特別支援教育を担う先生たちを応援したい~教員養成に関わる大学教員の立場から~

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2025.12.05

特別支援教育を担う先生たちを応援したい~教員養成に関わる大学教員の立場から~

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■    はじめに
■□   新連載:特別支援教育を担う先生たちを応援したい~教員養成に関わる大学教員の立場から~
■□■  LD通級指導教室の効果的な運用を考える・2
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■□ はじめに ■□--------------------------
今回から岡野由美子(おかの・ゆみこ)先生の寄稿を連載します。
その紹介に代えて、岡野先生からいただいたメッセージを転記させていただきます。

兵庫県で小学校教員として約20年間勤める中で、さまざまな子どもたちと出会いました。「特別支援教育」の知識の必要性を感じ、特別支援教育士の勉強をしました。通常の学級の子どもたちや特別支援学級の子どもたちに教える立場の先生になりたいと、学校の先生になりましたが、気づけば自分はたくさんのことを子どもたちから学んでいました。

今回の連載では、子どもたちから学んだことや、特別支援教育センター時代に現場の先生方から学んだこと、今、大学の教員として大学生から学んだことや伝えたいことなどを紹介していければと思います。気軽に読んでいただければ幸いです。


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■ 新連載:特別支援教育を担う先生たちを応援したい~教員養成に関わる大学教員の立場から~
          第1回 「誰もが過ごしやすい学級づくり~特別支援教育の視点からの授業改善~」
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1 8.8%という事実
 
2022年の12月に、文部科学省から「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の調査結果が公表されました。この調査は、おおよそ10年ごとに実施されており、前回の調査からどのような変化があるのかが注目をされていました。そして、学習または行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合が、前回の約6.5%を上回る約8.8%であることが示されました。

発達障害というものの理解がだんだんと世の中に広がり、認知されるところとなったことが結果に影響をした一因かもしれません。増加している原因は様々であり、限定的なものではないでしょう。しかし、原因はともかく、通常の学級には必ず困難を示している児童生徒が存在しているということは紛れもない事実です。

約8.8%というと、35人学級で約3人に相当します。どのクラスにも、学習や生活に困難を示す児童生徒は存在しているのだということを受け止め、認識し、学級経営に生かしていくことが求められています。

また、コロナ禍を経て、GIGAスクール構想が一気に進みました。最初は戸惑いも混乱もあったものの、「学びを止めない」という先生方の受け入れの努力もあいまって、学校現場にスピード感をもって入り込んできました。このことは、災いの中ではありましたが特別支援教育分野においては、光明と言える多大な影響を与えたと言えます。ICTの活用は、特別な支援を要する児童生徒には有効であることは以前から言われていましたが、なかなか思うように進まない、といった現状があったことも事実です。コロナ禍が、何年も課題となっていたICT活用の扉を大きく開くことにつながり、「個別最適な学び」は共通認識され、新たな時代の始まりを想像させるものとなったと思います。こうして通常の学級の教育は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指すところとなりました。

2 誰もが過ごしやすい居心地のいい学級づくり

特別な支援を要する児童生徒にとっては、集団で参加する通常の授業は大変難しい場合があることが分かってきています。例えば指示が聞き取れない、いろいろな刺激があり集中が難しい、板書の転記に時間がかかる、など学びに付随する様々なことに困難さがあるため、肝心の学習にも躓いてしまうということがあるというのです。このようなことから、まずは授業に参加できる環境として学級が落ち着いて居心地のいい空間となっているかどうかをチェックしてみます。

〇チェックリスト 
・違いをお互いに認め合う
・一つの価値観でなく、多くの価値観がある
・友だちの「以前と比べる物差し」がある
・友だちの良さや頑張りが話せる
・友だちの話に静かに耳を傾けられる
・友だちを茶化さない
・励ます声かけや拍手がある
・一斉授業の中で個別の支援が特別視されない
・自分の意見や疑問、「わからない」が言える
・素の自分が出せて一緒に楽しめることがある
・みんなと一緒にする活動があって自分が誰かの役に立っていると思える
・自信がないことや苦手なことにもチャレンジしてみようとする
・失敗しても大丈夫なんだと思える雰囲気がある
・うまくいかないことがあっても、嫌なことがあってもこのクラスがいい
・けんかやトラブルはあるけれど互いに折り合いがつけられる

3 特別支援教育の視点からの授業改善

上記のような安心して自分を発揮できるクラスの中では、間違いを恐れず、主体的に学ぶことができる授業が展開できることが予想されます。

学校訪問をすると、「教室は間違うところだ」という言葉をスローガンのように掲示している教室を見かけます。これは、子どもたちにとって明確で、勇気をもらえるメッセージだと思います。ただ、「掲示して終わりになってはいないか」、というチェックは必要です。実際は間違ったら恥ずかしい思いをした、周囲から変な扱いをされた、というような状態になっていないか。おそらく、掲示するときに先生方は児童生徒に話をすることでしょう、先生の思いはそこで伝わるはずです。実践はそこが始まりです。毎日の授業の中で、それをどう具現化していくか、そこがより重要であると思います。毎回は難しくとも、1日1回は「〇〇さん、今の意見いいね!」「今の意見のおかげで、みんないいところに気づけたよね!」など、実際に間違った意見を述べた児童生徒をどう引き上げるか、そんな言葉かけを繰り返していくことが大事なのだと思います。

また、安心できる教室環境が確立できると、個別の指導、支援が可能となります。ICT機器の活用は、自分に使いやすくカスタマイズもしやすく、ルビを表示させる、蛍光ペンや赤ペンなどで書き込みもできる、読み上げ機能を使用する、など自分に合ったスタイルでの学習が特別感なく行えるようになりました。ただ、与えるだけでは活用が難しい児童生徒もいるでしょう。まずは児童生徒が、それらの機能があることを知り、そして活用できるように使い方などを教えることや、その良さを感じられるように授業などで使っていくことは大切です。

さらには、安心できる教室環境の中では、児童生徒がお互いに言葉をかけ合ったり学びあったりする姿も見られるようになってくることが期待できます。児童生徒同士がつながりあう学級では、相互に学びあい、お互いに高め合う授業が可能になってきます。

そして、それは一人一人が自分や相手をリスペクトし、自分で考え行動できる、主体性も育てることにつながっていきます。教師-児童生徒、という関わりは、児童同士、生徒同志を繋げるための前段階であるという意識を常に持っておくことで、子どもたちが互いに学び合い、尊重し合う関係を築いていくことにつながっていくのではないかと思います。

4 終わりに

子どもたちが、安心できる教室づくり、というのは、何も今始まったことではなく、先生であれば誰もが目指してきた教室なのではないでしょうか。自分が安心できる学級を作る。その作り方や理想が、子どもたち一人ひとりが考える教室と一致しているか、ということを、時々振り返ってみることも大切なのだと思います。

引用・参考文献
文部科学省初等中等教育局教育家庭課(2021)「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと共同的な学びの一体的な充実に関する参考資料」
柘植雅義編著(2014)「ユニバーサルデザインの視点を活かした指導と学級づくり」金子書房

◆岡野 由美子(おかの・ゆみこ)
奈良学園大学人間教育学部准教授 
元公立小学校教員、兵庫県特別支援教育センター主任指導主事、兵庫県教育委員会事務局播磨西教育事務所主任指導主事を経て現職。 
特別支援教育士SV、認定専門公認心理師。

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■ 連載:教育あるある話~元小学校教員の大学教授がつぶやく現場の話~ 
         第4回 読み書きや集団参加の困難さを支えるために・2
          ~LD通級指導教室の効果的な運用を考える~
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3 指導事例(続き)
 ※児童が特定できぬよう内容は加筆修正している

(3)行動の調整が難しく集団参加が不適切な事例

ア 主訴
・学習内容の理解は概ねできているが、授業への参加態度が悪い。
・勝敗への執着が強く、女児や一部の男児に対する執拗な攻撃行動が見られる。

イ アセスメント
・高学年男児
・自閉スペクトラム症 注意欠如・多動症 アトモキセチン+メチルフェニデート服用
・知的発達は平均範囲 言語理解>注意記憶 

ウ 指導計画
(ア)固い思い込みやそれによる自分ルールの緩和
・自動思考の緩和を図る。
・自己感情認知と在籍学級で活用できるツール開発

(イ)適切な行動が適切な結果に繋がる認知向上
・行動のめあてを設定し達成することにより、賞賛されるサイクルを確立する。
・他児との関わりの具体的な方法をソーシャルスキルトレーニングで習得する。

エ 指導の実際
(ア)「これはこうあるべきだ」「ここはこうなるはずだ」という自分なりの思考を各自が持っている。この考えは「自動思考」と呼ばれ、社会生活経験などにより常に更新され、行動や思考を支えている。

集団適応の悪い児童の中には、この自動思考が偏っていたり、不完全であったりすることが影響していることがある。

本児も「どうせ自分にはできないに違いない」「このままではまた叱られてしまう」などと、不安が強かったり、誤った思い込みをしたりする姿が見られた。他者の考え方を例示することや「怒り」や「不安」の感情にどのような働きがあるのか、適切な対処法を知ることで楽に過ごせることを伝えるようにした。

具体的には、出版物*をプレゼンテーション資料として起こし、毎時間内容を絞って読み合わせながら学んでいくようにした。
*ドーンヒューブナー.だいじょうぶ自分でできる怒りの消火法.明石書店

また教室と連携した「クールダウンカード」※を設定し、情緒の不安定さが高まった時に自発的に休憩を取る時間と空間の保証をした。自分の感情を認知するスキルを高めることと、積極的に回避する手法を与えることで、安定した学習参加を促した。

※クールダウンシステム

(イ)行動のコントロールの難しさのある子どもは、「適切な行動をして褒められる」という良さを実感していないことがある。そのために「不適切な行動で関わりを持とうとしたり、適切な行動をとる意欲をなくしてしまったり」している姿が見られる。そのような児童に対して適切な行動をとるチャンスを与え、褒められるサイクルを確保することが効果的なことが多い。

本児については、「登校直後の所作を完遂すること」を行動目標としたシステムを構築し、担任に評価を依頼した。また、週に一度通級教室の点検を受け、担当からも賞賛されることで行動の強化を図った。

きちんとできたことを正しく褒められること、その評価が蓄積していくことが見えること、何より教師との関係が改善し、笑顔で毎朝をスタートできることで本児の行動は大きく安定した。

ただし、この取組には支援者の注意が必要でもある。これは問題行動を教師の思い通りに整えるためのシステムではなく、児童に「成功・被賞賛体験」を与えることで、適切行動を増やすことに価値があることを留意して取り組みたい。

オ 評価
 1年間の指導 当初は週に5単位時間+業間5回から徐々に減り3学期には週に1時間とした。
※指導計画 わくわくめあてカード

 学年当初に見られた授業中の離席、不適応行動は減少し、3学期には見られなくなった。

 本児の言動の中に「怒っても損」や「切り替えよう」という言葉が見られるようになり、他児とのトラブルも、ほぼなくなっている。

4 LD通級教室を効果的に運用するために

(1)学級担任や保護者と繋がる

通級指導教室における指導は、在籍教室で生かされたり、家庭生活が円滑に過ごせるようになったりすることを目指して取り組むべきだと考える。そのためにも学級担任-保護者-通級担当で長期目標を共有した上で、応じた短期目標を設定するようにした。

通級教室における日々の指導内容については、指導記録を3者で回覧することで共有化を図っている。また、利用した教材をシェアすることで、一斉指導での活用を促し、通級指導で学んだスキルが、在籍学級でも活かせるような配慮を依頼している。

保護者面談日は学期に一度設定し、「指導目標の評価」と「次学期の目標と手立て」をともに検討している。指導の様子を映像を交えて具体的に示すことで、成長を実感したり、課題を明確化したりできるように配慮している。また、具体的な方法を検討し平素の家庭生活の課題を軽減するよう取り組むプロセスが、保護者自身の子ども理解の視点を広げていくことも期待している。

(2)回転の良い教室運営の大切さ

教室を利用する子どもたちは、日々様々な課題に直面している。指導をするうちにまた別の課題が生まれるというサイクルでは、教室を利用する児童は増え続けることになってしまう。本教室では、明確な指導目標を設定し、学期毎に成果を評価するようにした。それにより、成長を具体的に確認し、安定が認められる場合には、個別指導時間を減らしたり外したりしている。
これは退級を意味するのでなく、通級担当による観察と担任連携は継続し、担任と保護者が主体となる支援にスライドしていくと考えている。その上で、成長等に伴う状態の変化が見られる場合には、また指導を迅速に検討するというサイクルを意図している。この取組により、より多くの児童がタイムリーに効果的な指導を受けることができる教室を目指していきたい。

回転の良い教室運営が、通級教室を特別ではなく、誰もが利用できる場だという認識に繋がり、インクルーシブ意識の高い学校運営に資するはずだと考えている。

(3)LD通級教室の目的とは

LD通級指導教室は、「児童の状態を適切にアセスメントし、効果的な指導法の検討と試行を通して、担任や保護者が平素の授業や家庭で活かせる具体的な方法を提案すること」に目的があると考え、今後も実践を重ねていきたい。
 
※検査名は、*で示した。開発者名,製品名,出版社名の順に記載。

◆増本利信(ますもと・としのぶ)
九州ルーテル学院大学大学院人文学研究科教授/学長補佐
日本LD学会常任理事/特別支援教育士資格認定協会理事


■□ あとがき ■□--------------------------
次回メルマガは12月19日(金)に、年内最終号を刊行する予定です。
 
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