知っておいてほしい!「障害者就労支援」アレコレ

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2023.03.10

知っておいてほしい!「障害者就労支援」アレコレ

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■  まえがき
■□ 新連載:知っておいてほしい!「障害者就労支援」アレコレ
■□■連載:早産児の脳の特性
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■□ まえがき ■□--------------------------
自分の困り感に問題意識をもち、自分を含めた困り感をもつ人の環境を改善すべく、必要な資格をとり、団体を立ち上げて、様々な活動を展開されている下茉莉(しも まり)さん!

冠地情さんの大推薦で、今回、下さんに連載をしていただけることになりました。
ぜひご注目をお願いします。


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■ 新連載:知っておいてほしい!「障害者就労支援」アレコレ
               第1回 障害を持ちながら企業で「はたらく」という選択肢
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はじめまして!かもみぃるの下茉莉です。
私は約10年、就労相談の仕事をしてきました。

自己紹介の詳細は、スライドとHPを見てもらえると嬉しいです!
 

HP

・仕事が長続きしない
・障害があるのかも?
・障害者手帳を申請しようか悩んでいる
・自分に合った働き方を知りたい

仕事が長続きしない原因の1つが病気や障害ということもあります。
そんな時、自分に合あった無理ない選択肢を考える手伝いをしてきました。

そんな中で感じた「意外と曖昧になっている就労支援アレコレ」について、ビシバシひも解いていきたいと思います!
そしてこの連載が、障害当事者と支援者が一緒に将来を考えるキッカケになることを願っています。

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1.何のために「はたらく」のか
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「働く」という言葉は「ひと」のために「動く」と書く。
「はたらく」ことは「はた(周囲の人)」を「ラク」にすること。
会社に雇用され、給与をもらうだけが「はたらく」ことではありません!

家事をし、家計をやりくりする主婦(夫)は小さな経営者。
ちょっとした労いの行動や、安心させるための行動も周囲をラクにする。

対価はお金とは限らず、経験や人間関係など色々…。
自分が何のために、誰のために、どんな形で「はたらく」のかは人それぞれ理由や方法がある。
お金、趣味、誰かを安心させる、養う、自分に自信を持ちたい…と、何だってOK。
そのうえで、今回は「障害者が仕事をする」という視点から話をしていきます。

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2.様々な「働き方」の選択肢
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障害者が「仕事をする」時の選択肢は意外と沢山ある。
例えば、
 働き方の種類(1)

雇用契約に基づき、「働きに応じた賃金(給与)」という形で対価を得る場合、周囲をラクにすることは、「企業の維持発展のために求められることを達成できたか」で判断されます。

働き方によって、障害へ配慮してもらえる度合いも変わってきます。
自分に合った働き方を考えていけるといいですね!

ちなみに、企業で障害をして働く選択肢の中に「障害者雇用枠」というものがあります。
 働き方の種類(2)詳細

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3.「障害を伝えて(開示して)」働く選択肢…障害者雇用枠
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企業には、従業員数に応じて決まった人数の障害者を雇用する義務があります!(障害者雇用促進法)
そのため、障害者雇用枠という求人で「障害者手帳を持っている障害者」を募集しています。障害を伝えて、状態に合った勤務形態や業務内容で働くことができます。

週20時間以上働けるのであれば、
・「障害によってどうしてもできないこと」は任せない
(できる範囲の仕事を任せてくれる)
・勤務日数、短時間勤務などが可能
ということです!

 週20時間ってどれくらい?

待遇はどうでしょうか?
★賃金や待遇は一般雇用と変わらない(同一賃金、同一労働)
★雇用形態は、パートなど非正規雇用の求人が多め
これには、ちゃんとした理由があります!

 理由

そして、求められる基本的なマナーや態度、心構えは、障害者雇用枠も一般枠も変わりません。

 働くうえで求められること
しかし、障害者雇用という選択肢はまだ「賭け」の要素も大きいです。
入社したら業務内容は他の社員と同じで、受け入れ体制も整っていなかった、なんてことも…
なので、一人で就活せず「就労支援機関」に相談することをおススメします。
支援の質はピンキリですが、会社との仲介や就労後の定着支援をしてくれます。
ちなみに、民間の人材派遣会社でも対応してくれますが、就職後のサポートをしてもらえないこともあるので要注意です。

ここまで障害者雇用枠について書きましたが、あくまで1つの選択肢です!

 障害者手帳は選択肢を増やすためのパスポート

自分には支援が必要かも?と思ったら、是非検討してみてください!

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4.「障害を伝えない(非開示)」で働く選択肢と求められること
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障害の開示、非開示を最終的に決めるのは自分自身です。
苦手なことがあっても、任された仕事を「時間内に適切に」できれば、会社は雇ってくれます。周りに「過剰な負担」をかけることなく求められる成果を出せればよいのです。

非開示で働く2人の事例を見てみましょう。

 Aさんの事例

 Bさんの事例

同じ非開示でも、結果が変わったのは何故でしょうか?
・Aさんは工夫とキャラクターで苦手をカバーしながら働き、繁忙期を乗り越えることができた。
・Bさんは一人で抱え込み、病気が悪化し仕事に穴をあけてしまった…。

AさんもBさんも仕事の能力は同じくらいです。違う点は2つ。
困ったときに
・自分を理解して、障害や病気とうまく付き合えているか
・自分なりに考えて工夫ができるか
・相談ができるか

Bさんはこのままでは症状がさらに悪化し、クビになる可能性も…それは避けたいですね。
今後を考えて、「障害を一部の上司に伝える」のも1つの選択肢です。
・大幅な業務の限定をしなくてよい
・これまで通り、求められた成果を出せる
・同僚の理解が得られる
という条件がそろえば、勤務形態や業務内容を少し変えてくれることもあります。
ただし、あくまで「心遣い程度」であることを忘れずに!

目に見えない障害や病気は特別な印象を受けてしまいがち。
でも、考え方は育児・介護休暇と変わりません。
事情を伝え、折り合いをつけた勤務形態、業務内容にするということです。
話し合っても無理な場合は、障害者雇用枠を検討してもよいかもしれません。

 給与について

・仕事内容を限定されたくない
・生活費が必要
・養わなきゃならない
だから障害は開示しないという考え方も、もっともだと思います。
ただし、「著しい配慮がない状態」で「求められた成果を出せるか」を忘れてはいけません。
・自分で工夫し解決する力
・相談、交渉する力
はかなり求められます。

・苦しいなりに一般枠で頑張る
・一般枠で試してみて、無理だったら障害者雇用枠を検討する
・福祉サービス利用や障害者雇用枠を経てステップアップする
・障害者雇用枠で働いて自信がついたら一般枠へ転職する
色々な方法があります。
「無理をして自分が壊れてしまわない方法」「自分が納得できる方法」を選んでほしいです。

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5.何をするにも必要な「建設的対話」と「納得」
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一番大切なのは「自分と相手が納得できているか」です。
「建設的な対話」とは、お互いにwin-winを目指してアレコレ話し合いを続けることです。
相手がいる以上、自分が納得するだけでは押し付け、我儘になります。

・苦手なことは全部配慮してほしい
・できないことは多いけど長時間働きたい
・とにかく給料は沢山ほしい
これは企業にとって負担にしかなりません。

しっかり話し合って中間点を見つける必要があります。
中間点を見つけられない人はどこで働いてもうまくいきません。
(企業も同じ)

また、良かれと思ってでも勝手に、会社の視点だけで業務を減らされたらどうでしょうか? 嫌な気持ちになりますよね?

 求める方も、求められる方も

ブラック企業は論外ですが、グレーな会社は沢山あります。
多かれ少なかれ無理難題を言われたり、正論が通らないことも…
そんな時、愚痴や批判ばかりでは何も解決しません!
支援機関に間に入ってもらうのもありです。

企業側も配慮できること、できないことは「事前に」「具体化・明確化」しておきましょう。
後出しになる程、お互いにやりづらくなります…

業務が明確でマネジメントが上手い企業は、障害者かどうかに関わらずうまく人を雇うものです。
具体的な基準に基づいて、お互いに確認し合うこと!
「思うような結果が出れば尚よし!」くらいの気持ちで話し合いを続けること。
対話により、納得して選択できるかが、どのような場面でも大切なことですね。

【スライド12】働きつづけるためのバランス(企業と労働者)
 

■下茉莉(しも まり)
発達特性との付き合い方を考える会「かもみぃる」代表。精神保健福祉士と社会福祉士の資格を持つ、発達障害と発達性トラウマ障害の当事者。障害受容、診断が出た後の相談先や利用できる支援、選択肢が分からずに悩んだ経験を活かし、制度の狭間(グレーゾーン)に落ちてしまう人達の就労支援に力を入れてきた。七転び八起きの精神と突破力で突き進む!
HP
Note
 

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■ 連載:NICUの赤ちゃん達の現在と未来
             第4回 早産児の脳の特性
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前回まで、NICUに入院してくる赤ちゃん達の現状を知ってもらい、その負担を少しでも軽くしてあげたい!という思いについて解説してきました。第4回では少し専門的な解説も入りますが、早産児の脳のミクロの世界に触れながら、発達について考えてみたいと思います。

脳は左右対称な形で2つに分かれていて、大脳の後下方の中央に小脳があり、下方は中脳、橋(キョウ)、延髄、脊髄へと繋がっています。脳表面の帯状の層はやや灰色がかっているので灰白質と呼ばれ、ここに神経細胞(ニューロン)が並んでいます。神経細胞から神経線維が伸びて全身に分布しますが、神経線維は束となって(神経線維束)まとまった走行をしていますが、白っぽく見えるので白質と呼ばれています。

神経細胞から伸びた神経線維束は、脳の深部にある脳梁、前交連、後交連で交差して対側へと向かうため、成人では右脳は左側の神経系を、左脳は右側の神経系を支配する対側支配が原則となっています。一方、新生児期には同側支配といって、右脳が右側の神経系を、左脳が左側の神経系を支配する同側支配のルートも存在しています。

※図1 脳の外観 東京大学脳神経外科・頭部3DCGデータベース

※図2 脳の断面像(これはフリーイラストです)

成長に伴ってこの同側支配のルートは消えてしまいますが、生後早期に左脳の一部がダメージを受けると(通常は右側に症状が出ます)、対側の右脳の同側ルートが居残ってそれをカバーしてくれるため、成長しても全く症状が出ないということもよくあります。この点が、脳の場所によって役割分担がはっきりしている成人と新生児との大きな差です。

さらに、新生児では脳の可塑性と呼ばれる神経修復機能も高いため、画像だけでは新生児の長期的な神経学的予後を正確に予測することは難しいと考えられています。最近、ある特定の神経線維束を同定して画像化する「拡散テンソル画像」という技術も開発されたので、今後の技術革新によって、より正確な予後予測ができるようになるかもしれません。

※図3 脳の拡散テンソル画像(名古屋大学 脳とこころの研究センター ホームページ 一部改変)

満期で出生した場合、神経細胞の数は出生時が最も多く、不要と判断された細胞はどんどん処理されて消失し、3歳の時点では出生時の3割まで減少、つまり必要な数だけ残しておくように絞り込まれていきます。リンゴを育てる時に「不要な実は刈り込んで、大きくなれそうな、いい実だけを残しておく」という摘果に似た作業が、頭の中で自動的に行われていることになります!

発達過程で不要と判断された神経細胞はアポトーシス※1を起こして減っていきますが、逆に、神経細胞間で情報伝達を行うシナプスの数は急速に増えていきます。神経細胞は軸索と呼ばれる太くて長い幹を伸ばして神経の命令を伝えますが、それ以外にも樹状突起と呼ばれる細く複雑に伸びる短い枝を神経細胞の周囲に張り巡らせます。その枝どうしがシナプスという形で連携し、より複雑な神経ネットワークが形成されていきます。この詳細についてはYoutubeの動画をご覧になっていただくとわかりやすいと思います※2。

※1 アポトーシス 個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺、プログラムされた細胞死のこと

※2 科学フロンティア15 脳の中の「点と線」~神経回路とシナプスの謎に迫る研究最前線~
  
このシナプスの増加によって、より複雑なこともできるようになり記憶量も急速に伸びていきます。新生児は指全体を屈曲させるか伸展させるか、単純で全体的に同じ動きをとるため、物を握ることはできてもつまむことはできません。8-10ヶ月で指の関節をそれぞれ独立して動かせる(関節の分離運動)ようになって、初めて3本指つまみ、さらには2本指つまみができるようになります。

2本指つまみをするためには、筋線維それぞれに脳から独立した指令を出している訳ではなく、つまむことに関連した脳の部位だけを特異的に活性化させ、まとまった動きとしてパターン化した指令を出しています。これによって、あまり意識しなくても楽に2本指でつまめるようになる訳です。

指の筋肉を意識しながら、2本指でゆっくりOKサインを作ってみましょう。母指と示指の屈筋を徐々に収縮させて輪の形をつくるわけですが、収縮運動に拮抗するそれぞれの指の伸筋を徐々に弛緩させ、両者をうまく連動させなければスムーズに輪を作ることはできません。OKサインの2本指を開くときは、これとは逆に伸筋を強く収縮させながら屈筋を緩める動きになります。また、この動作だけを限定して行っている時には、他の体の部位の筋緊張を無意識のまま適度に保っておく必要もあります。

2本指だけを動かしているつもりでも、よく見てみると中指も一緒に少し動いていませんか?そういう方はピアノのなど楽器の経験が乏しいかもしれません。ピアノの初心者がピアノを弾くと、「他の指も一緒に動いてしまう」「右手で弾くと、反対側の左手の指も一緒に動いてしまうのでうまく弾けない」ということがよく起こります。これも、同側や対側の指の関節分離運動が不十分なためですが、経験によってシナプス回路がうまく出来上がると、ピアノも上手になっていきます。自分の指を見るだけでも意外な発見ができます。

このように考えて見ると、2本指でつまんだり、それを離したり、という一見単純な行動であっても、とても複雑な過程を微調整しながら動かしている!ということが実感できることと思います。早産児や新生児仮死で出生したり、脳出血や脳梗塞などによって脳がダメージを受けると、こうした微調整がうまくできずに不器用さとして症状を残したり(発達性協調運動症)、脳のダメージが強いと、伸筋や屈筋が強く収縮して手足がつっぱるようなタイプの脳性麻痺(痙性麻痺)となってしまいます。また、脳の深部の大脳基底核(※図2)がダメージを受けると、自分の意志とは無関係に顔や四肢がクネクネとう動いてしまうアテトーゼ、ブルブルと細かく震える振戦が目立つなど、不随運動を合併することもあります。

神経細胞は運動面以外にもいろいろな形でネットワークを作っています。リンゴを頭の中で思い浮かべてみましょう。リンゴを見て、それをリンゴと認知するためには、まず目から入った視覚情報が脳の後方に位置する神経線維束(視放線)を経て視覚野に入り、そこから脳のいろいろな場所へとネットワークで繋がって、見ているものをリンゴと認識します。リンゴを見た時には、リンゴの形、色、味、食べたときの食感、香り、かじった時の音、空腹感、食べたときの想い出、リンゴの皮をむいたときの記憶など、リンゴひとつとっても、リンゴが単なる物体として存在しているだけでなく、様々な記憶情報と結びついて存在していることがわかります。

そのためリンゴを見ただけでも、一瞬のうちに関連する脳内のいろいろな場所がパッと活性化され、その中でインパクトのある部分がより強調されて意識に昇ってきます。一方、後頭葉の視覚野にたどり着くまでの白質(視放線)や視覚野自体がダメージを受けると、リンゴが見えていてもそれをリンゴとして認識することができなくなります。神経細胞のネットワークの構築が「人が人として生きる上でいかに重要か」ということが理解できるかと思います。

神経細胞は脳表で6層に並んで灰白質と呼ばれる層をなしていますが、脳の表面には皺があります(※図1)。脳の皺(脳溝)はなぜ存在するのでしょうか? 限られた面積を有効に使うためには、皺があった方が有利です。脳の表面積が増えれば、そこに並べられる神経細胞の数も増やせるため合目的と言えますが、最近、離れた領域をつなぐ神経細胞の物理的な引き寄せる力によって脳溝ができることがわかってきました。複数の神経細胞が異なる皮質領域に軸索を延ばし、2つの領域を強く引っ張ることで脳表がへこんで脳溝ができ、逆に弱い力で引き合う部分は隆起して出っ張るため脳回になるという理論です。テーブルクロスを左右押しながら中央に寄せれば皺ができますが、へこんだ部分が脳溝、盛り上がった部分が脳回ということになります。皺を作ることによって両者を結ぶ距離が短くなるため、神経伝達速度も早くなり、処理能力もアップします。

在胎22週で出生した赤ちゃんの脳は小さく未熟で、脳表面には皺もなくツルツル状態で出生してきます。そこから18週間かけて、分娩予定日を迎える頃までには、成人と同じ様な皺のある脳へと成長させなければなりません。建物に置き換えてみると、鉄骨と部屋の枠組みといった基本構造は既にでき上がった状態で出生しているので、出生後に内装や外壁を整え、家に合わせた家財道具を揃えていくことになります。

プログラミングされた変化とは言え、18週間という短い期間でここまで脳が大きな変貌を遂げる!というのは、驚異に値すると思われます。もしかすると、オーダーメイドの住宅を建築して、家具を納入することを考えると、それよりも早いかもしれません。

※図4  在胎週数別の脳の外観 (Van Essen Lab ホームページ)

次に、脳のミクロレベルの変化を考えて見ましょう。脳の神経細胞は脳の中心部の上衣下胚層という場所で増殖し、在胎週数が進むにつれて少しずつ脳の表面へと移動して、最終的には灰白質で6層構造となります。新しく生まれた神経細胞はその前に生まれた神経細胞を追い越すように脳表面へと移動し、いろいろな蛋白質や線維成分、それを補助する様々な細胞によって導かれていきますが、神経細胞の移動に乱れが生じると、その後の発達にも大きな影響を与えます。頭部MRIで一見正常に見えていても、細胞レベルの微細な異常、神経伝達経路の異常が起きれば、発達遅延や不器用さにつながる可能性があります。

※3 neuronal migration(神経細胞の移動)Hidenori Tabata  ホームページ

神経細胞が小さく細い突起を出して周囲を探りながら、脳の深部から脳表面(皮質)に移動していく姿を見ることができます※3。

早産児では神経細胞の増殖が盛んに行われています。先に述べた上衣下胚層では、酸素やエネルギー消費量も多くなるため、多くの血流を必要としますが、そういう部位の脳の血管壁は薄くて脆弱なため、容易に破綻して出血を起こしてしまいます。出血が少量なら何とか自力で止血できますし、被害も最小限に留めることもできますが、中等量以上の脳出血を起こすと、その周りの脳組織にもダメージを与えるだけでなく、出血した血液や髄液が脳室内に貯留して出血後水頭症を合併するなど、ネガティブな相乗効果をきたしてしまいます。

早産児は脳血管の発達も未熟で、側脳室周囲の白質、特に後方に位置する三角部がダメージを受けやすく、脳室周囲白質軟化症※4を合併することもあります。病変が運動に関連する神経線維束(皮質脊髄路)に及べば脳性麻痺に、視覚に関与する神経線維束(視放線)に及べば視覚認知に問題が生じます。運動面では特に下肢の方に症状が強く出やすく、脳性麻痺になると歩行用の装具を作ってもらうこともありますし、さらに重度ならば、自力で歩行することが難しくなり、車椅子やバギーで移動ということもあります。前頭葉の広い範囲まで影響が及べば知的発達にも遅れが生じ、脳の側方の側頭葉にダメージが起きれば、音は聞こえても認知できない聴覚失認が起きてきます。

※4 脳室周囲白質軟化症 脳室の周囲の白質が虚血によって部分的に壊死し、多発性の脳軟化をきたした状態

早産児では、特に生後1週間は呼吸・循環管理に細心の注意を払って赤ちゃんのケアに当たっています。この時期を過ぎると、脳血管も丈夫になって脳出血を起こす頻度はぐっと減ります。ただ、脳の虚血による脳室周囲白質軟化症やびまん性白質障害は、生後1ヶ月くらいの間に合併しやすいので気が抜けません。脳室周囲白質軟化症は在胎28週から32週くらいに起きやすいのですが、びまん性白質障害は脳血管全体がより未発達な児で合併しやすいと言われています。両疾患ともに脳性麻痺や発達遅延、発達性協調運動症、自閉スペクトラム症などを合併するリスクが高くなります。

最後に明るい話題として・・・今、名古屋大学を中心として愛知県内の全NICUが協力して、重症仮死に対して、多様な細胞に分化する可能性のある幹細胞(ミューズ細胞)治療の研究が進められています。成熟児の重症仮死で有効性が認められれば、いずれ早産児の脳障害にも適応が広げられるようになるため、新生児医療にとって大きな福音となることを期待しています。

※5 株式会社生命科学インスティテュート

◆田中太平(たなか たいへい) 
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院新生児科部長(2023年3月まで)
NICUスーパーバイザー CEO(2023年4月以後)


■□ あとがき ■□--------------------------
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