視点の移動、頭に入る大きさの情報

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2021.06.25

視点の移動、頭に入る大きさの情報

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■   連載:視点の移動、頭に入る大きさの情報
■□  連載:自己肯定回復プロセスに必要な行動
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材「デジタル教材の作成テクニックを学ぶ」
                        第3回 視点の移動、頭に入る大きさの情報 (最終回)
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本連載の最終回です。学習者が「分かるに近づく」ための、5種類の展開のうち、"視点の移動"と"頭に入る大きさの情報"を解説します。

4.視点の移動
ほとんどのものは、アプローチする方向(角度)によって得られる情報が異なります。人は外界の情報を得る手段として70%以上を視覚に頼っていますが、まさに視覚こそ、見る方向(視点)によって「見え方」が異なる典型といえます。

ですが、多くの人は「自分の見え」を絶対であると思いがちで、別の方向(視点)から別の見えがあることを思いつきません。

やや本題から外れますが、自分の見え以外の見えがあることに気づくきっかけになるのが聴覚です。自分がこう、と思っている時に、それについて耳から別の情報が入ってくると新しい気づきが生まれるのです。発達に困りのある人は、それ以外の人に比べて視覚を偏重する傾向がありますが、それが「こだわりの強さ」を生み出している原因の一つかもしれません。閑話休題。

学びの観点から考えると、複数の視点からの見えを用意することは、ものごとを多角的に捉えられることになるので、より深い理解を引き出すことが可能になります。

具体例を見ていきましょう。

※視点の移動 

4-1.月の移動と満ち欠けの理解
月の形が変わること、その形ごとに見える時刻や方角が異なることを学ぶ、理科の学習内容です。今は時計やスマホの普及で必要を感じることは少ないですが、それらの機器のなかった時代には、時刻や方角を知るための重要な知識でした。

テストで出される問題の多くは、月の形や傾き、見えた方角、時刻のうちのいくつかを提示して、その時刻や方角を解答するものです。ですから、教科書や参考書には、月の動きを示した図がいくつか掲載され、それを記憶する子どもが多いと思います。

それを、月と地球、太陽の、時間経過による関係を理解させようというのが、視点の移動を使った、学びの支援になります。

※視点の移動による月の満ち欠けの理解 

上記教材では、地球から月を見た際の「見え」の他に、太陽や地球、月を遠くから見た「見え」を用意し、本来は球である月が、三日月や半月、満月など、様々な形に見えることを提示します。さらに、新月、三日月、半月、満月が見える時の月、地球、太陽の位置関係を提示し、前述の2つの「見え」を提示した状態で、時刻によって地球から見た相対的な月の方角とそこでの「月の向き」が変わる様子を示します。

この教材の目的は、テストで出されるような断片的な知識ではなく、月と地球、太陽の位置関係と動きを理解し、それによって、月の形や傾き、見える時刻や方角を理解してもらうことです。

4-2.楽器の操作
ドラムの演奏の仕方を学ばせる教材です。
一般的には、スティックを使ってドラムをたたく様子や、ペダルを踏むことでドラムをたたく様子を見せ、それらを真似ながら何度も繰り返し練習させるという教え方が多いと思います。

体育など、このようにやって見せて学ばせる学習内容は多いですが、下記の教材のように、学習者に見てほしい部分を、通常の見方だけでなく、クローズアップしたり、通常は見るのが難しい角度などから見せたりすることで、理解を深めることができます。

※視点を切り替えて、ドラムのたたき方を覚えてみよう 
 
5.頭に入る大きさの情報
「頭に入る大きさの情報」という表現は筆者の意訳で、元の英語は、mind-syze-byteです。マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授だったSeymour Papert博士の著書、"Mindstorms"※を20代の頃に読んで、この表現に感銘を受けたことを昨日のことのように思い出します。Papert博士はこの本で、子ども自身がコンピュータを操作することで、幾何や言語などの様々な概念を身につけていくことを示しました。

※Mindstorms: Children, Computers, And Powerful Ideas
 
簡単に言えば、人によって一度に理解できる分量が異なるため、"その子に合わせた分量"情報の提示をする必要がある、という意味です。当たり前のように思われるかもしれませんが、教育場面で常に念頭におくべきこととして、この簡潔な表現の大切さを理解していただけるのではないでしょうか?

ここでも、どのように応用できるのかを2つの教材で実際に見てみましょう。

※頭に入る大きさの情報 

5-1.おてだまの動作
前項で、見て覚えてもらう場合に「視点の移動」の有用性を説明しました。おてだまの習得もそれに似ていますが、動作が連続的で何をどう見たらよいのか、どのように練習をしたらよいのかが分からないという点が異なります。

下記の教材を見てみてください。

 
お手玉は両手を使いますが、片手ごとに注目してみると、それぞれ同じ動きを繰り返していることが分かります。そして、それらの動きはそれほど複雑ではありません。片手だけの動きなら理解することができます。それが、頭に入る大きさの情報という訳です。

この教材では、投げ上げる方の手の動きだけ、受け取って逆の手におてだまを渡す方の手の動きだけ、をそれぞれ見て練習します。それができるようになれば、両手の動きを連携させることだけ(これも頭に入る大きさの情報)に取り組みます。

なお、この練習の仕方でも、できない子がいると思います。その場合は例えば、投げ上げる動作と逆の手からおてだまを受け取る動作を2つに分けて観察させ、練習させます。このように、その子が一度に理解できる分量がどのくらいかを探りながら進めるのが、頭に入る情報の大きさを考慮した、学びの支援という訳です。

5-2.複雑な英語表現を考える
ここではまず、問題文の構造を考えます。そして、それぞれの構成要素を英語にし、つなげていくことで、長文全体の英語化を行います。

※長文の英語を日本語にしてみよう 

上記は翻訳でしたが、作文をする時にも"頭に入る情報の大きさ"という方法は応用できます。長い文章を最初から考えるのではなく、書きたい要素を書き出していき、それぞれを文として表現してつないでいきます。作文を書くという大きな山にどこから手をつけてよいか分からないという子への支援に活かすことができます。

筆者が長年の学習研究の中で、もっとも有用性が高いと考える5つの支援方法を説明させていただきました。それぞれ、幅広い場面で使うことができると思いますし、2つ3つを組み合わせて使えば、さらに学びを深くすることができると思います。活用していただければうれしいです。

◆五藤 博義(Hiroyoshi Goto)
東京大学教育学部卒業、学びと発達の支援に40年間、取り組む。
レデックス株式会社代表取締役 主幹研究員


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 ■ 新連載:キャリアアップを目指す発達障害のある彼ら、彼女たちから教えてもらったこと
                         第2回 自己肯定回復プロセスに必要な行動
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前号では、一歩踏み出して、仕事をうまくこなし、結果を出すためには、仕事の場面や職場環境に応じて顕在化する自身の特性や環境調整が必要であることをお伝えしました。

このように環境調整方法の引き出しを増やしておくことは、チャレンジしていくうえで安心につながり武器にもなります。一方、コミュニケーションについてはどのようにすればいいか頭でわかっていても、苦手意識があると、会議の場で積極的に発言をすることや、新たに役割を引き受けることには躊躇してしまいがちです。ですから、自信がない、あるいは自己肯定感が低い傾向にある当事者にとって、実際に行動に踏み出すことは勇気のいることなのです。

プロジェクトでは肯定的な言葉を使うことを習慣化する取り組みを行っており※、「前向きな言葉で自分を表現できるようになってきた」「成果を肯定的に言語化して伝えられるようになった」「ネガティブな思考が起きることが少なくなった」の言葉にあるように受講生の態度に変化がみられるようになりました。ですが、日々の仕事ぶりの話を聞く中では、実際の職場で行動に移しているケースは依然として少ないように感じます。
では、どうすればいいのでしょうか。

※主体的・具体的・肯定的な言葉を習慣化する(メルマガ2019年1月11日号)

■安心してチャレンジと失敗ができる場と刺激し合える仲間
自身の職場で周囲の理解がないというメンバーが多い中で、このプロジェクトは安心して話せる仲間がいると話します。けれども、それだけでは仕事をうまくこなすことにはなりません。職場では、なかなか仕事を任せてもらえない、たとえ任せられても失敗しないことに目がいきがちで、チャレンジする機会がないというのが現実ではないでしょうか。一般的に何かしらのスキルを身に着けるためには、リスクを恐れず行動して学びを得る機会が必要です。ですから、「安心してチャレンジと失敗ができる場」こそが必要ではないかと考えたのです。

プロジェクトの講座で毎回行うグループワークでは、経験がなかったり苦手意識があると思われる、司会や書記のような役割に積極的にチャレンジしています。自身が学んでいる内容に則してプチ講座の講師をしたりもします。失敗しても構わないという安心感や、自身の失敗を共有することで学びになるという周囲のメンバーの肯定的な姿勢が、背中を押していると感じます。その結果、「経験が無いことであっても、チャレンジすると後で自信がついた」と話すメンバーが少なくありません。

また、講座の後の放課後タイムなど、雑談ができる場を提供していますが、中身のない話をだらだらするよりも、テーマを決めたり、知的好奇心をくすぐるような話題のほうが満足度が高いようです。これらの様子からも、彼らにとっての「仲間」は親しみより、切磋琢磨しあえる、刺激を受ける関係性を求めている傾向があるように感じます。

■自己肯定回復プロセス
「自分はすごい!」「自分ならできる!」という感覚(自己肯定感)は、自身が何かに挑戦するときの後押しになります。この自己肯定感の土台となる自身の障害特性を深く知り、受け入れる(自己理解、自己受容)をプロジェクトでは重要視しています。

そのうえで、安心して挑戦できる場づくりは、自己肯定感を育む機会であるともいえます。
しかしながら、この「安心して挑戦できる場」での様々な発言や行動は、メンバー同士のぶつかり合いが必然的に起きます。職場では発言が少なくても、安心して話す場であれば言いたいことが言えるため、特性に応じた反応や行動が随所に見られます。

具体的には、自分の優位性をアピールする「マウンティング」、場がぐだぐだになる、きちんとできていないことが許せない、正論過ぎて言葉がきつい、細かな提案になりすぎて実行できない、自分の考えをみんなに当てはめようとする、アドバイスしてはいけないルールでもついついアドバイスしてしまう、安心できる場だから勝手な行動をとる、など、これまで小さなトラブルはたくさんありました。

ですから、毎回、ワークをやったあとの感想として、このような他者の行動に対する批判を書く人が少なくありませんでした。ただ、これは衝動性や拘りにともなう一時的な感情表出であり、書くことで精神的に落ち着くようですし、批判したことについて反省していると後日メールをいただくこともあります。自身の特性をよくわかっているメンバーは、衝動的に行動してしまったことに自己嫌悪に陥っています。

これらのことから、安心して挑戦できる場での彼ら、彼女たちの行為を、自己肯定回復プロセスにおける行動の結果と捉えるようになり、指摘や指導するよりも、共感や肯定することを心がけるようになりました。

そうしているうちに、メンバー同士がそれぞれの特性をより理解するようになり、他者を攻撃するような発言になりそうな雰囲気になったときに、誰かしら場を和ますような発言が見られるようになりました。

また、自身の発言によって怪訝な表情が見られたときには、大丈夫だったかとその様子を他のメンバーに確認する、いわゆる場の空気を観察するような一般的に発達障害特性のある人の苦手と言われている行動をとります。

人は他者とぶつかり合って、傷つきながら成長していきます。その過程において、支援者側はトラブルを最小限にするためにはどうすればいいのかを考えながら、見守っていくべきではないでしょうか。

次号では、本プロジェクトで見られる「特性の強みを活かした仕事の仕方とはどういうことか」について紹介する予定です。

本プロジェクトでは、新たなメンバー(4期生)を募集していますので、興味・関心のある方はお問い合わせください。

※プロジェクト概要 
 
 

■□ あとがき ■□--------------------------
次号メルマガは、7月9日(金)の刊行です。
 
シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材、次回からは(公財)日本障害者リハビリテーション協会「デイジー子どもゆめ文庫」の連載です。

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