ADHDの多動・衝動性 日本の宇宙環境利用とSTEM教育

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2024.01.19

ADHDの多動・衝動性 日本の宇宙環境利用とSTEM教育

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■   連載:日本の宇宙環境利用とSTEM教育
■□  連載:ADHDの多動・衝動性について
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■□まえがき ■□--------------------------

能登地震で被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。
一日も早い復興を編集部一同お祈りしております。

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■ 新連載:国際宇宙ステーションを使ったSTEM教育への動機づけ
             第2回 日本の宇宙環境利用とSTEM教育(最終回)───────────────────────────────────…‥
日本の宇宙環境を利用したSTEM教育は、日本の有人宇宙計画が始まった1990年代からの歴史があります。当初は宇宙開発事業団(NASDA)の「広報・普及活動の一部」との位置づけでしたが、現在ではJAXAの支援による様々な教育イベントが実施されています。日本では国、米国では篤志家の寄付によって、これらの宇宙教育は成り立ってきました。しかし、これからは、これらに依存しない形で、教育者主導の宇宙STEM教育を目指す時代へと向かっています。

1.スペースシャトルの時代:宇宙環境の広報普及活動として
最初の「宇宙授業」は、 1992年にスペースシャトルに初搭乗した毛利宇宙飛行士が、スペースシャトルと出身地の北海道余市町の小学校とを中継し、リアルタイムで実施しました。この時は、マシュマロとチョコボールを用いた比重の実験、紙飛行機の飛び方、作用反作用、体液シフトなどについて実験と解説が行われました。

1998年に向井宇宙飛行土がスペースシャトルに搭乗した際には、400グループ(約6,000人)の小・中学生が参加しました。キュウリの発芽と、 トウモロコシとモヤシの根の電場による屈曲について、宇宙実験と地上実験の観察結果を比較検討し、結果をレポートとしてまとめました。後日、向井宇宙飛行士も参加して、優秀なグループの表彰が実施されています。

最初の「宇宙授業」谷垣、日本航空宇宙学会誌 Vol. 53 No.615 2005 (111-115)

2002年から2003年にかけては、スペースシャトルを利用した高校生による教育プログラムが行われました。高校生が米国の研究者の宇宙実験装置と同じものを使用し、タンパク質の結晶成長実験を行いました。宇宙環境利用への興味と関心を喚起すると共に、タンパク質の構造、結晶成長、立体構造解析、医薬品開発への応用などについて学んでもらうことを目的としていました。

2002年春に参加者を募集、全国から 149チーム(89校)が参加しました。ちなみに、全国の高校は当時約5800校あったとされていますので、その1.5%にも相当します。高校生参加人数約700人、指導教員は約100人ということでした。予備実験とレポートが121チーム(81%)から提出され、宇宙実験チーム6チームが選抜され、他は地上実験チームになりました。

高校生6チームの宇宙実験試料は2003年1月16日にスペースシャトル・コロンビアで打上げられ、約2週間のタンパク質結晶成長実験が実施されました。しかし不幸にして、地球に帰還中の2月1日にスペースシャトル・コロンビアが墜落し、結晶を回収することはできませんでした。宇宙実験チームと地上実験チームの自由研究レポート40レポートについて最終審査が行われ、最優秀賞1チーム、優秀賞1チーム、準優秀賞2チーム、努力賞8チームが選ばれ、成果報告会が行われています。

参加者へのアンケートでは、「タンパク質と結晶に興味が深まった」という回答が77%あり、またチームの共同作業は、科学的知見だけでなく人格形成の場にもなったとのことでした。この時、私の会社のメンバーも実験キットの準備や手順書の作成などを担当していました。

コロンビアでの実験 谷垣、日本マイクログラビティ応用学会誌、Vol. 21 No.1 2004 (19-25) 
 
2.「きぼう」利用の時代:JAXA教育プログラム
NASDAを含む国内の宇宙機関が統合して誕生した宇宙航空研究開発機構(JAXA) では、国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」の利用分野を重点化する検討を行い、2005年に「宇宙教育センター」が設置されました。

このセンターは、「宇宙が子どもたちの心に火をつける」を標榜し、「グローバル化や情報化、技術革新を背景として変化の激しい社会を担う子どもたちに必要となるのは、多角的なものの見方・考え方や自律的、主体的、継続的に学ぶ態度」であるというコンセプトで学校教育支援、社会教育活動支援、体験的学習機会の提供(国内・国際)を実施しています。また「宇宙」を学びの世界へつなげるための情報の発信活動にも力を入れています。宇宙教育活動のエッセンスや宇宙飛行士による「きぼう」での実験映像、全国各地の宇宙教育活動の実践例紹介、宇宙教育教材の紹介、宇宙教育に役立つ情報のリンク集など、宇宙教育のヒントを公開しています。

JAXA 宇宙教育センター 

2008 年 8月には「きぼう」が運用を開始し、日本人宇宙飛行士が長期滞在するようになりました。そこで一般公募した実験を日本の宇宙飛行士が実施し、取得した映像をJAXAのホームページで公開、また学校支援事業の一環として教員研修等で配布し、教育現場での教材として普及を目指すようになりました。この一連の実験は、Try Zero-Gと呼ばれています。

応募された宇宙実験のアイディアは、実験の実現性や安全性の評価、および教育的な観点で評価されました。初回は、2009年の若田宇宙飛行士が実施した、「おもしろ宇宙実験」です。一般公募で1,597件の提案があり16のアイディアが実施されています。これらは、ラジオ体操、バック転、リフティングなどの様々な運動、衣類をたたむ、目薬をさす、腕相撲、握手といったヒトの動作に係るものと、作用反作用・運動量保存の実験、振り子の実験、重心を探す実験などの科学実験でした。

おもしろ宇宙実験 松尾、日本マイクログラビティ応用学会誌、Vol. 29 No.3 2012 (147-153) 

 
 おもしろ宇宙実験

 
さらに2011年の古川宇宙飛行士以降、アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)に参加するアジア各国へも「きぼう」の利用機会提供した教育活動の国際協力を開始し、「アジアントライゼロG」として現在も継続しています。

教育現場での活用を目指したおもしろ宇宙実験(野口宇宙飛行士)
 
 

宇宙ふしぎ実験(古川宇宙飛行士)

宇宙飛行士と考える「回転運動の不思議」(星出宇宙飛行士)

※宇宙飛行士と考える「人間の身体のつくり」(星出宇宙飛行士)
 

JAXAでは2011年から、「宇宙を旅した植物を育てよう~「宇宙と生命」を学ぶミッション」という、サンプルリターンミッションも実施しています。アサガオ、ミヤコグサ、ヒマワリの種子、ミジンコ休眠卵などの身近な生命のサンプルを国際宇宙ステーションに打ち上げ、「きぼう」船内保管室に約半年間保管した後地上へ回収して、希望する小中高校・科学館等に配布しています。

最初の3回(2014年)までの参加者は、幼稚園(保育所)(14施設)から園児620名、小学校(113校)から児童6,750名、中学校(69校)から生徒3,130名、高校(105校)から生徒3,850名、ならびに教員総数301名、家族枠から児童生徒数189名ということです。現在も継続中で、2021年にはスウィートバジルの種が搭載されています。

サンプルリターン
 宇宙を旅した種子を育てよう!

うちゅうのたね

最近JAXAはNASAの協力を得て、「きぼう」ロボットプログラミング競技会(Kibo-RPC)を開始しました。宇宙飛行士をサポートするために開発された国際宇宙ステーション内ドローンのInt-Ball(JAXA)とAstrobee(NASA)のプログラミングをして、さまざまな課題を解決する教育プログラムです。参加者はプログラム作成を通して、科学技術、工学、数学のスキルを磨くとともに、世界各国からの参加者同士で国を超えた交流を行うことで、グローバル人材としての能力を身につけることを目指しているということです。


3.「きぼう」利用時代:民間教育プログラム
「きぼう」には、民間が利用できる「有償利用枠」が設けられ、2008年にはベネッセとリバネスによる教育プログラムが選ばれました。このプログラムでは、シロイヌナズナとミヤコグサという植物の種子を6か月間国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟にて保管し、地球に持ち帰りました。

シロイヌナズナの種子は、公募により選ばれた幼稚園、保育園と小学校約6000校にベネッセが無償で配布しました。ミヤコグサの種子は、「宇宙教育プロジェクト宇宙種出前実験教室2009」で選ばれた中学校・高等学校約100校にリバネスが有償配布しました。「宇宙種」を播種して観察・研究を実施、ついで、宇宙教育フォーラムを開催してそれぞれの研究成果の発表を行いました。

さらに、2009年の第2回宇宙教育プロジェクトではウコン、大豆、トマト、芝草、ホップ、酵母、パンジーの種子を、2010年の第3回宇宙教育プロジェクトでは長命草、大豆、キビ、あわ、林檎、マトリカリア、ヒノキ、シロイヌナズナ、ミヤコグサ、ヘチマ、菜種、トマトの種子を打上げており、合わせて18種類44品種の宇宙種の栽培研究を行いました。

リバネス宇宙教育プロジェクト 第2回 第3回

最近では、「きぼう」高品質タンパク質結晶生成実験事業の民間パートナーであるSpaceBD社が、高校生を対象に「きぼう」でのタンパク質結晶化実験を企画・運営しています。

2022年には、岩手県立花巻北高校の科学部と有志生徒からなるグループが実験を行っています。実験グループは宇宙で生成した結晶と地上で生成した結晶を構造解析し、創薬研究プロセスを追体験しました。この企画では、岩手大学薬学部、大阪大学蛋白質研究所、JAXA、UP花巻、SpaceBD、Space Valueが協力し、花巻地域活性化プロジェクト 「UP花巻」の一環として実施されました。

2023年には、学習院高等科・女子高等科の高校生を対象に「タンパク質結晶化体験ワークショップ」を実施して、高校生15名が結晶化実験を行ったサンプルを搭載しています。このワークショップは学習院大学とSpace BD社の産学連携協定の協力内容の1つとして実施されました。

Space BD社の宇宙実験プログラム 

4.完全に民間の力で運営され始めた教育プログラム:宇宙理科室
有人宇宙システム株式会社(JAMSS)は、1990年創立以来、国際宇宙ステーション「きぼう」の運用管制、宇宙飛行士や管制要員の訓練、宇宙実験の実施、宇宙飛行士の搭乗支援などに携わっている宇宙専門の企業です。独自に開発した10cm立方の結晶化装置に試料を搭載して打上げ、国際宇宙ステーションの欧州の実験棟である「コロンバス」内に設置し、高品質なタンパク質結晶を生成する「Kiraraサービス」を、2019年から実施しています。

2022年からはこの「Kiraraサービス」を利用して、中学生・高校生が結晶化条件を検討し充填をしたタンパク質結晶化試料を搭載する「宇宙理科室」を開始しています。「宇宙理科室」の背景にあるのは、2020年度から段階的に進められている日本の教育改革です。科学技術が劇的に進化する時代、子ども達に自ら考え行動できる力が求められ、全国の小中高ではさまざまな主体的な学び「探究学習」が導入されています。宇宙を題材にした探究学習プログラムも「総合的な学習機会」として注目されています。

「宇宙理科室」は、約半年間のプログラムです。有償ですが、献身的な低価格で提供されています。学生さんが数名でチームを組み、学校ごとに申し込みます。まず、学校の理科室で先生方の指導の下、条件検討用実験キットを使用して約1か月間の準備実験を行います。国際宇宙ステーション向けの打上げの前に、参加チームが集まり、宇宙へ打ち上げる実験サンプルを宇宙実験用容器に充填します。充填した試料は、米国スペースX社のロケットで国際宇宙ステーションへ届けられ、約1か月間の宇宙実験を終えて再び地球へ帰って来ます。その後、チーム毎に観察した結果を実験レポートにまとめ、成果発表会で発表して互いの学びを共有します。

先行して実施された2021年には、小中高生の16チームが参加しました。2022年10月からの1回目の「宇宙理科室」には、都内の中高生計6チームが参加し、2023年3月に打ち上げられました。参加者の中には、「難病ALSの創薬研究のために国際宇宙ステーションでタンパク質結晶生成の実験を行う場面が出てくる漫画(宇宙兄弟)が好き」、「星が好き」「宇宙に無限の可能性を感じて」や「宇宙の仕事に興味がある」など、宇宙好きな中高生が集まっていました。

2023年9月からは第2回目が開始、台湾からの参加もあり、計15チームが参加して2023年11月に打ち上げられました。

「宇宙理科室」はリアルな体験にこだわっていて、中高生が使う実験器具は、「Kiraraサービス」で研究者が使用しているのと同じものです。また、事前の条件検討実験で困った時は、宇宙実験の専門家に直接相談できるようになっています。教材の監修や講師には、タンパク質の研究者や現役の宇宙飛行士訓練インストラクターが加わっています。宇宙実験の最新情報や、宇宙開発のリアルもわかりやすく解説し、宇宙業界で働く専門家と触れ合うこともできます。

有人宇宙システム株式会社が提供するKirara Edu(キララ エデュ)

5.完全に民間の力で運営され始めた教育プログラム:すそ野を広げるために
私の会社では、約30年前からJAXAやJAMSSの宇宙実験のために高品質タンパク質結晶化技術の開発支援などを手掛け、同時にJAXAやJAMSSが実施してきた教育用の結晶化実験器材を提供してきました。米国のように寄付の文化が発達していない日本で、高額の経費がかかる「宇宙実験」が、どうしたら生徒さんたちの身近になるかを考えました。そこで、私たちの会社ではC-Kit EducationとC-Kit Spaceという実験キットを販売し始めました。SSHでの教育顧問を担当した経験などから、タンパク質結晶化は主として高校生以上を対象としたアクティブラーニング(実験)教材としても有用と考え、この点に付加価値を付けました。タンパク質結晶成長実験によって実験科学のリテラシー学習をすすめ、同時に、最先端の宇宙科学に接することができることを目指しています。どちらも、学校の先生方の指導が必須ですが、負担を軽減するために特段の準備なしに利用できるように作られています。

C-Kit Educationは、教室で担当の先生の指導の下で、タンパク質の結晶化実験を実施し、実験科学の方法論(サイエンスリテラシー)を学ぶためのものです。生徒自ら実験内容を計画し、試薬の調製方法を決定し、実験を実施し、結果をまとめて考察することで、実験科学の力を養うことができます。キットでは、2種類の結晶化試薬(塩化ナトリウムと塩化カリウム)がリゾチームタンパク質の結晶の成長に及ぼす効果を検討し考察します。生徒さん向けの詳しい実験の説明書と画像を使った解説、先生向けの詳しい補足説明資料が提供されます。

C-Kit Spaceを購入し、さらに「宇宙理科室」に申し込んで頂いた場合には、生徒さんが調製した自分たちの実験試料を国際宇宙ステーションに打ち上げて結晶化実験を実施することができます。標準的な結晶化条件で実験することも、 C-Kit Educationを用いて決定した自分たち独自の条件で結晶化をすることもできます。あるいは、宇宙理科室に参加しなくても、自分たちで宇宙実験と同じ器具を使用してタンパク質の結晶化実験を行い、どのようにして宇宙実験が実施されているかを学習することもできます。生徒さんたちの試料が搭載されたスペースX社のロケットの打ち上げをNASA TVのライブ配信で眺め、いつか自分も科学技術開発に参加したいと憧れてもらうことが本キットの願いです。

C-Kit Education

◆田仲 広明(たなか ひろあき)
株式会社コンフォーカルサイエンス 代表取締役。
専門は宇宙環境利用、タンパク質結晶成長。長年、タンパク質結晶化宇宙実験の技術開発や実験容器の製造に従事している。
 

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■ 連載:教育・心理的支援において診断基準をどう読むか・理解するか
             第11回 ADHDの多動・衝動性について(注意欠如多動症・6)
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このシリーズでは、教育関係者や心理支援職が改めて診断基準を読むときの留意点を開設しながら、どのように診断基準と付き合っていけばいいのかをご一緒に考えることで、発達障害の改めての理解につなげていければと思います。
今回のシリーズでは、DSM-V及びDSM-V-TRについて、発達障害の診断基準を丁寧に説明させていただいております。前回から注意欠如多動症を取り上げています。

DSM-V及びDSM-V-TRでは、注意欠如多動症(Attention-Deficit/Heperactivity Disorder)という名称が採択されました。略語は、これまで通り、ADHDです(以下、ADHDと表記します)。

●診断基準の作り
ADHDの診断基準の作りは以下のとおりです。

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A.(1)および/または(2)によって特徴づけられる、不注意および/または多動-衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げになっていること
(1)不注意
(2)多動-衝動性

B.不注意または多動-衝動性の症状のうちのいくつもが12歳になる前から存在していた

C.不注意または多動-衝動性の症状のうちのいくつもが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場:友人や親せきといる時:他の活動中)において存在する

D.これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下 
させているという明確な証拠がある

E.その症状は、統合失調症、またはほかの精神症の経過中にのみ起こるものではなく、他の精
神疾患(例:気分症、不安症、解離症、パーソナリティ症、物質中毒又は離脱)ではうまく説明
されない
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第8~10回までは、(1)不注意についてお話をしました。今回は、(2)多動-衝動性について取り上げます。

第8回でも説明しましたが、ADHDには、不注意優勢状態(従来の不注意型)、多動・衝動優勢状態(従来の多動衝動型)、混合して存在状態(従来の混合型)の3つがあります。今日取り上げる内容は(2)多動-衝動型に中心的にみられる症状です。ただし、不注意優勢状態に全く多動-衝動の症状がない、というわけではなさそうですが、この点については議論が必要ですので今回は触れません。

●多動性:行動制御の障害
a.~i.は、期待されている行動に反して動き回るような行動制御の障害を説明しています。

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a.しばしば手足をそわそわと動かしたり、とんとん叩いたりする、またはいすの上でもじもじする。
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座っていても、身体のどこかが常に動いているというような状態を指しています。教室では、着席はしているものの、手腕は常に動いている、足を頻繁に組み替えたり貧乏ゆすりのように動かしたり、あるいはぶらぶらさせる、椅子を傾けてガタガタさせている、というような様子が見られます。大人から見ると、こうした動きによって、ふらふらして落ち着かない印象をもつことがよくあります。

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b.席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる。
(例:教室、職場、他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)
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例示がありますのでわかりやすいと思いますが、着席を求められている場面での離席、を指しています。学校では、このような離席はかなり大きな問題になります。

小学校でよく言われるのは「1年生は、5月のゴールデンウイークまでは、みんな立ち上がったり、フラフラ歩くことがある」という点です。それまで幼稚園・保育園・こども園では、園の方針によっては自由保育だったりして、特に1か所、特に自分の席である机やいすに座る習慣がないことがあります。そんな事情もあって、確かに小学校の最初の1か月はみんな落ち着かないようです。しかし、その席の離れ方にはいくつかポイントがあります。まず、ゴールデンウイークぐらいまでは、小学校に慣れない、ということがありますが、だんだん子どもたちも慣れて離席しなくなります。ADHDとそのリスクのある子どもたちは、“慣れ”では解決しません。1年生のうちのみならず、中学年ぐらいまで離席をする例もあります。

これは子どもの頃のみならず、大人になっても見られる症状です。「そこで待っててくださいね。」と言われてもなかなか待っていられない。職場でじっとしていられずに、頻繁に離席する、などの症状として現れることもあります。

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c.不適切な状況で、しばしば走り回ったり高いところへあがったりする
(注:青年、または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)
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c.は、場面と、行為の奇異さを示しています。みんな落ち着いているとき、場にそぐわない時「今、それはおかしいよね」というような場面で、興奮して走り回ったり、高いところに上ったり、というような奇異な行動を示すことが含まれています。

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d.静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない。
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子どものころから見られることの多い症状です。c.と同様に、静かにしていることが期待されていて、遊びなどのレクリエーションが用意されている場面でも、その遊びに入ることができずにフラフラと歩きまわったり、そのレクリエーションに参加できなかったりします。

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e.しばしば「じっとしていない」またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する。
(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる;他の人たちには、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)
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a~dと同様ですに、期待されている行動に反した行動をとることを意味しますが、このe.とf.の項目では、行動そのものではなく、行動の量的な側面、動きの多さを意味しています。
とにかくじっとせず、常に動いていることが多い、ということです。それが時には“エンジンで動かされるように”というのは、まるで自分では自覚していないように、なにかエンジンでもついているのではないかと思うような動きの多さである、ということをこのように表現しています。支援に入った経験のある方は、わかりやすいと思うのですが、はじめて診断基準に触れる学生たちには、実はこの表現はわかりにくいようです。とにかく動く。そして切れ目なく動く、動く時間が長い、たくさん動く。そういった量的なことをイメージしてください。

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f.しばしばしゃべりすぎる。
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e.は動きの量でしたが、fは、発話の量です。「よくしゃべるなあ」という印象を持つような、感心するほどたくさん話を続ける症状を指しています。ASDのように、自分の関心に基づき一方的に話続ける、というような症状ではないのですが、あまり相手の気持ちを考えずに話しているように見えることも多いですね。

●衝動性:行動制御の障害
g・h・iの3つの項目は、衝動的に何かを始めたり動いたりというような行動制御の障害を説明しています。

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g.しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう
例:他の人たちの言葉の続きを言ってしまう:会話で自分の番を待つことができない

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今度は会話の流暢さの問題です。語彙やことばの知識は問題ではありません。なめらかに会話を成立させる際には、相手が話し終えるまで待つこと、相手の発話のじゃまにならないような適切なうなずきや簡単を挟むなどしながら、自分の発言のタイミングを計るものですが、これが非常に難しく、途中で相手の話をさえぎってまで口を出してしまうようなことを示しています。実はASDの診断基準にも、会話のなめらかさは含まれているのですが、ADHDの流暢さの問題は、言わなくてはと思ったこと、思いついたことを衝動的に話し出すことを指していますのでASDの症状とはちょっと異なっています。
この症状の問題は、会話をさえぎることが、相手にとって非礼に当たる行為となりがちであるということです。よって、問題になりやすい特徴でもあります。

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h.しばしば自分の順番を待つことが困難である
(例:列に並んでいるとき)
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この項目は、「待つこと」ができない特徴を示しています。お店の行列に並んでいても騒ぎ出したりそこから離れてしまったり、横入りをしてしまうこともあります。また、行列を嫌い、必要があっても並ぶことができないので用事を後回しにしてしまうことも往々にして起こります。

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i.しばしば他人を妨害し、邪魔する
(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する:相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない:青年又は成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)
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最後の項目は、社会生活ではかなり困難につながりやすい症状です。例示が多く記述されているので、わかりやすいですね。自分ではちょっと気になって、パッとものに触ったり使ったり、ということが、相手にとっては嬉しくない事であり、それが叱責につながることもよくあります。自分では衝動的に動いているので反省が次につながりにくく、人間関係上のトラブルになることも多いようです。

さて、多動-衝動性についての項目の説明は以上になります。
ADHDは、多動-衝動性に基づく行動特徴のほうが目立ち、また問題になりやすいので、「落ち着きのない子」「動き回る子」というイメージが先行して、周知されました。本日の説明は、わかりやすいものが多かったのではないでしょうか。

◆吉田 ゆり(よしだ ゆり)
長崎大学教育学部・教育学研究科 教授。
専門は発達臨床心理学。
公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士、そして保育士でもある。


■□ あとがき ■□--------------------------
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