ギルバーグ博士:生涯を見据えた ESSENCE という考え方

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2014.12.26

ギルバーグ博士:生涯を見据えた ESSENCE という考え方

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■ 報告:日本LD学会レポート・2 ESSENCE
■ 連載:“トンデモ情報”に惑わされない
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■ 報告:日本LD学会レポート・2
-生涯を見据えた ESSENCE という考え方-
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11月23日・24日に大阪で行われた日本LD学会全国大会レポートの第2弾です。

スウェーデン・ヨーテボリ大学のクリストファー・ギルバーグ Christopher Gillberg 博士は2009年に、ESSENCEという概念を提唱しました。この言葉はEarly Symptomatic Syndromes Eliciting Neurodevelopmental Clinical Examinations の頭文字をとったもので、"神経発達に関する臨床検査が必要であると気付かせてくれる小児期早期の症候群"という意味です。

ギルバーグ博士が提唱した目的は、後述のような、小児期早期に発症する、神経発達上の問題あるいは精神神経科的な問題は、症状が重なっていること、それぞれの症状の境界がはっきりしないということを、一般の人に知ってもらうことです。そして、それぞれの時点時点で診断をすることよりも、様々な症状を発する可能性を持つ子どもたちとして認識し、関連する様々な機関が連携して見守る体制を構築することを提案しています。

それらの子どもたちには、ギルバーグ博士の調査によれば以下のような症状を持つ子どもたちが含まれています。
ODDやCD(挑戦性反抗性障害)、ADHD(注意欠如多動性障害) 5-7%
SLI(発達性ディスレクシアや言語障害) 5%
DCD(発達性協調運動障害) 5%
IDD(知的発達障害) 2%
ASD(アスペルガー症候群) 1.2%
TD/TS/OCD(チックやトゥレット障害) 1%
RAD(反応性愛着障害) 0.5-1.5%
BIF(ボーダーラインの知的障害) 12% IQが85から70
胎児性アルコール症候群やてんかん 3.6%
PANS(小児急性神経精神症) 0.1%

これらの障害をもつ子どもたちは一般的に男児の方が多いとされています。
ところが、女児の場合は見逃されている可能性があり、また、診断されている場合も、間違った診断名をつけられている場合が多いことに注意しなければなりません。

ですから、個々の症候群に該当するかどうかということよりも、以下のような観点から、ESSENCEの対象として弁別し、見守っていくことが大切であるとギルバーグ博士は述べておられます。

ESSENCEと弁別する条件
以下のことが6か月以上持続している、あるいは突発的に表れる。
・全般的な発達の遅れ
・運動発達の遅れ
・コミュニケーションや言語の遅れ
・衝動性
・注意の欠如
・社会的な交流の欠如
・常同的な行動をする、いつも同一のことにこだわる、チック
・気分の動揺や感情調節の困難
・睡眠障害
・かたよった食事

また、ESSENCEの子どもから成人に至る過程を見守る際には、以下の観点で、重篤な障害につながらないようにサポートしていくことが必要です。
・自閉症プラス 単なる自閉症の症状だけの子どもは問題ありませんが、他の障害(例えば、ADHD)を併せ持つ場合は将来、社会的な問題を引き起こすようになる可能性があります。
・ADHDと肥満
・ADHDと喫煙
・30代以降に発症する統合失調症 アスペルガー症候群との重複

やや年齢的に外れますが、認知症の前駆症状とされるMCI(軽度認知障害)はADHDの症状を取違えて診断されている可能性もあるとのことです。

ギルバーグ博士は最後に、子ども時代から成年、高齢期に至るまで、神経・精神的な障害を発症しやすい人たちがいることを認識し、それらの人を早期に発見し、継続的に見守り、タイムリーな支援を行うことで、それらの人が社会的な問題を発生させない社会の体制を作り上げることが大切だ、と強調されて講演を終えられました。

報告者注)この講演は大会場で行われましたが、報告者がその直前までポスター発表をしていた関係で、会場に入れず、同時通訳の人の音声と日本語のスライドだけが表示される臨時のスペースで聴講することができました。そのため、理解できた内容がやや不明確な点がありました。ただ、そういった条件下ではあっても、読者の方々に ESSENCE という考えを知っていただきたいと考え、レポートさせていただきました。もし、誤り等がありましたら報告者の力不足ですので、ご寛恕いただければ幸いです。

(五藤博義)

 

■ 連載 子どもの発達障害に向き合う保護者の方へ
第2回“トンデモ情報”に惑わされない
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発達障害は病気じゃありません。病気じゃないので治ることもありません。
仮に治ったように見えたとしてもそれは自身が対処法を身に付けた、などで表面的に分かりづらくなっているだけのこと。持っている特性自体がなくなったわけではないのです。

でも世の中には発達障害を治療の対象として扱い、「治る」と断言している人たちがいます。その方法は食事の内容であったり、サプリメントのようなものだったり、開頭手術をともなう大がかりなものであったりと様々。先日は“先祖の霊”に責任を負わせるパターンを発見して、ちょっと驚いていたところです。もう霊感商法の域に達してきたような気がするのは私だけでしょうか。

発達障害に関連して治療の対象となるものがあるとすればそれはあくまでも二次障害の部分です。なかなか理解が得られず、支援が届かない環境にいることでうつ状態になってしまった、などがあれば、それは適切に治療されるべきです。ただし、これは精神科医の仕事であり、何かしらの信念を持っている一般の方が根拠なく行うものではないと私は思っています。

実際、発達障害が治ると聞かされれば、信じてすがりたくなる気持ちも分からないではありません。でも相手もそこに付け込んできているわけですから、こちらが惑わされたら負け。「発達障害」という言葉がメジャーになるにつれ、この手の「治ります」商法は着々と増えてきている気配ですから、より一層気を付けなければなりません。

また、発達障害の原因についても、いろいろと根拠のない説が流布されています。妊娠中の母親の生活態度や乳幼児期の食生活、親の愛情不足。残念ながら保護者を追い詰めるものが多いように感じています。

ご存知の通り、発達障害は先天的な脳の機能障害です。誰のせいでもありません。それに原因探しをしたところで現実が変わることはないのですから、周囲から何か言われることがあったとしても完全スルーでOK。保護者が動じないことです。

インターネット上には真偽のほどが定かではない情報が溢れています。知り得た情報が正しいものなのかどうか不安な場合は、行政の支援機関や専門医に必ず確認を。

子どもは自分で支援方法を選ぶことができません。
保護者の方が賢くあってください。
(小林 みやび)

 

■ あとがき
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次回は、1月9日の予定です。
これまでのご愛読、心より感謝申し上げます。

皆様、よいお年をお迎えください。

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