読書バリアフリー法とディスレクシア

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2019.12.27

読書バリアフリー法とディスレクシア

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■  連載:読書バリアフリー法とディスレクシア
■□ 連載:非行と発達障害の関係とは
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 ■ 連載 ディスレクシアとは?
       第5回 読書バリアフリー法とディスレクシア
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とめ・はね・はらい、丁寧な字、九九の暗唱などだけに注力し、教員の教えた通りの答えだけを出す訓練を長年にわたって施すと、PISAの調査が明らかにした、日本の生徒の読解力がOECD加盟国の中で低いという結果が起きるのではないでしょうか?

※編集者注 文化庁のとめ・はね・はらいに関する資料 

読書や新聞を読む習慣のある生徒の読解力は有意に高いと分かっています。読書は別に紙から読み解くだけではありません。読書バリアフリー法で色々な形でICTを使用しながら読解力が向上できるようにすることはディスレクシアの人たちへの究極の支援でもあります。

先日PISA(OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の調査結果)の調査結果が出ました。

OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の調査結果 文部科学省 

萩生田文科大臣は次のようにコメントしています。
「数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベルですが、読解力については、平均得点及び順位が低下しています。低得点層が増加しており、判断の根拠や理由を明確にしながら自分の考えを述べることなどについて、課題が見られることも分かりました。さらに、学習活動におけるデジタル機器の利用が他のOECD加盟国と比較して低調であることも明らかになりました。」

さらに文部科学省としては、下記の課題に取り組むと述べました。
・主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善や、言語能力、情報活用能力育成のための指導の充実。
・学校における一人一台のコンピュータの実現等のICT環境の整備と効果的な活用。
・幼児期から高等教育段階までの教育の無償化・負担軽減等による格差縮小に向けた質の高い教育機会の提供。

令和2年度の予算の中で、すべての子ども一人一人にICT機器が供与されるように項目が盛り込まれました。「GIGAスクール構想」の実現に向け、先端技術の効果的な活用や多様な通信環境の整備に関する実証、ICT環境整備に向けた自治体への支援を実施します。

令和2年度予算(案)のポイント 文部科学省予算 

このことによって、ICT機器を使って学習すれば本来の能力を発揮できるディスレクシアの児童生徒の情報へのアクセスが格段に良くなるはずです。

教科書の音声化は普通の図書に先んじてすでにいくつもの団体から提供されていますが、遅ればせながら本年、通称読書バリアフリー法(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)が制定されました。

読書バリアフリー法について 厚生労働省 

教科書だけでなく、普通の図書についての法律ができ、運用についてようやく話が始まりました。視覚障害者等と対象者は謳われていますが、紙に書いてあるものや印刷されたものだけだと十分に内容理解ができないのは視覚障害者だけではありません。人口の10%※はいるディスレクシアの人、外国につながりのある人や、高齢者も含まれますので、日本が今直面している多くの社会問題の軽減の糸口にもなると考えられます。

※宇野彰・筑波大学教授の調査によると、通常学級の児童生徒の約4%が 読みの困難さがあり、約8%は音韻の問題からくる「書き」の困難さがあると示されています。ここから推定すると、日本人の人口の10%がディスレクシアと考えられます。また、世界共通でどのような人種でも10%くらいディスレクシアの発現率があるということも根拠となっています。
 
音声教材について 文部科学省 
音声教材について 認定NPO法人EDGE

藤堂栄子
星槎大学特任教授
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 ■ 連載:非行と発達障害
       第3回 非行と発達障害の関係とは
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前回、非行少年が激減していることに触れました。ただ、これと密接に関連することとして、非行少年の施設への入所少年の中で、発達障害の診断を受ける子の割合が増えています(※表1)。ただしこれは、発達障害を持つ非行少年の実数が増えたというわけではなさそうです。そもそも非行少年の大部分を占めていた精神障害を持たない非行少年が大きく減ったことで、相対的に精神障害を持つ非行少年の割合が増えた、ということのようなのです。


※表1 児童自立支援施設と少年院の新入所者における精神障害診断率の変遷 

まずはっきりさせておかなければならないのは、発達障害を持つ子はむしろ被害者となりやすい、ということです。クラスの中でいわゆる「いじり」※の対象になることが少なくないのです。また、発達障害を持つ子の圧倒的多数は非行に走りません。発達障害があることのみによって非行に至る、ということはありません。

※いじり 「いじり」は、からかいや、比較的軽度のいじめを意味することが多い。ただし、いじる側が「ちょっといじっているだけ」という場合に、受ける側にとってはまさに「いじめ」であることは少なくない。

その一方、発達障害を持つ子の特性が、非行に結びつきやすい場合があります。あるいは、その特性が非行の様相に影響を与える場合もあります。この連載の第1回に挙げた、反抗挑発症から素行症、反社会性パーソナリティ障害への進行を示す図には、実はその前の段階があります。図1※のように、反抗挑発症の前段階として、ADHDが想定されているのです。


※図1

問題は、どのくらいの割合でADHDを持つ子が反抗挑発症や素行症へと進行するのか、ということですが、文献上では、ADHDの事例の30-60%に反抗挑発症あるいは素行症の併存を認めるとしています(Christiansen,2008)。そのためもあって、特にアメリカではADHDと素行症の結びつきは非常に重視されています。

ただし、ADHDに対する治療が早期に、きちんとなされるほど、この進行は食い止められるはずです。また、生育環境が違えば、進行の比率も当然変わってくるはずです。ですから、欧米での文献上の比率が日本でもそのまま当てはまるとは限りません。そもそも、非行自体が極めて少ない日本では、この進行自体が少ないのではないかとも考えられます。

一方、ADHDを持つ子が非行に走るとき、ADHDの特性が非行の様態に影響を与えることがあります。非行少年を主な対象とする児童福祉施設である児童自立支援施設、国立武蔵野学院の入所児童における調査によれば、校内暴力・暴行傷害・器物損壊という粗暴な非行が、ADHDを持つ子にはそうでない子と比べて有意に多いことがわかっています。これはADHDの特徴の一つである衝動性が影響しているものと思われます。ただ、これらの非行はいってみれば非常にわかりやすい非行であり、そのためむしろこれらがADHDの特性に影響されていることに気付かれにくい面もあるかと思います。

以前に比べ、ADHDのことが広く知られるようになったこともあり、診断がつかないまま国立児童自立支援施設まで来てしまう男子は少なくなりましたが、女子の場合は今でもADHDの特性に気付かれないまま国立施設にまで至る子がいます。一般人口中ではADHDの有病率の男女比は2:1と男子のほうがかなり多いのですが、国立施設では男女どちらも入所者の4分の1程度を占め、男女差がほとんどありません。その理由ははっきりしていませんが、そもそも非行は男女差が大きく、その比率は10:1と圧倒的に男子が多いことを考えると、女子の場合には障害などの影響があって初めて非行に走る、ということが多いのかもしれません。

また、ADHDの子は、育てにくい子であることも多く、そのため虐待を受けやすいともいわれています。虐待があることによって多動や不注意、衝動性が高まることも知られていて、ADHDと虐待の関係は複雑ですが、虐待があるとどうしてもそちらに関係者の目が向いてしまい、そもそもADHDがあったとしても気付かれにくくなります。

ADHDには現在のところ発達障害で唯一、コンサータやストラテラといった有効な薬があるため、それを活用しないのは非常にもったいないことです。これらの薬を使うことで不注意、多動性、衝動性が抑えられ、結果的に非行につながるような行動上の問題が激減することが少なくありません。あくまで私見ですが、コンサータの登場は非行少年処遇を変えたとさえ思っています。

自閉スペクトラム症と非行との関係はADHDの場合よりも微妙です。自閉スペクトラム症を持つ子は、むしろいじめられやすい傾向があることがわかっています。ほとんどの子は非行と結びつくことはありません。ただし、自閉スペクトラム症の子が持つ強いこだわりや、言葉を字義通りにとらえる傾向、パニックに陥りやすい傾向などが、非行に結びついてしまう場合があります。こだわりが、例えば薬物や刃物、爆発物、性的なものなどに向いてしまうと、時に危険な行動を取ることに繋がる場合があります。

テストの点数を見た父親が叱咤激励のつもりで「これじゃどうしようもないぞ」といったことを言葉通りに受け止めてパニックに陥り、、自分はどうしようもない人間だ、生きていても仕方がない、自殺しようと考え、その道連れに父親を刺してしまった子もいます。

ただし、筆者が国立児童自立支援施設で見てきた重大事件を引き起こした子で、生育環境に全く問題がないと思われたことはほとんどありませんでした。やはり、虐待などのいくつもの要因が重なって初めて非行へとつながるのです。施設に見学に訪れた方が、時に「一つ間違えたら自分も同じように非行に走っていたかもしれない」といわれることがありますが、実際には施設に入所するほどの非行はちょっとした偶然で起こるようなものではありません。まっすぐに育つのは無理だと思えるほどの生育環境や、発達の問題などが折り重なって彼らは非行へと至っているのです。発達障害だけで非行に至ることはないことは、わかっていただきたいと思います。

〇コラム―薬で非行・犯罪を治せるか?

タイトルを見て、そんな馬鹿な、と思われるでしょうか。あるいはそんなことができたら夢のようだ、と思われる方もいるでしょう。もちろん、薬だけで非行・犯罪を治せるはずはありません。いくつもの要因が重なって初めて、非行や犯罪は起こるのですから。ただし、次のような論文があることは、もっと注目されるべきだと思います。

2012年にスウェーデンのリヒテンシュタイン(Lichtenstein, P)らが、世界で最も権威のある医学誌であるニューイングランドジャーナルオブメディスンに発表した論文では、15歳以上の2万5千人余りのADHDの診断を受けている人を対象に調査を行い、同一人の薬物療法を受けている期間と受けていない期間の犯罪率を比較しました。その結果、薬物治療を受けている間は男性では32%、女性では41%犯罪率が減少した、というのです。これは驚くべき数字です。研究対象となった人数の多さや調査手法からは、この結果は十分信頼性が高いと思われます。
 
富田拓
(網走刑務所医務課医師)



■□ あとがき ■□--------------------------
次回メルマガは、来年1月17日(金)の予定です。

今年もあと5日間。令和最初のお正月を迎えます。
皆様、よいお歳をお迎えください。

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