新成人向けの電子商取引教材は、アラサー世代以上にも読みごたえあり

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2022.01.21

新成人向けの電子商取引教材は、アラサー世代以上にも読みごたえあり

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■   まえがき
■□  連載 新成人向けの電子商取引教材は、アラサー世代以上にも読みごたえあり
■□■ 連載 「きょうだいケアラー」義人のものがたり
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■□ まえがき ■□--------------------------
4回に渡ってお送りしてきたシリーズ、インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI=アイロイ)の制作したデジタル教材の最終回となります。
子どもたちだけでなく、おとなの方にもデジタルリテラシーの学びになる、デジタルコンテンツをご紹介します。

また、第5回となるヤングケアラーたちのものがたりは、障がいのある弟のケアをする「きょうだいケアラー」義人のものがたりです。

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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
             連載:幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作
                          第4回 新成人向けの電子商取引教材は、アラサー世代以上にも読みごたえあり(最終回)
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○大学生・高校生向けのデジタル教材
こんにちは。I-ROI事務局長の久保谷です。今回は連載の最終回となります。
今回紹介する教材は「これで安心! フリマアプリやネットオークションとの付き合い方」です。ゆめ基金教材としては対象年齢が高く、高校生や大学生にもっとも使ってもらいたい教材です。

教材サイトは、こちらです>>

○「成人年齢引き下げ」と「電子商取引」がキーワード
先日、成人の日がありました。新型コロナの感染拡大で急遽成人式の実施を見送った自治体が多数あったことが大きな話題となりましたが、同時に、「成人と言えば20歳」というのは今年で最後となることもニュースで触れられていました。2022年4月以降、成人年齢が18歳に引き下げられるからです。

成人年齢が引き下げられることで、18歳や19歳でも、商取引の中で契約を結ぶ際には未成年という扱いを受けなくなります。つまり、未成年者取消権※1は使えなくなります。これまでも、20歳をすぎて間もない若者たちの無知や社会経験の乏しさを悪用し、若者たちを餌食にするような悪徳商法の存在がたびたび世間を騒がせてきました。成人年齢が18歳になれば、そうした悪徳商法の被害に遭う若者が増えかねません。こうした問題意識の下、フリマアプリやネットオークションという電子商取引で売買契約を結ぶことの意味を学んでもらうために作られたのが、この教材になります。

※1参考資料 あいち暮らしWEB 

○アラサー世代以上の大人でも、新しい発見があり得る
この教材は、20歳代前半の若者たちはもちろんのこと、もっともっと上の世代が使用したときにも新たな学びを得られる可能性があるような教材となっています。なぜなら、次のような内容を含んでいるからです。

・そもそもフリマアプリやネットオークションといった電子商取引がどのような仕組みで運営されており、実店舗でなされる売買契約とどのように異なるのかを解説している

・「NCNR(ノークレーム・ノーリターン)」*1や「即購入禁止」*1といった、電子商取引の世界でよく見受けられる表現が、法律的にみてどのような意味・効力を持っているのかを解説している

・「明治以来の本格的な改正」とも呼ばれた、2020年4月に施行された改正民法に準拠している

※2用語解説 *1から*4を付記した用語は、下記のページで解説していますのでご参照ください。

*1 「おぼえておきたい用語集」に掲載
*2 「解説教材 サービスのしくみ」に掲載
*3 「解説教材 ネット決済のしくみ」に掲載
*4 「解説教材 トラブル事例と対策のポイント」に掲載

例えば、以下に挙げた語句の全てを的確に説明できる人というのは、大人の間でもそう多くはいないのではないでしょうか?

・専用出品*1
・プロフ必読*1
・アフィリエイト*2
・エスクローサービス*3
・受取確認*4
・報復評価*4

○どんなリスクがどうして生じるのか、社会的・構造的な背景にも言及
電子商取引は、実店舗で買い手と売り手が対面で双方の顔を合わせて売買契約をし、商品やサービス、代金がその場でやり取りされる場合と多くの点で違いがあります。この教材では、お互いが「顔が見えない」状態で行われることを悪用しようとする者の存在と、その手口、そして、そうした手口への対策についても説明しています。

インターネットの世界は日進月歩で新しい機器やサービスが登場していますので、単に「〇〇のときは、●●をせよ」といった形で答えを丸暗記させても、新しい形態の機器やサービスが登場した途端に、応用が利かずに対処できなくなるおそれがあります。それを解決するために、どんなリスクがどうして生じているのか、さらに社会的・構造的な背景までをも考える視点を持ってもらうことこそ、大切だと考えています。

○リスクを理解し、リスクと向き合う
旧来の「リスクがあるから使わないように」という発想で青少年を教育しようとするのなら、「フリマアプリやネットオークションは使わないようにしよう」と指導してしまうのが手っ取り早いかもしれません。しかし、これでは「自転車は徒歩よりも交通事故のリスクがあるから、自転車は禁止」と言うのと同じです。低年齢の子供なら、まずは様々なリスクから遠ざけることを優先すべきでしょうが、年齢が上がっていくにつれて、「リスクがあることを理解して、リスクと向き合いつつネットを利活用することを考えさせる」ような教育をしていくべきでしょう。

○まず大人たちが変わらなければならない?
とかく、日本では「リスクゼロ幻想」が強いと言われます。つまり、「リスクには近づかないようにするのが正解」「安全は絶対」という発想です。当団体は、「リスクに注意すべし」「安全を重視すべき」と考えていますが、「リスクがあるものは使わせない」という立場ではありません。

まずは大人たちが、「ネットのリスクとしてどのようなものが存在するのか」、「そのリスクが生じる構造的な背景として何があるのか」、そして「そのリスクに対処する方法にはどんな方法が考え得るのか」ということを真剣に考えていき、「リスクと向き合う」とはどういうことなのかを理解し、実践していくことが大切だと言えます。

ゆめ基金教材のほか、当団体では、デジタルコンテンツアセッサ(DCA)という資格制度を運用しております。文字通り、デジタルコンテンツ(ネットで利用される情報)をアセス(評価)することに関する資格制度です。この資格制度は、社会人や大学生を主な対象として運営しているものです。そして、このDCA資格制度も「インターネットはみんなが使うもの」ということを大前提としつつ、「ネットを活用するうえで、どんな配慮をすべきか」という観点で運営しています。

当団体のゆめ基金教材の連載は今回で終わりとなりますが、「情報機器を積極的に利活用していくために、そのリスクと向き合っていきたい」という思いを持たれた方々には、是非、当団体のDCA資格制度※3のサイトも閲覧していただきたく存じます。

※3 DCA資格制度 

昨年末から4回にわたってお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

◆久保谷 政義(くぼや まさよし)
1975年生まれ。東海大学大学院修了。博士(政治学)。
最近の論文として、久保谷政義・田辺亮「大学生のスマートフォンの利用状況とICT活用能力」『教育情報研究』35巻1号、2019年。
2013年より一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)事務局職員。2021年より同事務局長。


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 ■ 新連載:ヤングケアラーたちのものがたり
                       第5回:義人のものがたり
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こんにちは、若者支援専門ソーシャルワーカー事務所SURVIVE代表の美濃屋と申します。15歳~30歳代の若者の支援を専門に行っています。私たちが出会ったヤングケラーたちについて、事実をもとにした完全フィクションのものがたり形式でお伝えしています。
今回は、障がいをもつ弟のケアをする義人の物語をお届けします。


◆義人のものがたり
高校3年生の担任をしている的矢先生(仮名)は頭を抱えていました。卒業年次の担任をするのは、的矢先生にとっては初めてです。ベテランの学年主任に連れられて、的矢先生は私のところへ相談にやってきました。

先生の悩みの種は、1年生から担任している柴谷義人(仮名)の進路指導です。事の発端は、1年前に行われた2年生1学期の三者面談での進路希望確認時のことでした。的矢先生が義人に話を向けたところ「(進路希望は)特にない」とうつむいて答えました。続いて、母親に話を向けました。母親は早口でこう言いました。

「5歳年下の義人の弟は重度の知的障がいがあるんです。なので、将来何があっても大丈夫なように、義人は堅実な収入があって、休みも取りやすい公務員になって、弟の面倒を見てほしいんです」

その途端、普段は温和で、おっとりとした義人が激昂しました。
「なんでだよ!なんでそうやっていつもオレが弟に合わせなきゃいけないんだよ!いい加減にしろよ!俺は奴隷でも召使でもないんだよ!」
突然のことであっけにとられている的矢先生をそっちのけで親子の口論が続き、ついに義人が教室を飛び出しました。
あの時、どうやって場を収めたのか、頭が真っ白になってしまってよく覚えていないと、的矢先生は話します。

それから1年間、進路に関するヒアリングのたびに、義人は「ニート」「安楽死」などと回答するようになりました。学校には通ってくるものの、課題提出物を出してこないことも増え、成績も下降気味。三者面談にも義人は出てきません。
保護者に相談しても、「私たちの話は聞かないんです。一体どうしたらいいのか」と逆に相談されてしまいます。

「あの時、僕がうまくやれていたら、義人はこうなっていなかったのかもしれません」的矢先生はうなだれます。
いや、それは遅かれ早かれ義人とご両親が向き合わなければいけない家族の葛藤だったと思いますよ、と私は答えました。そしてこの事態をどうにかするのは第三者ではないと思います。まずは義人の話を聴きましょう、私はそう提案しました。

しかし担任からもちかけられた面談予定は、2度にわたって無断キャンセルになりました。次の手を考えなければと話しあっていた矢先、同じ学年の青木優佳(仮名)にひきずられるようにして、義人は相談室に連れてこられました。義人と優佳は付き合っているそうです。後から聞いたことですが、優佳は以前、彼女の友人が私のところへ相談に来ていたこともあり、私のことを「頼れそうな大人だ」と認識してくれていたようです。余談ですが、中高生の支援においては、このように子どもたち同士の口コミで支援がつながることがよくあります。

優佳に促されて、義人は話し始めました。
弟が産まれてまもなく障がいがわかり、オレは物心ついたころから「弟を支えるように」と言われてきました。小さい頃は迷いなく、自分にとって果たすべき責務だと使命感さえ持っていました。今でも弟の世話自体はイヤじゃないし、責任みたいなものは感じています。ただ、小学校高学年くらいから「お前の弟は〇〇〇(※障がい児への蔑称)だろ」とからかわれたり、周囲の大人が何かにつけ「弟の面倒を見ろ」と言ってくることが、しんどくなってきました。悪意があるのかどうか知らないけど「障がいって遺伝するの?」「お前の子どもも障がい児になる可能性が高いの?」みたいなことを言われたりもしました……そんなことは親には言えなかったけど。弟に障がいがあるから、ほかの家と違ったり、ガマンしなきゃいけないこともいっぱいあって、正直家庭に不満もないわけじゃなかったんです。オレは一生、弟の面倒を見なきゃいけないのか、自分の進路とか結婚とか将来に影響するのかなって。そう思ったら、将来のこととか考えるのが嫌になるんです。

「私は、弟くんのことや、障がいの遺伝とかあっても、全然平気だよって言ってるんですけどね~」優佳が、手のひらをひらひらさせてペアリングをみせながら、屈託なくそう笑います。「恥ずかしいからやめろよ」そう諫める義人の表情は、言葉とは裏腹にほころんでいます。

◆障がい児・者のきょうだいケアラー特有の苦悩
義人のように、障がいがある兄弟や、幼い弟妹をケアしているケアラーを「きょうだいケアラー」と呼びます。子ども時代において、兄弟のケア負担自体が、学業や生活全般に影響する場合は少なくありません。さらに、兄弟に障がいがある場合、きょうだいケアラーは、成人したのち、親よりも長くケアをし続ける可能性があります。義人の場合のように、直接的なケアの負担そのものが学業に影響していなくとも、将来的な不安も含めた心理的な負担や葛藤を抱えていることが少なくありません。また、両親の意識やケアが、障がいのある兄弟に偏りがちなこともあり、義人のように「親が自分を大切に思ってくれていない」と感じたり、その逆の場合は「親の期待を一身に背負っている」と重圧のように感じていたりすることもあります。

一度、第三者である私と、的矢先生が立ち会って、四者面談(あるいは両親がそろった五者面談)をして、義人の想いを両親に伝えてみないかと提案しました。最初は戸惑っていた義人でしたが、優佳の促しもあり、「面談する方向で考えてみる」と答えました。義人にとって、パートナーとして寄り添ってくれている優佳の存在が大きいようです。

優佳の働きかけもあり、義人と両親がそろっての五者面談が実現しました。
事前に話してくれていたことを私が時折代弁しつつ、義人は今まで考えていたことを両親に伝えることができました。

義人の両親は、義人がそこまで考えていたとは思わなかった、と話しました。
思春期に入ったころから、義人の口数が少なく、口調も尖ってきたように感じられて、親の側も素直に話せなくなっていた。弟ばかりに構いがちになっていたことへの引け目もあった。義人のことも、弟と同じくらい大事に思っている。義人も弟も、両親が高齢になってからの子どもであるため、なおさら二人の将来について心配している。義人が何も考えていないなら、手堅く公務員になったらどうかと、今思えば軽く口にしてしまった。両親にとっても、一番望ましいのは、義人がなりたいものになってくれることだ。

私からも、障がいを持った人たちのグループホームなども増えてきており、家族がつきっきりで世話をしなければならないわけではないということを伝えました。そもそも兄の世話にはなりたくないと、弟さんが思う可能性だってありますからね、と言うと、義人親子はハッとしたようで、「弟の意思も大事だよね」と話されました。

面談の終わり、義人は「弟のことは置いといて、自分のやりたいことを考えてみる」と話しました。
もし進学するつもりなら、受験まで時間が足りないので、もしも不合格になったとしても、一回くらい浪人してもいいから、やりたいことにチャレンジしてほしいと、両親も応援してくれました。

義人のものがたりが、やっと義人自身の意思で動き始めたと、私は感じました。

〇家族任せではなく、社会全体でのケアを
それにしても、思いつめていた義人の気持ちを考えると、当たり前のようにケアを家族に押し付けている社会の問題があるように思えてなりません。これは同時に「家族から自立して生活がしたい」という障がい児・者の想いもかなえにくい社会であると言えます。

家庭環境や、障がいの有無などにかかわらず、だれもがその人らしく生きられることをみんなで支える社会になることを願ってやみません。そのために自分にできることを一人ひとりが考えるきっかけになればと、この連載を続けてきました。
次回は最終回です。最後までぜひお付き合いください。

◆美濃屋 裕子(みのや ゆうこ)
1982年生まれ。臨床心理学科卒業後、民間企業へ就職。
その後、紆余曲折を経て児童福祉業界へ。15歳以降の“若者”世代への支援の手薄さに危機感を感じ、若者支援専門のソーシャルワーカー事務所SURVIVEを設立。同代表。
高校スクールソーシャルワーカー、公的機関の外国人教育相談のケース会議アドバイザー等を兼任。


■□ あとがき ■□--------------------------
次回は、2月4日(金)を予定しています。

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