我が子に人工内耳手術を受けさせる親の苦悩

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2016.07.22

我が子に人工内耳手術を受けさせる親の苦悩

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■ 連載:母親として発達凸凹の子育てが面白い:習い事を始める編
■ 連載:我が子に人工内耳手術を受けさせる親の苦悩
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──■ 連載:母親として発達凸凹の子育てが面白い!楽しい!を広めたい
第3回 習い事を始める編
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わが子の発達に不安を感じたり、1歳半健診や3歳児健診で発達の遅れを指摘されたりする時期に、療育を探すと同時に習い事を始めるお子さんも多いでしょう。

発達障害を指摘されたから、発達障害専門の習い事をしなきゃと思い込んでしまうご家庭も多いのですが、それが正しい判断ではないかもしれません。
発達障害専門と銘打っている習い事が、必ずしもお子さんに合うものではないかもしれませんし、実際、業界として人材不足で、付け焼刃の知識で運営している業者さんのほうが多いのです。

習い事の今の人気は、スイミング、英語、プログラミング、ピアノ、バイオリン、お絵かき、お受験教室といったところでしょうか。一般的なお子さんが通う教室でも、良い指導者を見つければ、十分対応できるところも少なくありません。

まずは、一般的なお子さんが通うような習い事でも、通える範囲で、体験クラスに参加してみてください。受付や先生の対応で、人間として多様な子供たちを受け入れる素養のある指導者かどうかを一番感じ取り、判断できるのは、お子さん本人とお母さんです。

発達凸凹の子供たちは、その先生が自分に好意的かどうかを察知するセンサーがとても敏感です。多様な子供が実は苦手な先生は、そういったまなざしや態度でお子さんに接してしまいます。お母さんにも失礼な物言いをするかもしれません。でも、それは、お子さんの世界を広げるための一つの通過点として、気に病むことはありません。少しでも嫌だと感じたとすれば、さっと立ち去ればいいのです。

一般的なお子さんを対象としている教室や個人指導教室の中には、発達に凸凹があるお子さんをうまく指導できる先生が、意外とたくさんいらっしゃるのです。実際に、私が子供たちのために選んだ習い事の先生方は皆さん、一般的な子供たちに習い事を提供されている先生ばかりです。

うちの第一子の療育、習い事歴は以下のような流れでした。

第一子(現在15歳中学三年生 通常級在籍)
生後10か月で自閉症診断
3歳時 発達指数50
5歳時  発達指数67

○療育歴
生後10ヶ月~2歳 公的機関のST、OT
3歳~4歳 公的機関の自閉症児クラス
3歳~5歳 ABA個別指導、母親による家庭療育
5歳以降 母親によるライフスキルトレーニング
※STは言語聴覚士のサポート、OTは作業療法士のサポート

○習い事 ※時期は重複しています。
生後10か月~3歳
大手企業S運営の赤ちゃん教室
一般的な赤ちゃんから就学までの幼児のための教室
発達凸凹の子にも優しいプログラムでした。

生後10か月~1歳
一般的なスイミングスクール
水に興奮することで、運営側から排他的な態度をとられて、やめました。

1歳~12歳
水泳個人指導
一般的な子供を個人指導する体育系大学の学生さんを見つけて、区民プールで個人指導を行いました。

2歳~12歳
駅前によくある大手音楽教室
2歳児、3歳児までは集団でその後は、丁寧な先生を見つけて個別指導でピアノを12歳まで教えていただきました。中には、発達凸凹の子供の対応に不慣れな先生もいらっしゃるので、先生を選んで受講しました。

4歳~12歳
原宿にあるダンス、ボーカル教室
実際に、ダンスや歌唱が好きなお子さん方は多様で、先生も発達障害という枠組みで子供を捉えることはありませんでした。

4歳~12歳
一般的な集団受講の美術教室

7歳~15歳(現在)
個人指導や多様なお子さんを受け入れる美術教室

7歳~15歳(現在)
一般的な子供たちを教える家庭教師、プロの先生にお願いしています。
これまで習得過程に合わせて4人の家庭教師に教わってきました。

11歳~15歳(現在)
声楽家の先生の個人指導
将来、声楽家を目指すことが決まったために、専門の先生を探しました。特に発達障害向け指導をなさっているわけではないですが、お気持ちがあって、特別支援学校の音楽教員の経験のあるプロの声楽家の先生です。
※この先生のコンサートにもゲスト出演させていただいています。

14歳~15歳(現在)
プロ養成のためのボーカルスクールに特待生として合格し、通っています。
発達障害という枠組みでは生徒を捉えずに、もともと音楽をやる人間は、ちょっと変わっているし、個性的だという見方で育ててくれています。

15歳(現在)
一般的な子供が通うプログラミングスクールでプログラミングとアプリ開発、コンピュータグラフィックスを学んでいます。

そして、高校受験を迎えました。すでに半年かけて子供に合う高校を探しています。その中間報告として、見学に行った23校を分類してみました。

1.発達障害の枠組みで考える学校
1-1.障害枠就労目指す系
1-2.職人就労目指す系
1-3.進学視野系

2.発達障害の枠組みで考えていない学校
2-1.知的要求高い系
2-2.自分探し系
2-3.才能系
2-4.ハコモノ系
2-5.初心者ビジネス系

見学、学校説明会に行ったのは、全日制、全日制通信、広域通信、サポート校orフリースクール、などの形態の高校です。

発達障害に理解があるというカテゴリでは、分けませんでした。
発達障害に理解があるというのは、支援者側のカテゴライズであって、発達障害に理解があることを看板に出していても学校に通う本人がどうありたいかには、配慮出来ていない学校も多いからです。理解があると謳っていても知識や経験がお粗末極まりない学校もあります。

本人が発達障害の枠組みで配慮されて生きていきたいか、そうでないかをちゃんと考えられる能力のある教員がいるのかということは、うちの場合は、学校選びの大きな判断材料になります。

発達障害に配慮していますというアピールをしていなくても生徒一人ひとりを尊重して大切に育てている学校もあります。

母親である私は、学校選びについては、本来は、発達障害だから配慮しなきゃという以前に一人ひとりを大切にするという観点を持てる教員の人間としての器量の大きさと知力が最も大切だと考えています。これは、私が考えるうちの子供に合う学校選びの基準なので、様々な特性の幅の広い発達凸凹の子供ひとりひとりどんな学校が合うかは、みんな違うと思います。

習い事も民間療育も高校も塾も家庭教師も「発達障害」の子供たちに丁寧に対応できますという売りのところが急増しています。しかしながら、それは客寄せの看板で、実は、支援員や教員、指導者にそういう知識がほとんどないまま、「発達障害の~」と名前を付けることで集客しているだけの初心者ビジネス的な商売が横行しているのが現状です。発達障害に配慮したいという前提があっても、指導者の育成が追いついていないところのほうが多いのです。発達障害向けのという看板が出ていると、わらをもつかむ思いの親御さんは、大金をはたいてしまいがちです。本当に、指導者は、正しい知識をもって対応できるのだろうか、子供たちに間違った指導はしないか、伸ばす技術をちゃんと持っているのかなどを見極める眼力が必要です。

赤ちゃんの頃から、習い事、療育、学校選びを通して、子供に教えるということを考えた際に、一番大切なのは、指導者の子供に寄り添う人間力だと考えています。子の小さな進歩に丁寧に寄り添える能力があり、教科書通りにはならない子供の成長を楽しめる幅の広さや想像力を持ち、一緒に考え、悩み、試行錯誤し、楽天的でどんと構えてくれる先生。そんな先生が見つかると、子供たちは生きる力を伸ばしていくことができます。

また、発達障害だからこうに違いないという教科書やマニュアル的な観点からの指導にこだわることなく、俯瞰して物事をとらえ、柔軟に発想する能力が備わっている先生こそが生きる力を授けてくれます。

親がそういう先生になっていいし、自分では足りないところを外部に求めてもいい。凸凹の子育てをする親だからこそ、子供を伸ばしてくれる先生を見つける嗅覚がだんだんに備わっていきます。

15歳まで凸凹なわが子を育ててきて、出会った先生とともに母親として成長できたと思います。同時に、先生によっては痛い目に遭わされることもありました。

でも、絶対に喧嘩はしないことがポイントです。
酷い先生、酷い人間にも、何か一つくらいは、じっくり見れば、学ぶべきところはありますし、喧嘩する労力よりは、子供の味方になってくれる人を探すほうが早いし、気持ちが楽です。できるだけたくさんの味方を見つけ出し、子供とお母さんを取り巻く緩いチームを作って、みんなで更なる高みを目指していくほうが、楽しいですから。

次回は、発達凸凹の第一子のきょうだいとして様々な悩みを抱える第二子についてお伝えします。

あしたん
スーパーバイザー
こころことば教室 (ブログはこちら>>

 

──■ 連載:聴覚障害のある子を育てる
(第4回)我が子に人工内耳手術を受けさせる親の苦悩
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○我が国における人工内耳の現状
現在、日本における人工内耳装用者数は約5700名であり、そのうち18歳未満の小児は全装用者の40%弱を占めています(北野, 2007)。なお、全世界における小児の装用比率は全装用者の60%弱であり、日本の小児の装用比率は先進
国の中で最も低いものとなっています。日本では、新生児聴覚スクリーニング検査が普及しているにも関わらず、小児の人工内耳装用が少ないという現状があります。

なぜ日本では小児の人工内耳装用が少ないのでしょうか。その原因として、日本では我が子に人工内耳手術を受けさせるかどうかを保護者が決断し、選択しなくてはならないことがまず考えられます。

オーストラリアでは、人工内耳手術が医療サイドから提案される第一選択となっており、保護者が迷い悩むことなく、人工内耳手術の適用が検討されるようなシステムが構築されているそうです。そのような場合には、小児の人工内耳装用率は必然的に高くなるでしょう。

現在、日本では、人工内耳手術の適用年齢は1才以上というガイドラインが日本耳鼻咽喉科学会によって設定されています。1才頃に補聴器の効果が十分でないと医師が判断し、すぐに人工内耳埋め込み手術を施行することは、日本では医療サービスのルーティンにはなっていないという現状があります。
日本でも、人工内耳埋め込み手術を執刀する耳鼻科医の診察を受けている場合には、医師から人工内耳埋め込み手術を強く推奨され、保護者はさほど迷うことなく選択することになるでしょう。しかし、たいていの場合、小さな我が子に人工内耳手術を実施するかどうかは、医師ではなく保護者が個人的に情報を収集し、人工内耳のメリットとデメリットを理解した上で悩みながら決断し、保護者からの申し出によりはじめて医療サイドで人工内耳手術の適用について検討が始まることが多いと思われます。

人工内耳装用の主要な目的は、音声言語の獲得です。しかし、人工内耳を装用すれば必ず音声言語が獲得できるわけではないことも事実です。音声言語の獲得には、人工内耳手術を施行したときの年齢、聴神経や内耳の形態といった医学的要因、手術後のハビリテーションや療育環境、本人の認知能力など、さまざまな要因が関与します。そのため、「人工内耳手術を受けたら必ずおしゃべりができるようになりますよ」とは、医療サイドから保護者に提案することはできないのです。

○保護者が選択する子どもの人工内耳手術
侵襲性※の極めて高い電極埋め込み手術を乳幼児に対しておこなう場合、人工内耳を装用する聴覚障害児本人の意志とは関係なく、保護者が自らの価値観や考え方に基づき、補聴器による補聴効果をあきらめ、子どもに強制的に人工内耳を装用させることになります。保護者が子どもの人工内耳手術を選択する過程には、ろう者がろう者のままろう文化の中で生きていくことを否定し、保護者側の健聴者としての世界の価値観を聴覚障害を持った子どもに強要することになりかねないという危惧を感じて苦悩することも多く、保護者には相当の覚悟が必要となってきます。
※医学で、生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激全般

保護者が我が子の聴覚障害を知り、人工内耳手術を決断するまでの苦悩する過程を表した手記はこれまで多数存在します。たとえば、星野(2007)は、娘の聴覚障害を知ったときには障害という言葉が重く、自分の人生は終わったと感じたことや、2歳の娘に人工内耳手術を選択するには、命にかかわらないのにあえて手術をすることや手術が絶対に成功するという確かな保証がないこと。2歳で人工内耳をして将来的にどんなデメリットがあるのかわからないことを考えると、人工内耳の選択には大きな覚悟が必要だったと述べています。

○当事者本人の思いは?
幼少期に保護者の選択によって人工内耳手術を受けて成長した聴覚障害児は、自分の親が選択した人工内耳をについてどう考えているでしょうか。保護者の考えに基づいて人工内耳手術を受けた聴覚障害児が、現在の自分の人工内耳をどう捉えているのか明らかにすることは、これから保護者が我が子に人工内耳手術を受けさせるかどうかを選択する際の有益な情報のひとつとなると思われます。

私は、息子の育児休業が終わって大学に復職してから、息子が生まれる前はまったく関わりのなかった聴覚障害に関する心理学研究に新たに取り組み始めました。先天性聴覚障害を持って生まれたお子さんは、保護者の判断で埋め込まれた人工内耳というものに対して、大きくなったらどんなふうに感じているのだろう。 一方、幼い我が子に人工内耳を選択した保護者は人工内耳にどんな夢を託しているのだろう。自らの体験をふまえて生じたこれらの疑問を解明するために、私は二つの研究をおこないました。

ひとつ目の研究では、 幼児期に人工内耳手術を受けた聴覚障害児に対して数年にわたってインタビューをおこない、小学校高学年になった当事者の子どもが自分の人工内耳をどのように感じ、自分の障害と向き合っているのか、検討をおこないました。二つ目の研究では、人工内耳を装用しながらろう学校に在籍するお子さんと通常学校に在籍するお子さん、それぞれの保護者の方にインタビューをおこない、 保護者はどのような願いで幼い我が子に人工内耳手術を選択したのか、人工内耳に込めた願いが療育や教育方針に与える影響について検討をおこないました。次回は、私がおこなったこれらの研究からわかったことについてお伝えしたいと思います。

○引用文献
・ 北野庸子 (2007). 人工内耳と子育て --新たな聴こえの可能性と限界 そだちの科学, 9, 79-86.
・星野友美子 (2007). 人工内耳で聴覚障害児を育てるということ そだちの科学, 9, 108-113.

金沢大学人間社会学域人間科学系
准教授 荒木友希子

 

──■ あとがき
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これまで様々な分野の専門家や関係者に執筆をお願いしてきました。選択は編集人一人が担当してきましたので偏りがあると思っています。読者の皆様の中で、こんな分野の記事が読みたい、この人に原稿を依頼してほしいなどのご意見がおありでしたらお寄せいただけないでしょうか?
原稿依頼に際しても、読者のリクエストに基づいてと執筆者の説得が容易になると考えています。

私自身としては、感覚過敏(鈍麻)やワーキングメモリについて、最先端の研究者にご執筆いただきたいと考えておりますが、いかがでしょうか?

また、今後のメルマガの構成内容についてもご要望をお寄せいただけたら幸いです。ご意見ご要望は末尾の【お問い合わせフォーム】からお願いいたします。

次号のメルマガは、8月5日(金)の予定です。

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