映画「僕が跳びはねる理由」

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2021.04.23

映画「僕が跳びはねる理由」

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■   連載:子どもゆめ基金のデジタル教材「特別支援教育のための教材」
■□  コラム:映画『僕が跳びはねる理由』
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材「特別支援教育のための教材」
                          第2回 チェックリスト+個々のニーズに応じたビジュアル指導教材
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1.はじめに
特別支援教育デザイン研究会の活動は、発達障がい等の児童生徒の割合が6.3%(2002年当時)との文科省の調査結果を受けて、調査研究協力者を務めていた上野一彦先生(当時、東京学芸大学)の下、特別な教育支援を必要とする児童生徒やそのリスク群に対する、ビジュアル教材の開発から始まりました。

同じ頃、米国ではNCLB法(No Child Left Behind Act of 2001)が注目を集めるようになります。これには手厚い補助制度が組み込まれていましたが、結果責任が問われる内容で、米教育省が保護者向けに配布したA Parents Guideによれば、州単位で達成すべき基準を定めてテストを行い、各学校、地域毎に、さらに人種、民族、英語力、移民、障害、収入別の細かなグループに分けて、次年度当初までに達成度の公表が義務づけられました。

また、読解に関する早期の科学的な指導プログラムの導入も始まりました。NCLBはテストを軸に構成されていたため、テスト漬けが指摘され、テスト結果を用いたビッグデータ解析から、テスト不正の統計的検出法の開発などが進展しましたが、IDEA 2004 (2004 Individuals with Disabilities Education Act) ではLDの判定基準に、知的能力(IQ)と達成度との間の深刻な不一致(discrepancy)を用いることなく、科学的研究に基づく介入に対する子どもの反応(RTI: Response to Intervention)など、さまざまの評価ツールや戦略を臨機応変に組み合わせる必要が述べられました。

(出典)
No Child Left Behind A Parents Guide

Response To Intervention and Early Intervening Services

※編注 RTIについては、過去のメルマガに解説があります。

本研究会の米国との関係は、1999年アトランティックシティーで開催された ISTE(International Society for Technology in Education)年会NECC1999における小池敏英 先生(当時、東京学芸大学)の日本事例紹介から始まりました。その後、毎年のように発表を重ねています。

我が国でも、苦手に応じた指導教材を用い、改善が不十分なら集中的指導に進む予防的実践が増えてきました。そして近年、先行する一部地域で、科学的研究に基づくアセスメント・データの蓄積・活用が始まり、教材の効果検証が期待されるまでになってきました。

今回、ご紹介させていただく教材は、子どものつまずきを把握する「チェックリスト」と、個々のニーズに応じて用意した指導教材です。

2.チェックリスト

子どもたちの状態がわからない時に、チェックリストが役立ちます。
私たちは教材開発を行う上で、得意と不得意の基準を整理し、それぞれの基準に合ったサポート方法を考えてきました。
本教材は、2002年文部科学省における調査研究会が実施した全国実態調査に使用されたチェックリストに基づいて作成しました。PDFのプリント用とWEB上でチェックできるものをそれぞれご紹介します。
参考にしていただけると思いますので、当時の開発教材をそのまま紹介させていただきます。

●学習面に関する困難を調べる項目(LD関係)
6つの領域「聞くこと、話すこと、読むこと、書くこと、計算すること、推論すること」ごとに、4段階「ない、まれにある、ときどきある、よくある」でチェックします。

 〇プリント用チェックシート(PDFファイル)

 〇WEBでチェック
 
●行動面に関する困難を調べる項目(ADHD関係)
「不注意」と「多動性・衝動性」に関する設問が交互に18項目あります。4段階でチェックします。

 ○プリント用チェックシート(PDFファイル)
 
 ○WEBでチェック
 
●対人面に関する困難を調べる項目(高機能自閉症関係)
対人関係やこだわり等に関する27項目から、3段階「いいえ、多少、はい」でチェックします。

 ○プリント用チェックシート(PDFファイル)
 
 ○WEBでチェック
 
「WEBでチェック」では、チェック後にその子に合わせた教材を紹介します。ただし、FLASH技術を使った教材は、開発元:Adobe社が2020年末から使用できないようにしました。そのため、一部は正常に作動せず、使用できない場合がありますのでその点、ご了承ください。

3.苦手に応じた指導教材

ここでは、2つの教材をご紹介します。

「学習面、行動面、対人面、身体面」において「気になること」の背景や支援のポイントについて解説しています。各々の「困難を調べる項目」に対応するトレーニング教材も入っています。そのほか、周りの支援によって新しい世界を広げていった人たちのお話をデジタル絵本にした「ストーリーブック」もありますので、楽しみながらご活用ください。

行動予定表やかたづけ表、買い物表などビジュアル予定表が作れる教材です。生活、コミュニケーション、地域、遊びのカテゴリーから選び、子どもの理解度に合ったオリジナル教材が作成できます。表彰状や点数表、よくできましたマークなども簡単に作れます。

最後に利用に際してのお願いです。
紹介したチェックリストは一例です。LDの専門家チームによる判断や、医師の診断に用いるものとして作成したものではありません。
また、「この子はこうだ」と決めつけず、得意な力に目を向け働きかけるようにしてください。

◆笹田 能美(Yoshimi Sasada)
大阪大学大学院前期博士課程修了(教育工学)
特別支援教育デザイン研究会 共同開発者 株式会社イングラムジャパン代表
先進的教育情報環境整備推進協議会 主席研究員
国際ボランティア学会会員
母子健康手帳データ化推進協議会委員
国際ビジネスデザイン専門学校メディアデザイン講師
明治図書『特別支援教育の実践情報』連載中
教材のユニバーサルデザインを専門とし、教材デザイナーと言う分野の確立を目指す。
 

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 ■ コラム:本や映画の当事者たち
                        第5回 映画『僕が跳びはねる理由』
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今回5回目となる不定期での連載です。タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介します。

”美しい映像とともに、自閉症のある人の世界を旅する映画”

今回の映画は、わかりにくい障害である自閉症スペクトラムについて、感覚的に理解できる映画です。そのつらさや大変さよりも、その美しさに焦点をあてて描いています。

元になったのは、2005年に自閉症の少年、東田直樹が語った本『自閉症の僕が跳びはねる理由』です。わずか13歳の少年が紡いだ言葉が海を越え、今もなお世界中の自閉症者やその親たちに希望を与え続けています。

今では世界30カ国以上で出版され、117万部を超えたベストセラーになっています。
それまで理解されにくかった、自閉症のある人の思いが淡々と語られ、読む人に大きな感動を呼びました。

その英語版『The Reason I Jump』が、映画に出演しているジョスの両親(本作のプロデューサーを務めるジェレミー・ディアとスティーヴィー・リー)の目にとまり、映画『僕が跳びはねる理由』が誕生しました。

この映画は、世界最大のインディペンデント映画祭として有名なサンダンス映画祭(第36回/2020年1月開催)ワールド・シネマ・ドキュメンタリーコンペティション部門において観客賞を受賞しました。更に同じく2020年10月に開催された第39回バンクーバー国際映画祭では、長編インターナショナルドキュメンタリー部門観客賞とインパクト大賞のダブル受賞を果たすなど、高い評価を受けました。

原作とは異なり、映画では世界各地にいる自閉スペクトラム症の人とその周囲の人をオムニバス的に取り上げることで、その個性を豊かに描き出しています。
言いたいことが言えない彼らは、文字盤などの道具を使って気持ちを伝えることができます。コミュニケーションが取れないと決めつけてはいけないのです。
人によって、伝える方法は違います。

美しい映像は、自閉症のある人の世界に私たちを感覚的に連れて行ってくれます。
世界各地の5人の自閉症の少年少女とその家族たちの証言を追いながら、おとぎ話のような魅力的な世界が繰り広げられていきます。
観客は自閉症のある人たちに見えているものを体感することができます。

そして、いわゆる“普通”といわれる私たちには自閉症の世界を理解できないように、自閉症のある人は私たちの世界を理解できない。そんな当たり前のことがこの映画を観ると自然にわかります。

「“普通”の世界がよいと思っていたのは、私たちの間違いなのではないのか」、そんなことを考えさせられます。

角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほか4月2日より公開中で、そのあとも順次公開予定です。ぜひ観てくださいね。

原作:東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)
翻訳原作:『The Reason I Jump』(翻訳:デイヴィッド・ミッチェル、ケイコ・ヨシダ)
監督:ジェリー・ロスウェル
配給:KADOKAWA
このページで、紹介動画が見られます!

(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute

◆ライター はらさちこ
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。自分の子育ての経験や取材で得た知識を、成人当事者や親御さんのために使いたいという気持ちから、障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。


■□ あとがき ■□--------------------------
次号は、連休明けの5月7日(金)です。
外出もままならない状況が続きますが、よい休日を過ごされますように。

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