感覚・動作アセスメントの概要

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2019.07.12

感覚・動作アセスメントの概要

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● まえがき
● 新連載:感覚・動作アセスメントの概要
● 連載:発達を妨げる身近な道具
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● まえがき
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発達障害のある子だけでなく、多くの子どもが持つのが感覚に関する困りと、身体の不器用さです。それらの困りにより、本来はできるはずのことがうまくできない、あるいは、それによってQOLが低下する、といった問題があります。しかし、それらは子ども本人にしか分からないことが多く、場合によっては、子ども自身も無自覚なため、解決が難しい側面があります。

それらの問題について、本メルマガで2017年8月から「発達障害の感覚の問題」と題して連載していただいたことをきっかけにして、岩永竜一郎(りょういちろう)・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授の原案・監修で「感覚・動作アセスメント」というサービスを開発しました。

今号から岩永先生に、そのサービスに関連して連載をしていただきます。

 

● 新連載:感覚・動作アセスメントの概要
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1.はじめに

今年から、感覚・動作アセスメントのwebサービスが開始されました。そこで本号から4回にわたり、感覚・動作アセスメントを使った子どもの感覚や運動の困りごとの把握、支援についてお伝えします。

2.感覚・動作アセスメントとは

このアセスメントは、小学校の生徒を担当する教師が、生徒の持つ感覚処理や協調運動に関する問題を把握し、支援に役立てるために作られたwebサービスです。教師が生徒の感覚刺激への反応や協調運動の状況に関する質問に回答することで、個々の生徒の「困り」が明らかになり、対処方法をレポートとして出力することができます。

3.感覚・動作アセスメントの開発まで

感覚・動作アセスメントは、これまでの著者らの研究(岩永ら, 2017a; 岩永ら, 2017b; 上田ら, 2015a; 上田ら, 2015b; 中山ら, 2012a; 中山ら, 2012b; 中山ら, 2012c; 中山ら, 2012d)によって作られた学校版感覚・運動アセスメントシートがベースとなっています。これらの研究の中で、全国から約950名の生徒のデータを収集し、因子分析を行い、カテゴリーを作る際の因子を明らかにしたり、標準値を明らかにしたりしました。学校版感覚・運動アセスメントシートの感覚面・運動面共に発達障害がある生徒では、スコアの偏りが見られることもわかりました。

これらの研究によって有用性が明らかになった感覚処理、協調運動に関する質問項目、カテゴリー、標準値などを元にレデックス社がwebサービスシステムを開発しました。

4.感覚・動作アセスメントの使い方

生徒の様子を良く知る教師が学校での子どもの日常的な行動を見て、感覚刺激に対する反応や協調運動に関する質問にweb上で回答します。例えば、感覚面のアセスメントでは「周りで音がすると、集中できないことがある」という質問に教師が「まったくない(0点)」、「まれにある(1点)」、「ときどきある(2点)」、「しばしばある(3点)」、「いつもある(4点)」のいずれかの回答をします。運動面のアセスメントでは、「文字や数字をノートの枠内におさめて書く」などの質問に教師が「よくできる(0点)」、「できる(1点)」、「少し苦手である(2点)」、「苦手である(3点)」、「非常に苦手である(4点)」のいずれかの回答をします。感覚に関する質問が45項目、協調運動に関する質問が38項目あります。

5.結果表示

これらの質問に全て回答すると図1上部のように感覚面や協調運動(動作)面の領域ごとのスコアがレーダーチャートで表示されます。このレーダーチャートはパーセンタイルスコアで表示され、外側に表示されている領域はスコアの偏りが大きいことを示しています。更に図1下部に示すように感覚処理や協調運動(動作)の問題がある場合にその問題への対処法、支援が表示されます。

これに基づいて教師が学校での児童・生徒の支援を行うことができます。

図1.感覚処理に関する結果出力例


6. おわりに

本稿では、感覚・動作アセスメントの概要を説明しました。本アセスメントは教師用に開発されましたが、学齢児に関わる他の専門家が使った場合にも参考になる情報が得られたとの感想をいただけいています。結果を見る際に学校の教師のデータが標準値の元となっていることに注意する必要がありますが、教師以外の方にも支援に役立つ情報が得られるツールになるかもしれません。このアセスメントを多くの方にご活用いただきたいと思っています。

●文献
・岩永竜一郎, 加藤寿宏, 伊藤祐子, 仙石泰仁, 徳永瑛子, 東恩納拓也, 樫川亜衣, 上田茜: 学校版運動スキルアセスメントの因子分析研究, 日本発達系作業療法学会誌, 5(1): 15-23, 2017a

・岩永竜一郎, 加藤寿宏, 伊藤祐子, 仙石泰仁, 徳永瑛子, 東恩納拓也, 樫川亜衣, 上田茜: 学校版感覚処理アセスメントの因子分析研究, 日本発達系作業療法学会誌, 5(1): 9-14, 2017b

・上田茜, 岩永竜一郎:学校版・感覚運動アセスメントシートの通常学級児のデータに基づく因子分析~運動面の結果~ . 感覚統合研究. 15: 33-40, 2015a

・上田茜, 岩永竜一郎:学校版・感覚運動アセスメントシートの通常学級児のデータに基づく因子分析~感覚系の結果~. 感覚統合研究. 15: 41-50, 2015b

・中山茜、岩永竜一郎、十枝はるか:学校版感覚・運動発達アセスメントシートの開発~運動面に対するアセスメント~. 感覚統合研究. 14: 35-40. 2012a

・中山茜、岩永竜一郎、十枝はるか:学校版感覚・運動発達アセスメントシートを使った広汎性発達障害児の運動面の評価~パイロットスタディ~. 感覚統合研究. 14: 41-46. 2012b

・中山茜、岩永竜一郎、十枝はるか:学校版感覚・運動発達アセスメントシートの開発~感覚面に対するアセスメント~. 感覚統合研究. 14:47-52. 2012c

・中山茜、岩永竜一郎、十枝はるか:学校版感覚・運動発達アセスメントシートを使った広汎性発達障害児の感覚面の評価~パイロットスタディ~. 感覚統合研究. 14: 53-58. 2012d

岩永竜一郎
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授

 

● 連載:発達を支援する生活動作
第2回 発達を妨げる身近な道具
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0.はじめに

身近な道具に便利だからという理由で使われているものがあります。しかし、その道具の中には子どもの発達を阻害しているものがあるのです。

様々なメーカーから段階付けたステップが示されていると、そのステップで使用することが正しいと保護者は思ってしまいます。支援者の中にも正しい発達段階や障害特性を知らないために、使用されているケースも散見されています。発達が気になる子どもたちへの適切な発達を促すために、お伝えしたいと思います。

1.おしゃぶり

赤ちゃんがぐずった時に使うと、落ち着くことがあるためによく使われています。口腔機能の発達に心配がある子どもたちが使用し続けると、赤ちゃんの時にある反射が消えずに、舌の前後の動きが続いてしまうことがあります。

子どもは離乳食中期程度になると、舌を上下に動かして食べ物を押しつぶして食べるようになりますが、その段階になっても舌を前後に動かして食べ物を送り込んでしまいます。結果的に食形態が上げられなかったり、丸呑みになってしまうことがあります。

おしゃぶりを日中ずっと使用することで鼻呼吸になるので、風邪をひきにくくなるといった話があったこともありました。しかし、これはデマでした。

おしゃぶりは眠いときや、ぐずりが強いときだけにして、日中は使用しないようにすることが大切です。常に使用していると、口腔機能に心配がなくても、口に入っていないと不安になるようになります。口に入っていなくても遊びなどの活動に取り組むことが出来るようにしていきましょう。口の刺激がなくとも自分自身をコントロールする力を伸ばしていくことも、その後の発達に非常に大切になります。

2.歯磨きセット

歯が生えてきたら歯磨きをするようになります。歯磨きセットには、歯ブラシのような形をしたシリコン性のものが入っていたりします。ブラシを嫌がるという理由でシリコン製のものを使い続けていることがあります。シリコン製のものでは、十分に磨くことができません。口の中に異物が入ることに慣れるために、歯固め的に使用するものになります。

歯が生えてきたら子ども用のヘッド部分が小さく、ブラシになっているものを使用していく必要があります。ガーゼやウエットティッシュ状のもので拭くタイプのものもありますが、表面をこすっているだけなので、歯と歯の間を磨くことができません。歯磨きには、その年齢に合った歯ブラシを用意し、一本ずつ磨くようにしましょう。そうすることで、歯茎もマッサージされ、健康的な口になっていきます。

歯磨きをしないと、虫歯になるだけでなく、子どもでも歯槽膿漏になることがあるのです。歯磨きをしていなかった子どもの磨き初めには、歯茎から出血することもあります。適切に磨くことで、出血することもなくなっていきます。

3.マグ(スパウト、ストローマグ)

水分を子ども自身が器をもって飲むようになってくると、こぼすことがよくあります。こぼされないようにするために、段階付けられたマグを使用されている方も多くいます。第一段階には、乳首のついたマグ、スパウトマグ、ストローマグ、コップ状のマグと段階付けられています。本来水分は、哺乳瓶などの乳首からスプーン、コップに進めていく必要があります。スパウトというペリカンの口のような形の吸い口がついたものは、子どもが倒してもこぼれず、大人にとって便利な道具になります。コップから飲むためには、顔を下に傾け、上唇を使う必要があります。しかし、スパウトは乳首から吸う赤ちゃんの口の動きで飲むので、コップから飲むことの練習にならないのです。前述したおしゃぶりと同様に、口の発達を阻害する可能性があります。

コップから飲めるようになる前にストローマグを使用させてても同様の状態になります。本来ストローは、上と下の唇に挟んで使用しますが、早い時期から使用すると、舌のところまで入れたり、噛んで吸うようになってしまいます。

水分は、乳首の次はコップのみが出来るようになることが大切であり、その後ストローが出来るようにしていきます。6ヶ月からストローの練習ができるとうたっている製品もありますが、コップから飲めるようになってからストローを使うようにしましょう。ペットボトルから直接飲むことも、コップから飲めるようになってからにします。上を向いて飲むために流し込みになり、また、流量を舌で調節するようになることで、誤った動きを覚えてしまう危険性があります。口腔機能の発達が気になる子には、とても大切なことになります。

4.しつけ箸

3歳になったら箸を使わせるという方々がいます。箸が使えるようになるには、スプーンや鉛筆を三本の指でつまんで持てるようになり、さらに鉛筆で小さな丸が書ける程度に指が細かく動くようになってからになります。そのような手の機能を獲得できていない段階に、ただ箸を使わせたいからという理由でしつけ箸を使わせるのは大きな誤りなのです。通常の二本の箸を使えるようにしたいのであれば、どのしつけ箸も使わないようにします。手の機能が未発達な段階で箸を使わせると、かきこみ食べになりやすく、食べ方の発達を阻害してしまいます。

使用する道具よりも食べ方を発達させることが重要です。しつけ箸には、突起やリングがついているいるものがあります。手をグーパーするだけで挟んで食べられますが、通常の箸では手から離れて落ちてしまいます。突起やリングに指をひっかけて箸を固定する持ち方が定着すると、手の機能が発達していても、誤った固定方法で箸を握るために、通常の箸の握り方になりません。

しつけ箸から普通の箸に移行するにはどのようにしたら良いかといった相談がよくあります。まずは、しつけ箸をやめることということになります。突起やリングがないもので、二本の箸がつながっているものがあります。これも通常の箸とは異なった動きになり、練習になりません。まずは、かきこみや詰め込み食べにならないようにすること、次に手の発達に合った道具を使用することです。お兄さんやお姉さんがいる場合に、まねて使いたがることがありますが、その時はバラバラの普通の箸を自由に握らせて使わせてください。そうした方が、手の機能は発達していきます。

5.鉛筆補助具

鉛筆がうまく持てない場合に、三角鉛筆やつまむ部分に指がはまるような形状の補助具があります。これらを使用してもうまく持てるようにいならないことがほとんどです。前項の箸のところでも述べましたが、手の機能が発達することで、三本の指でうまく持てるようなっていきます。鉛筆は親指と人差し指の腹、中指の親指側の側面、親指と人差し指の間の水かき部分が触れています。その状態で持てている時には、人差し指を鉛筆から離しても持っていられます。したがって、親指と中指と水かき部分の三点で固定していることが分かります。この固定が出来ていないからといって、指が触れるところだけ形を変えたりしても、手の機能を補い、三点の固定を助けるわけではないので、うまく持てるようにはならないのです。

手の機能を発達させるためには、指をつかった活動が有効ですが、親指と人差し指だけで、通常の洗濯はさみのつけ外しができる程度の筋力が基本として必要になります。筋力を発達させるだけでなく、指先の感覚も鍛えることができます。併せて先の述べた三点での固定を教えていくことでうまく持てるようになっていきます。

書くときに筆圧にこだわらないことも大切です。鉛筆をうまく持てていないということは、固定がうまくできていないということであり、強く書くように促すと、より強い固定が必要になるために握りこんでしまうことがよくあります。一番大切なことは、絵などを描くことが好きになることです。文字を書くことを嫌う子どもは、絵を描くことも嫌いだったことがほとんどです。描くことが好きになることを補償し、その後に手の機能を高める関わりをしていきます。

これらについての詳細は、発達が気になる子への生活動作の教え方、発達が気になる子へのスモールステップで始める生活動作の教えかた(中央法規出版)に詳細に記載してありますので、ぜひお読みください。

発達が気になる子への生活動作の教え方(中央法規出版)より

株式会社児童発達支援協会
リハビリ発達支援ルームかもん
代表取締役 鴨下賢一

 

● あとがき
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岩永先生の講演会が、9月8日(日)に福岡であります。今回のメルマガでご関心をお持ちの方はぜひご参加ください。同日午前には五藤のセミナーも開催します。
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その講演会を主催するのは一般社団法人発達障害支援アドバイザー協会です。同協会は、感覚や動作の困りをもつ「自閉スペクトラム症をVRで疑似体験する」会を全国で開催するためにクラウドファンディングを行っています。
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また、五藤のセミナーは8月24日(土)に札幌でも行います。翌25日には北星学園大学で開かれる日本発達障害学会第54回研究大会で、感覚・動作アセスメントのポスター発表も行います。
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次回メルマガは、7月26日(金)です。

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