コミュニケーションって案外難しい~本質的に必要な3つのスキル

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2018.10.19

コミュニケーションって案外難しい~本質的に必要な3つのスキル

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| 連載:コミュニケーションって案外難しい~本質的に必要な3つのスキル
| 連載:ダウン症のある子どもの、指導の構造
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─■ 新連載:ファシリテーションって何だろう?
第4回 コミュニケーションって案外難しい~本質的に必要な3つのスキル~
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前回まで、実際の会議をどうマネジメントするかという視点でファシリテーションの技術を具体的にご紹介してきました。繰り返しになりますが、ファシリテーションとは、ポストイットを使うことでも、前回ご紹介したライブレコーディングを行うことでもありません。それらは、皆、「ある目的を達成することを容易にするツール(道具)」として使うのであって、使うことそのものが目的ではないということです。

それでは、ファシリテーションを行うファシリテーターに必要な本質的なスキルとは何でしょうか。実はそれは、(1)人の話をきちんと理解すること、(2)自分の話をわかりやすく伝えること、(3)相手の話がわからなかったら、質問して確実にわかるようにすること、という3つに集約されるのです。様々なスキルも突き詰めれば、この3つをしっかり実現するためのものということになります。

「そんな簡単なこと?」と思われるかもしれません。実際の場面でそんな簡単なことがきちんとできていないために、日々のやりとりでいわゆる「齟齬」食い違いや意味のとり違い、行き違いがあちらこちらで生まれているのです。

そして、会議の場面において、もしファシリテーターが発言した人の発言内容を要約して「○○さんのおっしゃりたいことは~~ですね」と返したときに、その要約内容が発言者の意図とズレてばかりしていたら、どうでしょう。また、ファシリテーターが次に行ってもらいたい活動を説明する際に、その説明の仕方が曖昧で何をすればよいのかわからないという表現の仕方をしていたら、どうでしょう。その場の参加者の人の信頼を得ることは到底、難しくなっていくことは容易に推測できますね。

私たちは毎日、誰かとコミュニケーションをとりながら過ごしています。そのときに、本当に無意識に言葉を発し、相手の言葉を何気なく聞いています。本当にその言葉が相手にとってわかりやすいものかどうかの取捨選択をしっかりせずに、自分の業界では当たり前の専門用語や略語をそのまま使っている方もよく見かけます。特に違う領域の人々が集うような支援会議などでは、こういう小さな言葉使いへの配慮がないと「え?今の用語、何て意味だろう?」とそこで理解が止まってしまい、その先の話が頭に入らないということになってしまいます。

例えば、私は以前保育士さんが多く集まっている場で、保育士の皆さんが「みまん児が・・・して、いじょう児が・・・して、」と繰り返し発言される場面に遭遇しました。どうやら保育士さん同士では周知の言葉のようで、他の保育士さんは「うんうん」とうなずいていました。しかし、保育業界の用語にそこまで明るくない私は、「みまん児って何? いじょう児って?」と「???」だらけになってしまいました。こういうときに、先の本質的なスキルの三番目「わからないときには質問して確認する」が登場するのです。さっと周りの様子を見て、「この言葉はおそらく保育士さん以外の人はわからないな、しかし、どうやら今の話のキーワードなので、この言葉がわからないと全体の話もわからないぞ、やっぱり確認が必要だ」と瞬時に判断して、「すみませんが、みまん児、いじょう児とはどいう意味ですか?」と問いました。保育士さん方は「あ!」という感じの反応をされましたが、「みまん児は、3歳未満の子ども、いじょう児は3歳以上の子どものことですよ」と教えてくれました。

これはかなりわかりやすい例ですが、例えば「地域連携」「関係者の連携」「保護者との連携」といった、たぶん誰もが「意味はわかる」と思っている用語であっても、各人が具体的にイメージしているものはかなり違う場合があります。そういうズレがあるということを前提にコミュニケーションを進めていかないと、「そういうつもりではない」「言ったはず」「聞いていない」ということが起こりえる訳です。

私が大学院のファシリテーションの授業で特に口すっぱく言うのが、実はこの3つの本質的なスキルです。そのためのトレーニングとして、まず(1)人の話をきちんと理解すること、の力を上げるためには、議事録をとるのを買って出ることを推奨しています。案外、自分が会議の最中にきちんと人の意見を聞いていないことに気づくと同時に、発言内容を要領よくまとめて書く(ノートパソコンで打つのでもよいでしょう)のは、難しいですし、これを1時間位続けてやると相当疲れます。それくらい「人の話を聞く」というのはエネルギーを使います。

(2)自分の話をわかりやすく伝えること、については、できればプレゼンテーションの練習をして、聞き手に「どのように理解できたか」を率直にフィードバックしてもらうとよいでしょう。自分では「伝えたつもり」の内容が「刃こぼれになった内容」になっていたり、さらには「違う解釈」が入っていたりと、きちんと伝わっていないことに気づけます。(3)の「相手に質問して確実にわかるようにすること」は、(1)をしっかり行っていくと、用語レベルでわからない場合だけでなく、論理的に話がかみ合ってこない場合も気づけるようになります。

たかがコミュニケーションですが、されどコミュニケーションです。相手の話をしっかり理解して、相手にわかるように伝えるということを丁寧に繰り返す習慣を、普段から心がけたいものですね。

具体的なファシリテーターのコミュニケーションについて、以下の書籍がとても参考になります。舞台は発展途上国の開発というものですが、日常の会話やインタビューにも十分応用が効くと思います。是非、ご参考になさってみてください。

※途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法
(詳細はこちら>>

三田地真実
星槎大学大学院教育実践研究科教授、言語聴覚士

 

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─■ 連載:ダウン症のある子どもたちへの「知っておきたい」指導
第2回 ダウン症のある子どもの、指導の構造
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今回は、私が2009年にダウン症のある子どもを担任している全国の特別支援学校の先生方の協力を得て行った、小学部から高等部のダウン症のある児童生徒339名の、指導の実態についてのアンケート調査の結果について述べていきます。

まず、私が考えていた以上の結果だった項目があります。それは「現場の教師が感じているダウン症児の課題は」という設問に対しての回答でした。複数回答も可とした912の回答を23のカテゴリーに分類してまとめた集計結果が下記の図1です。

※図1 (画像はこちら>>

実はこの回答結果こそ、ダウン症のある子どもの学校現場での課題の特徴を顕著に表しているものでした。多い順から「場面の切り替えが難しい」「頑固さ」「自己中心的」「注意を引く行動をとる」・・と続いています。ダウン症のある子どもを指導したことのある方なら納得の回答だと感じられることと思います。私もここまではある程度想定内でした。しかし、この集計結果のグラフを最後まで見たとき、ある疑問を持ちました。それは、「これは課題なのだろうか」ということです。学校の先生方に答えていただいた割には「文字の読み書き」「数の概念」などの認知面の課題を上げる回答があまりにも少ないのです。しかし、同時に「やはりそうだったか」という正体を突き止めたような確信をもちました。

分かりやすくするために、図1には23の課題のカテゴリーを(1)理解(認知面)に困難が生じて発生しているもの、(2)身体(健康・運動面)に困難が生じて発生しているもの、(3)情意(心理面)に困難が生じて発生しているものに項目を色分けしてあります。

課題が起因するところを頭・体・心の3つに分けて考えてみると分かりやすいのですが、実はこの課題を3種類に分類すると圧倒的に(3)情意(心理面)に関することが多いのです。23の課題のうち、およそ8割を占めています。

この割合のアンバランスさが、ダウン症のある子どもを担任している学校現場の教師の頭を悩ませることになります。

特別支援教育に関わっている教師は「文字の読み書き」「数の概念」「コミュニケーション手段の形成」などの指導については、それほど頭を痛めることはありません。知的障害のある子どもたちへの書字や読字、数の学習については、書籍や研修会で理論を学ぶことは十分可能であるし、各学校にもこれまで蓄積された実践記録や指導のノウハウは存在します。経験の浅い初任層の教師でも匙を投げることはありません。

ところが、「気持ちを切り替えさせる指導」「世話を焼きすぎないようにさせる指導」のような、情意面の課題を効果的に変容させる技術は学ぶ機会がほとんどないといっても過言ではありません。そして、現実問題として学校現場から上がってくるダウン症のある子どもへの指導の課題の大半が、先に述べたように情意面の課題なのです。

つまり、この情意面の課題が解決しないと、授業はもとより、学校行事や係活動など学校生活全般の活動の流れに子どもをうまく乗せることができないという構図になっているのです。言い換えると、ダウン症のある子どもたちを授業や活動に向かわせる技術を持たないと、指導が成立しないことになります。当然、指導の効果などを追求できる状況にもならないのです。

次回は、実際の教室で見かける例を具体的に挙げながら、ダウン症のある子どもの指導の土台となる「情意面の課題への対応と考え方」について解説していきます。

なお、今回取り上げた「ダウン症のある子どもへの現場教師のアンケート結果」につきましては、他の質問項目も含め、これまであまり焦点化されてこなかった問題提起につながる回答も多々ありました。詳しくお知りになりたい方は下記の書籍をご覧ください。

※ダウン症児をたくましく育てる教室実践-学校現場からのデータ&テクニック 佐藤功一著、田研出版
(詳細はこちら>>

参考文献 ダウン症のある子どもへのアプローチ222 佐藤功一著、田研出版
(詳細はこちら>>

佐藤功一(さとう こういち)
宮城県立支援学校女川高等学園教頭

 
─■ あとがき
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今回のメルマガが No.198 、あと2回で区切りとなる200回になります。読者の皆さんに、今後、このメルマガがどのようになっていけばよいのか、ご意見をお伺いしてみたいと思います。次号で募集しますので、お時間のある時に考えていただければうれしいです。

次のNo,199は、11月2日(金)の予定です。

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