学校における自閉スペクトラム症児の感覚面の問題への対応

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2017.11.10

学校における自閉スペクトラム症児の感覚面の問題への対応

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■ 連載:学校における自閉スペクトラム症児の感覚面の問題への対応
■ 連載:子ども達とICT デジタルネイティブの子どもたちの特性!
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──■ 連載:発達障害の感覚の問題:感覚処理のアセスメント
第5回 学校における自閉スペクトラム症児の感覚面の問題への対応
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感覚の問題がある自閉スペクトラム症(ASD)児は、学校内でも困難が起こります。そこで、学校内での感覚面の問題とその対応について述べます。

学校は、刺激が多いところです。そのため感覚処理に問題を持つASD児にとっては非常に不快で混乱する場になることがあります。ところが、ASD児が感覚処理の問題によって不快反応を起こしたり、パニックになったりしているにもかかわらず、関っている大人が忍耐力がない行動ととらえてしまい、叱ったり、不快な刺激に慣れさせることを強要する指導を行ったりしていることがあります。

このような問題はASD児の感覚面の問題に対する理解の不十分さから起こっていると考えられます。そこで、まず学校の中でよく見られる感覚刺激に対する反応の違いによる問題とその対応について感覚系ごとに紹介します。

1)聴覚系に関する問題

(1)運動会のスターターピストルの音が耐えられない。
運動会では、スターターピストルが使われることが多いのですが、その音が耐えられないASD児は少なくありません。ピストルの音が怖くて運動会への参加を拒むASD児もいるほどです。

聴覚過敏のあるASD児は急に鳴る音、大きな音、コントロールできない音に不快反応を示すことが多いようです。聴覚過敏のあるASD児の中には、時が経つと音に対する過敏反応が目立たなくなる子どももいますが、いくら慣れさせようとしても過敏反応が変わらない、またはひどくなる子どももいます。聴覚過敏を起こしているASD児には、まずは不快刺激を遠ざける対応が必要です。

ある学校では先生にお願いして、ピストルを旗や笛に変えてもらったことがあります。また、運動会の間ASD児が耳栓の使用を許可してもらえるよう先生方にお願いしたこともあります。このような対応によって、ASD児が無事運動会に参加できたことがあります。イヤーマフを使うことによって、運動会に参加できた子どももいます。

(2)校内放送を嫌う
学校の教室にあるスピーカーから流れる校内放送を嫌がるASD児がいます。突然大音量で放送が開始されたり、その音が不協和音であったりすることなどから校内放送に不快を感じるASD児は多いと思います。

このような場合、放送の音量を調整したり、消したりする配慮が望まれます。但し、学校によっては各教室で音量を調整できないしくみになっていることがあります。そのような場合は、スピーカーに覆いをかぶせ音を小さくするか、ASD児に耳栓などを使わせることで対応する必要があると思います。

学校で行われる避難訓練の際の非常ベルも一部のASD児には耐えられない音です。非常ベルを聞いてから学校に行けなくなったASD児がいるほどです。非常ベルの音でパニックになるASD児は、避難訓練の日は学校を休ませるなどの配慮が必要だと思います。ある学校では、養護教諭が避難訓練の時間は聴覚過敏のあるASD児を校外に連れ出して非常ベルの音を聞かせないようにしてくれました。

(3)クラスの中の騒音で徐々にイライラしてくる
ある音が聞こえたときにすぐに大きなかんしゃくを起こすわけではないですが、クラスの中にいるだけでだんだんと不機嫌になってきて、かんしゃくを起こしやすくなるASD児がいます。そのようなASD児は、クラスの中の他の子どもの話し声や机を動かす時の音、物を扱う時の音などの騒々しい音が耐えられないためにかんしゃくを起こしていることがあります。

この場合は、ASD児に耳栓を使用させたり、クラスの中がうるさくなる場面では室外に出ることを許可したりすることが必要でしょう。机や椅子を動かすときの音に不快反応を示すASD児のために机や椅子の足に布でカバーをしている先生もいます。このように学校内で使用する道具から不快音が出ないようにする工夫を考えることも大切です。

2)視覚系に関する問題

(1)蛍光灯を嫌う
定型発達の人には一定に見える蛍光灯の光の瞬きが気になってしまう視覚過敏のあるASD児がいます。中には、蛍光灯の部屋では頭痛が起こる子どもや、その部屋に入れない子どもがいます。

もし教室の蛍光灯の光がASD児に不快感を与えているようであれば、間接照明にしたり、サングラスの使用を認めたりする配慮などが必要だと思います。可能であれば、蛍光灯から白熱灯に変えると良いでしょう。

(2)まぶしがる
定型発達の人にとっては通常の明るさであっても、視覚過敏のあるASD児がまぶしがることがあります。この場合も、ASD児が他の子どもよりもまぶしく感じる可能性があることを理解し、サングラスなどの使用を認めることなどが必要になることがあります。

(3)ごちゃごちゃしたものを見ることを嫌がる
他の生徒がたくさん目の前を動き回ると疲れてしまうASD児がいます。感覚処理において、選択的注意がうまくできないと重要な物以外を全て認識してしまうことになるでしょう。そのようなASD児は、先生に注目すべき時に他の生徒が周囲をうろうろしているとそれらにも注意をむけてしまうことになりますので、処理する情報が多くなりすぎてしまい非常に疲れやすくなります。そのため、不要な情報が見えないようにする支援が必要になることがあります。子どもの周りにパーテーションを設置する対応は有用なことがあります。

3)触覚系に関する問題

(1)他の人に触られると嫌がる
触覚過敏のために他の生徒に触られることを嫌がるASD児がいます。中には、後ろから触られるとかんしゃくを起こして、相手に怒ってしまう子どもがいます。他の子どもと手をつなぐのを嫌がるASD児もいます。時には、他の子どもと接触することを恐れ、最初から皆に近付かなかったり、列に並ばなかったりするASD児もいます。

ASD児が触覚過敏のために他の子どもとの接触を嫌っているようであれば、集団から離れることを許容したり、急に触られないように集団の一番後ろや教室の一番後ろの席に配置したりするなどの対応が必要です。

(2)帽子、靴下、ある種の服を嫌う
帽子や靴下の感触が嫌ですぐに脱いでしまうASD児がいます。指導によってそれらを身につけられるようになる子どももいますが、それらを身につけると不快を感じて学習や活動などに集中できなくなる子どももいますので、帽子や靴下を脱ぐことを許容する方が適切な対応になることが多いと思います。

ASD児の中には過敏性が強く、ある種の服を嫌う子どもがいます。そのため、体操服や制服などがASD児の不快反応を引き起こしていないか確認することも必要です。触覚過敏が顕著な場合、縫い目が外になるように服や靴下を裏返しにしたり、服のタグを取り除くなどの配慮が必要なことがあります。

(3)暑さに弱い
これは表在感覚の問題だけではなく、自律神経系の問題が影響しているかもしれませんが、炎天下での作業や暑い部屋での活動が耐えられないASD児がいます。このようなASD児の場合、屋内作業に切り替えたり、冷房設備を整えたりすることが必要です。冷房設備を整えることが難しい場合、氷嚢などを用意して使わせることもあります。

4)嗅覚・味覚に関する問題

(1)偏食がひどく給食をあまり食べない
ASD児の中には、嗅覚や味覚、触覚の問題によって偏食が起こっていることがあります。無理な偏食指導は、ASD児に多大なストレスをかけてしまう可能性があります。

学校ではたとえ偏食が目立つ子どもがいても給食以外の食べ物の持ち込みが許可されていないことがあります。偏食の改善のためには、ASD児が食べられるものを弁当などで用意し、学校で安心して心地よく食事ができる機会を作ることが先決だと思います。

(2)臭いを過度に気にする
臭いに過敏に反応するASD児は、わずかな臭いの変化によって不快反応を示すことがあります。ある部屋に「かび臭い」と言って入ることができなかったASD児がいました。学校の理科室などは特殊な臭いがする場所なので、臭いが不快で部屋に入れないASD児がいます。

ASD児の中には嗅覚刺激に対する反応が違いがあり、他の人が気にしない臭いでも情緒不安定になってしまう子どもがいることを理解する必要があります。

岩永竜一郎(長崎大学 生命医科学域)

 

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──■ 連載:Children First(子ども達を中心に考えてみよう!)
~判断に困った時や行き詰った時には原点回帰~
第3回 子ども達とICT デジタルネイティブの子ども達の特性!
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今回は、私達には理解しにくい現代の子ども達の特性をICTを中心にしながら考えてみましょう。

現代の子ども達を語るときに、「デジタルネイティブ」という単語を聞かれた方がいると思います。

「デジタルネイティブ」とは、生まれたとき、または物心がつく頃にはインターネットやパソコンなどが普及していた環境で育った世代。日本における商用インターネットは1990年代半ばより普及したため、おおむねこれ以降に生まれた世代を指す。とあります。
※1 デジタルネイティブ コトバンク(詳細はこちら>>

まず、簡単にICT機器を取り巻く転換点となったものをおさらいしてみます。 Windwos95が発売された1995年、NTT Docomoのiモードが発表されたのが1999年、iPhone(スマートフォン)の発売は2008年、iPad(タブレット端末)の発売は2010年、ADSL回線が登場したのも1999年、光回線の登場は2003年、LINEが開始されたのが2012年。 総務省の平成28年度情報通信白書によると、携帯電話等95.8%(内スマートフォン72.0%)、パソコン76.8%、インターネット普及率83.0%とあります(2015年末)。
※2 平成28年度版 情報通信白書 (詳細はこちら>>

パソコンが一般家庭向けに発売されてから、まだ20年しか経っていませんがこのように目覚ましく進化をしながら私達の生活の中に浸透してきて、気がつけば、あって当たり前(無い時代を思い出せない)の生活を営んでいます。

これらの機器が無い時代にどうやって待ち合わせをしていたのか? どうやって時間や場所の変更に対処していたのか? 行きたい場所への経路や時間はどうやって計画していたのか? 思い出せない他愛もない事はどうやって解決していたのか? 地図を読むことが苦手な私はどうやって目的地まで運転していたのか? SNSの無い時代どうやって思いを大勢に人に伝えていたのか? テレビや新聞では伝えてくれない情報はどうやって入手していたのか?

今となっては謎だらけです。一方、現代の子ども達はこれらの疑問に即座に答えてくれます。「そんなん、LINEのグループ使えば一発やん!」「乗換案内で調べたらすぐ分かるやん」「ネットで調べたらすぐ分かるやん」「ナビ使えばどこでも行けるやん」「TwitterやYoutubeですぐ発信できるやん」 もしかしたら就学前の子ども達でも答えられるかもしれませんね。

こうなると間違いなく、求められるスキルが違うことに気づくと思います。 インターネットの無い時代には発信者に責任があったのですが、今は受信者の責任(判断)力が求められています。現在社会にはアナログも含めて情報が氾濫しています。普段の生活や学習にもICT(情報通信技術)は必須となってきています。

特にスマートフォンやタブレット端末は、直感的な操作性※3や、いつでも使える携帯性・即時性などの特徴があり、物心のついた頃よりスマホ子守(決して勧められません)をされたりしている子ども達は、液晶画面からの提示に全く抵抗もなく、むしろ好んで見る傾向があるように思います。ゲーム機の画面に見慣れてくると更に過激な視覚刺激を求めているのかもしれませんし、静止画像よりも動画に強い嗜好性を感じているのかもしれません。他方、眩しすぎる液晶画面を見ることに辛さを感じる子ども達も少なからずいます。
※3 取扱説明書なんて読まなくても使えます。1歳半の認知能力があれば使いこなせるという話もあります

また、テレビよりもインターネット動画(YouTube等)を嗜好しますよね! これは何故なのでしょうか? 好きなものが見たいときに見れる・コマーシャルを待たなくて良いなど、待つことが苦手になって来ているのかもしれませんし、情報は好きなときに入手することが当たり前でプッシュではなくプルの志向性が強くなっているのかもしれません。

そのような子ども達がタブレット端末などを活用した学習で考えさせられる場面を時々見ますので、いくつかご紹介します。

1.タブレットでは計算出来るのに、紙のプリントでは出来ない これは電卓を使うからというようなことではなく、紙と同様の問題をタブレットでさせた場合です。2桁の足し算をドリル的なアプリでどんどん回答していくのですが、それじゃ紙のプリントでやってみよう! となると全く答えられない子

2.タブレットでは書けるのに、紙のプリントでは書けない これも時々いますが、指ではちゃんと書けるのに、紙のプリントに鉛筆で書くとどうも上手く書くことが出来ない子

3.電子書籍では読めるのに、紙の文書は読めない 音声読上の機能を使わなくても、電子書籍であれば読みやすいけれど、紙の教科書を読むことが難しい子

4.タブレットやパソコンでは集中出来るのに、授業では集中出来ない 45分間の授業をじっと受けることが難しいのに、ICT機器では数時間でもじっと取り組むことができる子

5.ICT機器から流れる情報はちゃんと聞いているのに、授業では聞けない 朝の会を動画で流すとじっと聞いてるのに、目の前で話すとしっかり聞くことが出来ない子

このような子ども達に、ICT機器を使って学習させよう! と安易に考えても良いのでしょうか?

1.マス目や罫線があるから答えられるのかも・・
桁がずれないから計算しやすいのかも・・
自分の書いた数字が汚くて誤回答してしまうのかも・・

2.予測変換があるからかも・・
鉛筆で書くことが難しいのかも・・
間違えたときに消しやすいから抵抗感が低いのかも・・

3.フォントサイズが大きければ読めるのかも・・
コントラストを変えれば読みやすいのかも・・
挿絵が気になって読むことに集中できないのかも・・

4.そもそも授業に楽しさを感じないのかも・・
ペースを自分で調整できないからかも・・
指示されることばかりで自分から進んで取り組めないのかも・・

5.周囲がうるさくて集中できないのかも・・
何か起こるのか予測しにくい期待感からじっくり聞けるのかも・・
見るべき箇所がテレビ一点なので、集中しやすいのかも・・

教室内の環境整備や授業の改善だけでも、ずいぶん学習に取り組みやすい状況は作れます。ICT機器をピンポイントで活用するだけでも集中して取り組めるようになるかもしれません。また、適切な自助具を提供したり、通級指導教室などで練習すれば困りを低減できるかもしれません。

それでも、改善できないような場合には、デジタルネイティブの時代の子ども達だからこそ、訓練しなくても使えるICT機器を活用して、学びのスタートを切らせてあげたいですね。

高松崇(NPO法人支援機器普及促進協会理事長)

 

──■ あとがき
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感覚について連載くださっている岩永先生から、11月26日に行われる長崎大学のシンポジウムのご案内をいただきました。

●職業実践力育成プログラム開始に向けたシンポジウム
主催:長崎大学子どもの心の医療・教育センター
(詳細はこちら>>

大変興味深い内容です。編者もぜひ参加しようと思います。

次回メルマガは、11月24日(金)です。

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