので、それらの方が伸びるのではないか」という仮説は、参加者からのそれなりの反応を得たことを報告しておきたいと思います。

4.普及状況
こども脳機能バランサー・プラスは、パッケージ版、ダウンロード版、iPadアプリの3種類の形態で販売されており、累積販売本数は3万以上となっています。1,000単位で自治体からまとめて購入されるケースも複数あり、そのトレーニング効果等について一定の高評価をいただいているようです。

◆五藤博義


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●〇 ニュース :セミナーの紹介
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セミナーを周知してもらえないかと相談を受けました。読者の皆様で関心をもっていただけそうな方もいらっしゃるのではと考え、ご紹介させていただきます。

〇セミナー:自傷・他害・パニックへの対応と予防~「支援介助法」に学ぶ、関係づくりがむずかしい人とのコミュニケーション~

ソーシャルワーカー事務所SURVIVE代表の美濃屋裕子です。全く新しいパニック時の誘導法「支援介助法」をご存じですか?

対人支援の現場では、知的障害児・者の自傷行為・他傷行為など、自傷・他害・パニックに陥りやすいために、安定した人間関係を結びにくい人たちと、しばしば出会います。ご本人の「困り感」に寄り添いたいと思いつつ、信頼関係をどのように結んでいくか悩んでいませんか?

武道家であり、介護福祉士でもある廣木道心さんが体系化した「支援介助法」は互いが傷つかない誘導法として新たに考案された介助技術です。このたび、より多くの皆さんに、「支援介助法」について知って頂くための研修を企画しました。

↓↓詳細・お申し込みはこちらから↓↓
【オンライン】自傷・他害・パニックへの対応と予防~「支援介助法」に学ぶ、関係づくりがむずかしい人とのコミュニケーション~

※現在オンライン受講者のみの募集です。なお同様の研修会を9月17日にも近畿地方で現地開催予定です。


■□ あとがき ■□--------------------------

前回のメルマガで紹介した弊社オンラインセミナーは2回合計170名の方に参加していただきました。6月後半には同じ内容で、大阪、神戸、長崎、熊本、鹿児島の5か所でリアルセミナーを実施します。よろしければご参加ください。

リアルセミナー 6月20日(火)21日(水) 27日(火)~29日(木)

次回メルマガは、6月30日(金)の予定です。

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