主体的な学びを支援する360度映像

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2020.12.25

主体的な学びを支援する360度映像

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■   連載:主体的な学びを支援する360度映像
■□  コラム:映画『ジョゼと虎と魚たち』
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材 「バーチャル体験学習」
                      第2回 主体的な学びを支援する360度映像
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1.「主体的」と「360度映像」の相性の良さ

さて、前回は日本各地の様々な職場などを360度映像として配信するバーチャル体験学習というプロジェクトをご紹介させていただきましたが、今回は360度映像が 「主体的な学び」を支援する教材として有用であるというお話しをさせていただきます。

※バーチャル体験学習

2017・2018年に改定された学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」という視点から授業改善の推進が示されています。このうち、今回は「主体的な学び」に着眼したいと思います。

まず、「主体的」という言葉を辞書でひくと、「自分の意志・判断によって行動するさま。(大辞林)」とあります。それに対して、「360度映像」は自らの興味や関心から見たいところに焦点をあてて見ることができるので、まさに主体的な行動を促すものであるといえます。つまり、教材として制作された360度映像は、主体的な学びを支援しうる大きな可能性があるということです。では、実際の効果はどのようなものなのでしょうか?
次の節では、子どもたちへの実践例をご紹介します。

★主体的と360度映像の関係

 

2.社会見学と野外学習の代替としての実践

2-1.社会見学

まず一つ目は社会見学を想定した例です。バーチャル体験学習のプロジェクトで制作した360度映像の中から社会見学の内容である17種類を選定し、長崎県内と大阪府内でワークショップを開催して6~13歳の子どもたち(合計166名)に参加してもらいました。

ワークショップの手順としては、まず子どもたちに見たい360度映像を選んでもらい、選んだ理由として興味の度合いについて、段階評定法の5件法(5:興味がある、3:どちらでもない、1:興味は無い)で回答してもらいました。そして、先ほど選んだ360度映像をタブレット端末で操作して学習してもらった後に再び同じ質問に回答してもらいました(※図1)。
 

 

さて、360度映像を視聴する前後で子どもたちの興味は変わったのでしょうか? ※表1の結果をご覧ください。ワークショップでは、はじめに子どもたちに見たい360度映像を選んでもらったため、当然ながら視聴前の興味についての平均値は4.2と高い値でした。これに対して視聴後の平均値はさらに0.3高くなっており、その間には統計学的に有意な差が認められました。詳細は省きますが、年齢別でみても映像の分類でみても、この傾向に変わりはなく、子どもたちは360度映像の視聴後に、内容についてさらに興味を持ったということがわかりました。


2-2.野外学習

次に野外学習を想定した例をご紹介します。今度は神奈川県内と大阪府内でワークショップを開催して、合計75名の小学生に参加してもらいました。題材には、子どもの認知度は高いけれども現象の仕組みについての理解度は低く、体験が容易にはできない日食を選びました。そして、360度映像を視聴する学習を評価するために、講義型の学習と模型を用いた学習にも取り組んでもらい、小学生の主観的な感想として「わかりやすさ」について調べてみました。

ワークショップの手順としては、小学生の「わかりやすさ」の基準とするために、まず日食の資料を提示して講義型の一方向的な解説をした後に、模型を用いた学習、もしくは360度映像を視聴する学習を行いました。そして、模型と360度映像のそれぞれを用いた学習に対して、はじめの講義型の学習と比べてわかりやすかったかを7件法(7:わかりやすかった、4:どちらでもない、1:わかりにくかった)で回答してもらいました。

ここで使った模型はダジック・アース※というものです。直径2メートルの白いバルーンに向けてプロジェクタから地球の映像を投影し、そのプロジェクタの光を太陽に、天井から吊り下げた丸い模型を月に見立てて日食の様子を再現しました※図2。地球からの視点として、月と見立てた丸い模型の、影の中に一人ずつ入ってもらい、その位置からプロジェクタの光が見えないことから、太陽が月によって隠される様子として観察してもらいました。

※ダジック・アース 

 

360度映像を視聴する学習では、2017年8月21日の皆既日食の様子を捉えた360度映像を用いました※図3。そして、食分(太陽の光が欠けた部分の割合)に応じて空の明るさが変わる様子を観察させ、さらに余裕のある小学生には、空が暗くなるとともに地上の街灯がつくことや、日食焼け(日食の時に地平線の全周が夕焼けのように見える現象)の様子も観察してもらいました。このように、360度映像は見たい方向を自由に見ることができるため、より実際に近い状態で観察できることが特徴です。

※図3 日食の360度映像の例
映像は10倍速のものです。マウスをクリックして移動させることで画面が変わります。映像の表示時間が3分ごろに空が暗くなるのが分かります。

さて、それでは講義型の学習と比べて、模型を用いた学習や360度映像を用いた学習が小学生にとってどれぐらいわかりやすかったのかをみていきます。※表2の結果をご覧ください。まず、何れの学習も平均値は6.5以上と高く、講義型の解説と比べて明らかにわかりやすかったと感じていることが伺えます。次に模型と360度映像の結果を比べると、模型の方が0.1だけ大きいですが、両者に統計学的に有意な差は認められませんでした。つまり、小学生にとって模型を用いた学習と360度映像を用いた学習は同程度にわかりやすいと感じていたということになります。

今回のワークショップで用いた模型は大掛かりなものであり、学校の休憩時間内に準備したり、家庭内に設置したりするのは困難かと思いますが、タブレット端末を用意することは比較的容易です。加えて、今回の例を含むこれまでの実践において、360度映像の視聴によって体調の不調を訴える子どもはおらず、内容についてさらに興味を持つことが示唆されています。そのため、子どもが主体的に学ぶことが難しく、模型などの準備も容易でない新たな代替として360度映像は有用であると考えられます。

さて、今回は360度映像の有用性について実践例とともにご紹介させていただきました。当初、バーチャル体験学習は子どもの自主学習向けとして制作をしておりましたが、360度映像を用いた幾度もの実践で、子どもが活き活きと学ぶ様子が見られました。また、ICT教育を推進するという観点からも教育現場に展開できないかと検討を重ね、教育向けのホームページを開設することとなりました(2021年1月に公開予定)。次回は、そのできたてほやほやのホームページについてご紹介させていただければと思います。

◆今井 弘二(Koji Imai)
博士(理学)、学術普及連合会 代表
枚方市 スマートシティ推進アドバイザー
情報通信研究機構 イノベーションプロデューサー
大阪工業大学 情報科学部 客員准教授
情報通信技術(ICT)を専門とし、近年はICT教育の推進や地域課題を解決するための活動を精力的に進めている。
 

 
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 ■ コラム:本や映画の当事者たち
                      第4回 映画『ジョゼと虎と魚たち』
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今回4回目となる不定期での連載です。タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介します。

今回はコロナ禍で心の平安をなくしている中、みずみずしい恋を描いている作品を観て、少しでも気持ちを晴れやかに過ごしてほしいと思ってご紹介する映画です。
12月25日(金)から全国ロードショーなので、タイミング的にもピッタリですね。

あなたの中の恋する気持ちをよみがえらせ
心が洗われる大人のファンタジー

田辺聖子の代表作で、2003 年に実写映画化され今も根強い人気を誇る『ジョゼと虎と魚たち』。実写映画もとても素敵な作品でしたが、これはアニメーションだから描き出せる、リアルで想像を超えた美しい風景に心が躍る。主人公2人の恋のときめきや喜びの気持ちがスクリーンからあふれ出てくるようです。

子どものころから足が不自由で車いすに乗る女性ジョゼと、夢に向かってひたむきに生きる青年恒夫の2人の恋の物語です。
坂道での漫画のようなインパクトのある出会いの後、恒夫はジョゼの祖母から家に誘われ、食事をご馳走になります。そして祖母の発案で、恒夫はジョゼの相手をする「アルバイト」をすることに。

鬱屈を抱えたひねくれもののジョゼは、恒夫に辛辣に当たります。わがままに振り回される恒夫ですが、その思いをしっかり受け止めて、ジョゼに真っ向から向き合います。
そんな正直で純粋な恒夫に導かれ、外の世界に飛び出していくジョゼ。
恒夫の子どものころからの大きな夢に触発され、ジョゼも大好きな絵を仕事にしたいという夢を追いかけようとします。
しかし、不自由な体と心ない世間の人々に阻まれ、引き裂かれそうになる2人……。

1人で海に行くために駅で電車に乗ろうとするジョゼに、世間の風は冷たく、心が折れそうになる場面では現実を感じて悲しくなります。
でも、そんな中、強く立ち向かっていく、ジョゼの姿はとてもかっこいい!
ジョゼが恒夫を思い、気持ちを込めて描いた絵本を読むシーンには、涙が止まりませんでした。どんな困難も、2人の惹かれ合う気持ちを止めることはできないと強く心を動かされ、強く思えばきっとかなうはずと気持ちが前向きになりました。

映画を観た後には、きっとみなさんも心の奥底に秘めた恋心を思い出し、心が温かくなると思います。先の見えない今の時代だからこそ、この映画で心を洗ってください。

12月25日(金)から全国ロードショー
正式ページ ロングPVあり
(c)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project (国内・海外・共通)
(c)2020 S.T/ K/ J.P
声:中川大志 清原果耶 他
原作:田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」(角川文庫刊) 
監督:タムラコータロー
脚本:桑村さや香 キャラクター原案・コミカライズ:絵本奈央 キャラクターデザイン・総作画監督:飯塚晴子
配給:松竹/KADOKAWA 製作:『ジョゼと虎と魚たち』製作委員会 

◆ライター はらさちこ
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。自分の子育ての経験や取材で得た知識を、成人当事者や親御さんのために使いたいという気持ちから、障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。

■□ あとがき ■□--------------------------
次号は通常より1週間先の、年明け1月15日(金)です。

読者の皆様にはよいお歳をお迎えください。
1年間のご愛読ありがとうございました。

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