一人ひとりの子に学校がなすべきこと

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2012.08.10

一人ひとりの子に学校がなすべきこと

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■ 報告:日本自閉症協会全国大会・一人ひとりの子に学校がなすべきこと
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・8
■ グッズレポート:「ラミネーター」
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■ 報告:日本自閉症協会全国大会・一人ひとりの子に学校がなすべきこと
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日本自閉症協会全国大会で文部科学省特別支援教育課調査官の石塚謙二氏が「これからの障害のある子どもの教育の方向性」と題して行政説明をされました。

平成18年12月の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」を契機として、公教育をとりまく環境は大きく変わってきています。これまでは大勢の子どもに合わせるのがベースでしたが、一人ひとりの違いによって「合理的な配慮」を求めることが権利として認められるようになりつつあります。

それらの点に焦点を絞って、学校、地方公共団体、国がなさねばならぬことを明示した、関連する法律と、学校教育の憲法ともいうべき、学習指導要領の改定を中心にレポートさせていただきます。学校等の理解が得られない場合、これらの情報を活用することをご検討いただければと思います。

筆者注)特別支援学校については、これ以外の記載が多々ありますが、今回は割愛させていただきます。

1.関連法

1) 教育基本法 (教育の機会均等) 第4条の2
国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。

2) 学校教育法 第81条
幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒に対し、文部科学大臣の定めるところにより、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする。  (以下、省略)

筆者注)特別支援学級あるいは通級指導教室でしかるべき教育が行われる必要についての言及です。

3) 障害者基本法 (教育) 第16条第1項
国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る必要な施策を講じなければならない。

筆者注)同条第2項では、本人及び保護者への情報提供とその意向の尊重、第3項では、障害のない子との交流及び共同学習の推進、第4条では、教師の人材の確保と資質向上、適切な教材等の提供などが明記されています。

2.学習指導要領

学習指導要領は10年(最近では5年)に一度、改定される日本の教育の大原則です。すべての教師がそれを十分に理解し、指導を変えていかなければならないのです。保護者としても可能な限り、その内容を知っておくことが、よりよい学校教育の実現及びそれと並行する家庭学習の充実につながります。

幼(保育園も準拠)、小、中、高、特別支援学校にそれぞれ学習指導要領があります。また、「学習指導要領の解説」という冊子も用意されています。石塚氏の資料から筆者の判断で、重要箇所のみを取り上げて紹介させていただきます。

1) 小・中学校指導要領から
障害のある児童などについては、特別支援学校等の助言又は援助を活用しつつ、例えば指導についての計画又は家庭や医療、福祉等の業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成することなどにより、個々の児童の障害の状況等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと。特に、特別支援学級又は通級による指導については、教師間の連携に努め、効果的な指導を行うこと。

2) 小学校学習指導要領から
各教科等の指導に当たっては、児童が学習内容を確実に身に付けることができるよう、学校や児童の実態に応じ、個別指導やグループ別指導、繰り返し指導、学習内容の習熟の程度に応じた指導、児童の興味・関心等に応じた課題学習、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れた指導、教師間の協力的な指導など指導方法や指導体制を工夫改善し、個に応じた指導の充実を図ること。

3) 小学校学習指導要領解説から
特別支援学級において特別の教育課程を編成する場合には、学級の実態や児童の障害の程度等を考慮の上、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考とし、例えば障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした指導領域である「自立活動」を取り入れたり、各教科の目標・内容を下学年の教科の目標・内容に替えたり、各教科を知的障害者である児童を教育する特別支援学校の各教科に替えたりするなどして、実情に合った教育課程を編成する必要がある。

4) 小学校学習指導要領解説から
小学校には、特別支援学級や通級による指導を受ける障害のある児童とともに、通常の学級にもLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、自閉症などの障害のある児童が在籍していることがあり、これらの児童については、障害の程度等に即した適切な指導が行われなければならない。

5) 小学校学習指導要領解説から
担任教師だけが指導に当たるのではなく、校内委員会を設置し、特別支援教育コーディネーターを指名するなど学校全体の支援体制を整備するとともに、特別支援学校等に対し助言又は援助を要請するなどして、計画的・組織的に取り組むことが重要である。

以上のように、障害のある子どもに対して、一人ひとりに合わせた教育を実施するようが学校に求められています。ただし、学校よりもさらに長い時間を過ごす家庭においても、同等以上の責任があると考えます。学校と家庭が協力し合い、子ども一人ひとりの成長に合わせて、適切な関与(相互作用)を行い、持てる能力・資質を開花していけることを願っております。

 

■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・8
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『真似したい気持ち (2010年11月の記録)』

2ヶ月前までのトムくんは、教えられたことや真似をいろいろできるようになってはいても、人と人のコミュニケーションという面では、その背後にある意味をほとんど理解していないような印象がありました。前回、「なおみせんせ~い、いっしょに遊ぼ~」と声をあげる姿があったものの、私を呼んでいるというより、 妹のジェリーちゃんの口真似をしているだけのようでしたし、呼ばれてとんでくる私を、ワクワクするような様子で待っている表情はしていても、「呼びかけ」と「来たこと」の因果関係はぼんやりとしか分かっていないようでした。

ところが、今回会ったトムくんをひと目見た瞬間、これまでお人形や機械のような動き方をしていたトムくんが、人間らしい自分の意志や気持ちを外の人に投げかけるような表現をするようになっていたのに、びっくりしました。

最初に驚いたのは、トムくんが私が手でする合図を即座に受け取って、すぐにそれに応じた行動に出ることができるようになっていたことです。

それらは、私が即興でしたベビーサインのようなもので、「こっちにきて」「だっこしてあげようか」「ゲームをしよう」「じゃんけんしよう」という合図を手の動きで表したものです。たとえば、トムくんを目にとめた私が、両手を少しだけ前につきだして、「こっちにきてね、だっこしてあげようか?」といったサインを出すと、それを見たトムくんは戸惑うことなく駆けてきて、抱きついてきました。

その後、私が手で作る形を手まねしたり、指で教える足し算や引き算を真似ようとしたりして、ずっと私が次に何を伝えようとするかに注目する姿がありました。

これまで、トムくんは何か働きかけても反応が返ってくるのがずいぶん遅く、アウトプットするための検索をするのに時間がかかるのだろうと考えられていました。また、人の真似を自分の意志ですることはありませんでした。

一般的な幼児は、自発的に自然に環境から学んでいきます。けれども、トムくんの場合は、親御さんや周囲の人々の並々ならぬ努力があって、一つひとつのことをマスターしてきたのです。トムくん自ら、人を通して学んでいく力は 非常に弱かったのです。

それが、今のトムくんはまるで、何でも吸収しようとする敏感期の幼児のように、他人の動きに注目してそれを真似ようとし、相手の合図を読み取ってそれに応えようとしていました。
(未来奈緒美)

未来さんのブログ:虹色教室通信はこちら>>

 

■ グッズレポート 「ラミネーター」
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さまざまなカードを透明なプラスティックでかんたんに包める器具です。インターネットで無償公開されているデータなどを使った手作りのカードを、耐水性をつけるなど、繰り返して使用できるものにすることができます。

視覚支援やコミュニケーションのツールとして「絵カード」を使用されている方には、特にお勧めです。

■商品名:ラミネーター

■発売元:アイリスオーヤマ

■販売価格:サイズ等で2,480円(税込)から

レヴュアー:小林雅子さん

「ラミネーター」のグッズレビューはこちら>>

 

■ あとがき
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大阪の発達障害関連判決について、8月8日に参議院会館で「発達障害の支援を考える議員連盟」の緊急集会が開かれ、参加しました。判決に含まれる多くの問題点については、著名な指揮者やマスコミが指摘していますのでインターネット等をご参照くださればと思います。

私からは一点だけコメントさせていただきます。それは「被疑者がコミュニケーションや感情表出に問題を抱える場合に、その真意を正しく認識し、審理できる仕組みになっているかどうか」という点です。

例えば、緊張のかかる場面では笑ってしまう(おそらく現状逃避の一種)という特徴のある人の場合は、笑うことは反省していないのでなく、逆にそのことについて、直面できないほどの強い感情を持っていることになります。それを理解できなければ、正しい審理、判断はできない訳です。

外国語しか理解できない人には通訳がつきます。一部の専門家しか理解できないコミュニケーションスタイルの人にも、同様に「通訳」が必要ではないでしょうか?それらの条件が満たされず、正しく情報が認識されなければ、取り調べも、弁護も、審理も正しく行われるとは思えません。

今回の判決は、これまで見過ごされてきた懸案事項が、たくさんの人の目に触れるきっかけになり、障害のある人のおかれている社会的な環境を考え直すよい機会だと思います。引き続き、推移を見守っていきたいと思います。

次回は、8月24日(金)の刊行予定です。

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