障害者雇用に潜む闇!障害者雇用代行ビジネスについて考える

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2023.04.21

障害者雇用に潜む闇!障害者雇用代行ビジネスについて考える

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■  連載:障害者雇用に潜む闇!障害者雇用代行ビジネスについて考える
■□ 連載:自閉スペクトラム症・6 興味、関心の共有
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■ 連載:知っておいてほしい!「障害者就労支援」アレコレ
            第3回 障害者雇用に潜む闇!障害者雇用代行ビジネスについて考える 
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今回は触れるのは「障害者雇用代行ビジネス」についてです。(以下、「代行ビジネス」と略。)
最近はネットニュースなどで取り上げられることも増え、
・障害者を利用して利益を得ている!?
・障害者の社会参加の機会を奪っている!?
といった指摘もされています。

私は、代行ビジネスは【障害者雇用における様々な問題が露呈するビジネススタイル】と考えています。
なので、今回は「問題点」や「こうあってほしい」ということを書きたいと思います。
障害当事者だけでなく、家族や支援者、企業、地域住民にも、ぜひ知って、考えてほしいテーマです。

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1.そもそも障害者雇用ってなに?
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企業には従業員数に応じて、障害者を雇用する義務があります。(障害者雇用促進法)
「障害者雇用枠求人」という形で、ハローワークや就職サイトで募集されています。
そして、「障害者手帳を持っている人」が応募することができる求人です。

(私の解釈にはなりますが)障害者雇用の目的は、
・障害者が安定して就労という形で「社会参加」する機会を保障すること
・障害者が安心して差別のない環境で働けるようにすること

障害者雇用の目的

2022年4月時点では「約50人」の従業員がいる企業は1人の障害者を雇用しなければならないことになっています。従業員100人であれば2人ですね。
※細かい数字や仕組みについては敢えて書きません。厚生労働省のHPなどをご確認ください。

雇用率を達成できない企業への指導は年々厳しくなっています。
結果、「仕方なく求人票だけ出す」「とりあえず雇用する」という企業も増えている現実も…
求人票の内容が「明らかに配慮がない」「障害者向けでない」ものがあるのはこれが理由です。

でも、企業側にも言い分はあります。
障害者を雇用するためには、
・障害について知る
・障害者ができる業務の切り出し
・担当職員の確保
・環境づくり
など色々なことを準備しなければなりません。

日常業務が忙しく、人手も少ない部署が多い中、「接し方がよく分からない配慮が必要な人が入社する」というのはとてもイレギュラーで負担なことなのです。
新人育成ですらままならない企業が多い中、丁寧なフォローが必要な障害者を雇用することは、かなりハードルが高いのも事実です。

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2.「障害者雇用代行ビジネス」ってなに?
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●どんなビジネスなのか?
A社がB社のシステムを利用して、障害者雇用率を達成するという仕組みになっています。
〈A社〉
障害者雇用をしなければならないのだけど、雇用する環境が作れない企業
〈B社〉
職場見学や採用面接までの細々した対応の代行と、と雇用スペースの貸し出し、管理監督をする企業

実際にA社へ出社することはほぼ皆無で、職場はB社の運営する勤務地(農園や菜園コンテナなど)。
A社と同じ方法で集められた障害者と指導員、敷地管理をするB社の社員だけが働いているという環境です。
【障害者雇用率を達成するためだけ】に作られた勤務地がほとんどです。

「自社の負担が少ない形で障害者雇用率を達成できる」というのは【一見魅力的で良いこと】ですが、就労支援機関の中では問題視されています。

●何が問題なのか?
(1)形式上、障害者は就業しているが、社会参加とは程遠い環境になっている。「企業で働く」という環境ではなく、就労継続支援(昔でいう作業所)に近いが指導も支援もされていない。

【結果】障害者は、
・「学びや成長の機会」が奪われてしまう。
・何かを提供、生産することで生まれる「働くことへの動機づけ」(やりがい)などを得る機会を失う。
・時間をかけて訓練することで企業の中で一般社員と一緒に働けたかもしれない選択肢が閉ざされる。

(2)A社のような「社内で障害者雇用ができない企業」が、今後も【障害者と働く機会】を得られない。

【結果】
・企業は、「社内で障害者と働く」ための環境調整や業務の切り出しをしなくなる。
・「障害者と共に働く」という考え方、機会を社会から消してしまう。
・障害者の働ける企業が増えない。
・障害者雇用枠の業務内容が限定的な単純作業から広がらず、雇用形態や待遇の改善がされない。

●雇用までの主な流れ
障害者雇用をしたいA社がB社に「採用までの業務」を委託し、B社によって選考された障害者と面接をし、採用するという流れが多いです。
一度もA社に出社することがなく、他の一般社員と交流しないということがほとんど…

雇用までの主な流れ

 
●場所、環境は?
・敷地は工場地帯の倉庫の中にコンテナを何個も連結しているタイプ
・市街地から離れた何もない畑の中に休憩所のコンテナと作業用のビニールハウスが並んでいるタイプ
・作業内容は、野菜や植物を育てていることが多い
・簡易作業が多く、体調や作業内容はかなり配慮してもらえる
・「休まず通える」「自傷他害行為をしない」「最低限の作業ができる」のであれば採用してもらえる

働く現場について


 
●生産したものはどうなるのか?…市場に出回ることはまずありません!
・B社の福利厚生の品物として「自由にお持ち帰りください」と配布
・B社の粗品、来客用のお茶などになる

代行ビジネスは、ある意味でよくできています。
しかし、「障害者が就労を通して社会と繋がる、社会参加する」という視点から考えると、本来の目的と反したことを行っているように思います。
障害者も、代行ビジネスを利用しているA社も、B社(代行ビジネス事業者)にうまく利用されているように思えてきます…
皆さんはどう思いますか?

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3.もしA社が「社内での障害者雇用」を始めたら…
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「給与が出ればいい」「働いているという経歴があればいい」という目的であれば、代行ビジネスでもよいのかもしれません。
とくに家族は将来の事を考えると企業に就職して一定の給与をもらえるようになってくれることを切に願っています。大企業に雇用されている、というだけでも喜び、安心します。
しかし会社の都合よい形で雇用されて、社会から隔離された環境下にいることは、障害者本人にとって本当によいことなのでしょうか…?

年々、代行ビジネスの問題は指摘されています。
社内での障害者雇用を検討する企業も増えています。
これは良いことなのですが…
【数年後に今と同じ環境、業務内容で働けなくなる可能性がある!】ということでもあります!!
農園で雇用されていた障害者たちは社内で働けるのでしょうか?
私が見てきた限り、農園は社内で働く環境とはかけ離れています。

働く現場の事例


まず様々な許容範囲がゆるいので、元来できていたことも、できなくなるリスクが高い。
この状況で「社内で働きましょう」と言われても、環境適応はかなり大変でしょう。
また、農園作業を前提に雇用しているので、社内業務ができない可能性もあります。
できる業務がない場合は、退職することに…

その時、「元々通っていた作業所で働く」という選択肢もありますが、作業所よりもゆるい環境で高い賃金をもらう経験をした人が、作業所の工賃(月数千円くらい)に満足できるでしょうか?

企業が「社内での障害者雇用」を始めた場合、農園で働いている人達へのフォローはあるのでしょうか?
・都合よく雇用され、不適切な環境化に放置され…
・「社内雇用をする」となったら適応できない人は退職を余技なくされるリスクが高い…
この状況は【大問題】と言えるでしょう。
現状の代行ビジネスでは障害者を「仕事を任せる人材」と見ていないような節も、釈然としません…。

代行ビジネスのシステム…本当にこれで良いの?

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4.この問題を解決する方法はあるのか?
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障害者雇用を行うことのできない企業もある中で、このビジネスによって
・障害者雇用枠で働けるようになった障害者がいる
・障害者雇用をする企業が増えた
というのも事実です。

しかし現実として、
・社会から隔離され、できる可能性を潰されてしまう日々を送る現状
・農園がなくなったら、行先がなくなる可能性が高い
障害者を「利用するけれど必要がなくなれば切り捨てる」とも受け取れる要素が強くなっています。
このままで本当に良いのでしょうか?
変えていくための改善案について、1つ挙げてみたいと思います。

改善案


代行ビジネスについて
・問題意識を持っていない、実態を知らない
・内容を知っていて応募先として安易に提案してくる
という支援者もいますので、障害者や家族は本当に気を付けてください。

障害者雇用に限りませんが、受け身ではなく「自分達で見極めて利用する」という姿勢がないとうまく利用されて、自分達が損をする結果になってしまいます。
家族や支援者、そして行政も、この点を今以上に理解して動く必要があると思います。

■下茉莉(しも まり)
発達特性との付き合い方を考える会「かもみぃる」代表。精神保健福祉士と社会福祉士の資格を持つ、発達障害と発達性トラウマ障害の当事者。障害受容、診断が出た後の相談先や利用できる支援、選択肢が分からずに悩んだ経験を活かし、制度の狭間(グレーゾーン)に落ちてしまう人達の就労支援に力を入れてきた。七転び八起きの精神と突破力で突き進む!
HP
Note


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■ 連載:教育・心理的支援において診断基準をどう読むか・理解するか
             第6回 自閉スペクトラム症の中心障害 社会的相互作用のつまずき
                  (自閉スペクトラム症・6 興味、関心の共有)
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このシリーズでは、教育関係者や心理支援職が改めて診断基準を読むときの留意点を解説しながら、どのように診断基準と付き合っていけばいいのかをご一緒に考えることで、発達障害の改めての理解につなげていければと思います。
医師の先生方にとっての診断基準と、教育関係者や心理支援職にとっての診断基準は、もちろん同じものですが、その意味はかなり異なるように思います。

今回のシリーズでは、2013年に発表されたDSM-Vについて、自閉スペクトラム症の診断基準を丁寧に説明させていただいております。やっとA:社会的コミュニケーションおよび相互関係の持続的障害の最終回になります。

1.A.社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害  
※注 以下、DSM-Vから抜粋
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A.複数の状況で社会コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる。
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今回は(2)の非言語的コミュニケーションについて説明します。

※注 以下、DSM-Vから抜粋
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(2)対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えばまとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
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1)「まとまりのある会話」の難しさ
さて、この「まとまりのわるい」言語的・非言語的コミュニケーションとは何を意味するのでしょうか。

例えば、大学生同士ではこのような会話がよくみられます。
A:今日の夕方、時間ある?
B:あーひまだよ。
A:じゃあ、カラオケ行かない?
B:いいねえ。
A:じゃあ18:00からで予約しとくよ。
B:わかった!じゃああとでね。
A:うん、あとでね。
しかし、ASDはどうもこういうような、「ひとつのまとまり」になるような会話が成立しないことがよくあります。

●まとまりのわるいASDとの会話例(1)
A:今日の夕方、時間ある?
B:時間はある
A:じゃあ、カラオケ行かない?
B:バイトがあるからいけないよ。
A:(??? 時間があるのじゃないの?)

これはどうしてまとまらなくなってしまったのでしょう。ASDには、相手の発話を字義どおりにとらえる特性があり、一般的な時間の存在の有無を聞かれたと解釈したようです。

●まとまりのわるいASDとの会話例(2)
A:今日の夕方、時間ある?
B:時間あるよ
A:じゃあ、カラオケ行かない?
B:カラオケといえばカラオケは今テレワークや食事をするところとして利用されているみたいだよね。あたらしいビジネスとして注目されているみたいだから将来性がある場所だと思う。
A:(いけるのかな、いけないのかな・・?)

こちらは、興味関心が優先され、自分の話したいことを一方的に話してしまい、相手が期待した回答にならなかった例です。

●まとまりの悪いASDとの会話例(3)
A:今日の夕方、時間ある?
B:(返事をせずに歩きだす)
こうなると、会話そのものが成立していません。聞かれたら答える、というコミュニケーションが不成立です。
実は、まとまりのある会話というのは非常に難しいのです。必要な要素とASDの特性を整理してみましょう。

〇会話を続けようとする意志
積極的にコミュニケーションを避け、対人的なかかわりはあまり好きではないことからなかなか会話が続きません。    

〇会話の内容を理解する
言葉の意味を正確に理解することに難があり、字義どおりにとらえて勘違いしたり、相手の意図を推測するのが難しい、暗黙の了解が理解できないことに起因します。

〇わかりやすい会話
その言語特徴から、相手に話がわかりにくいという内容の側面、その言語特徴から聞き取りにくい音声と話し方で話すという側面、会話のタイミングとして間の取り方が下手などという会話の基礎的なスキルが育ちにくい面があります。

〇会話の内容の選択や展開
自分の興味関心が時に優先されるために、会話内容の枝葉末節にとらわれたり、主たるメッセージが理解できないことで展開しないということがあります。

〇相手との適切な距離
近すぎる・遠すぎる距離をとるため、会話に適した距離を取れないこともママあります。

〇コミュニケーションを円滑にする身振り
ジェスチャーをあまり使わないことや、目を合わせない、有機的に視線を合わせたり、使ったりしないという特徴です。

2)視線を合わせること
ASDは、あまり目を合わせないというのはよく知られています。PARS-TR(構造化面接による自閉スペクトラム症の診断補助ツール)では、幼児期の最初の項目が"視線が合わない"です。早期気づき(早期発達)の重要な項目とも言われています。しかし、保育現場などに行くと「この子は結構目が合うんです。だから自閉ではないと思います。」と言われることがあります。実は、「目が合わない」ということはいくつかの側面があります。

まず、視線回避という意味では、積極的に視線を合わせることを避ける傾向を持つASDがいます。一瞬目を見るけれどあまり持続しない、そもそもあまり視線を合わせないという、社交不安に近いような回避です。 また、視線を合わせることを拒否はしないがあまり有効に使わないという機能的な側面もあります。数回前のメルマガで、ASDのアタッチメント行動についてお話ししましたが、相手と視線を合わせる(Looking)のは、有効なアタッチメント行動ですが、ASDはあまりこれを使わないとも言われています。しかし、自分が何かをしてほしい時、要求の際には自分から目を合わせてくることもあります。

また、幼児期の観察をしていると気が付くことですが、 目を見ているからといって、「目が合っている」わけではないらしいという事にも気が付きます。

若いころの私の経験ですが、普段はあまり目が合わない5歳のXちゃんをだっこしていたら、私の目をじっと見つめてきました。ただ、何かメッセージが含まれているようには見えず、不思議だなあと感じていたら突然「Xちゃん!!」と言って、私の目に指を突き刺してきました。

つまり、私の瞳に自分の姿が映っていて、その像を追っているのが目を合わせているように見えた、ということです。また、巡回相談の時に、保育士さんに「この子、目はよく合うんですけど、私ではなくて、私の後ろにある何かを見ているように感じるんです」と言われたことがあります。

目は合っているが合っていない。すなわち、視線を合わせることをコミュニケーションの手段として有効に使わない、ということになります。

3)身振りの理解やその使用の欠陥
ASDが身振り(ジェスチャー)をあまりつかわない、という量的な表出の少なさと、音声言語の補完としてジェスチャーを使わないという機能的な面があります。

ジェスチャーの理解として、相手のジェスチャーを理解せず、わかりにくいようです。文字や絵のような視覚的な刺激のほうがわかりやすいという子供もいます。
また、特徴的なジェスチャーもよく知られています。クレーン現象(相手の手を持って自分がしたいことをさせようとする)や、手のひらを裏返したバイバイ(動作のミラーリング)があげられます。

4)表情の言葉と意味の理解
表情の理解の困難、感情の表出にもいろいろなパターンがあるようです

表情をあらわすことばそのものがわからない;

「怒っている」、「笑っている」、「泣いている」は割とわかるようですが、わからない子供もいます。「怒っている」はわかるが「怒り」という言葉ではわからない。「かなしい」「うれしい」「こまる」はわからない。さらにもっと複雑な感情表現は、わかりにくい。例えば「迷う」「あきらめる」などになると全く分からない。というレベルの問題もあります。

また、「怒っている」「泣いている」などネガティブな感情を示す言葉はわかるけれど、「楽しい」「嬉しい」はわからないという場合もあります。
さらに、表情の言葉はわかっているようだが、自分の感情としては理解できない。他者の感情としては理解できない。イラストの表情はわかるが、日常生活で相手の表情を理解することはできない、という側面もあります。

さらに高度なのは、日常生活で相手の表情をみて自分の行動に参照することができないとか、言葉では理解できないので、視覚的情報である相手の表情を見て判断することができないということもありますが、これは定型発達の子どもも一定の年齢にならないとできないことでもあります。

一方で、表出についても、ASDは表情に表すことがほとんどないので、悲しんだり困っていないように見える、言葉と感情が伴わないように思われてしまうこともあります。知的発達に遅れのないASDでも、ほんとはとても喜んで楽しんでいるのだけれど「なんだかちっとも喜んでくれない」「楽しくないみたい」と勘違いされてしまったり、と、表情と内面が一致しないので、相手に伝わらないことがあります。

次回は診断基準B:態度・ふるまい、関心、活動の限局に入ります。

◆吉田 ゆり(よしだ ゆり)
長崎大学教育学部・教育学研究科 教授。専門は発達臨床心理学。
公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士、そして保育士でもある。


■□ あとがき ■□--------------------------
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