ちょっとしたことで上手くいく 障がいのある人の「働く」を知る

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2021.09.10

ちょっとしたことで上手くいく 障がいのある人の「働く」を知る

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■   まえがき
■□  新連載:ちょっとしたことで上手くいく 障がいのある人の「働く」を知る
■□■ 連載:学校一斉休校時の学習を支援する算数動画コンテンツ
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■□ まえがき ■□--------------------------
近年、発達障害や精神疾患を持つ人の就職件数は増加傾向にあります。とはいえ雇用する企業側はまだまだ試行錯誤の段階のようです。
今回は、就労支援の現場である就労移行支援事業所を運営している安尾真美さんに、コロナ禍における障害者雇用がどのようになっているのか、またどのような対応をしていけばよいのかを3回シリーズでご紹介いただきます。

 
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 ■ 新連載:ちょっとしたことで上手くいく 障がいのある人の「働く」を知る
                         第1回 どんな働き方があるの?コロナ禍の影響は?
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皆さんはすでに様々な情報収集をされていることと思います。このシリーズでは、通信制高校の生徒や放課後等デイサービス利用者の保護者の方々から “さらぽれ”(NPO法人さらプロジェクトが運営する「就労移行支援事業所さら就労塾@ぽれぽれ」)によく寄せられる質問をもとに、3回に分けて就労支援の現場のお話をしていきたいと思います。

ご存じの方も多いと思いますが、就労移行支援事業所というのは、障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスの一つである「就労移行支援」事業を提供している事業所です。企業への就労に向けて事業所内での職業訓練や企業における実習、適性に合った就労支援、就労後の職場定着のための支援を行っています。

さて、保護者の方々からは例えばこういったご質問をいただきます。
「企業はどのように障害者雇用に取り組んでいるのか」
「どういう業種でどのような業務を担当しているのか、仕事・業務内容を知りたい」
「就職したあとに相談するところはあるのか」
「学校(高校・大学)卒業後の進路について(すぐに就労できない場合)」

そこで第1回の今回は以下の2つのことについてお話しします。

1) 障害のある人の「働き方」としてどのような働き方があるのか
2) まだまだ収まる気配のない新型コロナウイルス感染症による障害者雇用への影響について

“さらぽれ”は2007年から就労移行支援事業に取り組み今年で14年になります。この間、“さらぽれ”を利用して就労した人は500名を超えました。現在は下北沢・池袋・秋葉原・横浜で4つの事業所を運営しています。「障害者にパソコンを教えて何になるの?」という声が聞こえるなかで2007年に“さらぽれ”はスタートしました。今では多くの就労移行支援事業所でパソコンを使った職業訓練が行われ、なかにはプログラミングやweb制作といったより専門的な訓練を行うところも出てきているのですから隔世の感がありますね。

このように支援の現場も変化している一方、雇用する企業側の求人にも業務内容や待遇面での変化が見られます。事務・事務補助の仕事に加えて、専門的な職種や正社員の募集も増えてきました。当事者をはじめ関係する多くの人たちの取り組みによって障害者の就労環境もこの十数年で様変わりしたと言っても良いと思います。

それは障害者の就職件数にも見て取れます。昨年度(2020年度)の障害種別による年間の就職件数は身体障害者20,025件、知的障害者19,801件、精神障害者(発達障害含む)40,624件です。特に精神障害者の就職件数は年々大きく増加していて、コロナ禍により落ち込んだ昨年度であっても10年前と比べると2.7倍になっています。

※参考資料:2020年度障害者職業紹介状況等(厚生労働省)

1) 障害のある人の「働き方」としてどのような働き方があるのか
では、障害のある人の働き方にはどのような働き方があるのでしょう。
障害のある人の働き方には障害を開示して働く(オープン)、障害を伏せて働く(クローズ)、障害者雇用で働く、一般雇用で働くという4つの要素の組み合わせから、以下の3つがあります。

・障害者雇用(オープンのみ) 障害を開示して一定の配慮を受けながら障害者雇用で働く
・一般雇用×オープン  障害を開示して一定の配慮を受けながら健常者と同様の条件で働く
・一般雇用×クローズ  障害を伏せて健常者と同様の条件で働く

それぞれにメリット・デメリットがあります。
オープンで就活する場合のメリットとして、会社は障害を承知で雇用しているので配慮をお願いしやすくなりますし、定着支援やジョブコーチといった支援制度も活用していくことができます。就職活動においても療養等で生じた空白期間も理解してもらえます。加えて企業にとっては法定雇用率にカウントできるというプラス要素もあります。

デメリットとしては、配慮を求める以上、具体的に障害について企業に伝える必要があります。もちろんこれは働く上で障害となることに限定されます。しかしながら「障害者手帳はあるけれども詳しいことは言いたくない」というわけにはいきません。また待遇面(仕事内容や給与)でも一般雇用に比べるとまだまだ限定的と言わざるをえません。

一方、障害者雇用枠ではなく一般雇用枠にクローズで応募する場合は、待遇面でのメリットはあるものの障害への配慮は求められないため、自己で症状や特性に対処できる力が必要になります。

次に仕事内容です。
先に紹介した厚生労働省の資料によれば精神障害の場合は以下がTOP3となっています。
・運搬・清掃・包装等の職業 32.8%
・事務的職業 24.0%
・サービスの職業 12.5%

“さらぽれ”の利用者の方々は8割がた、事務及び事務補助的な仕事に就かれています。事務的な仕事といっても部門は幅広く、総務・経理や広報などの管理部門に限らず営業事務なども含まれます。職種も先に述べたようにここ数年で着実に広がってきています。

2) 新型コロナウイルス感染症による障害者雇用への影響について
最後にコロナ禍が障害者雇用にどのように影響しているのかについてです。
昨年度(2020年度)前半は企業の採用活動が大きく落ち込みました。特に障害者雇用においては採用にあたって企業実習を取り入れているところが多く、感染症対策からこの実習の機会が激減するということが起こりました。しかしながら、社会的にテレワーク(在宅勤務)が一気に進む中、企業側でもオンラインを使った会社説明、面接、中には実習もオンラインで取り組むところもでてきました。その結果、昨年度後半には徐々に求人数も戻ってきている状況です。

こうした中、応募する側、支援する側でもオンラインに対応できる力が必要になってきました。就職活動におけるオンラインの活用方法や就労後のテレワークへの対応力も求められるようになっています。

次回はこうした変化の中「企業が求める人材像」から具体的にどのような力をつけていくとよいのかについてお話ししたいと思います。

◆安尾真美
特定非営利活動法人さらプロジェクト副理事長
就労移行支援事業所/就労定着支援事業所 さら就労塾@ぽれぽれ

『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』對馬 陽一郎著、林 寧哲監修、翔泳社 
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』對馬 陽一郎、安尾 真美著、林 寧哲監修、翔泳社 



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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
          連載:「様々な困りごとに対応した算数・数学動画コンテンツの制作」
                   第3回 学校一斉休校時の学習を支援する算数動画コンテンツ(最終回)
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1.はじめに
コロナ禍により、日本では2020年3月から全国学校一斉休校になりました。その後も、五月雨式に全国の学校現場で休校が生じるといったことを誰が予想できたでしょう。

2020年4月の全国学校一斉休校時に、筆者の同僚から一通の悲痛なメールが届きました。その内容は、小学校3年生の子どもが、今日、学校から山のような自宅用学習課題を持って帰ってきたのだけど、夏休みの宿題のように既習の内容の復習であれば、子どもの力で何とかなるかもしれない。けれど、未習の内容を家庭で学習するように言われても途方に暮れてしまうといったものでした。

とりあえず自宅学習課題の一部と教科書の該当部分の写真をメールで送ってもらい、簡単な教材研究をして算数解説動画を録画し、YouTubeで限定公開したURLを返信しました。意外と好評で、その後も5年生や2年生の動画を制作してほしいといった要望が届くようになり、結局全学年の算数動画を制作することにしました。

2.自宅学習用算数動画制作のコンセプト
算数動画を制作するにあたって、自宅で自学自習することを長期にわたって行うことのできる動画の構成はどうあるべきかを考えました。そこで考えたのが、(1) 家庭に学校を持ち込まない、(2) 隣に座って教えてくれる家庭教師、(3) 家庭にあるものを最大限活用、(4) 学習成果をノートにまとめる、の4つでした。

具体的には、(1) 学校のように教師が対面形式で行う動画の構成を極力取らず、(2) 隣から少しアドバイスをくれる家庭教師のようなカメラアングルになるように撮影する。(3)  特に台所にある食材、容器、計量器などを最大限活用することで子どもが自宅ででも実験・観察できるようにする。(4) 最後は、それを学校の宿題のようにノートにまとめる際の参考となるようにしました。また、テレビのアニメ番組が、一話15分完結となっていることなどから、1本の動画は15分以内の長さとすることにしました。
 
※カメラアングルを工夫したカメラの配置

※台所にある食材を学習に活用(6年生 資料の整理)

3.自宅学習用算数動画コンテンツの実際
これまで制作した自宅学習用算数動画コンテンツは、小学1年生で合計134本、2年生236本、3年生247本、4年生316本、5年生164本、6年生179本です。1~4年生と6年生は全ての単元の内容を網羅しており、5年生は9月までに全ての内容が完成予定です。また、京都府立聾学校の種村篤先生の協力で、上記の全ての動画は聴覚に障害のある子どもや外国人の子どものために、日本語テロップ入りの動画にすることができました。これら全ての動画コンテンツは、専用ホームページ※とYouTubeサイト※で無償公開しています。

「黒田先生と一緒に学ぼう!」ホームページ 
黒田恭史YouTubeサイト 

全国の小学生総数は約600万人です。現在及び未来に生じる様々な困りごとに対して、それらをどう克服し、全ての子どもたちの学びを止めない学習支援のシステムを構築していくべく、これからも、その問いにチャレンジしていきたいと考えています。

◆黒田 恭史(Yasufumi Kuroda)
大阪大学大学院博士後期課程修了 博士(人間科学)
京都教育大学教育学部数学科教授
一般社団法人 数学教育学会 学会誌編集委員長
映画『ブタがいた教室』(日活株式会社)原作者


■□ あとがき ■□--------------------------
今回から安尾さんの障害者雇用の連載が始まりましたが、それと並行してお読みになるとさらに具体的なイメージが湧く本が出版されましたのでご紹介します。著者は、本メルマガにもご寄稿いただいたことのある漫画家、かなしろにゃんこ。さん。就労継続支援事業所や特例子会社、障害者の共同雇用の現場などをご自身で訪問し、その様子をマンガで表現されているので、とても参考になります!

『障害のある人の支援の現場探訪記』Gakken 

※かなしろにゃんこ。さんの本メルマガ連載 

次号は、9月24日(金)の予定です。

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