RPG風ゲームで、子供たちの「なぜ?」「知りたい!」を呼び起こす

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2022.01.07

RPG風ゲームで、子供たちの「なぜ?」「知りたい!」を呼び起こす

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■   まえがき
■□  連載:凛花のものがたり
■□■ 連載:RPG風ゲームで、子供たちの「なぜ?」「知りたい!」を呼び起こす
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■□ まえがき ■□--------------------------
あけましておめでとうございます。
2010年7月の創刊以来、12年目を迎えることができました。
学びと発達をテーマに、今年もできるだけ読者の方々のお役に立てるような内容にしていきたいと思います。ご要望や感想など、お寄せいただけるとうれしいです。
本年もよろしくお願いいたします。 五藤博義@レデックス通信
 

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 ■ 新連載:ヤングケアラーたちのものがたり
                       第4回:凛花のものがたり
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こんにちは、若者支援専門ソーシャルワーカー事務所SURVIVE 代表の美濃屋と申します。私たちが出会ったヤングケラーたちについて、事実をもとにした完全フィクションのものがたり形式でお伝えしています。
今回は、精神疾患を持つ母のケアをする凛花の物語をお届けします。

◆凛花のものがたり
「生きているのがつらいと考えることがある」
“こころのアンケート”を集計して、思わぬ項目についた印に驚いた柿本先生(仮名)は慌てて、私のところへ相談にやってきました。

とにかく驚いているんです。あまりに教室で見せる姿とかけ離れていて……。本当に朗らかな生徒で、友達からも慕われていて、 遅刻欠席もほとんどなく、成績も悪くありません。何の問題もない生徒だと思っていましたから……。そんなことを考えていたなんて……。

当該生徒 石川 凛花(仮名:高校2年生)のアンケートには、「家族や家庭のことで悩んでいることがある」「学校に行きたくないと思うことがある」「家に帰りたくないと思うことがある」「わけもなく涙が出ることがある」などの選択肢にチェックがついています。学習面や学校生活そのもの、友人関係に関する項目はノーマーク。どうやら彼女は、家庭に深い悩みを抱えているようです。

生徒が悩んでいることに気づけなかった、私は何を見ていたんだろうと、柿本先生は肩を落とします。

問題行動がある生徒は、必ず何らかの困難や生きづらさを抱えています。一方で、そうしたつらさを抱えている生徒が、必ずしも問題行動として表出してくれるとは限らないのが、難しいところですよね。でも、彼女はこうしてSOSを出してくれた。それってつまり、先生への期待と信頼がある証拠ですよ。がんばりましょう、と声をかけた私に、先生は「はい」と、自らを奮い立たせるように力強く返事をしました。

数日後、凛花は柿本先生に連れられて相談室へやってきました。「そんなたいしたことじゃないんです」「心配かけちゃってごめんなさい」と、凛花は繰り返しながら話しました。

◆精神疾患を抱える家族を支えるということ
ママは、7年前に弟が生まれたとき、産後うつ病になりました。すぐに治ると言われていたそうですが、その後もうつ病の症状は続いていて、今でも家事ができなくなることがあります。そのため、近所に住んでいる母方のおばあちゃんがママのサポートのためにうちに通って、家事や弟の世話をしてくれています。だから、私や弟はお風呂掃除や洗濯などのお手伝い程度の家事しかしていません。ただ、ママの気持ちが落ち込んだ時は、私が話し相手になっているんです。パパは仕事が遅くて家にいないことが多いし……。最近はママの調子が悪くて、昔のつらいこととか、将来の不安とかが頭から離れないみたいで、「死にたい」「もう死のうと思う」とかずっと言ってるから、ママを置いて学校に行くのがすごく心配で……でもママのつらさもわかるけど、話を聴いているのもしんどいなぁって思ってしまうこともあって……

そこまで言って、凛花は深く息をつき、うつむいてこう続けました。

……アンケートを書いた日の2日前、ママが病院でもらった薬をオーバードーズ(大量服薬)したんです。今回が3度目なんですけど……そんなことがあって、気持ちがグチャグチャになっちゃって。私の存在は、ママの生きる希望とか幸せにはならないのかなぁ、ママは私の気持ちとかどうでもいいのかなぁって思ったんです。私は何のために生まれたんだろう、私なんかが生きてる意味あるのかなって……

ママのことは嫌いじゃない。大切で、守ってあげたい存在だと、凛花は話しました。
そして、悲しそうにしていると、周囲は心配するんだということを誰よりも感じているから、学校では努めて明るくふるまうようにしている、と。

◆肉体労働だけではない、感情労働という「ケア」
家事や介護など、肉体を使う労働をしていなくても、話を聴くといった感情労働も立派な「ケア(世話)」です。特に、つらい想いをしている家族の話を聴くことは、共感疲労(他人が苦しんでいたり、悲しんでいたりする様子を見るだけで、自分も落ち込んでしまうこと)によって、心身が疲弊します。また、話を聴き続けていても、状況の改善に至らない場合には、無力感にさいなまれてしまうこともあります。そういった状況が続くと、ケアをしている家族自身が、こころの病気になってしまうことも珍しくありません。

凛花はその入り口に立っているような危険性を感じました。私は、凛花が担っているのは感情労働といって立派な「ケア」であること、ケアをする人にもセルフケアをしたり、周囲からケアされる必要性があることなどを説明しました。そして、無理に明るく振舞おうとしなくてもよいことを伝え、凛花が抱えているこころの荷物をいろんな人に預けてみないかと提案しました。

そうして、凛花はスクールカウンセラーと、定期的に面談をすることになりました。専門家に話を聴いてもらって、こころの整理をしたり、セルフケアのための心理教育を受けたことは、凛花が母親と接するうえでの大きな助けになったようです。
そしてなにより、毎日柿本先生や事情を知った先生たちが、温かく声をかけ続けてくれたことで「自分は大切に思われている存在なんだ」と感じることができたと、のちに凛花は話していました。

親が、子どもの前で、自死をほのめかしたり、オーバードーズなどの自傷行為を行うことは、心理的な「マルトリートメント(不適切なかかわり)」と言われます。しかし、望んでそういった行為をする親はいません。追い詰められて、あるいは病気の症状が、そうさせてしまうのです。決して、親が悪いわけではないのです。

フランスには「社会の子ども」(子どもは社会が育てていくもの)という概念があるそうです。家庭の中で子どもたちにかかった負荷を、社会全体でケアしていくことが、必要であり、有効だと感じています。

現在、凛花は「話を聴くこと」の奥深さに関心を持ち、将来は心理カウンセラーになって、自分と同じような立場にある子どもたちの力になりたいと話しています。

社会に支えられた子どもたちは、遠くない未来に、社会をともに支えあう大人になるのです。
家族のケアから始まった凛花のものがたりは、夢に向かって続いていきます。

◆美濃屋 裕子(みのや ゆうこ)
1982年生まれ。臨床心理学科卒業後、民間企業へ就職。
その後、紆余曲折を経て児童福祉業界へ。15歳以降の“若者”世代への支援の手薄さに危機感を感じ、若者支援専門のソーシャルワーカー事務所SURVIVEを設立。同代表。
高校スクールソーシャルワーカー、公的機関の外国人教育相談のケース会議アドバイザー等を兼任。


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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
             連載:幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作
                         第3回 RPG風ゲームで、子供たちの「なぜ?」「知りたい!」を呼び起こす
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〇最新のゆめ基金教材
こんにちは。I-ROI事務局長の久保谷です。

今回は、当機構の最新の教材である「異世界で学ぶ はじめての情報セキュリティ」をご紹介します。前回紹介した教材とは対照的に、かなり発展的な内容も含んでいます。例えば、この教材の中では、自分が使用しているPCが外部からの不正アクセスに対してどの程度の脆弱性※1を抱えているかのリスクを調べる具体的な方法を紹介していますが、これは大人が読んでもためになるような内容となっています。

※1 脆弱性 情報セキュリティの安全性が損なわれ「穴」がある状態。

教材サイトは、こちらです>>


〇情報セキュリティの学習の難しさ
2020年度制作の教材「異世界で学ぶ はじめての情報セキュリティ」は、文字通り、情報セキュリティを扱った教材です。当機構の他の教材は、著作権やプライバシーの保護といった、インターネットの「倫理」面を扱っていますが、本教材はインターネットの「技術」面を扱っています。「IPアドレス※2」や「サービス停止攻撃※3」といった用語が登場しており、用語解説も収録しています。

※2 IPアドレス インターネット上の住所を示す番号。IPとは、インターネット・プロトコル。

※3 サービス停止攻撃 サーバーに処理できないほどの接続要求を送りつけることで、サービスを停止させること。DoS(Denial of Service)攻撃ともいう。

数年前、17歳の少年が県立高校のサーバーに不正にアクセスして逮捕された事例がありました。この行為は違法行為ですが、そうしたアクセスをすることができる能力それ自体については、これを称賛する声も数多く見受けられました。また、本教材の監修者の一人は、サイバー攻撃を仕掛ける側の思考や事情をよく知っていることは情報セキュリティの向上に役立つと指摘しています。つまり、攻撃と防御は表裏一体であるが故に、情報セキュリティの学習を発展させていったとき、それを通じて得た知識やスキルがサイバー攻撃に悪用されてしまう危険性はないとは言えません。

他方、情報セキュリティは、目で見たり手で触ったりすることができないインターネットの世界に関する事柄なので、もともとインターネットの世界に興味を持っている子供なら大丈夫かもしれませんが、そうでない子供たちに情報セキュリティの概念や事例を教えることには難しさがあります。

〇楽しみながら情報セキュリティを学べる教材
そこで、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)風の仮想世界を用意し、子供たちがそこでインターネット上のさまざまな脅威※4に対処し、うまく対処できれば高得点が得られるという形のゲームを作成しました。現実世界ではやってはいけない行為でも、仮想世界でなら違法行為とはなりませんから、ここは「試してみる」「失敗してみる」ことができる場になります。また、「ドア=インターネット上で情報をやり取りする結節点:ポート※5」「モンスター=情報セキュリティを脅かす脅威」「宝石=保護すべき貴重なデータ」といったように可視化することで、子供たちがイメージをしやすいようになっています。

※4 脅威 情報システムやデータが、マイナスの影響を受ける場合の原因となる現象。

※5 ポート ネットワークとの間で通信を行う出入り口。

教材の構成としては、市販のソフトウェアであり、プログラミング教育の現場でもよく使用されている「Minecraft(マインクラフト)」上で動くコンテンツと、当機構のウェブサイトで動くコンテンツの二つを用意しています。Minecraftという市販のソフトウェアを用いることで、このソフトウェアをプレイしたことがある子供なら、すぐに操作に慣れることができるようになっています。また、ソフトウェアを一から独自開発するのでは時間的にも予算的も到底実現できないような高いクオリティの3Dグラフィックの教材に仕上がっています。

〇最初は丸暗記でもよい
このMinecraft上で動くコンテンツは、「ゲーム」として楽しめるように作成しています。「ゲーム」は、「試練」という名前で用意されていて、「第一の試練」から「第七の試練」まで、全部で7つの試練をプレイできるようになっています。教材の中では、情報セキュリティに関する用語が多数登場しますが、最初のうちは、それらの用語を子供たちはまるでRPGの呪文のように丸暗記して、とにかくゲームをクリアすることに没頭するようです。また、どうしたら楽に高得点が取れるのか、裏技を必死に探すような子もいます。

情報セキュリティに関する知識を獲得するという観点から言えば、こうした行為は一種の「脱線」のようにも見えます。ただ、最初はそれでもよいと考えています。まずはこのゲームを楽しんでもらって、それをきっかけに、「なぜ?」「知りたい!」という思いを持った子供たちに、当機構のウェブサイト上で動くコンテンツにある「読み物」教材を読んで、学習を深めてもらいたいと考えています。

「読み物」コンテンツは、前述の通り、大人が読んでも役立つようなレベルのコンテンツも用意しています。こちらは、もともとコンピュータに興味・関心を持っている子が読んだ場合にも、けっして「物足りなさ」を感じさせないように制作しています。

本教材の「完全制覇」にはかなりの時間を要しますが、奥行きが深くて、何度も時間をかけてプレイできる教材を作ろうと考えた結果、このようになりました。試練は第一から順番に進めないといけないという形にはなっていないので、一部分だけでもプレイしてもらって、学習のきっかけにしてもらえればと考えています。

次回は、「これで安心! フリマアプリやネットオークションとの付き合い方」をご紹介します。この教材も、大人が読んでもためになるコンテンツが含まれています。

※注 本文中の注釈をつけた用語について、詳しくは本教材の用語集をご覧ください。

◆久保谷 政義(くぼや まさよし)
1975年生まれ。東海大学大学院修了。博士(政治学)。
最近の論文として、久保谷政義・田辺亮「大学生のスマートフォンの利用状況とICT活用能力」『教育情報研究』35巻1号、2019年。
2013年より一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)事務局職員。2021年より同事務局長。

 
■□ あとがき ■□--------------------------

次回は、1月21日(金)を予定しています。

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