「医教連携」による教養教育及び教員養成科目の開講

メルマガ情報
MAILMAGAZINE

2022.06.24

「医教連携」による教養教育及び教員養成科目の開講

----TOPIC----------------------------------------------------------------------------------------
■  連載:「医教連携」による教養教育及び教員養成科目の開講
■□ 連載:就職塾の生徒たちの成長
---------------------------------------------------------------------------------------------------
 
───────────────────────────────────…‥・ 
 ■ 連載:発達障害を支える教員の養成 
              第3回:「医教連携」による教養教育及び教員養成科目の開講(最終回)
───────────────────────────────────…‥・さて、今回は本題です。やっと、「医教連携」による教員養成課程必修科目の開講のお話をいたします。
長崎大学では、佐世保での事件をきっかけに、大学内の発達障害に関わる研究者が集まり、「医教連携」をコンセプトに、発達障害をはじめとする子どもの支援に関わる専門職の質の向上を目指して、『子どもの心の医療・教育センター』を立ち上げました。長崎というエリアの行動専門職養成、発達障害に関わる人々の専門性を高めることに寄与する拠点です。

立ち上げ以来、センターではスタッフが地域のアウトリーチに出かけていき、学校や幼稚園、保育園、福祉施設のコンサルテーションを積極的に行っています。併行してe-learningによる履修プログラムを開始し、たくさんの修了生を輩出してきました。一方で大学病院では2016年に、地域連携児童思春期精神医学診療部を立ち上げ、一定の研修プログラムを受講した医師の「子どもサポート精神科医」の認定を始めました。

地域人材の育成と支援は、スタートできました。残るは、大学という教育機関である以上は、大学生(院生含む)をどう育てるか、というミッションです。それぞれの専門から見た子ども理解、子ども支援のスキルにとどまっている実態を何とかするためには、発達障害の支援者養成の段階で、支援者が持つ『共通言語』をつくろう。特に、学校教育の場で、発達障害の理解促進をする意義は大きい、と考えました。

これまでの発達障害がかかわった触法の問題は、障害特性そのものに由来する行動ではなく、周囲の理解のなさや不適切な関わりに端を発する二次障害の蓄積と言われています。

子どもの日常の場である学校の場で、適切な理解と支援が提供されることは、何よりも重要です。教員の、養成・採用・研修のそれぞれの段階での、発達障害の理解促進と支援スキルの獲得は、二次障害の軽減と予防に直接的に関与し、子どもたちの未来をも左右するだろう、と。また、発達障害の子どもたちのみならず、すべての子どもたちにとって、学校教育の場で、何を見るか、何を知るか、何を考えるか、は、先生が教えてくれること、先生の態度や考え方が最も身近なモデルとなることから、共生社会の実現は学校に大きく依存するのです。

前回まで、私自身の経験と回想にお付き合いいただきました。長々とした回想のなかで主張したかったことは、医療・教育・福祉の真の連携がなければ、発達障害の支援は実現しないということです。

私の主観的な印象かもしれませんが、佐世保の事件の後に長崎の教育現場に残ったものは、「疑わしきものは医療につながなくては」という、先生方のいわば強迫的な考え、怯えでした。
それだけ先生方の傷つきは大きかったのです。

早期に気づき、医療につなぐことは、支援の決め手になる、非常に重要だと思います。私は、短い病院での勤務で、それを目の当たりにしてきました。しかし、私が感じた長崎の皆さんの怯えの根底にあるもののひとつには「学校・教員のせいになってしまわないように」があったように思います。時には医療につなぐことそのものがゴールになってしまうことも多く目にしました。また、「もうお医者さんにも見てもらっているから、特に学校では何もする必要はない、十分手厚い」「個別の支援は学校の仕事ではない」という意見もありました。もちろん支援に前向きであり、学校を変えていこう、この子に一番良い学校を考えていこうという先生方がいなかったわけではなく、その大きな潮流があることを感じつつも、いわゆる温度差がいつまでも存在するのです。

医療での診断や治療は、これからはじまる、子供と家族への包括的な支援の一部です。医療での診断や治療を受けて、学校がこれから何をするのかを考え計画し実行する、医療とも連携して支援を始める、スタートラインです。診断がでた、で終わってしまってはいけない。医療につながっていないからと焦って何もできない、ではだめでしょう。

ICF(国際生活機能分:WHOが2001年に採択した人間の生活機能と障害についての分類法として、生きることをどう考えるかの共通言語であると言われている)では、障害は個人の心身機能が原因、という従来の医学モデルでのみ説明されるのではなく、医学モデルとともに、障害は個人の状態と社会の在り方があっていないことが原因であるという社会モデルを取り入れた障害観と、それに基づく支援が当然のものになっています。ICFは医療だけではなく、教育や労働、経済や社会政策や都市計画、立法においても共通言語とされています。

そうです。私が医療と教育と福祉の現場間をふらふらとしながら30年はたっています。その間、ICFという共通言語が世に出てすでに20年がたっている一方で、医療と教育はまだ十分には手を結べていないことを、またまた痛感するのでした。

私たちは、大学という教育機関がすべきことは、まずは支援者養成であり、特に教員養成だろう。教員養成を主たる目的である教育学部はもちろん、他の学部でも教員免許を出しています。特に教員養成学部以外の学部では高校教員免許を出しており、高等学校における発達障害支援が教育現場の課題となっている昨今では、重要です。水産学部でも理科・水産(高校)、多文化社会学部でも英語(高校)、工学部では理科・工業(高校)を出しています。

どうやったら全学の教員免許取得者が履修できる科目を設定できるだろうか。

最初に考えたのは、発達障害を専門に学ぶ教育学部特別支援教育コースと、保健学科作業療法コースの共修科目でした。
しかしなかなか、学部を超えた共修科目を作るのは、教務的に高いハードルが存在しました。まず、それぞれの学部・学科の特徴を踏まえ、資格や免許を取るための課程が定められています。意義があるからといって勝手には授業を創設することは難しいのです。また、こうした資格や免許を取得する課程の学生は、実習や実験も多いので、世間一般のイメージとは違い、かなり忙しい生活を送り、日々課題や授業準備におわれています。様々な方法を検討し、協議しましたが、断念せざるを得ませんでした。
しかし、教員養成や支援者養成に、発達障害理解・支援の科目を入れたい、という思いまでは断念できません。

このような模索が続いているなかで、教育職員免許法(2016年11月)及び同法施行規則の改正(2017年11月)が発表、2019年4月1日の試行が通知されました。
そして、教職課程コアカリキュラムとして「特別な支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目を設置することが義務付けられました。

教職課程コアカリキュラムとは、教職課程を設置する大学等は必ず開講しなければならず、また教員免許取得希望者は履修しなければならない必修科目です。そのうちの、【教育の基礎的理解に関する科目】6科目は、現代の教育課題を解決し、教員の質の向上を目指すために設置された、まさに教員養成の柱となる科目で構成されています。

「特別な支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」

全体目標:通常の学級にも在籍している発達障害や軽度知的障害をはじめとする様々な障害等により特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒が授業において学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら学び、生きる力を身に着けていくことができるよう、幼児、児童及び生徒の学習上又は生活上の困難を理解し、個別の教育的ニーズに対して、他の教員や関係機関と連携しながら組織的に対応していくために必要な知識や支援方法を理解する。

この科目は、従来の特別支援教育が対象にしていた、知的障害、肢体不自由、病弱及び視覚障害、聴覚障害という6つの領域をすべて学ぶことのみならず、発達障害や軽度知的障害に対する支援の必要性を明確にし「通級による指導」や「自立活動」を理解すること、加えて障害はないが特別の教育的ニーズのある子どもたち、例えば母国語や貧困等の問題も学修することを求めています。
特別な教育的ニーズは、すべての子どもたちが持つ可能性があるのだ、という文部科学省の強い意志を感じる科目です。その中でも、発達障害は教員になるものは絶対に理解しなければならないのだ、ということが明確に示されてもいます。

長崎大学教育学部にはすでに1年生の必修科目としてほぼこの科目に対応できるような科目である「障害児教育論」(1単位)を先行して設置していたので、内容の微調整で対応できたのですが、問題は教育学部以外の、全学それぞれの学部の教職課程でした。教員養成以外の学部でどうやってこの科目を開講するか、免許法改正対応の大きな課題となりました。

この、免許法改正対応のタイミングと、私たちが作りたい共修科目の意図が、一致しました。
そして全学に開講される科目である、教養教育科目なら可能であることがみえてきました。
教養教育科目は、低学年が受講することが多く、ほとんど知識のない状態ではあるけれどそれぞれの専門課程に入っていく前に学ぶことができます。一方で、教養教育に設定すると、履修選択の自由度が高くなり、もともとの学習動機が高い学生しか履修しない、という問題が生じます。
しかし、教養教育科目の中に教職共通科目を開講すれば、どの学部も履修できるし、教員免許取得希望者は全員必修となります。すでに似たような科目があるにしても工夫次第で教育学部の学生も学びを深めることができます。また教職課程と全く関係なくても履修ができます。

教職課程コアカリキュラムとしては1単位(8回)が求められているところではあるけれど、これを2単位(16回)にして、医教連携をコンセプトとした科目を設置しよう。そして、長崎大学における特別支援教育や発達障害を専門とする研究者、医学部及び大学病院、医学部保健学科、教育学部のそれぞれの研究を活かした授業をしよう。
ここに、医教連携をコンセプトとした科目「特別な支援を必要とする子どもの理解と支援」の開講にこぎつけました。

この科目の中では、教員免許法の主旨を大きく外れずに、医学からみた発達障害の理解で重要なこと・特別支援教育学からみた発達障害の理解で重要なこと・心理学からみた発達障害の理解で重要なこと。そして、子どもたちにかかわる教員や支援者が、必要以上におびえることがなく、子どもたちをどう理解するのか、支援に必要なことを考えることができるように、医学・教育は独立した学問であるけれど、共に考える学問であることを伝えるようにしています。

それぞれの世界は決して狭量ではなく、共に考えなければ解決に至らないこともあることに気づくことができるように、教員になろうとする学生には、医療につなぐことだけがゴールではなく、つながってからが支援のスタートであることを伝え、医療に係ろうとする学生には、子どもの日常である学校や家庭で生きる子供の姿を可視化できること、そんなイメージを持っています。

医療・教育・福祉の真の連携がなければ、発達障害の支援は実現しない。
教員や支援者になる学生がこの学修で到達すべきポイントです。
私が30年かかった結論を、学生には3日かけて、私たちの想いを含めて学んでもらいたいと思っています。

こうした思いをまとめた、授業の教科書を作りました。
長崎大学子どもの心の医療・教育センター 監修 

医教連携のコンセプトについても解説しています。機会があればお手に取っていただければと存じます。

◆吉田 ゆり(よしだ ゆり)
長崎大学教育学部・教育学研究科 教授。専門は発達臨床心理学。
公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士、そして保育士でもある。


───────────────────────────────────…‥・ 
 ■ 連載:発達障害などの子どもが将来希望の就職を実現するための就職塾 
              第3回 就職塾の生徒たちの成長
───────────────────────────────────…‥・
社会性やコミュニケーションなどに苦手さのあるお子さんが早くから将来の就職に向けて準備するための就職塾の取り組みについての3回目です。
就労支援事業所ペガサス代表の木村さんと、教育現場で教員一筋にがんばってきた高梨さんとの2人の思いが通じ合い、実現したものです。
今回は、ペガサス就職塾に通う生徒たちの成長について具体的にお伝えします。

生徒たちの成長について
◎全員が一人で通えるようになりました。
 徒歩20分ほどかかる生徒、バスで通う生徒もいます。
 最初は、お母さんと一緒に参加、自家用車での送り迎えが 当たり前の生徒もいました。
◎書く力や読む力、話す力が向上しています。
◎客観的に自分を見る力が高まり、自己コントロールができるようになってきました。
◎困った時に人に頼むこと、わからないことの質問が出来るようになりました。
◎仕事の工夫や友達と協力する場面が増えました。

成長の具体例 Aさんの例
# 個人情報がわからないように、プロフィールなどを変えているところがあります。

Aさんは、開塾当初、小学校の6年生で、自閉症スペクトラムと軽度知的障害の特性があり、特別支援級学校に在籍していた人です。
現在は中学校2年生になっています。

最初は、見知らぬ場所や新しい人への不安が強く、お母さんが常に隣にいる状態でした。次の段階では、母親が隣の席から離れて別の場所で見守るようになり、その次の段階では送り迎えをしてもらい、通うようになり、今は1人で、徒歩で塾まで来ています。

就職塾の活動で、最初に今週にあった良かったことを皆の前で発表します。
Aさんは、その準備のために毎日良かったことを書き留めていました。
それを見ながら発表するので、とてもたくさんのことを発表することができます。先生からもたくさん褒められて、自信がついていき、それが塾に行く楽しみにもなっていたようです。

また、回覧板の活動での報酬を使って買い物に行くことが楽しみでした。
最初は、出納帳をつけることが難しかったけれど、教わりながらだんだん収入や支出をつけられるようになり、今では一人で出納帳もつけられるようになりました。

子どもたちの自尊心を育むために大切にしていること
・個性を大切に、子どもの思いを聴く → あるがままの自分を承認
・小さな変化に気づき、よくほめる
・体験や経験を重視する
・コミュニケーションの場を多くする
・アサーション※1な話し方(アイメッセージ※2)
・前向きな考え方

※1「アサーション」とはコミュニケーションスキルの1つ。「人は誰でも自分の意思や要求を表明する権利がある」との立場に基づく適切な自己表現のこと
※2「私は」を主語にして主張する方法

次回は、これからの展望についてくわしくお伝えします。

フリー編集者・ライター 
 障害福祉や教育関係の書籍や雑誌、進学情報誌等の編集や取材・ライティングを行う。また、執筆だけでなく、コミュニケーションや発達障害についてセミナーやワークショップ講師としても活動中。
全国手をつなぐ育成会機関誌『手をつなぐ』では、映画や本、舞台の評を不定期に連載中。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』などがある。
2021年3月、平凡社より「発達障害のおはなしシリーズ3巻」、大月書店より「10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること」上梓


■□ あとがき ■□--------------------------
次回は、通常より1週間先の7月15日(金)となります。
新連載を予定しております。お楽しみに。

メルマガ登録はこちら

テーマからさがす

全ての記事を表示する

執筆者及び専門家

©LEDEX Corporation All Rights Reserved.