情報化の進展に対応した教育

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2019.09.13

情報化の進展に対応した教育

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● 新連載:情報化の進展に対応した教育
● 連載:感覚・動作アセスメントによる評価の例(最終回)
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● まえがき
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今号から、我が国の教育の情報化や情報教育のカリキュラム開発に長年携わってこられた永野和男先生に4回にわたって連載していただきます。教育の中での情報化の位置づけと、生活や社会の中で、情報あるいは情報関連ツールが果たす役割、そして、これからの子供たちに求められる能力などついて、一緒に学びたいと思います。

 

● 新連載:情報化の進展に対応した教育
第1回 情報化の進展と教育の情報化
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情報化の進展した社会(情報化社会)という言葉からどのようなことを想像されるだろうか。情報化社会を「必要な情報がいつでもどこでも利用できるように整備された社会」と定義するならば、1)あらゆる情報をデジタル化して流通できるような企業・組織の充実、2)情報を必要なところに届ける高速の通信手段と端末のインフラ整備、そして何より、3)情報そのものに経済的価値が発生し売買の対象になるという社会的価値が共有される必要がある。その意味で、我が国はすでに情報化社会を飛び越え、高度情報社会になっているといえる。

情報化社会の実現は、文字、画像、音声、映像のデジタル化技術とそれを処理できるコンピュータの発展、情報をリアルタイムに送信できる通信技術の革新があって可能になった。特に1990年代後半のコンピュータの処理能力の飛躍的向上と技術革新による小型化および低コスト化の実現、2000年以後のインターネットの地球の津々浦々までの普及と無線通信技術の革新による超高速通信網の具現化等が、その後の20年の飛躍的な進展に貢献している。そしてその成果は、ビジネスの世界にとどまらず、学校や家庭においても、インターネットや携帯電話通信を介し、まさに「いつでもどこでも必要な情報にアクセスできる」状況になってきているわけである。さらに最近はSFの世界と考えられていた人工知能による機械翻訳や自動運転車、音声認識や知的ロボットなどが実用化され、日々の生活にも利用できるようになって私達を驚かすようになってきた。このような技術革新は、今後も進展することが予想され、情報化の進展は目に見える形で続くと思われる。

その一方で、これまでの社会との継続性や共存性などにおいての歪みが新しい問題としてクローズアップされている。例えば、情報にアクセスできる機会や環境に関する格差(デジタルデバイドと呼ばれた)の問題である。新しい技術は、その利用環境、利用方法がすべての国民に開かれて整備されていかなければならない。情報化社会は情報が有償な時代なだけに、情報格差は経済格差につながり社会の健全な発展を阻害することになる。正確な情報をすべての国民にアクセスできるようにするには、技術的な問題解決もさることながら、未来を見据えた制度的、法的整備を、時間をかけて進めていく必要があった。

このような問題意識の中、わが国では、文部科学省を中心として「情報化の進展に対応した教育」の検討が1990年代の終わりごろから開始されてきた。教育の情報化には、大きく2つの視点がある。ひとつは、情報化に対応した学習内容の検討と改善である。先に述べたように情報化の進展により、知識はいつでもどこでもコンピュータから取り出せるようになった。そこで知識記憶に重きを置かれていた能力育成の考え方の意義が問われ始めたのである。すなわち、情報を記憶しておくことはコンピュータに代行できることで、人間には自分で調査し、多くの情報から必要な情報を選び出し、吟味して判断・意思決定でき、行動できる能力(情報活用能力、コミュニケーション能力、問題解決能力、判断力・表現力等)の育成の方が情報化時代における人の能力として必要であると考えるようになって来たのである。

学校では教科書を中心に正解である知識を教えてきたが、体験し考えることに意味のある課題、正解はないけれど最善策を見つける課題、人と協力して創作的な成果を作り出す課題など、課題解決的な学習スタイルへの移行が求められてきた。この点を考慮し、2002年からの学習指導要領では、新しい教科・科目等が新設され、カリキュラムの内容が大きく変革された。例えば、情報に関する内容を扱う小中高一貫のカリキュラムとして新設された「情報教育」では、1)情報活用の実践力 2)情報の科学的な理解 3)情報社会に参画する態度 の3つが学力として規定され、これに対応して中学校・高校で「情報」に関する教科や領域が作られた。また教科を総合的に横断して学ぶ「総合的な学習の時間」が新設され、小学校中学年から週3時間相当導入された。これらは、特別な知識を教える時間ではなく、具体的な活動を通じて、知識や技術を体得していく視点に立っている。

このカリキュラムは、10年後には、「ゆとり教育批判」などにさらされ、次の学習指導要領の改定(10年ごとに改定される)時にはすこし揺り戻されたが、現在は新しい学力としてその必要性が見直され、継承されている。例えば、新しい時代に必要となる資質・能力として、学習指導要領では「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養」「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」があげられ、学びの方法として「主体的、対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」という形にまとめられている。

永野和男
聖心女子大学 名誉教授、法人本部 参与
JNK4 情報ネットワーク教育活用研究協議会 会長
JAPIAS 学校インターネット教育推進協会 理事長

 

● 連載:感覚・動作アセスメントの概要
第4回 感覚・動作アセスメントによる評価の例(最終回)
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1.はじめに

これまでの3回で感覚・動作アセスメントの概要、作成過程を説明しました。今回は、感覚・動作アセスメントを用いた評価の例を紹介します。

2.事例紹介

Aさん、女児、5年生(11歳)、情緒障害学級在籍、診断:自閉スペクトラム症。

3.評定者:担任教師

4.問題が見られた項目

感覚面に関する質問への回答で「いつも」、「しばしば」の回答があった項目は次のものです。
・授業中、1度でも席を立ったり、落ち着きなく頭や体を揺らしたりする
・授業中、椅子をうしろに傾けて座ったり、揺らしたりする
・鉛筆や、爪などをかむ癖がある
・授業中、いつも足をブラブラさせたり、もぞもぞ動かしたりしている
・先生や友達にベタベタすることがある
・特定の声(大小・高低)が苦手で、苦手な声の人を嫌う
・突然目をふさいだり、目を細めたりすることがある
・(暑さ/寒さ)に弱い
・靴下や帽子を嫌がる
・理科室や保健室、トイレの臭いを嫌がる

動作面に関する質問への回答で「苦手である」、「非常に苦手である」の回答があった項目は次のものです。
・筆圧の調節
・字を書いているときの力加減
・消しゴムで消したい字を上手く消す
・字を書くときにノートや紙を押さえる
・想像しながら絵を描く
・ラジオ体操など身体全体を使う体操の真似ができない
・スプーンや箸を使う
・鉛筆やクレヨンを上手に持つ
・ボタン掛け
・両手・両足などを一緒に使う
・文字を読み飛ばさずに読むことが出来る
・授業中、姿勢を保っておく(うつぶせにならなったり体が傾いたりしないか)

5.評価結果

教師が前述のような回答をしたところ、結果が表示されました。これらは、表示された結果の一部です。

〇感覚面の結果




・認知を伴う過反応について
感覚刺激への不快反応が顕著に見られるようです。特定の感覚刺激が耐えられない場合、無理に我慢させようとせず、対応策を考える必要があるでしょう。まず、不快な聴覚刺激をなくしたり、遠ざけたりすることができないか検討する必要があるでしょう。感覚刺激のみでなく、不快な刺激を発する人や状況などに対しても不安がないか確認する必要があるでしょう。

特定の人の声が嫌な場合は、その人との距離を取らせることを検討したり、一緒に活動する人の組み合わせを検討する必要があるでしょう。

・感覚探求について
感覚刺激を過剰に求める行動が見られるようです。自分自身を押さえることが苦手で身体的多動や衝動的行動が見られやすいでしょう。動きの抑制が苦手で、動きの中で入る固有受容覚、深部感覚などの感覚を過剰に入れる行動があるようです。授業中に動く機会を作ってみると良いかもしれません。教室の後ろに答えを貼って、そこまで答え合わせに行くことや、教師のところまで答え合わせのために歩いていく機会を多く作ることも考えられる対策です。

他の人に自分からベタベタと触ることがあるようです。情緒面が未熟だったり、不安定だったりしないか確認したほうが良いでしょう。社会的に受け入れられやすい接触を教えたり、公共の場で他の人に触りすぎないように教えていく必要があるでしょう。ベタベタ他の人に触る上に圧迫刺激を好む子どもには、圧迫を加えながらのマッサージをすると行動が落ち着くことがあります。

〇運動面の結果




・両側動作と側性化
左右の手足を協調させて動かすことや利き手の発達を反映するスキルには明らかな困難がありそうですので、支援が必要でしょう。スプーンを持ちやすくするグリップの工夫、箸を持ちやすくするためのホルダーなどの活用を検討すると良いことがあります。三角鉛筆、太い鉛筆などが把持しやすいことがあります。鉛筆ホルダーを数種類試してみて、合うものを見つけると良いでしょう。鉛筆の保持を支援する補助具や鉛筆を保持する指の位置を教えるためのグリップなど、様々なものがありますので複数のものを試してみると良いでしょう。

大きいボタンや穴でボタンはめを練習すると良いでしょう。貯金箱にコインを入れる活動や目を閉じるなど見えない状態にしてコインやクリップを左右で持ちかえる活動も練習になるでしょう。両手のみ、両足のみ、それぞれを練習して、最後に組み合わせると良いでしょう。もしくはゆっくりと繰り返しを多くして、両手足の同時動作を練習すると良いでしょう。

・姿勢及び読字・口腔運動について
姿勢の問題や読字・口腔運動の問題が見られるようです。運動スキルを高めるための指導を加えたり、苦手さを支援する工夫が必要となるでしょう。指で文字を追って読むようにしたり、定規を当てて読むようにする工夫を教えると良いでしょう。1~2行だけ文字の行が見える穴あきシートを使うのも良いでしょう。椅子に滑り止めマットを敷くことは臀部のずれを防ぎます。背もたれをなくしたり、バルーン椅子を使ったりすると姿勢が保ちやすくなることがあります。授業中に立ち上がったり、動く機会を作るとその後の姿勢が良くなることがあります。普段から、バランスを育てる活動をすると良いでしょう。

6.おわりに

以上のように感覚・動作アセスメントを使うと教師が項目に回答することで、結果のグラフや対応方法が表示されます。これまでの質問への回答と結果産出のプロセスが簡略化され、対応方法の提案が表示されるという特徴があるため、学校や家庭、デイサービスなどで活用することができると思います。是非、多くの方にご使用いただきたいです。

岩永竜一郎
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授

 

● まえあとがき
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今年は、台風による被害があちらこちらで出ています。被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

10月に、岡山、高松でセミナーを開きます。どちらの都市も初めての開催です。放課後等デイサービス向けとしていますが、お子様の個別支援に携わる方に参考にしていただける内容と自負しています。ご参加をご検討くだされば幸いです。

10月19日(土) 岡山コンベンションセンター
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10月20日(日) 高松商工会議所会館
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