発達障害を支える教員の養成

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2022.05.27

発達障害を支える教員の養成

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■   まえがき
■□  新連載:発達障害を支える教員の養成
■□■ 新連載:発達障害などの子どもが将来希望の就職を実現するための就職塾
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■□ まえがき ■□--------------------------
2017年11月に長崎大学で行われたシンポジウムに出席しました。

子どもの心の医療・教育センターシンポジウム

上記ページ記載のように、教育と医療を連携して発達障害児者を支援しようという構想が発表され、それに感動したことが昨日のことのように思い出されます。その取り組みを本メルマガで解説してもらいたいという願いが、今号からの連載で実現します。しかも、中心人物のお一人である吉田ゆり先生にご寄稿いただけ、感無量です。

もう一つの連載は、定期的にご寄稿いただいている原佐知子さんが、発達の困りを持つ子どもが希望の就職を実現するための就職塾をご紹介してくださいます。

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 ■ 新連載:発達障害を支える教員の養成 
              第1回:なぜ「長崎」で人材養成が必要だったのか
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障害のある子どもの教育は、現在、『特別支援教育』という包括的な名称で呼ばれています。そのなかで、発達障害のある子どもの教育は、喫緊の課題であることを認識されながら、制度的には常に微妙な位置づけで置かれてきました。

今回の連載では、教員養成のなかに、どうしたら発達障害のある子どもの教育を、特別なことだけではなくて、教育の中に当然学ぶべきこととして位置づけられるか、ということを模索し、制度改正とともに今に至る、長崎大学の、『医教連携』をコンセプトとした教員養成の取り組みをお話ししたいと思います。

ここでお話しする“教員養成”とは、教員養成を主たる目的とした学部である教育学部のみならず、教員免許を出しているすべての一般学部をも含んでいます。

まず、教員養成の話の前に、この20数年間で起こった、長崎と発達障害のはなしをしなければなりません。

長崎県では、2003年、2004年、2014年と発達障害と関連の深い3つの事件が続きました。様々な検証がいまだ続いている中でもありその詳細について私がここでお話しすることは控えますが、地域貢献を役割とする長崎大学でも、自分たちがなにをすべきだったのか、今後なにをすべきか、関係者が重ねて検討を行いました。
 
長崎大学には、発達障害研究に携わる研究者は、実はたくさんいます。

医療領域では、医学部や大学病院で器質的な面からの基礎研究がなされていますし、精神科や小児科における診察・診療実績も多くありました。薬学部では薬理学や薬品開発が、保健学科では看護、理学療法、作業療法それぞれがアセスメントやアプローチ法など支援方法に関する研究や実践を行ってきました。特に作業療法学専攻では、感覚統合アプローチをメインとして、子どもや保護者への直接支援を行い、発達障害児者の支援のリーダーシップをとってきました。

さらに教育学部では、特別支援教育コースが設置され障害児教育(教育・心理・生理病理)を専門とする教員が専門教育を行っておりますし、小学校教育コース・中学校教育コース・幼稚園教育コースでも特別支援学校教諭免許を取ることができます。実は、これまで毎年、特別支援学校教諭免許取得者は60~100名と非常に多く、おそらくこの数値は全国でもトップと思われます。また教育現場へのコンサルテーションを中心とした訪問事業も、かなりの実績をあげてきました。

専門家がいない、というわけではない。研究をしていないわけでもない。直接支援も行ってきた。
ではこれから、私たちは長崎で何をすべきか。

私たちの出した結論は、2つです。

発達障害を専門とした研究者が、学部・研究科を超えたかたちで知を集約し、協働する必要がある、ということ。
発達障害をはじめとした子どもの様々な課題に対応できる人材養成に焦点化した取り組みを行うこと。

この2つの点を具現化するために設置されたのが、長崎大学子どもの心の医療・教育センターです。

このセンターでは、医学部保健学科作業療法専攻、教育学部特別支援教育コース、大学病院地域連携児童精神医学講座の3つの組織と所属する教員で構成されています。

長崎県内の子ども達に関わる多職種の連携、ネットワークづくりと、子どもの支援にかかわる職に携わる一人ひとりへの支援が今こそ必要なのではないか。子どもと関わる際に必要な専門性とは何か、現場の支援ニーズはなにか。どことどこ、誰と誰、がどう連携すれば有機的なつながりになるのか、地域の中でみなで一緒に学び直そう。そんなことを目標に掲げています。

具体的には以下の3つをその機能としています。

1) 地域の発達障害児等への医療・特別支援教育 双方の視点を踏まえた高度の支援スキルを持つ人材を育成すること
2) 発達障害等によって困難を抱えている児童への支援をすること
3) 医療、教育、療育、保健、福祉、就労等を行う関係機関との連携を強化して子どもの心の支援のためのネットワークを構築すること

ですので、この子どもの心の医療・教育センターには、子どもや保護者への直接支援機能は含まれておりません。
通常、このような大学のセンターは、子どもと保護者が相談、専門的支援や療育を受けるために利用するような直接支援を機能としているような印象を受けると思います。

直接支援については、このセンターの設置と前後して

大学病院では、大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部が設置され、発達障害をはじめとした児童思春期の問題への診察・診療、発達障害に強い児童精神科専門医の養成がなされています。

教育学部では、教育学部教育臨床センターを設置しました。従来の教育相談室に加えて、発達障害及び知的障害の直接支援部門である支援ラボを開設し、長崎県教育センターや附属学校と連携した実験的協働システム運用研究と、外付けの通級指導教室をコンセプトとした直接支援として応用行動分析やソーシャルスキルトレーニング、心理臨床的なアプローチなどを用いた個別支援を行っています。

そして、医学部保健学科では作業療法専攻の教員らが、感覚統合アプローチによる直接支援を継続しています。

ですので、繰り返しになりますが、子どもの心の教育センターは、それぞれの直接支援の場を背景に持ったうえで、学部・研究科、組織の壁を越えて大学の知を集約し、長崎の発達障害等の子どもの支援にかかる人材育成を行う、機関なのです。

まず、人材育成の事業としてセンターでは、子どもの心の支援にかかわる高度人材育成プログラム(e-learning)を始めました。教師、臨床心理士等、保育士、療育関係者、保護者等を対象として、講義・演習をオンラインで受講できるプログラムです。現在は3コース制になりました。40講義×3コースが設置され、毎年たくさんの実務家の方が受講されています。はじめは長崎県に限っていた受講者も、全国に広げることができました。

次に、学校・保育園などへの訪問支援を行いました。センターのスタッフが、実際に学校や保育現場に行きコンサルテーションを提供しています。
さらに、県内各機関での関係機関やネットワークづくりとして、アウトリーチ※や研修会、連絡協議会への講師派遣です。

※編者注 支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス。声なき声プロジェクトより引用。
 
そして最後には、大学内の、これから教師になろうとする学生の教育、教員養成をどうするか、という課題が残りました。発達障害に関わる援助専門職はたくさんありますが、そのなかでも学校教育における教員は、代表的な職種です。そして子どもにとっても、学校で過ごす時間の長さ、教育の重要性は何を置いても重要なものであることは疑いはありません。センターが目指す人材育成のターゲットとしても、教員は欠かすことはできません。

教育学部ではもちろん、特別支援教育の視点は重視されてきました。カリキュラムも教職課程のルールに基づいて整備されています。直接支援の場も設置しました。

でも、もっと何かができるはずだ。

また、教員免許を出しているのは、教育学部だけではありません。

工学部では高校理科・工業、環境科学部では高校理科、水産学部では高校理科・水産、経済学部では高校商業、多文化社会学部では高校英語の免許が取得できます。

子どもにとっては、学校の先生がどの学部の出身でも、先生に変わりがありません。どの学校種であっても、発達障害の子どもは在籍しています。
であるならば、どこで教員免許をとるにしても、発達障害を知らなくていいわけではありません。特に、長崎で学ぶ学生は、これまでの長崎の思いを汲んで、知識だけではなく、支援の在り方も、しっかりと学んでほしい。

子どもの心の医療・教育センターが、医学部と教育学部が主になって、学部・組織横断的な人材育成を目的として掲げているからには、全学的な教員養成に、また教育学部の教員養成に、教員養成だけではなく援助専門職養成にも波及できるように、さらに何かできるはず。

「医教連携」による発達障害をはじめとした子どもの理解と支援のための科目を作りたい。

そこから、私たちの模索が始まりました。

次回、その模索と科目の開講についてお話しできればと思います。

◆吉田 ゆり(よしだ ゆり)
長崎大学教育学部・教育学研究科 教授。専門は発達臨床心理学。
公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士、そして保育士でもある。


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 ■ 連載:発達障害などの子どもが将来希望の就職を実現するための就職塾
              第1回 就職塾ってどんなもの  
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今回から連載する記事は、社会性やコミュニケーションなどに苦手さのあるお子さんが、早くから将来の就職に向けて準備するための就職塾の取り組みです。この塾を主宰しているのは、著者と古くから交流のあった就労支援事業所ペガサス代表の木村さんです。この構想はずいぶん前から聞いていて、私も一緒にやりたかったものですが、なかなか実現しませんでした。

教育現場で教員一筋にがんばってきた高梨さんを塾長に迎え、実現したことは、私もとてもうれしいものです。
まずは、第1回では、ペガサス就職塾について概要をお伝えします。

〇概要
発達特性がある小5~高3までの児童生徒が対象。大人の就労支援を長年行う木村さんと、教員として特別支援に長年関わる高梨さんの、熱い想いで始まりました。
働くために大切なのは、ビジネスマナーとかスキルの前に、ありのままの自分を大切に生きられることです。私塾ならではのノウハウや楽しい実践内容で、子どもたちの成長を促します。

講師:木村 志義(もとよし)
一般社団法人 ペガサス 代表
プロフィール:株式会社ブリヂストン、外資系自動車部品メーカーを経て、2002年に日本初の障害者専門の人材紹介会社を創業。2012年10月一般社団法人ペガサスを設立。精神障害、発達障害の方のための就労移行支援事業を行っている。

講師:高梨 聡美(ひろみ) 
NPO法人しえんのまなび舎 代表
プロフィール:小学校教員を38年間経験。特別支援に18年間関わる。教育相談コーディネーター兼任。「子どもを支援する人を支えるため」 しえんのまなび舎を2017年に設立。2019年よりNPO法人代表。2020年7月よりペガサス就職塾塾長。

対象:小学校5年生から高校3年生(手帳とか診断書は不要)
日時:毎週土曜日 14時~16時
月謝:1万円(入会金1万円)

この就職塾は、ペガサスで行われている大人の就労支援のノウハウを生かして、学びの場を提供するものです。2020年7月から運営開始、もうじき2年になります。
まずは、お二方に就職塾を立ち上げた思いをお聞きしました。

木村さんの思い
就労支援に通ってくる利用者さんに共通して言えるのが、精神的に不安定なことです。体調も不安定なので、安定して通えない人が多く、発達障害、コミュニケーションが不安、という本筋の悩みより二次障害、トラウマが原因で就職に苦労している方が多いのです。
そういった方の自己肯定感を取り戻せるように支援していく中で、もっと早い段階から支援すべきだとずっと思っていました。でも、私は子どもの教育については素人で、できるかどうか自信がありませんでした。そんなとき、平塚市で4年前にペガサスを立ち上げたときに、平塚で長年教員をやっていた高梨さんと出会い、同じ目的意識で意気投合。ペガサス就職塾としてスタートできました。

高梨さんの思い
教育の現場で38年間教員をしてきた中で、クラスの中に発達障害の特性、学習が厳しいお子さんが多い、一クラスに7人くらい、かかわりがむずかしいお子さんがいました。そういったお子さんの保護者向けの相談も11年間行っていました。そんな経験からお子さんにかかわる支援団体でなく、支援者を支援するNPO法人を立ち上げました。
活動をしているうちに、コミュニケーションうまくいかない。感情のコントロールが苦手、好きなことしかやらない。嫌いな勉強をやらない・新しいことをやりたがらない、ルールが守れないといった悩みを持つお子さんたちの将来のために、なるべく早く準備を行う必要性を感じ、この就職塾を木村さんといっしょに立ち上げました。

就職塾で行う活動内容は下記のとおりです。

主な学習目標をつくる。子ども自身がこの1年間の長期的な視点でがんばりたいこと、目標を決めます。そして、3か月ごとに学期目標に落とし込んでいきます。

日々の活動内容としては、
ホームルーム
・健康観察 身体と心
・1週間の良かったこと スピーチ
・軽い運動とマインドフルネス※1
※1 マインドフルネス めい想を行い、心を"今"に向けた状態にすること NHK健康チャンネル
 
主な学習
・新聞を読んで(子ども新聞の記事)話し合い
・ワーク(自尊感情を高める、アンガーマネージメント、表現など)
・セミナー (食に関すること、セルフケア・自己コントロール、
       マインドフルネス、UDダンス※2)
・カードを使ったゲーム(適職探しゲーム、トーキングゲーム等)
・グループ協力ゲーム
・季節の行事について学ぶ、体験する
・集団軽作業、タイピング     

※2 編者注:手話で歌詞を表現しながら踊る 参考:オンラインUDスクール

主な活動
【就労に関する活動】
・回覧板のセッティングとポスティング、掲示板
・UDダンスの歌詞の字幕を入れる
・商品の梱包
・カフェ店員
【体験活動】
・平塚見て歩き(平塚の歴史、平塚七福神めぐり、季節さがし…)
・施設見学・体験(美術館、防災センター、陶芸体験、農業…)

活動についての詳しい内容や、その成果については次回お伝えします。

フリー編集者・ライター 
 障害福祉や教育関係の書籍や雑誌、進学情報誌等の編集や取材・ライティングを行う。また、執筆だけでなく、コミュニケーションや発達障害についてセミナーやワークショップ講師としても活動中。
全国手をつなぐ育成会機関誌『手をつなぐ』では、映画や本、舞台の評を不定期に連載中。
主な編著書に、
『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』などがある。
2021年3月、平凡社より「発達障害のおはなしシリーズ3巻」、大月書店より「10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること」上梓


■□ あとがき ■□--------------------------
次回は、6月10日(金)を予定しています。

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