「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ

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2014.02.07

「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ

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■ 連載:「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ
■ 連載:アメリカでの療育における専門士の役割・2
■ グッズレビュー:トミカタウン
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■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第9回
「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ・1

「子ども達って、本当にたくさん聞いてほしいことがあるんだなあ」というのは、教師になってからずっと感じて来たことでした。外からもわかりやすいおしゃべりな子はもちろん、普段はとても無口だったり引っ込み思案だったりする子達も「あのね、先生・・・」と、話したいことをたくさん抱えていました。場や関係が変わって行くと、思わぬ子が思わぬ話をしてくれるということもよくありました。自分の思いが伝わった時の子ども達の表情は、たまらない輝きを放っており、通じ合うことの大切さをその度に実感してきています。

しかし、その「誰もにある思い」を共有していくことに、長い時間がかかってしまったケースがあります。今回はそうした経験の懺悔の気持ちもこめてのご報告をさせていただきます。

Aさんは、入学時は表出に大きな困難があり、全ての活動へ拒否的な状況が続いていたため、知的障害特別支援学級に入学してきました。その後、適応が高まって行く中で彼女の苦手さや得意なことがだんだんとわかっていき、3年から自閉症・情緒障害特別支援学級に転級しました。ご縁があったのでしょう、一緒に教室を移ることになったため、6年間担任させていただきました。長くなった教師生活ですが、初めての経験でした。

Aさんは、本が大好きで、たくさんの本を読んでいました。一方で、自分から周囲に話しかけるということはほとんどなく、簡単な質問にもだまったまま答えないことの多い子でした。自分のしたいことを主張するということもほとんどない上に、困ったことや「こうしてほしい」という要求も、伝えられないでいました。そのせいもあってか、普段はとても穏やかに過ごしているのに、時折、突発的に激しい不適応行動を起こすことがありました。

長く一緒にいる中で、なんとか彼女の思いを共有して行きたい、表出を増やして行きたいと考えてきました。ですが、学習上のやりとりは可能になったものの日常の会話や、やりとりはなかなか広がらないまま、高学年になってしまいました。

彼女が思いを伝えられるようになるために、何が必要なのかなと考えた時、まず浮かんだのが「伝わる実感」でした。「聞く」「読む」という活動には学年が進むごとに意欲的になってきていましたが、「話す」「書く」ということには向かいにくかったAさんは、「伝えたい」という意欲の前に「伝わる」という実感を、日々の中で重ねて来れていないように見えました。

そこで、「伝わる実感」を「伝えたい」という意欲につないでいく試みとして、以下の3つの取り組みを行ってきました。

・自分の考えをまとめる→思いを見つめる・見つける・深める
・思いを伝え合う→「伝わる」実感の積み重ね・「伝わる」ことの意義の体験
・「教える」活動→相手を意識して「伝える」体験・「伝わる」喜びの共有

それぞれの場面で使ったのが、以下のアプリです。

(1) 考えをまとめるツールとして
○SinpleMind+(マインドマップ):itunes App Storeのプレビューはこちら>>

○7notes:itunes App Storeのプレビューはこちら>>

(2) 思いを伝え合うツールとして
○ぼくらの交換日記:itunes App Storeのプレビューはこちら>>

(3)「教える」活動のツールとして
○ i暗記+:itunes App Storeのプレビューはこちら>>

○スクラッチカード作成と共有~KesiKesi:itunes App Storeのプレビューはこちら>>

今回は、(1)を使った実践についてご紹介します。
マインドマッブアプリの良い所は、以下ではないかと感じています。

・簡単に項目を追加できる。
・いつでも並べ替えられる。
・項目ごとに続きを付け加えていくこともできる。
・単語で入力していけるので、負担が少ない。

スタートで、「5年生になってがんばっていること」というテーマを投げかけてみました。思いついたことをプラスボタンで次々に付け加えていくことにとても興味をもったようです。結局21項目挙げることができました。それまでも同じような学習を、付箋を使ったりホワイトボードで示したりしてやってきていましたが、こちらから例示をすれば、辛うじて選んでくれることがある程度で、自分から項目を挙げていくことはなかったので、とても驚きました。

いったい、この違いはどこから来ているのだろうと、考えさせられました。

・iPad という手だてそのものが、魅力的で興味をそそる。
・新しい項目が色違いで出てくることが楽しかった。

という部分も確かにあると思いますが、見ていて感じたのは、「入力方法がAさんに合っていたのではないか」ということでした。

紙ベースで同じことをしようとすると、Aさんが自分で手書きするか、私が代わって書き込んでいくかのどちらかの手順で進めていくことになります。

しかし、Aさんは書きにかなりの苦手さがあり、文字がなかなか整わないため、書くことそのものがそもそも好きではない上に、自分で書いたものを読み返すことはまずありませんでした。ですから、彼女の書いたものを使って次の学習をするというのは、かなり厳しい状況でした。

かといって私が代筆しようとしても、彼女からなかなか意見が出てきませんでした。そのため、こちらから選択肢を示して選んでもらうという形になりがちでした。

「自分で書くのは、読める字にならないのでイヤ。書いてもらうものは、自分の思いでないので興味がわかない」 Aさんの以前の状況には、もしかしたらこんな思いがあったのかもしれません。

マインドマップアプリの、
・50音キーボードで入力していくことができる。
・全てを入力しなくても、予測変換で言葉の候補が出てくる。
・入力したものは、読みやすいテキストになっている。

というあたりが、Aさんには適していたように思います。

Aさんは21個の項目で埋まった画面を見て、「すごいね私!」と満面の笑顔で言っていました。

そうして入力した項目を、並び替えることが容易なのも、こうしたアプリの強みです。Aさんは、「がんばった順に並べていこう」という呼びかけに応じて、一つ一つの体験を思い浮かべながら「こっちかな。いやこっちかも」と作業を進めていきました。

「できた!」と自信満々で見せてくれたものの一番上には、「陸上練習」がありました。確かに運動の嫌いなAさんが、陸上大会に向けて毎日放課後行われた練習に参加したのは、かなり大変だったと思います。それでも、毎日がんばってやり遂げたことで、たくさんの人にほめてもらって喜んでいましたので、この選択はとても納得です。

次回は、単語で整理していった思いを「文章で表していく」ために使ったアプリをご紹介します。
(井上賞子・安来市立赤江小学校)

 

■ 連載:ボストンからの発達障害レポート 第7回
-アメリカでの療育における専門士の役割 No.2
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前回は米国の学校教育内で行われる専門セラピーの概要についてお話ししました。今回は、セラピーの内容をもう少し詳しくお伝えしたいと思います。

私がアメリカに来て一番イメージが変わったセラピーが言語療法 = Speech Language Pathology、SLPです。

みなさんは言語療法と聞くと、聾唖の方や難聴者の方に対して行われるセラピーだというイメージがありませんか?(私はそうでした。)アメリカでは、自閉症をはじめとする言葉の発達に影響する障害を持つ子や、滑舌などに問題を抱える子にも言語療法を行います。

私は現在、幼児教育の現場で働いているのですが、2歳前後で語彙がぐんと伸びて来ている子や、少し遅れが目立つ子にも、積極的に言語療法のメソッドを取り入れています。

アメリカの学校教育や臨床の現場で最も幅広く使われている支援ツールに、メイヤージョンソン社が開発したボードメーカー(BOARDMAKER)というソフトウエアがあります。ピクチャー・シンボル・コミュニケーションのためのソフトウエアで、言葉と絵が一つになっていて意味を理解するのを助けます。

パソコンを操作できる年齢の子には、パソコン上で指導することも可能ですが、まだ年齢の低い子には、セラピストや教師たちがリングファイルとマジックテープとプリントアウトしたシンボルで手作りツールを作ります。

ファイルの表にマジックテープの片面を貼り付けておいて(写真1)、各シンボルの後ろにもう片面のマジックテープを貼り付けます。
○写真1 ファイルの表にマジックテープ 

そして写真2のように「I want ~(私は~がやりたい).」の2語をファイルの表部分に最初に貼り付けておいて、songsがいいか、bookがいいか、2つのシンボルを子供に見せて選ばせます。
○写真2 シンボル「I」とシンボル「want」

この「視覚化」と「選ばせる」という方法は発語を促すうえで最も基本となり、セラピストは子どもが選んだものを口に出し、子どもがその音をリピートできるように促します。

そして選んだシンボルを貼り付けて「I want songs/book.(私は 歌/おはなし がやりたい)」の一文を完成させます。
○写真3 (画像はこちら>>

この時も文をリピートさせて、そのあとに子どもが選んだものを実際にやることで「言葉」には「意味」があり、それを「伝える」ことで自分の要求が叶うのだということを繰り返し強化していくのです。

文字が読めない2歳くらいの子でも、絵をヒントに言葉を覚えることができます。実際に私の働く園で言語療法士の資格を持つ先生がこの方法を10分間の朝の会に導入したところ、英語を母国語としない子や言葉の発達に遅れが見られる子も、この3語文はたった2週間でマスターしました。

ここで覚えた「I want~.」という文を生活の中で使っていくことで、語彙の数を増やすことができ、それがそのこのコミュニケーション力にも反映されていくのです。コミュニケーションスキルを培うためにも、言語療法は大変重要な役割を担っているのです。

この手作りファイルは、材料を安価に手に入れられて簡単に作れ、持ち運びがしやすい大変便利な支援ツールです。ファイルの中にマジックテープをつけたシンボルを収納しておくことができるので、シンボルを増やすこともテーマ別に管理することも簡単です。
○写真4 ファイルに収納されたシンボル 

ボードメーカーのシンボルがなくても、自分で描くこともできますし、広告や雑誌の切り抜きを使うこともできます。一日のスケジュールを伝えるのにも役立ちます。

いかがでしたか。
みなさんの言語療法に対するイメージは何か変わりましたか。
次回は日本ではあまり聞きなれないその他のセラピーについてお話ししたいと思います。

●メイヤージョンソン社「ボードメーカー」…英語ウェブサイトはこちら>>
(礒恵美)

 

■ グッズレビュー:トミカタウン
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多くの人は小さい時にやったことのある○○遊び。一緒に集まった子ども達一人ひとりが何かの役になったつもりで遊びます。これらのタイプの遊びを総称して「見立て遊び」といいます。

小さい子がやっているのをよく見かけますので、簡単に思えますが、実は、けっこう高度な遊びなのです。うまくやるには、それぞれの役を十分に観察しておかなければなりません。もちろん、それは日頃の生活の中で無意識にやっている訳ですが、観察眼と文脈を含めてのその人の行為・行動の記憶が必要になります。さらに、遊びをする過程で、お互いのやりとりで刻々と変化する場面ごとに、その人だったらどうするだろうか、という想像力が必要になります。

一緒にいる友達の全員が参加して行われることが多いので、何かの役ができないと仲間はずれになってしまいます。

前置きが長くなりました。想像力が必要な「見立て遊び」の練習にも使える「トミカタウン」が今回のグッズレビューです。
○「トミカタウン」のグッズレビューはこちら>>
レヴュアー: 未来奈緒美

 

■ あとがき
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昨年暮頃から、午後になるとパソコンの画面や資料が、両目を開けていると読めなくなるという症状が出ています。両眼視はある種の認知機能で、左右の別角度からの画像を組み合わせて、立体として認識するのですが、どうもそれを維持するのが困難になってきているようです。やむなく片目で見ているのですが、視界が狭く、文脈がつかみにくいので大変疲れます。

とうとう音を上げて、かわばた眼科に掛かることにしました。実にたくさんの計測機械があり、その測定だけで2時間近くかかります。川端院長によれば、眼鏡の度数をもっと落とした方がよいとのことで、次回は最適な眼鏡をつくるために、さらに詳しく調べていただくことになりました。

これらの体験を、川端院長と一緒に開発している「視覚認知バランサー」(9月発売予定)に活かせたらと、考えております。

次回は、通常より1週間先の2月28日(金)とさせていただきます。

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