学校現場で出会う、不器用さのある子どもたち(2) AIは社会の鏡~子どもたちと考える思い込みの話

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2026.02.27

学校現場で出会う、不器用さのある子どもたち(2) AIは社会の鏡~子どもたちと考える思い込みの話

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■    連載:学校現場で出会う、不器用さのある子どもたち(2)
■□   連載:AIは社会の鏡~子どもたちと考える思い込みの話
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■ 連載:特別支援教育を担う先生たちを応援したい ~教員養成に関わる大学教員の立場から~(最終回)
       第4回 学校現場で出会う、不器用さのある子どもたち(2) 
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授業や学校生活の中で、学習に困っていたり、作業が苦手だったりして、支援が必要なお子さんに出会うことがあります。そのようなお子さんの姿を見ていると、体を動かすことや、手先などの細かい動きをすることなどに苦手さがあることがあります。

前回は、そのようなお子さんの、手先の不器用さや目と手の協応動作について考えてみました。
今回は、コンパスを扱うことの難しさについて、その他の要因についても考えてみたいと思います。

1 注意集中に弱さのあるお子さん

図形を正確に描くときには、集中力も必要となります。作図にある程度の時間をかけて丁寧に取り組むことが求められますが、もともと集中が難しい、ノートなどを書く時間になると立ち歩いたり他の子の邪魔をしてしまうなどの行動が見られる場合も、コンパスでの作図には難しさが出ることがあります。

このように、注意集中が持続しなかったり、あちこちに注意が散ってしまったりするような、ADHD傾向があるお子さんも、作図が苦手なことが多いようです。

加えて力加減の難しさがある場合、コンパスを回しているうちに力が入りすぎて円の大きさが変わってしまったり、紙が破れてしまったりしてしまいます。そうなると、ますますやる気がなくなってしまいます。上手にできない、という苦手意識ばかりが強くなり、学習意欲そのものを失ってしまうことにもつながりかねません。

そのような場合には、例えば少し薄めの段ボールなどをノートの下敷きにすると、針がしっかりと刺さります。また、少し専門的な器具にはなりますが、製図に使用するようなコンパスがあります。これにはコンパスの脚の開き具合を調節できるネジがついたものがあります。これだと、ネジでしっかり固定できるため途中で開きが変わっていくということもありません。

用具の工夫で上手にできたり、支援者に褒められたりすることができるなら、それらの工夫はとても有効であると思います。集中が維持できたり、次へのやる気につながったりしていくと思われます。

また、一度に何個も描かせるより、一つを最後まで取り組む、といったような、量を調節することも有効であると思います。

2 手順がわかっていないかもしれない

多くのことを言われると聞き逃してしまう。物事を要領よく効率よくこなすことが難しい、ということがある場合、順序立てていくことに難しさがあることがあります。コンパスで円を描くという時には、前号にも書いたように、非常に複雑な作業と手順を行っているので、この手順が覚えられていない、ということも考えられます。

このような場合、手順を追って確認しながら、描き方を覚えていくことが必要になります。支援者が、1つ1つ「まずコンパスを開きましょう、できましたね。次は、?・・・」と、言葉で確認して進めていくこともできます。そのようなフォローがあると、うまく描くことができ、自信ややる気も保つことができるかもしれません。

でも、いずれは自分でできるようになることを目指したいです。そのために、手順カードなどを用いる、動画を撮り、スロー再生や、いくつかのステップに区切って見ることができるようにしておく、などの方法が有効かもしれません。また、ホワイトボードなどに手順を書いておき、それを見ながら取り組むことも効果的かもしれません。

また、支援者が言葉で確認する時、初めは1つ1つ丁寧に説明をし、徐々に言葉を精選し、端的に伝えるようにするということも考えられます。「まずはかる」「上持って」「ハリはぎゅっと」など、キーワード的に示すことで本人が思い出したりできたりするようになれば、最後には自分で唱えながらできるようになるかもしれません。支援者は、その過程を見ながら、どこは自分でできそうか、どこに躓いているのか、を理解し、躓いているところにさらに支援ができるようになるとよいのではないかと思います。

3 まとめ

「コンパスを使う」ことを例に挙げて、その原因と支援策について話を進めてきました。
「コンパスが苦手」と言えば、1つの行動のように見えますが、実はその行動を細分化してみると、多くの手順があり、要素があり、それらが絡み合ったもの、という捉え方もできます。そしてそう見ると、一人一人異なる躓きのポイントがあったり、できている部分もあったりしているのかもしれません。細かくアセスメントしてみると、できる部分はどこなのかが分かり、本人を励ましたり褒めたりすることにもつながると思います。そうして、認めたり励ましたりしながら、できるための工夫を考えることで、頑張らせるばかりではない支援につながるのではないかなと思います。

これは、コンパスだけではなく、他の様々な学習や行動にも活かせることだと思います。できないこと、とともに、できることに着目することが、支援の糸口につながるのではないかなと思います。

◇岡野 由美子(おかの・ゆみこ)
奈良学園大学人間教育学部准教授 
元公立小学校教員、兵庫県特別支援教育センター主任指導主事、兵庫県教育委員会事務局播磨西教育事務所主任指導主事を経て現職。 
特別支援教育士SV、認定専門公認心理師。


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■ 連載:特別支援教育から考えるAIとの付き合い方
        第4回 AIは社会の鏡~子どもたちと考える思い込みの話~
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近年、教育委員会や特別支援学校からAIに関する研修のご依頼をいただくことが増えてきました。多くの先生方が、AI活用を前提とした支援方法に関心を持ってくださっていることを嬉しく思っています。

「どう使えば、子どもたちの学びが深まりますか」
「校務の負担軽減につながりますか」
こうした前向きな問いが増えてきたことは、教育現場が確実に次の段階へ進みつつあることを感じさせます。

一方で、文部科学省(2024)「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」では、生成AIの普及が差別や偏見の助長につながる可能性について指摘されています。AIは便利な道具であると同時に、社会に存在する価値観やバイアスを反映してしまう存在でもあるということです。

だからこそ、私は研修の冒頭で、必ずあるワークショップを行っています。「ある日、電車で偶然隣り合わせた弁護士のあおいと保育士のひかるが、今後どのように恋に落ちていくか、ストーリーを考えてください。」

非常に盛り上がる内容で、これまでもドラマ化待ったなしのストーリーを何度も聞かせていただきました。図書館で偶然に再会したり、ひかるさんが訴えられた際にあおいさんが弁護したりするなど、先生方の創造力にはいつも感心させられます。

しかし、物語を聞かせてもらうと、ほぼ確実に
「弁護士のあおいさんは男性」
「保育士のひかるさんは女性」
として描かれているのです。

もちろん、誰にも悪意はありません。誰かを傷つけようとしているわけでもありません。けれども、そこには、社会にあるステレオタイプが影響した差別や偏見が表れることがあります。

一見、これはAIと関係のない話のように思えるかもしれません。しかし、ここにAI倫理の本質があります。

AIはインターネット上の膨大なデータからパターンや規則性を抽出し、表現しています。そして、その膨大なデータを生み出してきたのは、ほかならぬ私たちです。社会の中にステレオタイプや無意識の偏りが存在していれば、当然、そのデータの中にも同じ傾向が含まれることになります。

つまり、AIは「社会の鏡」とも言えるのです。

そのため、AIが表出したものを鵜呑みにしてしまうと、私たちは無意識のうちに、そこに含まれるバイアスなどを再学習してしまう可能性があります。

では、障害のある子どもたちが主にAIから情報を得るようになったら、どうなるでしょうか。

障害のある子どもたちは、社会に存在するさまざまな障壁によって地域社会との接点が限られる場合があります。その結果、得られる知識や経験の幅が狭まりやすい状況が見られることもあります。そのような中でAIの情報を十分に吟味せず受け取ってしまえば、知識や思考の偏りがさらに強まるだけでなく、無意識のうちに他者を傷つける言動につながる可能性も否定できません。

だからこそ、私たちはAIの特性を理解し、表現の偏りに気づいたときには適切に補いながら、子どもたちが自ら考え、判断する力を育てていく必要があります。

では、具体的にどのような授業が考えられるでしょうか。例えば、知的障害のある子どもたちを対象とする場合には、子どもたちが具体的な事例に触れたり、やりとりを重ねたりする中で気づけるような、次のような実践が考えられます。

まず、「消防士さんが活躍するお話を考えてみよう」と投げかけます。子どもたちは友達と相談したり、AIに問いかけたりしながら物語をつくります。知的障害のある子どもたちは、イメージすることに困難さがあり、0から1を生み出す活動を負担に感じてしまうことがあります。そのため、最初から一人で考えてもらうのではなく、友達や教師と相談しながら、「どんな消防士さんにする?」「どんな場面で活躍する?」と問いを具体化し、安心して物語づくりに取り組めるようにすると良いと思います。そして正解・不正解は設けず、創作する楽しさを味わうことを大切にしましょう。

次に、子どもたちに物語を発表してもらいます。教師は、工夫した点や面白かった場面を具体的に取り上げながら称賛します。

その後、「先生もお話をつくってみたから、聞いてくれる?」と子どもたちに女性消防士が活躍する物語を紹介します。できれば、実際に活躍している女性消防士のニュースや写真などもあわせて提示すると、より現実とのつながりが生まれます。
そして、こう問いかけます。
「みんなの物語では、消防士さんはどんな人だったかな?」

ここで、子どもたちは「消防士=男性」という思い込みに自分たちが影響されていたことに気づくことでしょう。最後に、私たちは知らないうちに思い込みをしてしまうことがあること、AIもまた世の中にあるたくさんのデータから学んでいる以上、同じような思い込みを含んでしまう可能性があるということ、そのうえで「思い込みをしてはいけない」と責めるのではなく、 「もしかしたら、自分も思い込んでいるかもしれない」と立ち止まって考えることの大切さを丁寧に伝えてください。

このような積み重ねによって、AIや周囲の言葉をそのまま受け取るのではなく、子どもたちが自ら考え、判断する力を少しずつ身につけていくことでしょう。先に述べたように、障害のある子どもたちは、社会的な障壁によって触れられる情報や経験の幅が限られることがあります。だからこそ、一度に伝えようとするのではなく、安心できる環境の中で、少しずつ視野を広げていくことが大切です。

次回からは、障害特性に合わせたAI活用の工夫や、実際に起こり得るトラブル事例を取り上げ、皆さんと一緒に考えていきます。

【引用文献】
文部科学省(2024)初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン (参照日 2026.02.15)

◇山﨑 智仁
山口県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 講師。臨床発達心理士。
特別支援教育を専門とし、知的障害のある子どもを中心に、ICTや生成AIを活用した教育支援の実践・研究に取り組んでいる。
特別支援学校教員としての勤務経験を経て現職。
近年は、AI時代における教師の専門性や倫理的配慮を踏まえた支援の在り方について検討を重ねている。


■□ あとがき ■□--------------------------
メディカルジャパン大阪 介護・福祉EXPO の児童発達支援・放課後等デイサービスフェアでのレデックスブースの場所が決まりました。インテックス大阪4号館通路番号11、小間番号は11-14です。日にちは3月10日(火)-12日(木)事前予約をしていただくと入場がスムーズです。

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