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第6回 協調運動の問題への支援
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今回は、DCDのある子どもへの介入や支援について説明します。
■ 連載:発達障害児の協調運動の問題への支援
■□ 連載:担任を支える環境と風土づくりこそ特別支援教育コーディネーターの役割
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■ 連載:発達障害児の感覚処理・協調運動の問題への支援(最終回)第6回 協調運動の問題への支援
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今回は、DCDのある子どもへの介入や支援について説明します。
1 DCD児への介入
DCD児への介入には障害指向型アプローチと課題指向型アプローチがあります。
障害指向型アプローチでは、子どもが持つ機能障害の改善を図ります。感覚統合療法はその一つです。同療法では、前庭感覚や固有受容感覚などを強調した活動で抗重力姿勢・運動発達を促したり、アスレチック遊具を使った活動で身体図式や運動企画能力を高めたりします。
著者らが行った高機能ASD児を対象にした効果研究で、SI療法を受けたASD児は、集団療育を受けたASD児よりも協調運動能力・視覚―運動能力の改善の幅が有意に大きかったことが示されました(Iwanaga et al., 2014)。
また、DCD児を対象とした無作為化比較試験による感覚統合療法の効果研究で、MABC-2(協調運動の検査)のスコアおよびGoal Attainment Scaling(GAS:個々の目標達成度評価)のスコアに改善が認められました(Yamanishi et al., 2025)。したがって、SI療法を協調運動の改善のために用いることができると考えます。
課題指向型アプローチは、活動や参加に焦点を当てています。子どもにとって意義のある最適な課題を選択し、その課題の実施を通してスキルの向上を促します。例えば、「自転車に乗る」といった子どもが価値を感じる課題を設定し、それが達成できるように介入します。
課題指向型介入では、動作の初期を大人が手伝い、最後の部分から少しずつ自分でできるようにしていくバックワードチェイニングを用いることが多くあります。例えば、ボタンはめでは途中まで大人が手伝い、最後にボタンを引っ張り出す部分から練習を始め、徐々に動作の前半まで自立できるように練習します。
課題指向型アプローチの一つである日常作業遂行に対する認知オリエンテーション(CO-OP;ヘレン・J・ポラタイコ&アンジェラ・マンディッチ, 2023)は、運動遂行の際の認知的戦略を高めることで改善を図ります。子どもが自分で動作がうまくいく方法を考案できるようにセラピストがガイドする点がCO-OPの特徴です。CO-OPは国際的なガイドライン(Blank et al., 2019)において推奨されています。
また、神経運動課題訓練(Neuromotor Task Training; NTT, Schoemaker et al., 2003)も子ども中心・課題指向型の介入です。評価に基づき個々に合わせた課題を設定し、段階的に難易度を上げながら多様な状況で練習を行うことで、運動制御過程の改善と日常生活へのスキル転移を促します。
NTTは認知神経科学的な運動制御モデルに基づいており、認知を補助的に活用しながらも方略そのものを明示的に教えるのではなく、運動課題を多様で段階的に難しくすることで訓練していきます。これもDCDの国際的ガイドラインで推奨されています。
近年、DCDに対する運動イメージ訓練の効果が注目されています。DCD児が動画でADL動作を観察し、その運動をイメージすることでADL学習が改善したことが明らかになっており、この方法が介入や日常生活行動の改善に用いられています。
2 日常生活・学校生活における配慮や支援
次に、DCD児に対する日常的な配慮や支援について述べます。
(1) DCDに対する正しい理解と配慮
まず、DCDの支援において周囲の人の理解や配慮は不可欠です。DCD児は、その特性が正しく理解されないと注意を受けたり、不適切なかかわりをされたりすることがあります。
例えば、授業中に何度も姿勢を崩してしまい強く注意されることがあります。体育の時間などに運動がうまくできず、自己効力感が低下することも少なくありません。DCD児の不全感や劣等感が強くならないよう、周囲が正しく理解し配慮することが重要です。
(2) 個別的な運動の学習・予習
体育で実施される運動については、授業で扱う前にあらかじめ練習しておくことが有効な場合があります。
例えば、縄跳びを授業で始める1か月ほど前から自宅で練習することで、授業中の不全感を防ぐことができます。初めて行う運動や難しい運動は、他の子どもと一緒に行うのではなく、個別に教える配慮も必要です。
(3) 自己効力感を高める活動
DCDのある子どもは、体育などで自分がうまくできないことを痛感し、劣等感を抱くことがあります。そのため、個別の運動活動で成功体験を得られるよう支援することが必要です。協調運動レベルが近い子ども同士でのグループ活動では、成功感を体験しやすく、自己効力感を高める効果が期待できます。
(4) 支援グッズの活用
DCD児には、サポートグッズを紹介したり、使用する道具を調整したりすることも有効です。例えば、子どもが使いやすい鉛筆ホルダー、折れにくいシャープペン、滑り止め付き定規、紙やすり下敷き、表面に小さな凸凹がついたざらざら下敷きなどを紹介することが挙げられます。
DCDのある子どもの介入や支援については、効果がまだ十分に検証されていないものも多く、今後さらに研究を重ねていく必要があります。
◆岩永 竜一郎
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(保健学科)・作業療法学専攻教授、医学博士、作業療法士、
感覚統合学会理事、特別支援教育士スーパーバイザーほか、長崎県内外のさまざまな委員を兼任。
アスペルガー症候群の息子がおり、長崎県自閉症協会高機能部部長としても活動している。
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■ 連載:教育あるある話~元小学校教員の大学教授がつぶやく現場の話~第2回 担任を支える環境と風土づくりこそ特別支援教育コーディネーターの役割
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1縦糸と横糸で織りなす連携
私は特別支援教育コーディネーターとして担任の先生方を支えるための連携のあり方を考えてみたいと思います。
連携には、校内で先生方が相互に意見を交流し考え方を共有する横糸のような連携と、児童の発達を継時的にとらえ将来の自立をめざして支える縦糸のような連携が必要です。それぞれについて実践を元にまとめてみました。
2 発達を継時的にとらえた連携(縦糸)
◯繋がる教育支援計画
個別の教育支援計画は小学校から中学校へスムーズに引き継ぐためにも関係機関が同じ様式で作成することが重要だと思います。幼稚園から中学校まで同じ様式で作成できるように環境を整えることは支援の継続を促すことに繋がります。目標を立てやすく記録を残しやすい教育支援計画のひな形として佐賀県教育センターが作成されているものを活用しています。
◯フェイスシートでピックアップ
保育所や幼稚園からの指導要録には子どもたちの成長の様子や先生方の関わりの具体例が豊富です。それを有効に活用するために、入学児童が複数名いる園からは指導要録に下記のようなフェイスシート※をつけていただいています。これにより配慮すべき児童の記録をより注意深く確認するようにしています。また小中間でも同様のシートを現在作成中です。
※フェイスシート
◯町内「ゆるく」繋がる連携会議
公的な研修会も有効ですが、各事業所の担当者がより柔軟に連携するために新たな連携会を立ち上げました。町内の支援学校、小中幼保だけでなく学童保育や児童館、療育機関など様々な立場で子どもに関わる事業所に案内して月に一度実施しています。授業に支障のないよう毎回16時から、開催日は年度始めに一覧で出し、毎月の案内発送なし、出欠確認なし、議事録なしというスタイルで町からも承諾を得ての開催です。毎回多くの方が参加され、予定30分を優に超えてしまいます。担当者がまずは顔を合わせ対話する有効性を感じています。
3 校内で互いに共有する連携(横糸)
◯支援ニーズ集約の継続
学期に一度以下の様式で支援ニーズを集約しています。先生方は子どもの困りのポイントを確認し、コーディネーターはリソースの配分を検討します。また記録を蓄積することでその子への支援の経過を見ることもできます。このシートの蓄積があることで年度が変わっても子どもたちへの支援の足跡が引き継がれ、担任も大きく混乱することなく子どもたちと向き合いやすくなります。
※支援ニーズ把握アンケート記入例
◯ランチタイムミーティング
各担任と対話をし、支援のあり方を検討するには時間の捻出が必要です。本校では給食時間にコーディネーターが各教室を巡回して担任と対話しながら給食を摂るようにしています。子どもたちの食事の様子を観察しながら、担任と平素の関わりを共有し今後の支援のあり方を考える機会としています。
◯校内委員会は定例実施の原則で
校内委員会を定期的に実施することは重要です。担当者が揃わなくても、議題がなくてもまずは集まるようにしています。必ず集まる場があることで担当者の意識も高まり有意義な会となりやすくなると予想されます。
4 まずは理解から
ユニバーサルデザインの視点に立ち、みんなが過ごしやすく学びやすい学級づくりの報告が多く見られるようになりました。それにつれて「こうしたら大丈夫」「この手法なら間違いない」という教師の思いが強く感じられる指導が見られることも少なくありません。
「こんな学級にしたい」と担任は考えています。同じく「こんな学級ならいいな」と子どもも考えています。そこを橋渡すのは指導法だけでも教具だけでもなく互いに理解し合おうとする意識が重要です。一人一人の子どもが尊重され、あたたかい学級の風土を織り成すことができるよう、コーディネーターとして縦糸と横糸の連携を意識しつ支えていきたいと考えています。
参考;個別の教育支援計画作成ソフト 佐賀県教育センター
◆増本利信(ますもと・としのぶ)
九州ルーテル学院大学大学院人文学研究科教授/学長補佐
日本LD学会常任理事/特別支援教育士資格認定協会理事
■□ あとがき ■□--------------------------



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