認知テスト/知能検査で何が分かるか(1)

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2016.11.04

認知テスト/知能検査で何が分かるか(1)

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■ 連載:認知テスト/知能検査で何が分かるか(1)
■ 連載:発達障害当事者が社会参加するために~本人の語りから~
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──■ 連載:認知テストって何?
(第3回)認知テスト/知能検査で何が分かるか(1)
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こんにちは。学校心理士の青木瑛佳です。前回は「そもそも知能って何?」というテーマで書かせていただきました。今回と次回は、より具体的に、実際に使われている、認知テストや知能検査が何を測っているか、ということを解説します。

今回は、現在、日本で最もよく使われていると思われる知能検査、WISC(ウィスク)とWAIS(ウェイス)について説明します。

WISCはWechsler Intelligence Scale for Childrenの略称で、年長さんから高校1-2年生を対象とした知能検査であり、現在日本では第4版(WISC-IV)が出ています。WAISはWechsler Adult Intelligent Scaleの略称で、高校2年生から大人を対象とした知能検査であり、日本での最新版は第3版(WAIS-III)です。

(出版社のページはこちら。
WISC-IV:(詳細はこちら>>
WAIS-III:(詳細はこちら>>

WISCもWAISも同じ会社から出版されているので、基本的な知能に対する考え方は変わりませんので、一緒に説明していきます。

1.全検査IQ

まず、どちらも全検査IQ(Full-scale IQ)という知能の総合的な値を算出します。WISC-IVでは基本10個の検査項目、WAIS-IIIでは11個の検査項目の標準得点をそれぞれ算出し、その合計点から全検査IQを求めます。こちらは、様々な検査の出来を足し合わせたものなので、あくまで総合的な知能の「目安」です。項目ごとの出来にばらつきがある場合、あまり参考にならないことが多いです。

2.指標得点/群指数

知能検査では、全検査IQの他に、指標得点(WISC-IV)/群指数(WAIS-III)も算出されます。これらは、知能をより細かい項目に分けた時の、項目別の値です。WAIS-IIIでは、言語性IQ、動作性IQという値も算出しますが、WAIS-IV(米国で2008年に出版済み)に改訂が行われた際、臨床的にあまり有用でないという理由で廃止されているため、ここでは、指標得点/群指数に絞って説明します。
指標得点/群指数は4種類あります。

(1) 言語理解(VC)
(2) 知覚統合/知覚推理(PO/PR)
(3) 作動記憶(WR)
(4) 処理速度(PS)

(1) 言語理解(VC)
この指標得点は、ことばの概念の理解、ことばに関する推理の力、日常生活の中で得られた言語的な知識を示しています。この指標得点が高いと、普段の生活の中で、会話や文章などのことばによる情報をきちんと理解し、その理解をことばで表現する力が高いと言えます。言語理解は、WISC-IV、WAIS-IIIでは主に次のような検査で測定されます。

類似= 2つのことばの関係性を推理し表現させることで、「概念」を理解し、表現する力をみています。
単語= 単語の意味を直接説明させることで、ことばに関する知識を表現する力をみています。
理解= 日常の社会での生活に関する質問に答えさせることで、社会的常識の理解や、それを用いて考え、ことばで表現する力をみています。

(2) 知覚統合/知覚推理(PO/PR)
この指標得点は、目で見た情報を統合して推理を働かせる力と、視覚的なパターンを識別しとらえる力を示しています。知覚統合/知覚推理は、WISC-IV、WAIS-IIIでは主に次のような検査で測定されます。

積木模様=絵で示された「模様」と同じ模様を時間内に積み木で作らせることで、抽象的な視覚/空間情報を分析して統合する力や、目から見た情報を自分の手で再現する力をみています。(※図1)
※図1 (図はこちら>>
行列推理=並べられた複数枚の「図」を見て、並べ方のパターンを推測し、抜けている場所に当てはまる図を選ばせることで、視覚的な推理力やパターンを認知する力をみています。(※図2)
※図2 (図はこちら>>
絵の概念=複数の段に分けて並べられた絵の中から、互いに関係のある絵の組み合わせを選ばせることで、与えられた情報に共通する部分を見出す力をみています。

(3) 作動記憶(WR)
この指標得点は、耳で聞いた情報を保持し、求められた情報になるように頭の中で操作する力を示しています。作動記憶は、WISC-IV、WAIS-IIIでは主に次のような検査で測定されます。

数唱=耳で聞いたいくつかの数字をそのまま、あるいは逆の順番で繰り返させることで、耳から得た単純な情報を短い時間覚えておいたり、頭の中で操作したりする力をみています。
語音整列=耳で聞いた平仮名と数字を、五十音順及び大きさ順に並べなおさせることで、耳から得た単純な情報を並行して処理する力をみています。

(4) 処理速度(PS)
この指標得点は、単純な視覚的情報を、素早く正しく区別して見極めていく力を示しています。高い得点を取るためには、注意力や目で見た情報の記憶力も必要です。処理速度は、WISC-IV、WAIS-IIIでは主に次のような検査で測定されます。

符号=時間制限の中で、数と図形の対応を探し、その図形を素早く記録させることで、視覚的な処理速度と処理効率及び、書く速さなどをみています。
記号探し=時間制限の中で、左側に示された記号が、右側の記号グループに入っているか否かを判断させることで、目でみた単純な抽象的情報を判別する速さをみています。

以上のように、WISC-IVやWAIS-IIIの得点を眺めると、様々な知的能力が分かります。いわゆる"総合的なIQ"だけにとらわれず、強みや苦手な部分を知っていくというのが、知能検査の有効活用なのではないかと思われます。

次回は、日本や海外で使われている、他の知能検査の紹介をいたします。記事をお読みいただき、ありがとうございました。

心理士 青木 瑛佳(学校心理学博士)

 

──■ 連載:成人期、壮年期の発達障害の生活課題を考える
~はたらくことを中心に~
第2回 発達障害当事者が社会参加するために~本人の語りから~
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私は社会人になってから、空気を読むことができないということを自覚しました。
社会人になってから読めなくなったわけではないです。今振り返ると、学生時代から空気を読めなかったことを思い出します。
会社にはいづらくなって転職を今まで4回行っています。最後は障害者枠です。

確定診断後はいろんな発達障害当事者にあってきました。今回は感覚過敏と感覚鈍麻の観点から大人の発達障害当事者像を少しでもお伝えしたいと思います。そして何ができるかも含めて、少しでもヒントをお伝えできればと思います。
何が感覚過敏で、何が感覚鈍麻かなかなか難しいところですが、それぞれの当事者の語りに基づいて書いていきます。

1.私の例(感覚鈍麻)
大学はそこそこ良い大学に入れたと思います。 僕はシステムエンジニアとして会社に就職できました。

でも会社に入ってからは地獄でした。空気を読むことができない失敗が多々発生していました。一番ひどい事例は、僕は技術でできるかできないかをお客さまや会議で語ってしまったことです。

ほかの人は、会社の持つノウハウや技術者のレベル、お客さまの重要度などを鑑みて、できるかどうかを考えていました。背景にある情報やお客さまの重要度、お客さまの担当者ごとの重要度を私は全く見ていませんでした。本で読んだだけで自分で検証したことがない技術を、机上で組み合わせて実現できそうかを検討するという観点で、会議や打ち合わせに参加していたのです。

当然しわ寄せは自分が行う開発や運用に影響してきます。運用でたくさんそういう矛盾がたまってくると、会社を辞めてほかの会社に転職してしまう。そういう悪循環を繰り返していました。

健常者枠での最後の会社ではどんなことがあっても辞めまいと思い、頑張ったのです。でも会社の人たちからはこいつは何を言っているんだろうと思われてしまう始末でした。

そして、その後で自分が発達障害と分かり、障害者枠で現在の会社に入りました。その過程で自分がいかに空気を読まずにいたかを気づく機会が増えました。今、仕事していても、空気を読んでいないことに気が付くことが多々あります。逆に、空気を読むことができても無視することもあります。自分の空気の読まなさ加減を自覚し、工夫をしたら、読むことができる空気も増えました。

2.感覚過敏の例
私の周りではWAISでは動作性、特に処理速度(PS)が100以上の人が多いです。何か共通するところがあるのかな?

一人仕事や職人気質の人、スタープレイヤーにはなれても、マネージャーにはなれないタイプが多かったです。
会社に入った人でマネージャーになってから、チームをうまくまとめられなかったり、上司との調整ごとができず、不適応になったりするケースを見てきました。
周りに地声が大きい人がいて、その人が常に怒っていると認識し、疲れてしまった人や、いろんなにおい(香水や汗など)のせいで通勤電車に乗れなくなった人もいます。

たぶん健常者よりも、より繊細で情報を受ける粒が細かいのだろうと思います。細かすぎて脳が疲れ、細かすぎるが故に健常者が理解できる言葉にすることができません。
自分の感覚を人より受け止めすぎる人と自己認識し、絶対にマネージャーにはならないとか自分が苦手なものから遠ざかるなどの工夫で、健常者枠に復帰した人もいます。

本で読んだだけで判断しているのですが、「あたし研究」※1を書いた小道モコさんや「発達障害当事者研究」※2を書いた綾屋紗月さんは感覚過敏ではないかなと思っています。感覚過敏が気になる方はそちらの本をぜひお読みください。僕が聞いた感覚過敏の当事者たちにつながるものを感じます。
※1 (詳細はこちら>>
※2 (詳細はこちら>>

3. 当事者が社会参加するためにできること
感覚過敏の当事者にも感覚鈍麻の当事者にも共通していることがあると思います。それは自分を知ろうとしていること、自分の専門家は自分であることです。

感覚過敏の人は自分の苦手な部分をカバーしたり、一般の人と競おうとすることをあきらめたら、就労できた人も見ています。感覚鈍麻の人も、障害者枠で適切な支援をもらうことで仕事をしている人たちがいます。

ただし問題は、自分にとって適切な支援が何なのかを見つけるのが難しいことです。発達障害は百者百様と思えるほど、症状が異なります。自分にとって効くと思える支援を見つけることが重要なのです。

支援と言っても、セルフヘルプかもしれません。当事者研究、WRAP※3、コーチング、SST、認知行動療法、医師、ジョブコーチかもしれません。うまくいっているケースは、自分にあった支援に出会っている当事者だと私には思えます。

※3 正式名称は、Wellness Recovery Action Plan(日本語名:元気回復行動プラン)。メアリー・エレン・コープランド(Mary Ellen Copeland)が考案した手法で、自分が元気になる方法やストレスを受けるポイントをそれを解消するプランをまとめたもの。

私が今の職場の仕事上で困っていることは、下記の3つです。
・良好な対人関係の促進
・こだわりや限定的な興味のこだわり
・実行機能の障害※4への対応
※4 手順を見つけ出すことができない障害、遂行機能障害ともいう。

これらの問題を、WRAPやコーチングの手法でのセルフヘルプと支援、さらに職場からの適切な仕事量への配慮で乗り切っています。

WRAPでは自分がストレス源をさけ、自分で自分をいたわることができるようになりました。WRAPの前提にある5つの大切なこと(希望、主体性、学び、権利擁護、サポート)を意識しながら、仕事に取り組むことでwin-winの関係を意識するようになり、自分が常に無理をすることはしなくなりました。このおかげで良好な対人関係が促進できるようになってきていると考えています。

ただし、職場では年々、仕事の質の向上を求められてきます。今までしたことがない仕事が割り当てられます。当然、自分一人ではブレイクダウンできない仕事が出てきます。こういった仕事については、コーチングで実行機能障害を支援してもらっています。

「アスペルガー症候群の人の就労・職場定着ガイドブック----適切なニーズアセスメントによるコーチング」※5を読み、まさに私が困っていることばかりでした。
※5 (詳細はこちら>>

第三者の視点から、自分のこだわりや限定的な興味が分かる時があります。実行機能としては中長期的な目標である仕事を、目の前の仕事に集中してうっかりし、そのまま忘れてしまうことがあるのです。一度忘れたら、長期的な目標を見るまで忘れてしまう感じです。

今はコーチングにより リマインドやモチベーション向上、あとは新たな視点の提供で結構仕事がうまくできるようになった気がします。コーチングで下記のことが実現できていると私は思います。

・リマインドによる目標を見失わないこと
・モチベーション向上による精神面のサポート
・新たな視点の提供による自分のこだわりや限定的な興味の排除

百者百様の発達障害の中で、自分にあったサポートを受けることがカギです。そのためには支援も必要だし、支援を受けながら安心して失敗する場所も必要なのです。

空気読むことができないことをばかにされたところには私はもういきませんでした。安心して失敗できる場所とはどこなのか私も手探り状態です。

ある人には当事者会かもしれません。ある人にはボランティア団体やNPOかもしれません。ある人にはデイケアかもしれません。ある人には働ける場所かもしれません。その人にあった場所が必要なのです。

人とかかわることが大変な人は自分が興味を持てるボランティア団体などがお勧めだと思っています。利益追求がされない団体であれば、余計なプレッシャーは少なくなります。余計なプレッシャーがない分ある意味失敗しても許される可能性は高いのではないかと私は考えています。

発達障害当事者 黒岩賢
WRAPを深める会主催者
(ブログはこちら>>

 

──■ あとがき
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11月19日・20日にパシフィコ横浜で、第25回日本LD学会全国大会が開かれます。大会テーマは「発達障害の子どもと家族~学習・行動・心の包括的理解と支援」です。

今回は、自主シンポジウムを企画し、「聴覚と視覚の発達から考える困り」というテーマで、11月20日(日)午前11時からと午後1時からの2回連続して行います。通常は別々の診断を行っている耳鼻科医と眼科医がそれぞれの知見を持ち寄り、複合的に発達の困りの理解を深め、対応策を議論しようというものです。

登壇するのは、聴覚サイドとして、中川雅文(国際医療福祉大学)、小渕千絵(同大学)、川崎聡大(東北大学)。視覚サイドとして、川端秀仁(かわばた眼科)、氏間和仁(広島大学大学院)、柳下記子(視覚発達支援センター)。これまで本メルマガに執筆いただいた3先生が参加されます。もし、お時間のある方はぜひご参加ください。

次号メルマガは、11月18日(金)の予定です。

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