子どもたちの高次脳機能障害

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2010.11.05

子どもたちの高次脳機能障害

10月31日山梨県立盲学校の体育館で小児福祉機器展in山梨が開かれました。たくさんの当事者と家族の方々(発表では350名)が来訪され、展示されたいろいろな機器を試されていました。当社のブースには、据え置き式2種類とノート1種類のタッチパネルで、こども脳機能バランサーを使ってもらいました。

地元の療育センターや病院の専門士の方が、何人も当社ブースに子どもたちを連れてきていただいた御蔭でうっかりすると取り合いになるほどの盛況でした。パッケージソフトとタッチも何セットか、その場でご注文いただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

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【目次】
(1)認知障がいの子どもの親の会・4
(2)mayaさんの「スクールカウンセラー奮闘記」7
(3)おすすめコンテンツ「子どもたちの高次脳機能障害-理解と対応」

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(1)認知障がいの子どもの親の会・4

今回は言語障害とダウン症の会を紹介します。

●全国ことばを育む親の会

Webページによれば、前身の「全国言語障害児をもつ親の会」の設立が40年前と、大変に歴史のある親の会です。ことばがつっかえる子どもを心配する親に加えて、耳の不自由な子ども、発音が不明瞭な子ども、ことばの発達が遅い子どもの親たちが結束して、全国に35の事務局を持つまでになっています。

親の会HP
http://www.npokotoba.jp/index.html
事務局一覧
http://www.npokotoba.jp/5kaiannai/tiku-jimukyoku.html

会報「ことば」を、当事者や親、ことばの教室の先生や幼稚園・保育園の先生向けに年間6回発行しています。(年間購読料1,000円)
http://www.npokotoba.jp/6jigyouannai/annai-kikanshi.html

また、療育指導用パンフレットも35種類発行しています。「ことばを育てるやりとり遊び」「発達の遅れた子どものことばと生活の指導」など、それぞれの概要がPDFで見られるようになっています。
http://www.npokotoba.jp/6jigyouannai/library/ichiran.html

ことばについての悩みや不安にメールで答える、ことばの相談室があり、最寄りの相談機関などの紹介が受けられるようです。
http://www.npokotoba.jp/2soudan/soudanannai.html

イベントについては、ちょうど掲載が少ない時期のようですが、ことばの相談会、療育キャンプ、全国大会など様々な催しが企画されているようです。

●日本ダウン症協会

日本ダウン症協会は、全国に53の支部と5,700名の会員をもつ財団法人です。
http://event.ds-news.jp/htdocs/
支部情報
http://www.jdss.or.jp/jds/shibuichiran22-6.htm

ダウン症は、染色体が1つ多いことで起きる、知的発達の遅れや心疾患などの症候群です。同協会のWebページによれば、どの国でも1000人に1人くらい発生しているとのことです。

同協会は全国大会、成人期セミナー、巡回セミナーなどを実施しています。また、トップページの「最新情報!」ページには盛りだくさんの情報がアップされており、一見の価値があります。

もうひとつの特徴は、先輩のお母さんたちが電話やメールでの相談に対応している点です。トップページの「ご相談」ページにその方法が記載されていますからご参照ください。

同協会とは直接の関係はないようですが、充実した活動を行っている埼玉県ダウン症親の会ネットワークもご紹介します。
http://homepage3.nifty.com/saitama_dn/

「未就学児と母親のためのワークショップ」「学童のためのドラマ・シブショップ」「中高校生プロジェクト・アドベンチャー・シブショップ」など、ダウン症の当事者や家族のために、ユニークな活動を行っています。

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(2)mayaさんの「スクールカウンセラー奮闘記」7

<これまでのあらすじ>
小学校1年からずっと教室に入れず、休み休みながら保健室への登校を続けてきたA子。中学校に入学し、なんとか教室登校からスタートしましたが、2学期からは教室に入ることが難しくなり、SCと話し合って、校内の別室「ふれあい教室」から少しずつ授業への参加を始めました。小学校時代に同じように1年生からずっと保健室への登校を断続的に6年生まで続けていた友人が、「ふれあい教室」に登校してくることになりました。A子にとってこれは事件です。

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「ふれあい教室」は、教室に登校することが難しくなった生徒を対象に登校を促し、再び教室に戻る取り組みを支援するための教室です。非常勤指導員(教員ではなく資格なし)が半日程度の時間で配置されており、登校してきた生徒を見守ってくれています。SCの勤務日には、SCがふれあい教室に入り、みんなと話したり、必要に応じて個別の面接を実施しています。

この頃のふれあい教室は、中3の男子が2名とA子の3名。中3男子2名は受験に備えて、1年~3年の復習のためのプリント学習や面接応答に備えて作文などに取り組んでいました。A子も「ふれあい教室」にいる時は、自分のできそうなレベルのプリントに取り組んでいました。

2年生の4月、A子にとって唯一の友人とも言えるB子が、ふれあい教室に登校してくる日となりました。A子は数日前から、やっと女の子同志の会話ができると喜んでいました。

B子は少し遅れて登校してきました。初日のB子は、ほとんど声を出さず、うなずいたり首を振ったりして応答しながら、みんなと同じように健康観察を受けてから、小学校の復習レベルのプリントに取り組んでいました。しかし2日目の朝、B子の母親から「何故プリントなどをやらせるのか!」「もっと生徒同士のおしゃべりの時間を持たせて欲しい!」と抗議とお叱りの電話が入りました。その日、B子はお休みでした。

B子は、中3の男子が受験に備えて勉強に取り組むムードにびっくりしたのかも知れません。B子には、無理をせずに自分ができそうな課題を選ぶように説明していたそうです。しかし、B子はA子と同じ課題プリントをいつも選び、分からないためになかなか進みません。B子のプライドが、そうさせているのかも知れません。

自分に合った課題を選択することは、たいへん重要なことです。自分にできそうな課題を選ぶことは、課題に取り組む意欲を育み、達成感を味合う体験的刺激を積むことが可能となります。このことが再度、課題へ取り組む意欲へとつながります。逆に選択した課題が不適切であれば、課題への取り組みの意欲を減退し、空しい時間の体験的刺激は課題取り組みへの拒否的反応を助長することになります。

A子に小学校の頃の様子を聞くと、その頃はA子がB子に分からない所を教えてもらっていたとのこと。中学に入って1年余りで、その関係が逆転してしまったようです。B子と母親の要望にも応えるように学習課題以外に女子に手芸や料理なども取り入れてみましたが、結果は同じでした。A子は分からないことを周囲に聞きながら取り組みを進めることができています。B子はA子が先に進むと取り組みを止めてしまうのでした。A子はB子の機嫌を損ねないように気を配りながら付き合っていました。

A子はB子に対して気を配りながら接するという行動を示しました。これは周りの人の行動や感情を意識しながら自分の行動を調整する、高次の脳機能としての自己認識に基づいた行動が現れてきた可能性が示されました。相手がB子だから現れたのかも知れません。それでも、行動することができたことに変わりありません。

B子と保護者に対してもSCとの面接を誘ってみましたが、予約が入ることはありませんでした。こんな状況が3週間が過ぎる頃、休みながらも継続していたB子の登校は止まりました。SCとしてB子、保護者との信頼関係が築けなかったことに反省するばかりです。

A子はこれまで休むことなく登校していましたが、このB子が登校していた期間は、週に1~2回休みながら何とか登校していました。A子にとっても負荷が大きかったのだと思います。A子はB子のために精一杯頑張りました。できるだけのことはしてあげていたと、面接の中でA子に話しました。この後も、B子の誕生日などに行事参加の誘いの手紙を何度か送りました。

その後のA子は、3年生の受験という緊張した雰囲気に触れ、少し進路について意識するようになってきました。「私でも行ける学校はあるん?」と面接で聞かれ、「大丈夫!色々と学校があるから、自分に合った学校を選べるんよ!」と答えました。A子は、授業に出ていないので評価は1と2でしたが、3年生といっしょに真面目に課題プリントで学習していましたので、テストだけなら得点はそこそこは取れていました。

次回は、A子が小学校時代から「自分はダメな人間なんだ」という思いが強く、なかなか進路について向き合えない状況から、自分にあった学校を探そうとする様子を紹介してゆきます。
(文責:maya)

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(3)おすすめコンテンツ「子どもたちの高次脳機能障害」」

筆者のこれまでの読書の範囲では偏りが心配で、今回はmayaさんのお勧め本を取り上げさせていただきます。

この本は、カナダのオンタリオ脳損傷協会がブロック大学との3年間に及ぶ研究開発の成果をまとめたものです。直接の外傷等が癒えても、感情や行動に様々な後遺症が残ります。そういった子どもに対し、学校でどのように対応するのがよいのかを具体的に解説している点がユニークです。

第1章では、脳の本来の働きと、損傷により影響を受ける認知機能について豊富なカラー・イラストで分かりやすく解説されます。第2章では、損傷がなかった場合の一般的な発達と、損傷の程度ごとに、発生する可能性のある発達への影響が、年齢ごとに行動学的と神経学的に解説されます。

第3章から第6章までが本書の中心で、学校での対応について構造的に分解し解説されます。

第3章は生徒のもつ課題です。一般的に学校内ですべての生徒に期待される態度や行動を整理し、それを妨げる、後天性脳損傷によって引き起こされる認知的課題、行動的・情動的課題、身体的課題が解説されます。生徒に困難が起きている時に、教師にはその生徒がどのように見えるかが記載されます。

第4章は方略です。生徒に起きる具体的な困難を解決するために、教師が支援することのできるアイデアが多数、紹介されます。ここでは学習障害との比較表も用意されています。

第5章は、生徒が家庭や地域社会で遭遇する可能性のある困難に対し、共通して適応できる手法が解説されます。方向転換(リダイレクション)、再構築(リストラクチャリング)、バックドア手法、正の強化法、積極的無視など、発達障がいにも応用できる方法が紹介されています。

第6章は、学校に復学させ、その経過を観察し、適応を支援するための個別プログラムの立案です。留意点として記載されている「生徒がある一定の認知的発達段階に達し、損傷した脳の部分を使う必要が生じるまで顕在化しない認知障害もある」は注意すべき点だと思います。

第7章は、評価及び計画立案に向けてのチーム・アプローチ、第8章は、保護者の役割、第9章は付録で、認知検査の解説や用語集です。

なお、オンタリオ脳損傷協会のWebページで、本書で解説する方略に基づく学校での対応方法をビデオで見ることができます。Primary、Elementary、High Schoolのそれぞれで、注意、記憶などの障がいのある子どもの振る舞いとそれへの教師の対応が、悪い(一般的な)例と、本書の方略に基づく例の2通りのビデオで見ることができます。
http://www.abieducation.com/

三輪書店:「子どもたちの高次脳機能障害-理解と対応」
著者:オンタリオ脳損傷協会
監訳:中島恵子(帝京平成大学健康メディカル学部臨床心理学科教授)
https://ssl.miwapubl.com/products/detail/1148

2010年7月発行 A4版、168ページ 定価3150円(税込)

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先天的な障がいである発達障がいと異なり、事故や病気などで発生する高次脳機能障害は、脳の損傷部位がはっきりしている場合が多く、出現する症状との関係を調査研究しやすい側面があります。失語症はそのひとつの典型例で、その研究者のグループが日本失語症学会を作り、それが発展して日本高次脳機能障害学会となり、その成果が、発達障がいなどの研究にも活用されています。

来週の11月18日19日は、埼玉県の大宮ソニックシティで日本高次脳機能障害学会が開かれます。発達障害、認知リハ、といったテーマの発表もいくつかあり、とても期待しています。次回には間に合わないでしょうけれど、メルマガに適した発表があれば、ぜひ報告したいと思います。

名称:第34回日本高次脳機能障害学会学術総会
(旧 日本失語症学会)
会長:中島八十一(国立障害者リハビリテーションセンター学院長)
日程:2010年11月18日(木)~19日(金)
場所:大宮ソニックシティ・さいたま
士会、山梨県立盲学校
URL :学会 http://www.higherbrain.gr.jp/
学術総会 http://jshbd34.umin.jp/

次号は、11月19日(金)です。

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