障がいのある子の医療 コロナ生活はじめました

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2020.05.08

障がいのある子の医療 コロナ生活はじめました

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■  新連載:障がいのある子の医療
■□ コラム:本や映画の当事者たち
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 ■ 新連載:障がいのある子の医療
         第1回 コロナ生活はじめました
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横浜市内の療養型病院で内科医しています。
作業所に通うこどもたちと相棒と犬が一匹。
知的障がい者が健康で文化的な生活を送る道を探してます。
いまは、例のウイルスで生活も仕事も一変。
その状況を親として、へなちょこ内科医として、おしゃべりします。

はじめまして
とはいえ、どなたがお読みになっているのかわからないので、もしかしたらはじめましてではない方もいらっしゃるかもといろいろ考えはじめると何も話せなくなる面倒くさい人間ですが、とりあえずはじめまして、ひつまぶしと申します、いろいろありながら昭和のころに内科医になって今に至ります。

そんな私に。
メルマガにかかわっているという友人から、「医者として、自閉症合併知的障害児を育てる(すでに息子たちは二十歳超えているので、児、ではないけど、いくつになっても子育て卒業ともいえませんね)母として何か書く気はない?」と連絡があったのが3月も20日コロ。

一般的な健康問題について考えるきっかけになればという意図だったと思いますが、世はすでにコロナ時代に突入。政権はまだ「オリンピック100%の形で開催します!」とのたまい、まるで本腰入れてなかったコロ。まあいまも、入れていませんが。あれからまだひと月ちょっとですが、すでに脳みそをいくら振ってもコロコロとしか音がしなくなっています。ですので、畢竟このコロ・・・新型コロナウイルスについての話でいいでしょうか。
もうあちこちで、自称も含め感染症専門家たちからシビアな話をシャワーのごとく浴びていらっしゃるでしょうから、辺境の内科医のお話でガス抜きしていただければと思います。

勤務先は横浜のかたすみのいわゆる療養型病院(ざっくり説明すると、とくに治療すべき病気はないが、自宅に戻れるほどではない高齢者でかつ施設に入れない程度の医療が必要な方の居場所のような病院)ですので、ニュースでさんざん流れているような、最前線の医療環境じゃございません。ICUもなければ、救急車も来ません。転院される前から人工呼吸器に乗っている方はいらっしゃいますが、当院で新たに呼吸器を必要とするような急性期の疾患はそもそも療養型にはお見えになりません。時間の流れが穏やかで病棟は平和です。いまでも定時に帰れます。

一応は外来を構えているので、2020年オリンピックではワールドワイドなピーポーが東京にマスギャザリングしてしまうために、めにめにいんふぇくしょん(かずおおくの感染症)もインバウンドして、熱やら発疹やら下痢やらを訴えていらっしゃるめずらしい海外の感染症の患者様を診ることになるんだろうなと一応の心構えをぼんやりもってはいた一医療者でした。ただ、飛沫感染と空気感染ってどう違うんだっけー?まあでもうちの病院でフェイスガードやらガウンでダースベーダー化するようなことになるはずもなし。そういう治療に携わる高度医療機関の若い医師たちに同情とほんの少しの嫉妬をおぼえて、違う世界のことのようにすぐにわすれていた・・・程度の防御力でした。

それがオリンピック前にまさかのお呼びでない新興感染症が。新興感染症、つまり人類が今まで経験したことのない病原体の出現。隣国中国であれよあれよの大流行。普段はいわゆる「喉いたい、熱出た、風邪ひいた、そのうちに咳出てきたらもうそろそろ直るよ、感冒の定義は自然に治るつまり、治療してもしなくてもしぜんになおるよ」が特徴の普通感冒、人類と末永く仲良くしてくれていた風邪のウイルスのコロナの7番目の親せきが、いきなり人の細胞に取り付き、一気に仲間を増やすことに成功してしまったわけで。そしてこれの独特のしたたかさが徐々に明らかになってきました。

あれだけ騒がれたSARSも、結局は封じ込めに成功したのだから、いけるだろうと思っていましたが、トンでもない話で。SARSといえば「今かかりました!サーズっす!!」と派手に熱と呼吸症状を出してみるみる悪化していくので、医療者も周りもマーク外さないんです。「陰圧室・フルPPE準備OKばっちこい」と決死の思いで出迎えられる。治療法も確立していない感染症にワクチンも打たずに立ち向かう恐怖と覚悟は容易に想像できます。そして発症してからすぐに動けなくなるほど悪化する質の悪さなので、ひとさまにうつす暇もなく、防御レベルが高い病室に囲い込み市中に拡散されることはない、そんなウイルスという印象です。

ところが。武漢で報告を対岸で見ていたころは、
「SARSよりは軽症、もちろんMERSほどでもない。ちょっと重めのインフル(Bad Flu)ってとこか」そう思っていた医療者は多かったです。私も、その程度の認識であったと正直に告白しなくてはなりません。

インフルはすでにワクチンがあり、迅速キットがある(感度はいまいちだがやりたいと思ったら保健所にお伺いを立てなくてもいつでもできます、あたりまえ)、そして、ウイルスのくせに治療薬がある(治療できるウイルスは限られる、風邪のほとんどはウイルス性で、抗生剤が効かない、使うとむしろ副作用で不利益のほうが大きい、ので、自分の免疫力で勝つしかないのがウイルスというのが一般的な医者の認識)。つまりインフルにはすでに、予防診断治療と三種の神器がそろっているのです。それでも毎年1万人ほどインフルエンザで亡くなる方がいます(直接・関連死含めて)。

ワクチンがあるからこそ、一気に蔓延することなく、封じ込めができ、濃厚接触した看護師さん(マスクなしで数分お話ししただけで濃厚接触にあたるんですよね)だって予防のタミフルを10日ほどのんでもらえば、休む必要もないという感染症です。そのインフルと比べることから間違いでしたね。いや、さらに予想の斜め上をいく姿を見せ始めたころ。あれ?という間に韓国そして日本に飛び火してきました。

インフルも、いえ、ウイルス感染症は普通、発症してから、ひとにうつし始めるものです。つまり、症状が出てから警戒すれば間に合う。でもこのCOVID19だけは違いました。発症前から十分他人に移しまくれるステルスというか忍者というか、とにかく防御が全く間に合わない。しかも症状が10日程度も続くことがあります。インフルだったら発症して3日程度が感染源になるだけですが、こいつは違いました。潜伏期も含め2週間も感染源であり続けられるのです。その恐ろしさにようやく気が付き始めたのが3月も半ば過ぎ。人を見たら感染を疑え、常にガードを上げていないとどこから被弾するかわからない。いや、その前に、自分ですら信じられない・・・自分がキャリアになっている可能性を常に考えないといけなくなっている。今までの生活には戻れない・・・確かな。つらい予感を持ち始めていました。

感染の終息を何をもってするかという目安の一つに、基本再生産数があります。R0(アールゼロ)ってやつですね。一人の患者さんが何人に広げるのかという数字。これR0>1なら拡大して起き、R0<1なら収束していく方向。COVID19は感染力自体はそれほどじゃない、例えば、はしかのようにすれ違いざまに移すことはありません。けれど、感染させられる時期が数倍、つまり感染力はその分高くなるってことですよね。3月時点でR0は2~3。消毒だって、アルコールやせっけんでもいいくらい、弱めの防御力のウイルスだ、と一見とても御しやすく見えてしまうのに。本当にいやらしいことこの上ないですよね。

インフルが流行っているときも、自分に症状がなければマスクをしていなかった私が(予防効果は認められていません)街中を歩くときもマスクをするようになりました。このウイルスは発症前から、唾液内に増えている。おしゃべりだけでも移すのはそういうことらしい。無自覚に人に移さないため。マスクを汚さないため、ファンデーションも口紅もここひと月以上使っていません。眉をかくだけ。化粧品の売り上げはやっぱり下がってるんだろうなと余計な心配もしてます。

さらに、発症したら20%のひとが入院を必要とする、5人に一人、かなりの割合。そして悪化の仕方がえげつないほど早い。朝元気に買い物行っていたのに、夜にはICU に入室。そのまま骨になるまで家族とは会えない。いつ、覚悟していいのかすらわからない。ああ、やっぱり怖い話になっちゃいました。

このウイルス、感染しないさせないために一番有効なのは間違いなく物理的な方法。つまりウイルス運ぶ人間と近づかない、(1)ステイホーム。その次が、(2)2m離れようつまりソーシャルディスタンス。でも、介護などどうしても近づかなくてはいけない仕事がありますから、そのときに(3)マスクを使う。この順番です。もちろん、感染しないためにはそれに加えて何度でも手洗い。環境からウイルス拾って発症した人が5%程度ありますので、その予防のためにみんなが触る場所に行く前と後に手洗い、食事の前後に手洗い起きたら手洗い、マスクする前外した後・・・いつ洗っていいのかわからなくなるくらい手洗いしている人も多いのでは。手を荒らしてしまう人が増えているせいか、皮膚科の後輩は自粛中に患者さんが増えたといってました。帯状疱疹の人も増えたとか。たぶんストレスなんでしょうね。

そうとわかっていても、普段の生活を崩すのはむつかしい。とくに、自閉症や知的障害のひとにはなおさら。(1)は通所通学しているような人たちにとって、日常と違う生活になってしまう、むつかしいこと極まりないです。大変ご苦労されている家庭も多いだろうなと思います。(2)は、どうでしょう。むしろ常にディスタンスをとっていたいという人には抵抗がない面もあるかも。ただ、支援者さんとは2m離れられるわけではないので、できるだけ支援者さんは固定したいです。注意したいのは食事の時。マスクを外しておしゃべりするのが一番危険(ウイルスはどうやら鼻水や痰と並んで唾液にもかなりふくまれている説がとても注目されています。そのせいで味覚がやられるのだとか?)なので、対面ではなく、食事するならカウンターのラーメン屋などがいいかも。ラーメン屋食べ歩きが趣味の長男はふだんとかわらないです。(3)は癖になればよし、感覚的に受け入れない人はいるでしょうね。

さて、私は緊急事態宣言下でも、続けなくてはならない職種(医療・福祉・物流・ライフライン・食品や日常品の小売り)のひとつであるので、毎日出勤しています。外来を閉鎖して電話再診に切り替えました。どうしても検査や診察が必要な際は、サージカルマスクの上にフェイスシェード、ガウンを着て手袋をつけて登場。受け付けは閉鎖して、病院入り口にピンポンを置いて、インターホンで対応。電話してもらったり、車で採血させてもらったり。
・・・いやあ。防御力が上がりました。数か月でパンデミック小説のモブになれるとは。

当初、医療法人の上の方々は、「そんなことをすると、患者さんたちは拒否されたように思うだろう、通常にすぐ戻せ!」と圧力が来ました。が、電話で対応する患者さんは口をそろえて「病院こわくていきたくなかった」。しかも、薬も処方箋薬局にFAXしてただで届けてくれるサービスもあることを知り(薬局によります)「それはありがたい」と好評。やっぱり患者さんのほうが正しい。他の開業医さんが軒並み減収、下手すると8割減らしているところを見て、上の方たちは何も言わなくなりました。

医療現場は、寝る間もなく、家にも帰れず、重症患者の治療を続けているホットなところと、すっかり患者さんが減ってむしろ暇になったコールドなところと今二極化しています。
もちろん、転院されてくる患者さんやスタッフからの発症リスクは常にあり(こういうウイルスだから、それはもう誰のせいでもないんです)ガードは降ろさないで対応しています。うちでもすでに物資が不足し、マスクは配給制、一度着たガウンをアルコールでふいてきていましたが、やはりごみ袋を切ったりくっつけたりしてみんなでDIYするようになりました。横浜市でも医師会が独自でPCR検査をようやく始めましたが、募集に応じた医師会会員はたくさんいたというのもうなずけます。

旦那はどれにも当てはまらないので、家で仕事しています。子供たちは、がっつり福祉(提供されるほう)です。

兄弟二人は同じ作業所に通っております
二人の様子についてはまた次回。

ひつまぶし(内科医)


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 ■ コラム:本や映画の当事者たち
         第1回 ほんのちょっと当事者
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今回から不定期でコラムを掲載させていただきます。タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介していく予定です。

非常事態宣言が出され、外出もままならない日々ですが、せっかくなので時間のあるうちにいろんな本を読んだり、映画を観たりしながら充電しようと思っています。まずは、このメルマガを読まれる皆さんに、お勧めしたい本を見つけたので紹介します。
初回は、連載タイトルにピッタリなこんな本から。

『ほんのちょっと当事者』
 青山ゆみこ 著
ミシマ社
装画・題字・本文イラスト:細川貂々
2019/11/23 発行
1600円+税

まずタイトルがいい。私は、このタイトルを見て「絶対読みたい」と思って手に取りました。表紙も、本で書かれている赤裸々な話がコミカルに漫画になっていて、本の内容が見てわかるようになっています。

イラストレーターは、夫のうつ病体験を描いた『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎)で知られる漫画家の細川貂々(てんてん)さんです。映画やテレビドラマにもなったベストセラーなので、ご存じの方も多いと思います。青山さんの明るくコミカルな筆致ととても合っていて、ほほえましい漫画になっています。

はっきり言って、テーマはとても重たいもの。でも、青山さんは、深刻にならず自分事として、自分に突っ込みを入れながら、明るく書いています。だから、だれにとってもとても読みやすく、理解しやすい。本の中には、父親との確執や、病気の母親への思い、自分の難聴という障がいとの付き合い、など、そこまで書いて大丈夫かというくらいな、いわゆる黒歴史が暴露されます。読めばどこかに自分との共通点が見つかり、「わかるわかる」となるに違いありません。

この本には、ローン地獄、児童虐待、性暴力、障害者差別、看取り、介護の問題などさまざまな社会的課題が出てきます。著者は、自分の赤裸々な経験を思い切って書いている。だからこそ訴えてくるものがある。読みながら、「そういえば自分もそうかも」と、いつの間にか考えさせられます。

では、当事者とはいったい何なのでしょうか。広い意味で考えると、障害当事者、介護の当事者、性暴力被害者としての当事者、差別をする側の当事者など、だれもが当事者として生きている時代。世の中には、すぐ隣に生きづらさを抱えている人がいて、いつの間にか自分も問題を抱えるようになっています。

かくいう私も、子どもが小さかった頃は、発達障害グレーゾーンの親という当事者であり、親の介護をしていた当事者でありました。若いころはカード破産の一歩手前まで行き、青山さんとほぼ同じでした。ADHDにかなり近いものも持っています。あと15年もすれば介護される側になる世代です。人間は年齢を経ると体のあちこちに不調が現れ、障がいの当事者になっていきます。ほかの人ができることができなくなり、マジョリティだったはずがマイノリティに変わっていくのです。できないことは家族が、地域の人同士が、仕事仲間がお互いに助け合い、フォローしあうことで生きていくのだと思います。

「生きるということは、自分ではない誰かと関係を持つこと」と筆者はこの本の中で言っています。多数派ではない少数派である人を排除しては生きていけない。そんなことを改めて考えさせてくれます。生まれながらに障害のある人も、障害者に近づいている人も、みんながつながり合って生きる時代になったのだと自然に思わせてくれる1冊となっています。

はらさちこ(ライター)
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。ライフワークとして、自分の子育ての経験や取材で得た知識を、成人当事者や親御さんのために使いたいという気持ちから、障がい全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障がいにかかわる本の書評や映画評なども書いている。


■□ あとがき ■□-------------------------- 
今回から新しい連載と不定期コラムがスタートします。どちらも編集スタッフとして参画した、はらさんの協力によるものです。

次号は、5月22日(金)を予定しています。

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