キャリアアップを目指す発達障害のある彼ら、彼女たちから教えてもらったこと

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2021.06.11

キャリアアップを目指す発達障害のある彼ら、彼女たちから教えてもらったこと

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■   新連載:キャリアアップを目指す発達障害のある彼ら、彼女たちから教えてもらったこと
■□  連載:本物性、足場がけ
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■□ まえがき ■□--------------------------
近年、発達障害のある人への理解や就労支援の広がり、そして法定雇用率の改定にともなって、就職から就労定着、キャリアアップへ支援課題が変わりつつあります。

今回は発達障害者のキャリアアップをテーマとしたプロジェクトの内容を、本メルマガで3年前に紹介していただいた榎本哲さんに、その後の取り組みや参加している当事者の実践からわかってきた知見などを4回シリーズでご紹介いただきます。

※発達障害のある人のキャリアアップについて(2018年12月7日号)


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 ■ 新連載:キャリアアップを目指す発達障害のある彼ら、彼女たちから教えてもらったこと
                        第1回「障害特性に対する環境調整術」
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2017年にスタートした発達障害のある人キャリアアップ創出プロジェクトは今年5年目を迎えることになりました。今回の連載では、全4回にわたってプロジェクトのこれまでを振り返ってキャリアアップを目指す彼ら、彼女たちから「気づかされたこと」、「学んだこと」を中心にご紹介します。

このプロジェクトを立ち上げた背景には、発達障害のある人の就労が進んできたものの、日々の仕事をこなすのが精一杯で、キャリアアップしたくてもどのようにすればよいかわからない人が増えてきたことがあります。そして、障害者雇用枠や中途採用、契約社員や派遣社員としての就業が少なくなく、限定的な研修はあっても、新入者研修以外は長期間の研修を受ける機会がないため、学ぶ機会の損失、あるいは学び残しがあり、障害者の人材育成という考え方は相当後回しになっていると感じていました。

そこで、就業中の発達障害のある人を対象とした「企業研修に準じた人材育成セミナー」というコンセプトでスタートすることにしました。しかし、回を重ねる中で知識やスキルを身に着ければキャリアアップできるという、そんな単純なものではないことが明らかになりました。

彼ら、彼女たちが語る仕事の現場での苦労を聞く中で「キャリアアップ」とは何だろうかと考えさせる場面が数多くありましたが、このことについては、次号以降にお伝えしたいと思います。

〇自身の障害特性の深い理解と、場面に応じた環境調整の実践
このプロジェクトの参加者の想いには、単にキャリアアップしたいという漠然としたものではなく、職場の人たちと円満なコミュニケーションを取りながら、自信を持って働ける自分になりたい、障害特性を理解し自分の弱みをカバーする術や自分の強みを生かした仕事をして社会で活躍できる自分を確立したいというようなケースが多いと感じています。
発達障害のある人は精神疾患も抱えているケースも少なくなく、周囲は職に就ければいい、無理をせずにその日を無難に過ごせばいいとアドバイスしがちですが、私は責任ある仕事に就きたい、期待に応えたい、チャレンジしたい、という彼ら、彼女らの想いに接する中で、それに応えていくにはどうすればいいかを考えることの大切さに気付かされました。

しかしながら、チャレンジするということは簡単なことではありません。
なぜならば、やりがいのある仕事をしたい、評価されたいと踏み出すほど、関わる人や組織が増えるとともに、求められる業務の量や質は高くなるからです。そこではこれまでの特性への対策では不十分だったり、それまで認識していなかった障害特性に気づいたりすることが少なくありません。

さらに、仕事をうまくこなし、結果を出すためには、自身の障害特性を理解するだけでなく、その特性が仕事の場面やどのような職場環境で支障を来すのか、そしてどんな対策(環境調整)をすればいいのかを、言語化していく必要があります。

このプロジェクトに参加したゼロ期生~3期生の方々からは仲間からの学びが多いという声が寄せられます。彼ら、彼女らから、環境調整術について、メンバー同士が話し合うことで、自身の生活上の困り感や工夫を俯瞰することができ、さらによりよい工夫をしようとする姿勢が出てきていることが伺えました。

※受講者の声 

また、書籍やインターネット上で紹介されている内容は役に立つものが少ないとメンバーの多くは話します。どういうことかというと、短期記憶に自信がないという場合、視覚支援として付箋やメモを活用しましょうとよく言われます。しかしながら、記憶といっても情報処理の特性も各人各様であり、働く環境や業務の種類によって対処の仕方は様々であり、具体的な特性と困りがあって、どのような場面で、どのような方法やツールを使って、どう解決するかまで示されないと、参考にならないようです。

また、仕事をうまくこなすために生活面においても様々な場面で障害特性に起因する困りごとを想定し、そこで必要な環境調整を具体的に言語化している方が多いと感じます。例えば、ケアレスミスが多い、忘れやすく抜けや漏れが多い、段取りが悪い、自己肯定感が低く不安がある、などのケースでは、以下のような対応をしていると話されていました。

<仕事の組み立て>
朝の時間を活用して例えば14時までに集中して処理業務を行い、それ以降は考える・想像する仕事や外出するように、メリハリをつける。

<予定管理>
スケジュール管理については、TO DOリストは手帳、リマインダー機能では「明日はごみの日だよ」等、スマートスピーカーを使うなど、複数のツールを使って漏れがないようにする。

<日常のマニュアル化>
・アプリに「ただいま」と話すと(1)肯定的な言葉、(2)最新のニュース、(3)好きな歌、が返ってくる設定をして精神的に落ちつかせる。

・洗髪の際に頭をこする回数やドライヤーの時間を決めたりし「今」に集中する訓練や入浴の時間を最適化する。

・毎日の服装のルーティン化(ハンガーに番号のシールを貼る)と購入ルール(1シーズンにトップスとボトムスを5着ずつ)を決めて、衣類の管理を簡便にする。

これらを言い換えれば、常に行動の見通しをつける習慣を養い、日々の生活を見える化して、できるだけ想定内に収まるようにし、精神の安定に努めているということになります。改めて、障害特性を抱えて、責任のある仕事をこなすためには高い環境調整術が必要であるということを感じます。

今年で5年目を迎えることになりましたが、キャリア教育やキャリアデザインという言葉が教育の現場で使われるようになり、最近では学生からの問い合わせも増えています。
本プロジェクトでは、新たなメンバー(4期生)を募集していますので、興味・関心のある方はお問い合わせください。

※プロジェクト概要 

次号では、本プロジェクトで見られる「自己肯定回復プロセスに必要な行動」について紹介する予定です。

◆榎本哲(つむぐびとプロジェクト 主宰) 
発達障害のある人のキャリアップ創出プロジェクト 
「働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと」(弘文堂)
「発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本」コラム(弘文堂)

 
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材「デジタル教材の作成テクニックを学ぶ」
                         第2回 本物性、足場がけ
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「デジタル教材の作成テクニックを学ぶ」連載第2回です。学習者が「分かるに近づく」ための、5種類の展開のうち、"本物性"と"足場がけ"を解説します。

2.本物性
学ぶ内容が、学習者自身の実際の生活で役に立つということを知ることは、学習への動機づけという点からとても重要です。多くの子どもにとってあまり意味を持たないテストでの点数より、将来の自分の武器になるものを身につけていると感じる方が、当然、学習に身が入ります。その解決策の有力な手段が「本物性(Authenticity)」です。

本物性の利点は、動機づけだけではありません。その学習内容が生活の中で実際に使われる場面で学ぶことができれば、どういった場面でそれが有用なのか(文脈)を理解でき、さらに、その学習内容の具体的な使い方も身につけることができます。

具体的な例を、デジタルコンテンツで見ていきましょう。

※本物性 

2-1.自分の食べたい量を確保するためのピザの注文方法
ここで取り上げる学習内容は「分数のかけ算」です。
通常の教材では、下記のように、計算の意味を説明していきます。

※1日に3/4面塗ることのできるペンキ屋さんが3日間塗る 

3/4×3を説明するために、ペンキ塗りの量を例にしています。1日に3/4面塗れ、3日間では3/4+3/4+3/4になります。分母はそのままで、分子は3+3+3つまり3×3で9になります。計算としては、分子にかける数をかけ、分母はそのままにします。確かにうまく説明していますが、ペンキを塗り終わるまでの日数計算の方法を知りたいと思う子どもは少ないように思います。

それに対して、次の教材では、分数のかけ算が自然に登場します。
友達と3人でレストランに行き、一人が3/4枚ずつ、ピザが食べられるようにするには何枚注文すればよいのかを考えます。

※改善例:ピザの注文 

上記の教材では、分数のかけ算が便利に使える場面を知ることができ、さらに、食べたい量や食べる人の人数をいろいろと変えて試すことができます。本物の場面設定に加えて、前回紹介した「応答する環境」を用意した教材の例になります。

2-2.相似を応用してものの高さを測る
ここで取り上げる学習内容は「相似」です。
通常の教材では、相似という概念の意味と性質:相似な形では、それぞれ対応する辺の長さの比は一定、を説明します。そして、すぐに練習問題に入ります。

※三角形の相似 その性質を使った計算 

それに対して、次の教材では、遊園地で見つけた素敵な塔の高さを知る方法として、相似が登場します。直角二等辺三角形の三角定規という身近な道具と、歩幅の長さ、という自分の体を使うだけで、塔の高さを知ることができるって、なんだかわくわくしませんか?

※改善例:遊園地の塔の高さを知る 

こんなふうに学校で学ぶことは、自分の解決したい問題を解く強力なツールになることを感じさせてあげたいと思います。

3.足場がけ
一度で理解し習得することが難しいことを、ツールを用意してまず簡単に行ってしまえるようにし、その学習内容の意味と使い方を習得させようというのが「足場がけ(Scaffolding)」です。高いところのものを取る足場を用意する、といった意味です。

利点は、その課題が解決できることでの有用性がすぐに感じられ、できるようになりたいという動機づけが行われます。

足場がけのポイントは、使う内にその足場がどんなことをしているのかが分かり、足場の役割そのものが、自然に理解でき、身につくような足場を用意することです。

ここでも具体的な例を見ながら、理解していきたいと思います。

※足場がけ 

3-1.VOCA
ここで取り上げる学習内容は「お店での注文の仕方(言い方)」です。
すぐに思いつくのは、一般的な文例を記憶してもらう方法です。

※お店でハンバーガーを注文する 

ですが、頼むときの言葉(ください等)を覚え、文の要素(ほしいものの種類や数)を選んで文を完成し、店員さんの様子を見ながら声に出して注文する、までにはたくさんのハードルがあります。また、失敗した時のことを考えてしまうと、なかなか実践に踏み切れないのではないでしょうか?

そこで、足場として、VOCAを用意します。
VOCA(Voice Output Communication Aid)とは、発話支援の方法のひとつで、音声によるコミュニケーションが困難な人のためのツールです。

いろいろな製品がありますが使い方は共通しています。場面などから発話したい文例を選び、その要素を画面の例を見ながら選んで入力すると、声に出してくれます。

※改善例:VOCA 

VOCAのよいところは、代わりに声を出してくれ、その声で自分の欲しいものが注文できてしまうところです。声が出せることの意味に気づいてもらうことができるでしょう。さらに、VOCAの操作として行っている、ほしいもの、数、言いたい言葉、の選択は、まさに自分の話したい文の生成です。ですから、VOCAを使うこと自体が文の作成の練習をしていることになります。VOCAは、足場であり、よくできた足場なので使っているうちに、その足場が身につくことになります。

3-2.地図上の相対方位
ここで取り上げる学習内容は「地図上の相対的な方位」です。
一般的な教え方は、下記のようになります。

※地図上での相対方位 

方位を知りたい場所に立っていると想像し、そこから目標の地点は、どの方位になるのかを考えます。自分が2次元の地図の中にいると考えるのは、なかなか難しいように思います。

そこで、方位定規という足場を用意したのが下記の教材です。

※改善例:方位定規 
 
方位を知りたい場所に"実際に"方位定規を置きます。そこから8方位の軸が伸び、目標の地点がどの軸にかかっているかを見て、方位を知ることができます。

方位定規をどこに置くか、その場所から8方位の軸を伸ばすことで目標の方位を知る。足場を使うこと自体が、相対的な方位の見方の手続きになっていますので、足場が自然に頭に入り、足場がなくても地図上の相対方位を知ることができるようになります。

ここで知ってほしいのは、足場という学びの強力なツールがありうることです。教育者や支援者の創意工夫で、様々な足場を考え出していただければと思います。

次回、最終回は、展開の四番目と五番目の「視点の移動」と「頭に入る大きさの情報」を解説します。

◆五藤 博義(Hiroyoshi Goto)
東京大学教育学部卒業、学びと発達の支援に40年間、取り組む。
レデックス株式会社代表取締役 主幹研究員



■□ あとがき ■□--------------------------
国立青少年教育振興機構の『子どもゆめ基金』のデジタル教材には優れたものが多いのですが、残念ながら多くの方の知るところになっていません。そこで、周知のために、編者が秀逸と思う教材の団体に声をかけたところ、数多くの団体からご協力を得られることになりました。今回までで5つの団体のご紹介をしてきましたが、もうしばらくこのシリーズを続ける予定です。

※独立行政法人国立青少年教育振興機構『子どもゆめ基金』
※文部科学省『子どもゆめ基金』
 
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