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■ まえがき
■□ 新連載:発達障害児の感覚処理・協調運動の問題への支援
■□■ 特別寄稿:福祉映画に生涯を捧げた山田火砂子監督への追悼・1
■□■ 特別寄稿:福祉映画に生涯を捧げた山田火砂子監督への追悼・1
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■□ まえがき ■□--------------------------
※岩永先生の前回の連載
また岩永先生は、4月23日(水)午前10時から、HUGオンラインセミナー【特別企画】子どもたちを知るシリーズ第1回「感覚の困りとは?」にも登壇されます。
※オンラインセミナー
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■ 新連載:発達障害児の感覚処理・協調運動の問題への支援第1回 発達障害に見られる感覚処理の問題
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〇はじめに
感覚や運動の問題は学習、行動、情動、対人関係などの問題に比べ注目されにくかったと思われますが、当事者にとって深刻な問題となりうるため、その問題について周囲の人が理解し支援を考える必要があります。そこで、これから連載の中で発達障害児に見られる感覚と運動の問題の特徴とそれに対する支援について紹介していきたいと思います。
第一回目となる本稿では、発達障害児にみられる感覚処理の問題について説明します。
〇感覚処理の問題
発達障害児には次のような感覚処理の問題が見られることがあります。
過反応
・触感や味が嫌で偏食が起こっている
・騒々しい場所を避ける
・運動会のピストルを嫌がる
・蛍光灯の光が耐えられない
低反応
・呼ばれても振り向かない
・触られても気づかない
・怪我をしても痛そうにしない
感覚探求
・シャツの襟をかみ続ける
・トランポリンで長時間跳び続ける
・水遊びを止めない
発達障害児には、感覚刺激への過反応だけでなく、低反応や感覚探求などの問題も見られます。一人の発達障害児が過反応と低反応を同時に持ち合わせることが少なくありません。例えば、母親が名前を呼んでも振り向かないのに、赤ちゃんの泣き声を聞くとパニックになるなどの相反するような反応が見られることがあります。また、感覚処理の問題は複数の感覚系にまたがって起こることが多いです。例えば、接触を嫌がる触覚刺激への過反応とサイレンが鳴ると耳ふさぎをする聴覚刺激への過反応が同時に見られることがあります。
感覚処理の問題は特に自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)児者に多く見られることが知られています。これまでの研究でASD児の71.4~94.3%に感覚の問題があることが報告されています(Kirby et al., 2022; Dierksheide K, Kadlec, 2023)。
〇感覚処理の問題のパターン
発達障害児の感覚処理の問題について論じる前に感覚処理のパターンについて説明します。Dunn(2011)は感覚処理を「行動反応の連続性」と「神経学的閾値」の2つに軸で整理しています。感覚刺激に対して受動的行動を示し閾値が高い状態を「低登録」、能動的行動を示し閾値が高い状態を「感覚探求」、受動的行動を示し閾値が低い状態を「感覚過敏」、能動的行動を示し閾値が低い状態を「感覚回避」という用語で説明しています(※図1)。
※図1
〇おわりに
本稿では感覚処理のパターンと発達障害児に見られる感覚問題の例を挙げました。今後の連載の中で、これらの感覚処理の問題のアセスメントとそれらに対する支援について説明します。
〇文献
・Dierksheide K, Kadlec MB: Prevalence of Co-Occurring Psychiatric & Sensory Processing Disorders in Children With Autism Spectrum Disorders. The American Journal of Occupational Therapy, 77(Supplement_2), 7711505184p1. 2023,
・Dunn W: Best Practice Occupational Therapy second edition. SLACK Incorporated, NJ, 2011
・Kirby AV, Bilder DA, Wiggins LD et al. (2022): Sensory features in autism: Findings from a large population-based surveillance system. Autism Res. 15: 751-760.
・Miller LJ, Lane S, Cermak SA, Osten E, & Anzalone M: Regulatory-sensory processing disorders. In SI Greenspan & S Wieder (Eds), Diagnostic Manual for infancy and early childhood: Mental health, developmental regulatory-sensory processing and language disorders and learning challenges. Bethesda MD: interdisciplinary Council on Developmental and Learning Disorders, 2005
◆岩永 竜一郎
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(保健学科)・作業療法学専攻教授、医学博士、作業療法士、
感覚統合学会理事、特別支援教育士スーパーバイザーほか、長崎県内外のさまざまな委員を兼任。
アスペルガー症候群の息子がおり、長崎県自閉症協会高機能部部長としても活動している。
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■ 特別寄稿 福祉映画に生涯を捧げた山田火砂子監督への追悼・1 ───────────────────────────────────…‥・
映画監督の山田火砂子(ひさこ)(本名山田久子)さんが1月13日、誤嚥(ごえん)性肺炎で死去した。92歳だった。長年福祉映画の制作に取り組んできて、亡くなる前までメガホンをもっていた生涯現役の監督であり、山田監督の作品ならギャラはいくらでもいいから出たいという出演者は多い。映画の中で当時はあまり使われていなかった障害当事者を多数出演させ、そのリアルな場面は心に残っている。パワフルでエネルギッシュ、制作現場を大きな声で仕切った姿は、出演俳優やスタッフに思い出を残した。
3月25日、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会(東京都新宿区)では、日本で現役最高齢だった女性監督を慕う俳優、製作スタッフ、ファンら約200人が集い、差別のない世界を目指し映画を撮り続けた山田監督を偲んだ。
故人の思い出では、俳優の渡辺いっけいさんと小倉蒼蛙(一郎)さんが山田監督との思い出を語った。『母 小林多喜二の母の物語』(2017)、『われ弱ければ 矢嶋楫子伝』(2022)、『わたしのかあさん-天使の詩-』の3作品に出演した渡辺さんは、監督が役者を信じ自由に演技をさせてくれたことや、現場では常に明るく元気であったことを振り返った。
『わたしのかあさん』『母 小林多喜二の母の物語』の主演を務めた寺島しのぶさんはビデオメッセージで山田監督へお別れの言葉を伝えた。また、『筆子 その愛 天使のピアノ』『われ弱ければ 矢嶋楫子伝』で主演を務めた常盤貴子さんからは長い弔電が届けられた。
私は、最後の作品となった『わたしのかあさん-天使の詩-』で、寺島しのぶと監督の対談取材をさせてもらい、その縁で、お別れの会にも参列した。とても温かい会で、参列者も多かった。映画の音楽監督と映画に出ていた障害当事者が前に出て、歌を歌い、その歌には心を動かされた。
ここでは、山田監督とその映画作品を紹介し、追悼としてささげたいと思う。
当時の記事の一部
※山田火砂子プロフィール
1932年、東京都新宿区生まれ。戦後、女性バンド「ウエスタン・ローズ」で活躍後、舞台女優を経て、夫で映画監督の山田典吾(98年死去)が創業した現代ぷろだくしょんに参加。最初はプロデューサーとして「はだしのゲン」(1976)、「裸の大将放浪記」(1981)などを制作。
夫の死後、知的障害のある長女との暮らしを元にしたアニメ映画「エンジェルがとんだ日」(91996)で監督を務める。その後も障害者福祉や女性の自立を扱った作品を多数撮った。2024年には最後の作品である映画「わたしのかあさん―天使の詩―」を劇場公開。
平成17年度(2005)日本児童福祉文化賞を受賞した「石井のおとうさんありがとう」は、今も名作と謳われている。娘2人を育てながら、映画のプロデューサーとしてがんばってきた29年間をまとめた「トマトが咲いた」などの著書がある。
監督となるきっかけは、夫となる山田典吾が代表を務めていた現代ぷろだくしょんに入ったこと。現代ぷろだくしょんは、1951年に山田典吾、山村聰、森雅之、夏川静江らの人々を中心に俳優集団として誕生。後に 三國連太郎も参加。1972年に山田火砂子が参加。
その後、山田典吾が82歳で1998年に没した後、1996年『エンジェルがとんだ日』より山田火砂子が製作監督を担っていた。
山田火砂子の制作した作品
「太陽の詩」
「はだしのゲン」
「はだしのゲン 涙の爆発」
「春男の翔んだ空」
「茗荷村見聞記」
「はだしのゲンPART3 ヒロシマのたたかい」
「裸の大将放浪記 山下清物語」
「ユッコの贈りもの コスモスのように」
「もうひとつの少年期」
「白い町ヒロシマ」
「あっこちゃんの日記」
「死線を越えて 賀川豊彦物語」
「キムの十字架」
「望郷の鐘-満蒙開拓団の落日-」
監督した映画10作品の紹介などは次回に続く。
◆はら さちこ
ライター。
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』『発達障害のおはなしシリーズ』、『10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること』などがある。