肢体不自由のある子どもとAI活用、超高齢社会に挑む、福祉×産業×行政

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2026.05.29

肢体不自由のある子どもとAI活用、超高齢社会に挑む、福祉×産業×行政

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■    連載:肢体不自由のある子どもとAI活用~AI時代のAACを考える~
■□   特別寄稿:福祉製品のあり方を示した「かわさき基準(KIS)
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■ 連載:特別支援教育から考えるAIとの付き合い方
       第6回 肢体不自由のある子どもとAI活用~AI時代のAACを考える~
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特別支援教育におけるICT活用は、肢体不自由のある子どもたちへのAACの実践と深く結びつきながら発展してきました。AAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大代替コミュニケーション)とは、音声言語だけでコミュニケーションを行うことが難しい人に対して、残存機能やテクノロジーなどを活用しながら、コミュニケーションを補助・代替・拡大していく支援やアプローチのことを指します。また、そうしたコミュニケーション支援に関する研究領域や臨床活動としても位置づけられています。
こうしたAACの実践の中では、スイッチやVOCA(Voice Output Communication Aids:携帯用会話補助装置)、タブレット端末、視線入力装置など、さまざまなICT機器が活用されてきました。これらの活用によって、これまで自分の意思を伝えることが難しかった子どもたちが、自ら選択したり、気持ちを表現したりする可能性が広がってきました。

特に近年は、視線入力装置の進歩によって、わずかな目の動きで文字を選択したり、意思を伝えたりすることも可能になってきています。また、生成AIの登場によって、入力された言葉を補完したり、文章として整理したりする技術も急速に進歩しています。そのため、今後は、視線入力やスイッチ操作とAIを組み合わせることで、肢体不自由のある子どものコミュニケーションや学習の可能性をさらに広げられるのではないかと期待されています。

現在では、AIを活用して、発話やコミュニケーションに困難のある人々を支援しようとする研究も進められています。例えば、AAC機器と生成AIを組み合わせ、入力された単語や短い表現から自然な文章を補完したり、一人ひとりの理解しやすさに応じたシンボルを生成したりする研究などもみられるようになってきました。

Di Paolaら(2024)は、利用者一人ひとりに応じたシンボルをAIが生成することで、従来は教師や支援者が手作業で行っていた教材作成の負担を軽減しながら、より個別化されたコミュニケーション支援が可能になると述べています。また、GPSやQRコードなどと連動し、その場面に応じたAACシンボルを自動的に提示する仕組みなども提案されています。

これまで、発語が難しい方たちは、しばしばシンボルを使ってコミュニケーションをとる場合がありました。そのため、支援者は、その人が理解しやすいシンボルが描かれたカードなどを、一人ひとりに合わせて自作してきました。しかし、例えば「トイレに行きたい」と思ったときでも、「トイレ」のシンボルだけではなく、「どこに行きたいのか」「手伝ってほしいのか」など、場面によって必要なコミュニケーションは変化します。また、「コンビニ」に行った場合には、「温めてほしい」「袋が必要」「店員さんに質問したい」など、その場面特有のやり取りが必要になることもあります。

Di Paolaらは、こうした場面に応じて、AIが必要なシンボルを自動的に提示したり、その人が理解しやすい表現へ調整したりする可能性について述べています。例えば、GPS情報やQRコードをもとに、コンビニに入ると自動的に「買い物」に関するAACシンボルが表示されたり、過去にその人が理解しやすかったシンボルをもとに、AIが新しいシンボルを生成したりすることなどが想定されています。

例えば、ハンバーガーショップに行った場面を考えてみましょう。従来であれば、ハンバーガーやジュースが描かれたカードを使いながら注文することが多かったかもしれません。その場合、支援者や店員も、「いつもと同じものを注文するだろう」と考え、「てりやきバーガー」や「コーラ」など、決まった選択肢を前提に関わってしまうこともあるでしょう。

しかし、この技術を活用することで、その店舗のメニューや期間限定商品など、その場面に応じた選択肢が自動的に表示されます。本人にとっても、「今、この場で選べるもの」をより具体的に理解しやすくなり、これまでとは異なる選択肢に興味を示したり、自分から新しい意思表示を行ったりすることにもつながるかもしれません。

このように、生成AIを活用することで、あらかじめ決められたシンボルだけではなく、その場面や状況に応じた、より柔軟なコミュニケーション支援が可能になることも期待されています。
また、従来は支援者が多くの時間をかけて作成していた教材やシンボルについても、AIによって作成負担が軽減されることで、より個別化されたコミュニケーション支援を行いやすくなる可能性があります。例えば、同じ「飲み物」という場面であっても、ある人には写真に近いリアルなイラストの方が理解しやすく、別の人にはシンプルな線画の方が理解しやすい場合もあります。生成AIを活用することで、その人にとって理解しやすい表現へ柔軟に調整できる可能性も指摘されています。

一方で、こうしたAI活用には倫理的課題も伴うことが指摘されています。特にAACでは、利用者一人ひとりの理解しやすさや生活場面、使用履歴など、極めて個別性の高い情報を扱うため、プライバシー保護やデータ管理が重要になると述べられています。また、AIの学習内容の偏りや、AIによる提案をどこまで信頼するのかといった課題についても述べられています。

さらに、こうしたAI活用は、すべての子どもに同じように当てはまるわけではありません。上記の例は、シンボルが表す具体物や抽象的な概念を理解できている子どもを想定したものです。そのため、実際に活用する際には、子どもの発達段階やコミュニケーションの実態に応じて考えていく必要があります。教育現場では、新しい技術が登場すると、「どのように活用するか」という点に意識が向きやすく、子どもの実態や発達段階に応じた支援になっているのかという視点が、置き去りになってしまうこともあるように感じています。

今後、AI技術がさらに発展していけば、子どもたちの可能性はさらに広がっていくでしょう。例えば、これまで意思表出が難しかった子どもたちが、自分の思いや要求を周囲に伝えやすくなったり、コミュニケーションの機会そのものが増えたりすることも期待されています。ゆくゆくは、表情や発声の変化、視線、身体の動きなどをAIが分析し、情緒や意思を推測しようとする技術も広がっていくかもしれません。確かに、これまで気付きにくかった小さな反応を捉えやすくなるという点では、大きな可能性をもっていると感じています。

ただ、私は、こうした流れには同時に危うさもあるのではないかと考えています。例えば、AIが「この子は楽しいと感じている」「これをやりたいと思っている」と判断したとしても、それが本当に本人の意思や感情を表しているとは限りません。その場にいる教師や支援者だからこそ気付けることや、日々の関わりの積み重ねの中で見えてくるものもあるのではないでしょうか。AIが答えを提示した瞬間、その解釈を無意識に「正解」として受け取ってしまう危険性もあります。だからこそ、AIをあくまで道具として認識し、活用する際には、「AIがどう判断したか」だけではなく、「本当にそうなのだろうか」と問い続ける視点が必要なのではないでしょうか。

一方で、AIによる記録や分析と、教師や支援者が日々の関わりの中で感じ取っていることを組み合わせることで、これまで気付きにくかった子どもの小さな変化や反応を、より多面的に捉えられる可能性もあるように感じています。例えば、教師が「今日は少し表情が柔らかい」と感じていたことと、AIによる表情分析や活動記録の変化が重なったとき、子どもの状態をより丁寧に理解する手がかりになるかもしれません。逆に、教師の感覚とAIの分析結果にズレがあった場合には、「なぜ違いが生じているのだろう」と改めて子どもの様子を見直すきっかけにもなるでしょう。

今後の特別支援教育では、AIも活用しながら、子どもの反応を一つの視点だけで決めつけるのではなく、多面的に捉えることが重要になっていくのかもしれません。

【参考文献】
Di Paola, A., Muraro, S., Marinelli, R., & Pilato, C. (2024). Foundation Models in Augmentative and Alternative Communication: Opportunities and Challenges. arXiv. (参照日 2026.05.20)
 
◇山崎 智仁
山口県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 講師。臨床発達心理士。
特別支援教育を専門とし、知的障害のある子どもを中心に、ICTや生成AIを活用した教育支援の実践・研究に取り組んでいる。
特別支援学校教員としての勤務経験を経て現職。
近年は、AI時代における教師の専門性や倫理的配慮を踏まえた支援の在り方について検討を重ねている。


 

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■ 特別寄稿 超高齢社会に挑む、福祉×産業×行政 ~福祉製品のあり方を示した「かわさき基準(KIS)」~
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前号では、川崎市の福祉製品の開発・改良支援拠点「Kawasaki Welfare Technology Lab(ウェルテック)」を通じた、福祉×産業×行政による福祉製品開発の取組をご紹介しました。

今号では、川崎市が推進するケアイノベーションのもう一つの取組、優れた福祉製品のあり方を示した独自の基準「かわさき基準(KIS)」についてご紹介します。

かわさき基準は、「自立支援」を中心とした8つの理念により構成された、川崎市が独自に定めた福祉製品の基準です。

かわさき基準に認証された製品は、川崎市HP・パンフレットへの掲載のほか、市主催の展示会への出展、「かわさき基準(KIS)」ロゴマークを使用した広報が可能になるなど、川崎市による製品の認知度・販売数向上に向けた普及・広報支援を受けることができます。

かわさき基準が大切にする「自立」は、「すべてを自分でできること」を意味するのではなく、「自らが望む」、「主体的に選択、自己決定できる」ことであり、家族や地域が協力することも含めて実行、実現できることを指します。

また、8つの理念は「人格・尊厳の尊重」「利用者の意見の反映」「自己決定」「ニーズの総合的把握」「活動能力の活性化」「利用しやすさ」「安全・安心」「ノーマライゼーション」を指しています。

この制度の大きな特徴の一つが、認証の審査過程において、高齢の方や障害のある方、介助者・支援者の方が製品を使用し、感じた効果・効能等を、かわさき基準の8つの理念に基づき評価する「モニター評価」が実施される点です。

いただいた意見は製品改良等のため企業へフィードバックされるようになっており、「使う人の声」が製品の改良に繋がる仕組みにもなっています。

前号でご紹介したウェルテックが、福祉現場のニーズと企業の技術力を結びつける開発・改良支援とすると、かわさき基準は、その成果である製品を認証し、普及につなげる取組です。

川崎市では製品の開発支援から認証・普及までを一体的に支える仕組みを構築し、地域包括ケアの実現に向け、福祉の課題を産業の力で解決する「ケアイノベーション」の推進にこれからも取り組んでいきます。

▼かわさき基準(KIS)認証制度 詳細はこちら

▼かわさき基準認証福祉製品PR動画はこちら

◇池田 大嘉(いけだ ひろか)
TEL  044-200-3226
E-mail 28innova@city.kawasaki.jp
川崎市役所 経済労働局イノベーション推進部所属
福祉分野での経験や知見を産業の側面で活かしたいと考え現職へ。
認証福祉製品の普及・広報支援をする取組「かわさき基準」担当
 
 
■□ あとがき ■□--------------------------
5月25日に株式会社ネットアーツとのタイアップで実施したオンラインセミナー第2回「生活機能・社会機能に焦点を当てた支援」は、150名を超える方にご参加いただき、好評のうちに終えることができました。
次回第3回は、6月24日(水)に行います。講師は、小児科医の本田真美 あのねコドモくりにっく院長です。演題は、子どもの発達特性の理解と対応~その子らしさを活かすために~ です。
お時間の許す方はぜひご参加ください。

次号メルマガは、6月12日(金)に刊行する予定です。

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