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■ 連載:感覚処理のアセスメント
■□ 特別寄稿:福祉映画に生涯を捧げた山田火砂子監督への追悼・2
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■ 連載:発達障害児の感覚処理・協調運動の問題への支援第2回 感覚処理のアセスメント
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1 はじめに
感覚処理のアセスメントでは、多面的な情報収集が必要です。直接的な観察、標準化された検査、本人や保護者からの聞き取り、環境要因に関するアセスメントなどを行います。以下にそれぞれの手段やポイントについて説明します。
2 直接的観察
まず、行動の観察によって子どもの感覚処理の問題をとらえることが必要です。周囲が騒々しい時に気分が不安定になったり、他の子どもとの接触を避けたりするなど子どもの日常行動に感覚の問題が影響していないか注意深く観察することで、その問題に気付けることがあります。
感覚処理の問題によって起こる反応が、刺激が入ってからすぐに現れるものばかりではないことに留意する必要があります。中には嫌いな刺激を長時間受け続けた結果、しばらく経ってから不快反応を示す子どもがいます。そのため、子どもがポリエステル素材の服を着ているとだんだん不機嫌になることや、周囲が騒々しいと落ち着きがなくなること、蛍光灯の部屋にいると頭痛がしてくるといった体調悪化が起こることなども注意深くとらえる必要があります。
3 質問紙による評価
感覚処理の問題をとらえる際に標準化された質問紙である感覚プロファイル、感覚・動作アセスメントなどを用いることができます。それらについて説明します。
(1) 感覚プロファイル
感覚プロファイルは対象の感覚刺激に対する反応を評価するために開発された行動質問紙です。感覚プロファイルには、乳幼児用、3-10歳用(日本版は11歳以上の標準データがある)、青年成人用(11歳以上)があります。乳幼児用、3-10歳用は保護者が、青年成人用は本人がチェックします。
感覚プロファイルは、日常生活における様々な感覚刺激への行動反応について問いかける項目が含まれています。例えば、大きな音に対する反応や触れられたことへの反応などが質問項目に挙げられています。そのような項目の質問に保護者や本人が「しない」、「まれに」、「ときどき」、「しばしば」、「いつも」のいずれかの回答をします。そして、標準値と比較して対象児者のスコアの偏りが表示されます。
3-10歳版では「聴覚」、「視覚」、「触覚」などの感覚系ごとのスコアに加え、因子別スコア、象限別(低登録、探求、過敏、回避)スコアが算出されます。これらのスコアの偏りをとらえることにより、対象児者の感覚処理特性を把握することができます。例えば、スコアを集計した結果「感覚過敏」や「感覚回避」のスコアの偏りが大きかった場合には、不快な刺激を遠ざける対応を検討することができます。感覚プロファイルに回答することで、保護者が子どもの感覚の問題に気づけるようになることもあります。
ASDの診断を受けた子どもの象限別スコア(※図1)を示します。
※図1 ASD児の感覚プロファイルの象限別スコア
これを見ると「低登録」が「非常に高い」ため、刺激に対する気づきにくさがあること、「感覚探求」が「非常に高い」ことから、刺激を過剰に求める傾向があること、「感覚過敏」が「非常に高い」ことや「感覚回避」が「高い」ことから、感覚刺激に対する過反応が目立つことが考えられます。このように感覚プロファイルのスコアを見ると子どもの感覚処理特性が理解しやすくなります。
(2) 感覚・動作アセスメント
感覚処理と協調運動を複合的にとらえるツールである感覚・動作アセスメントがあります(岩永, 2019)。これは、小学校の教師が、生徒の持つ感覚処理や協調運動に関する問題を把握し、支援に役立てるために作られたwebサービスです。
感覚に関する質問が45項目、協調運動に関する質問が38項目あります。感覚処理については、「感覚探求」、「認知を伴う過反応」、「身体感覚への低反応」、「過反応」の各領域のスコアがパーセンタイル値で示されます。回答者は小学校の教師です。
このツールでは教師や保護者が感覚の問題に対する質問項目に回答することで、評価結果が、領域毎にパーセンタイル表示され、学校や家庭での支援方法が自動的に提示されます(※図2)。教師が、これらのアセスメント結果、支援方法を参照することで、子どもの感覚処理の問題への理解や支援が進む可能性があります。
※図2 感覚・動作アセスメントの感覚処理に関する結果と支援表示例(協調運動のアセスメント結果と支援も別に提示される)
感覚・動作アセスメントは学齢児のアセスメントツールですが、幼児用のアセスメントツールである感覚・動作アセスメントKIDSもあります。これは幼児を持つ保護者が、web上で子どもの感覚や協調運動に関する質問に回答することで、それらの問題の様相がわかり、支援方法が提示されるシステムです。
このシステムでも提示される結果はレーダーチャートで示され、スコアの偏りに応じて配慮・支援方法が表示されます(※図3)。そのため、子どもの感覚処理特性に関して情報共有がしやすく、保護者だけでなく、幼稚園・保育園の保育職員、児童発達支援に関わる職員にも支援のヒントを提供するものになるでしょう。
※図3 感覚・動作アセスメントKIDSの感覚処理に関する結果表示の例
4 感覚処理に関連する行動についての聞き取り
発達障害児には、標準化された質問紙には記載されていない感覚処理の問題が見られることがあります。例えば、子どもが服の縫い目が気持ち悪い、スーパーの音楽に耳ふさぎをする、など感覚プロファイルや感覚・動作アセスメントに載っていない問題を有することがあります。このような個別の感覚処理の問題は標準化された検査では把握できないことがありますので、それらを把握するためにも本人や保護者への感覚処理に関する聞き取りが必要です。
感覚処理の問題は体調不良であったり、不安が強かったりすると顕著になることがあります。このような、感覚処理の問題を助長する要因を把握するためにも個別の聞き取りが必要になります。
5 環境のアセスメント
過反応の出現には多くの場合、環境要因が影響します。そして、過反応の改善のためには環境調整が必要となることが多くあります。そこで、環境に関するアセスメントが必要です。周囲の人の感覚の問題への理解はどうか、周囲の人の話しかけの量、頻度はどうか、(教室などが)うるさくないか、視覚刺激が入り過ぎないか、気温はどうか、明るさはどうかなどを調べておく必要があります。
6 おわりに
本稿では感覚処理のアセスメントについて説明しました。感覚処理のアセスメントは知能や行動の評価に比べると重視されないことがありますが、発達障害児者のアセスメントにおいて必ず実施することが必要だと思います。
※文献
Dunn W著(辻井正次監修:萩原拓、岩永竜一郎、伊藤大幸、谷伊織): SP感覚プロファイル.日本文化科学社.2015
岩永竜一郎:感覚・動作アセスメント.LEDEX.
◆岩永 竜一郎
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(保健学科)・作業療法学専攻教授、医学博士、作業療法士、
感覚統合学会理事、特別支援教育士スーパーバイザーほか、長崎県内外のさまざまな委員を兼任。
アスペルガー症候群の息子がおり、長崎県自閉症協会高機能部部長としても活動している。
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■ 特別寄稿 福祉映画に生涯を捧げた山田火砂子監督への追悼・2───────────────────────────────────…‥・
映画監督の山田火砂子(ひさこ)(本名山田久子)さんが1月13日、誤嚥(ごえん)性肺炎で死去した。今回は、前回に続き山田監督への追悼記事として、その映画作品を紹介したいと思う。
山田火砂子監督の映画
1996年 「エンジェルがとんだ日」*アニメ
脚本・監督:山田火砂子、プロデューサー:井上真紀子、音楽:石川鷹彦、歌:森山良子、声の出演:市原悦子、坂本千夏、飛田展男、千葉繁 ほか
ナイーヴな心を失わずに成長する知的障がい者のミキ。周囲の迷惑はお構いなしで、家族の苦労は絶えない。それでもミキの周りにはいつも笑顔があふれていた。山田監督が2人の娘と過ごした30年の実話をもとに、差別社会への疑問をユーモラスにつづった物語。
2004年 「石井のおとうさん ありがとう」
監督・製作総指揮:山田火砂子、原作:横田賢一「岡山孤児院物語」、脚本:青木邦夫・松井稔・山田火砂子、プロデューサー:井上真紀子・永井正夫、撮影:長田勇市、出演:松平健、永作博美、辰巳拓郎、竹下景子、大和田伸也、ケーシー高峰、小倉一郎 ほか
福祉という概念がなかった明治時代、一人の子どもを預かったのをきっかけに、3000人もの孤児を救い、岡山県に日本初の孤児院をつくった石井十次の波乱にとんだ生涯を豪華キャストで描く。
2007年 「筆子 その愛__天使のピアノ」
監督・製作総指揮:山田火砂子、脚本:高田浩治・松井稔・山田火砂子、プロデューサー:井上真紀子・国枝秀美、撮影:伊藤嘉宏、出演:常盤貴子、市川笑也、加藤剛、渡辺梓、小倉一郎 ほか、ナレーション:市原悦子
明治時代、夫とともに日本初の知的障がい児教育を実践した石井筆子の半生を描く。幕末に長崎県大村藩士の娘として生まれた彼女は、成人後は華族女学校で教鞭をとるかたわら、津田梅子らと女性の地位向上をめざし動き出す。知的障がいをもつ長女を、障がい児教育施設・滝乃川学園に預けたことから、園長の石井亮一と運命の出会いを果たす。
2011年 「大地の詩-留岡幸助物語」
製作総指揮:山田火砂子、プロデューサー:井上真紀子、国枝秀美、薮原信子
脚本:長坂秀佳、池田太郎、山田火砂子、撮影:長田勇市、音楽:石川鷹彦
出演:村上弘明、工藤夕貴、中条きよし、隆大介、市川笑也、さとう宗幸、石倉三郎 ほか
社会福祉法人北海道家庭学校の創始者で、児童自立支援に奔走した実在の人物・留岡幸助の人生を描く。幼いころから不平等な身分社会に苦しんできた幸助は、神学校を卒業し、牧師になる。やがて北海道・空地にある監獄の教誨師になり、犯罪の芽が幼少期に発することを悟った幸助は、少年達の感化教育に力を注いでいく。
2013年 「明日の希望-悲しみよありがとう 高江恒男物語」
監督・製作総指揮:山田火砂子、プロデューサー:萩原浩司、脚本:穂高浩、絵コンテ・演出:秦義人、音楽:石川鷹彦、主題歌:水木一郎
声の出演:水木一郎、平叔恵、星奈百合優里、磯村みどり、ナレーション:市原悦子 ほか
自らも両腕を失いながら、障害者や高齢者のための施設を多数開設した社会福祉法人「北海道光生舍」の創設者・高江常男の生涯を描く。常男は10歳の時右目が義眼となり、19歳で両腕切断の重傷を負う。口でくわえたペンで字を書く練習を重ね、やがて新聞記者の職を得る。炭鉱の町が斜陽化していく中、炭鉱事故で身体に障害を負った人がたくさんいることを知った常男は、彼らに職を与えるために、自ら創業することを決意する。
2017年 「母-小林多喜二の母の物語」
監督・製作総指揮:山田火砂子、プロデューサー:上野有、原作:三浦綾子「母」(角川文庫)、脚本:重森孝子、山田火砂子、坂田俊子、撮影:長田勇市、音楽:渋谷毅
出演:寺島しのぶ、塩谷瞬、山口馬木也、徳光和夫、佐野史郎、渡辺いっけい ほか
「蟹工船」で知られるプロレタリア文学作家、小林多喜二の母・セキの半生を描いた、三浦綾子による小説「母」を映画化。貧しい家の娘に生まれたセキは、15歳で小林家に嫁ぎ、三男三女を生み育てた。銀行に就職し、その軸足を労働運動と執筆活動へと移していった多喜二の書いた小説は危険思想とみなされ、治安維持法下で特高警察の拷問により29歳の若さで亡くなってしまう。そんな多喜二とイエス・キリストの死を重ね合わせ、先立ってしまった息子を母は信じ続ける…。
2019年 「一粒の麦 荻野吟子の生涯」
監督・製作総指揮:山田火砂子、プロデューサー:上野有、脚本:重森孝子、山田火砂子、坂田俊子、撮影監督:高間賢治、JSC 音楽:渋谷毅
出演:若村麻由美、山本耕史、賀来千香子、渡辺梓、綿引勝彦、平泉成、佐野史郎、柄本明 ほか
1851年、武蔵国幡羅群俵瀬村(現在の埼玉県熊谷市)に生まれ、幼いころから兄たちより聡明で、周囲を感嘆させた吟子。しかし、「女に学問はいらない」と隣村の名主の家に嫁に出される。そこで夫から病気を移された吟子は、今度は「子どもの産めない嫁はいらない」と実家に帰されてしまう。この無情な現実に泣いた吟子は、自分と同じように涙をのむ女性たちのために医者になることを決意する。まだ女性に医者の認可を与える制度がない時代に、吟子は男性社会の中で道なき道を歩んでいく。
2022年 「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」
監督:山田火砂子、原作:三浦綾子「われ弱ければー矢嶋楫子伝」(小学館)
出演 常盤貴子、石黒賢、渡辺いっけい、キャロリン愛子ホーランド、渡辺大、藤吉久美子、竹下景子 ほか
楫子は女子学院やキリスト教矯風会を作り、一夫一婦制、婦人参政権、禁酒、廃娼運動、アメリカでの軍縮会議に参加など数多くの功績を残す。著者、三浦綾子が、「もっと早くに、矢嶋楫子を知っていたならば、私の人生が大きく変わっていた」という言葉も残している。明治・大正という、女性が一人の人間として尊重されることのなかった時代に、女子教育に力を注ぎ、女性解放運動に捧げた矢嶋楫子の生涯を、現代を生きる女性達へのメッセージを込めて作り上げた本作。
2024年 「わたしのかあさん-天使の詩-」
監督・ゼネラルプロデューサー:山田火砂子 原作:菊地澄子『わたしの母さん』(北水)
プロデューサー:上野有、脚本:坂田俊子・山田火砂子 音楽:朱花、撮影監督:高間賢治J.S.C
出演:常盤貴子、安達祐実、落井実結子、船越英一郎、渡辺いっけい、東ちづる、宅麻伸、春風亭昇太、辰巳琢郎 ほか
知的障がいの子を育ててきた自らの経験から、ある少女の葛藤を希望として描く。障がい者特別支援施設の園長である山川高子はある日、親友から母親・清子のことを本にしないかと声をかけられた。今でこそ福祉に従事する高子だが、かつては障がい者をうとみ憎んですらいた。高子は聡明な子だったが、両親は知的障がい者でありそれを恥じた時期があったからである。知的障がい者の両親は溢れる愛で二人の子どもたちを育てるが、ある日、長女高子は両親が知的障がい者で有ることを知り、強く反発。子供は親を選べないけれども、親子の絆のかけがえのなさは簡単に他人と比較できるものなのか。
以上のように多くの福祉映画を撮り続けてきた山田監督。DVDも発売されており、最新作『わたしのかあさん-天使の詩-』は上映会もある。ぜひ山田監督の作品をご覧いただき、その功績を称え、その使命感を語り継いでいってほしい。
情報は下記現代ぷろだくしょんHP等から編集して掲載
◆はら さちこ
ライター。
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』『発達障害のおはなしシリーズ』、『10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること』などがある。
■□ あとがき ■□--------------------------
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