NHK 厚生文化事業団:発達障害の子どもたち

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2014.05.30

NHK 厚生文化事業団:発達障害の子どもたち

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■ 連載:音声言語と書記言語 -ことばと文字のちがい
■ DVD:発達障害の子どもたち~”自立をめざして”
■ 書籍:だいじょうぶ 自分でできる怒りの消火法ワークブック
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■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係 第4回
音声言語と書記言語 -ことばと文字のちがい
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ことばのキャッチボールはコミュニケーションの基本、意思疎通のための手段の一つです。しかし、われわれは実のところ自分の都合のいいようにしか聞かない利己的な生き物です。

コミュニケーションの基本は、
1)直接会って話す
2)電話や携帯電話で話す
3)文章として記述したものを相手に手紙やメールなどで渡す
4)メーリングリストやソーシャル・ネットワーク(SNS)、ブログでつながる
の4つのパターンがあります。

コミュニケーションの基本とも言える「直接会って話す」という行為は、お互い「場所」と「時間」を共有する必要があります。お互いがあるいは片方が移動することなしに「会う」は実現しません。「会う」というアクションは、相手への「好意」「価値」「敬意」なくしてありえません。

しかし、相手の場所に移動することは、実のところ容易なことではありません。歴史を振り返ってみれば、遣唐使にせよ、参勤交代にせよ、移動は相手へ帰依する気持ちを伝える最大の方法でした。幕末を活躍した坂本龍馬のフットワークの軽さが人の心を動かし歴史に足跡を残したとも言えるでしょう。

電話や携帯での音声でのコミュニケーションは、「会う」とはおもむきがずいぶん変わってきます。知己からの「声の便り」なら気楽に語り合うことができますが、見ず知らずの人からのファーストコールとなるとそうはいきません。そうした場合の会話は得てして、疑心暗鬼で緊張を強いられるものになってしまいがちです。その声の相手を息子や孫と勘違いしてしまった日にはオレオレ詐欺のように、普通なら引っかかりそうもないあり得ないような話にだまされてしまいます。会ったことがある人の声には心が動かされ、他方で会ったことがないと思っている時にはたとえ、その相手が本当の知人であっても話がかみ合うことはありません。電話だけで意を尽くすということは本当に難しい。それは場所(Where)やなんであるか(What)を伝えるのには
音声言語だけでは不十分だからなのです。コールセンターのように、とてつもなく多くの見えないお客さんと対応する仕事がストレスフルなのは、そうした理由からかもしれません。逆に、TVショッピングとその場での電話注文という組み合わせのマーケティング手法は、映像だけあるいは音声言語だけでは伝えがたいsomehowを「同時性」を保持しつつ、相手に伝えることができる点で非常に優れた手法と言えます。

そして3番目が、文章として記述したものを相手に手紙やメールなどで渡すという方法です。書簡や手紙は「真正性(ホンモノ、原本性)」「保存性(再現性が担保されている)」「見読性(よみやすさ)」の3つが保全されているすぐれた情報伝達手段です。文字を石碑などに刻み込む時代を経て、パピルス、紙と書き残すことのできるメディア(媒体)が生まれました。メディア
が生まれたことで「書記言語=文字」が生まれた。つまり、文字とは音声言語よりもはるかに遅れて登場してきた情報の伝達手段と言うことになります。

当時のメディアである、壁やパピルスや紙というものはまだまだ保存性という点で安定していませんでしたから、書き記された、例えば王の真正性を証明する文書はキトラ古墳やピラミッドにように厳重に管理されたりしました。キリスト教や仏教の普及期には、原典の保管→口伝者・伝道者の育成という手段が取られたのは、ひとつにはコピーを容易に作成できなかったことがあるでしょう。しかし時代の進歩は印刷という技術を生み出します。グーテンベルクの発明した活版印刷によって原本に限りなく近い「コピー本」が世に流通するようになります。情報や思想が、書物によって拡散される時代が生まれたのです。

当時の拡散には、書物を運送しなければなりませんでしたから、拡散はけして効率的ではありませんでした。キリスト教や仏教が世界に広がっていった歴史を振り返れば、書物が運搬され、原著を咀嚼し、それを母語に翻訳し、人々に伝えるという作業にどれほどの汗と時間が必要であったかが、容易に分かるのではないでしょうか。手書きで書き写した時代から写植の文字に変わることは、見読性の点でも優れたものでした。一方でそうしたコピー本による拡散に対して、時の為政者は焚書などで対抗し、原典を探しそれをなきものにすることに奔走するという歴史もくり返しています。今の時代、英語というツールを多くの人が使いこなし、情報はインターネットを介して(その真正性はさておいて)容易に拡散するようになりました。2010年から2011年にかけての「アラブの春」という革命的現象は、われわれの使う言語環境がUnity 化していることと、SNS の持つ拡散性とがうまくかみ合って生まれたひとつの騒動です。しかし、そうしたスピード感がそこにいる当事者たちをぱぱっと切り替えるものでもなかったようです。

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われわれは、音声あるいは文字を使ってコミュニケーションします。

音声と文字は母語というプラットフォームの上に成立し、文字は音声言語を基盤に後から生まれてきました。

音声ならすぐに悟ることができる暗喩や隠喩。しかし文字づらからそうしたニュアンスを汲み取ることは容易ではありません。音声言語の持つバリエーションを書記言語だけで表現することはかなり難しいからです。携帯メールを使うようになり、文字数の制限なども相まって、既存の文字で感情を伝えることは難しくなりました。そんな中で絵文字が、アクセント、イントネー
ション、暗喩、隠喩などなど、書記言語では表現困難であった情意的情報の新しい伝達手段を生み出しました。

われわれのコミュニケーションの原点とは、フェース・トゥ・フェースで、相手の表情を汲み取ることです。メールを多用する人々の間にフェースマークや絵文字と言う新種の書記言語がじわじわと浸透していく様は、書記言語の持つある種の限界を教えてくれているのではないでしょうか。

文字の読み書きに問題を抱えるお子さんが少なくない。そうした問題が社会問題化しているのが今の時代ですが、そうした問題を視覚機能の障害として取り扱う前に「聴覚の発達」についてももう少し注意を向ける必要があるのではないかと思案するのです。

(中川雅文・国際医療福祉大学教授、同大学病院耳鼻科部長)

 

■ DVD:発達障害の子どもたち~”自立をめざして” その1
第1巻 就学前の支援
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NHK厚生文化事業団が2014年3月に制作し、福祉ビデオライブラリーとして無料貸出(送料のみ負担)をしている3巻セットのDVDの紹介です。
★詳細はこちら>>

しばらくの間、本メルマガで基本的事項についての記載を割愛する傾向がありました。このDVDは多くの方に発達障害を理解をしてもらうために作られている素材ですので、何回かに分けて詳しく紹介していきたいと思います。

DVD各巻の内容と監修者は以下の通りです。
第1巻 就学前の支援 監修 井上雅彦・鳥取大学教授
第2巻 小学校における支援 監修 阿部利彦・星槎大学准教授
第3巻 我が子と歩んだ20年 監修 井上雅彦・同

今号では、第1巻(収録時間:86分8秒))前半を紹介します。

○序章 発達障害とは
大別して、自閉症スペクトラム障害(ASD)、ADHD、LDに分かれます。
ASDの特徴は、社会性の障害、コミュニケーションの障害、こだわり、です。
AHHDの特徴は、不注意、多動性、衝動性、です。
LDの特徴は、読み・書き・計算など特定の能力が他より落ち込む点です。
原因は発見されておらず、治療方法も確立されていません。
育て方で発生するものでなく、中枢神経系の障害ですがどこかは不明です。

2012年の文部科学省の調査で、小中学校の通常学級の中で6.5%に、発達障害の可能性のある子どもがいることが分かりました。内訳は、以下の通りです。
・学習面の著しい困難 4.5%
・不注意または多動性・衝動性  3.6%
・対人関係やこだわり 1.1%

就学前の年齢では、この数字より少し多い人数に支援が必要な子どもがいると思われます。

○第1章 療育施設における支援        ※療育=治療的教育
神奈川県海老名市立「わかば学園」の事例が豊富な映像で紹介されました。
ここには約40人の2歳から6歳の子どもが週に2回程度通っています。

方針は、次の2つです。
1.子どもにとって分かりやすい環境を作る
2.その環境の中で、安心して楽しく過ごせる

入口の下駄箱の一つひとつに、動物やアニメのキャラクターの写真が貼ってあります。自分の場所を分かりやすくするためです。

教室の中はいくつかのパーティションで仕切られています。それぞれの活動を別々の場所で行い、今やっていることを分かりやすくするためです。また目に入る刺激を少なくするという目的も兼ねています。

活動をする場合も、それぞれ行う課題が複数毎の写真等で示されており、やる課題を分かりやすくすること、見通しを立てることが配慮されています。
内容としては、数名で歌やダンスでことばや数に親しんだり、個別指導の形でトイレや着替えなど、生活習慣に関することに取り組んだりしています。

5歳の高橋直樹くん(仮名)の事例が紹介されました。
最初に母親の明美さん(仮名)が違和感を感じたのは1歳半検診の時です。
健康診査アンケートで、言葉の遅れや指さしをしないといった項目がチェックされました。市からの勧めで、子育て教室に入りましたが、子どもの輪に入れず、孤立していました。明美さんはその当時、孤立感がもっとも大きかったと答えています。
早くに集団生活に慣れさせたいと、幼稚園の未就園児コースに入れましたが担任から「言葉の指示が伝わっていない」と指摘されました。家庭の中で、それまで外出するといわれて出かけていたのは、服装が違ったりしていたことで伝わっていただけで、言葉を理解していた訳でないことが、その時に分かった訳です。
その後、医療機関を訪ね、3歳の時に自閉症と診断されました。それから、わかば学園を紹介され、週に2回通うようになりました。

わかば学園では、例えば、トイレに行く時間、と伝える時に、トイレの写真をカードにしたものを一人ひとりに見せるようにしています。
直樹君は、カードで指示が分かるようになり、だんだんとクラスの中で行動ができるようになっていきました。

指示を受けるだけでなく、例えば、欲しいものを伝える時も、用意されているカードを示して伝えます。指示されたことが分かること、自分の伝えたいことが伝わること、伝わってうれしいと感じることで、だんだんとコミュニケーションが増加していきました。それにつれて、他の友達への関心も育っていきました。

家庭でも、「家に帰る」「おせんべいを食べる」などの絵や写真のカードが活用され、できることが増えていきました。

明美さんは当時を振り返って、「いつでも相談できるようになった心強さ」が一番、ありがたかったと述懐されています。

○第2章 特性に配慮した支援
わかば学園での実践についての疑問に監修の井上先生が回答されています。
「カードを使うことで言葉の伸びが制限されるのでは」との疑問には、「カードを使う際には必ず声掛けも一緒になされており、カードと言葉の関連付けが同時になされているので心配ない」とのことでした。

次回は、「未就学児への家庭での支援」として、ご両親が専門機関で、ABA(応用行動分析)を学びながら行われている実践について紹介します。

(報告:五藤博義)

 

■ 書籍:だいじょうぶ 自分でできる怒りの消火法ワークブック
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発達障害の子どもの中には、感情の表出が上手くできないお子さんが少なからずいます。

アウトプットはとにかく「怒り」一辺倒。
こちらからしてみれば、ちょっとしたことですぐ不機嫌になってしまうように見えるし、時には怒っている理由すら全く想像がつかないこともあります。
こうも毎日怒ってばかりいられると周囲の大人も疲れ果ててしまいますよね。

でも子どもの心の中にあるのは「怒り」ではなく、実は「困った」「わからない」「嫌だ」といった別の感情だったりすることも。
本当に怒っていることも時にはあるのでしょうが、自分にとって好ましくない状況に直面すると「キレる」というパターンがやはり多いように思います。

「起こったことについて、どう考えたかということが、どう感じるかを決める」「怒りの吐き出し方には2つの方法がある。ひとつは、体を激しく動かして、怒りのエネルギーを燃やしてしまう方法。もうひとつは、体をゆったり静めて、怒りを消してしまう方法」

などの記述にある通り、この本はそんな子どもたちが、自分で自分をコントロールできるようになるために書かれた本。
英語で「アンガー・コントロール」「アンガー・マネジメント」などと称されるものに近い印象です。

自分を客観的にとらえ、どのような対処法を取れば、怒りの感情と上手く付き合うことができるのかをスモールステップで導いてくれます。

たとえば「腹の立つ場面からはなれて、ひと休みするときにできることを4つ考える」などはワークシート形式。実際に自分が考えたアイディアを書き込むことができます。

本文も語りかけるような文体で、時には共感し、時には諭しながら子どもが自分で心の持ち様をコントロールできるよう、サポートしてくれます。

対象年齢は“6歳から12歳まで”と書かれていますが、全体の文字量がやや多め、かつ小学校低学年で習うような簡単な漢字にはふりがながふられていません。よって、実際には小学校中学年以降ではないと、子どもが自身で読み進めるのは難しいのではないかという印象です。

小さいお子さんや、長文を読み進めるのが苦手なお子さんには、保護者の方が読んで、声掛けなどに活かす形で使うといいかもしれませんね。

この本は「子どもの認知行動療法シリーズ」の一冊。
不安が強いお子さんや、こだわりの強いお子さんに対しても同シリーズの本が出ています。

●だいじょうぶ 自分でできる心配の追いはらい方ワークブック
★詳細はこちら>>

●だいじょうぶ 自分でできるこだわり頭[強迫性障害]のほぐし方ワークブック
★詳細はこちら>>

ほかにも「眠れない夜とさよならする方法」「後ろ向きな考えの飛び越え方」などがシリーズでありますので、お子さんの状態に合わせて生活に取り入れてみてください。

だいじょうぶ 自分でできる怒りの消火法ワークブック
ドーン・ヒューブナー著、ボニー・マシューズ絵、上田勢子訳
2009年9月発行、明石書店、B5変形版、104ページ、1500円(税別)
★詳細はこちら>>

(小林みやび)

 

■ あとがき
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暑くなったり、雨が降って冷え込んだり、発達障害の子どもたちがもっとも苦手とする時期がしばらく続きます。そんな時は一緒に散歩に出て、アジサイのつぼみが固い緑から色づいていったり、野生の樹木の実を探したりしてはいかがでしょう? 季節の変化を目で確認することは子どもたちの漠然とした不安を和らげてくれるかもしれません。

樹木の実の、毎月の様子の写真を見つけましたので、ご参考まで。
★上記の写真はこちら>>

次回メルマガは、6月13日(金)の予定です。

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