新設「子どもの発達支援制度」のポイント

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2012.06.22

新設「子どもの発達支援制度」のポイント

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■ 報告:全国LD親の会第11回公開フォーラム・1
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・5
■ グッズレポート:「コインホルダー」
■ イベント:日本自閉症協会第22回全国大会inほっかいどう
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■ 報告:全国LD親の会第11回公開フォーラム・1 行政解説
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6月17日に東京で、標記フォーラムが開かれました。行政解説、3名の講演とパネルという充実した内容でした。その中からお知らせしたい内容に絞って2回に分けてレポートします。

今回は、本年4月に施行された改正児童福祉法で、文科省と厚労省が連携して進めることになった、子どもの発達支援制度のポイントを紹介します。

1)相談支援の充実

1歳半健診や3歳児健診の結果や日ごろの気になる行動、就学先の選択など、専門家に気軽に相談できる体制づくりに注力する。具体的には、市町村単位に、基幹相談支援センターを設け、関係施設・機関の相談機能の強化を支援する。

また、障害に関連して福祉サービスが受けやすいように、対象者を大幅に拡大する。サービス等利用計画案を個別に作成し、それを参考にして、助成金の支給を決定する。

2)放課後等デイサービスの創設

市町村に1~2か所、児童発達支援センターを設け、保健所、障害児入所施設等に、障害児支援のノウハウを提供することでレベルアップを図る。

学齢児を対象とした通所支援サービスを創設し、放課後支援を充実する。また、学校等から放課後施設へ移動するための費用助成の対象とする。

3)巡回支援専門員の整備

医師、児童指導員、保育士等で発達障害の知識を有する専門員が、保育所など、子どもや親が集まる施設・場を巡回する。施設のスタッフや親に対し、障害の早期発見・早期対応のための助言等の支援を行う。

上記以外にも様々な形で、障害のある子どもに対しての支援が強化、新設されようとしています。期待したいと思います。

※児童福祉法等の改正による教育と福祉の連携の一層の推進についての詳細はこちら>>

 

■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・5
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『「教えて!」の意味をはじめて理解した日』

トムくんは、お誕生日のプレゼントとして祖父母からアクアプレイという水遊び用のおもちゃをもらったばかりでした。お風呂好きのトムくんはたちまちこれに夢中になっていました。わたしはこのおもちゃを通してトムくんの潜在能力を向上させることができないか細かくチェックしながら、遊び方を考えることにしました。

このおもちゃには水を吸い上げるポンプがついています。魅力的な部品ですが、プラスチック製でこすれるとキコキコ音がしますから、感覚の過敏なトムくんが、次第に遊びを嫌がる原因になるかもしれません。通っているアトリエで、やわらかい容器に色水を入れて、水を勢いよく搾り出す遊びをトムくんは気に入っていました。ですから、扱う際の感触が心地よい水鉄砲があれば、遊びが広がりそうです。

するとお母さんが程よい大きさの、針のない注射器を見つけてきてくれました。これはトムくんに大ヒット。お父さんが一度だけ、水を吸い上げる方法を教えると、たちまちマスターしました。また、引っぱりすぎて引く部分がはずれるハプニングがあっても、自分ではめて戻してみせました。

こうした何となく水を出すだけの遊びを「的に向かって水を当てる」という少し高度なものに変化できないかと提案すると、お父さんがティッシュに的の絵を描いて柵にかけてくれました。トムくんはそちらに向かって水をかけ始めました。

アクアプレイには、一段高い場所にダムのような仕組みがあり、水を貯めた後でプラスチック板を引き上げると、ザーッと水が流れ出す仕組みになっています。これを利用して、遊びを「目的に向かって何ステップか手順を踏んで、深い達成感を味わえる」ものに進化させられないでしょうか。

お風呂場でのトムくんは、水を手ですくって手桶に入れたり、満杯になったかを目で確かめながらいっぱいになるまで水を貯めたり、手桶を傾けて水が流れるのを眺めたりしていました。そこで、小さなままごとの片手ナベで、水をすくってはダムの部分に水を入れ、水を貯めていく様子を見せました。

せき止めているプラスチック板を引き上げる時、見た目から来る喜びや達成感をさらに上げるために、ダムの中にスーパーボールをたくさん入れておきました。「水」よりも「スーパーボール」の方が、自分のしている行為の意味を理解しやすいと思ったからです。

子どもと遊ぶ時のわたしは「近い将来の種まき」「数年先の種まき」のどちらも含まれるように気をつけています。

アクアプレイの遊び中に気をつけていた「近い将来の種まき」とはトムくんが「教えて!」と頼まれることの意味を理解できるように努めることです。ところが、遊びが一段落つくごとに「トイレはどこですか? トイレに行きたいです。教えて!」と自分の胸をポンポンたたくジェスチャーを交えてお願いするものの、トムくんはその言葉を理解するどころか聞いているようにすら見えませんでした。

毎回その調子なので、これは先の種まきと覚悟しながら、妹のジェリーちゃんに頼んでトイレに連れてってもらう演技を何度も見せてみました。しかし、こちらにチラッと視線を投げる素振りすらありませんでした。

アクアプレイを遊び終えて、ジェリーちゃんも姿を消し、静かな時間をトムくんと共有していた時、それまで注目しようとしなかった魚釣りの仕方にじっと見入るトムくんの視線を感じました。

思いきって「トムくん、トイレはどこですか?トイレに行きたいです。教えて!」と手を差し出すと、トムくんが神妙な表情で私の手を取りました。そして、ジェリーちゃんがしていたのと同じように、私の手を引っ張ってトイレのドアのところまで連れて行きました。

シャワーの時のように、教えてもらう側と教えてあげる側が入れ替わって、トムくんがトイレに入ってしまうわけにはいきません。トイレの前で「ありがとう」とお礼を言って「私が行きたいです」とオーバーに主張しました。すると、トムくんは納得したように誇らしげな表情を浮かべて、そばで見ていたお父さんの方に駆けて行きました。

そんなトムくんの行動に、お父さんは非常に驚かれていました。

一方、「数年先の種まき」のテーマと考えていたのは「工作」の意味に気づき、創作活動の喜びに目覚めるように努めることです。

トムくんは私が到着する前日に「ウンチの後でお尻を自分で拭く」作業を完全に自分でやり遂げたばかりで、トイレに設置されている3段階の作業の流れを示すトレイには、それぞれ適量のトイレットペーパーが入っていて、(1)~回ふく (2)~回ふく (3)~回ふく、と文字と図で示していました。

この作業の形を理解しているなら、同じ方法で「工作する」ことが教えられるかもしれません。非常に単純だけど「できた!!」という喜びが実際に目で確かめられ、トムくんにすぐに響く工作として「船」と「輪くぐりの輪」を考えました。

船の形に切った食品トレイを、手順が分かるように区分けしてある入れ物(1)に入れ、絵や文字による説明もつけておきます。(2)にはペットボトルのキャップを入れておき、説明。(3)にセロテープを入れておきます。

船型の食品トレイにペットボトルの蓋を貼っただけの簡単工作ですが、作るたびに水に浮かべて「自分で工作した船で遊ぶ」という体験ができるので、「工作」の意味が理解しやすいはずです。

「輪くぐりの輪」は、たんざく状に切った折り紙を(1)のトレイに、(2)にはセロテープ という2段階の工作で、細い紙を輪にしてテープで貼ってリングを作り、注射器で水を飛ばす際に、水をくぐらせて遊ぶ予定です。こうした工作は、作業として参加できるようにはなっても、トムくんの心に、意味が響くまではまだずいぶん時間がかかりそうではありました。
(未来奈緒美)

 

■ グッズレポート 「コインホルダー」
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10円、100円など6種類の硬貨の違いを、収納ケースの利用で学ぶコインホルダーです。マッチングの好きなお子さんにぴったり。
お金の計算の学習にも使えそうです。

「コインホルダー」のグッズレビューはこちら>>

レヴュアー:yoshiko

 

■ イベント:日本自閉症協会第22回全国大会inほっかいどう
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2年に一度の自閉症協会全国大会が札幌で開かれます。
障害者雇用で有名な日本理化学工業の大山泰弘氏の基調講演。教育、労働、福祉、生活、医療とテーマ別の分科会では、田中康雄・北海道大学教授や斉藤宇開・たすく代表など、多数の専門家が登壇します。

主催:社団法人日本自閉症協会 後援:厚労省、文科省、北海道、他
日時:2012年7月14日(土)・15日(日)
場所:かでる2.7 札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル
プログラムや費用などの詳細は、こちら>>

 

■ あとがき
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幸い大きな被害は少なかった台風4号ですが、風の音で眠れなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか?伊勢湾台風に見舞われた経験のある私の田舎では、台風来襲の予報が出ると父親たちは雨戸に釘を打って固定するなど大活躍でした。サッシなどの普及で、今では見られない風景になりました。

それも一例ですが、家庭の中で父親の活躍する場面がだんだん少なくなって来ています。子どもの教育で問題とされる、父親の存在感のなさが、生活の便利さと引き換えに生まれてきているのは残念な気がします。

状況を把握して活動する能力(男脳)より、コミュニケーション能力(女脳)が重視される職場が多くなってきているのも共通しているのかもしれません。究極の男脳と呼ぶ専門家もいる自閉症スペクトラムの人たちにとっては、住みにくい社会になってきているようです。

※参考 男女の脳の違い:小児発達医・まなみの診察室 第4話 はこちら>>

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