「発達障害」の診断は、子どもと保護者を救う

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2014.12.12

「発達障害」の診断は、子どもと保護者を救う

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■ 連載:子どもの発達障害に向き合う保護者の方へ
■ 報告:日本LD学会レポート・1 DSM5における発達障害
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■ 連載 子どもの発達障害に向き合う保護者の方へ
第1回「発達障害」の診断は、子どもと保護者を救う
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「子どもが発達障害と言われたが、なかなか受け入れられない」
「ショックから立ち直れない」。

発達障害と診断された子どもを持つ保護者の方は、すんなりとはその事実を受け入れられず、苦しむことが多いのではないでしょうか。

でも、「発達障害」ってそんなにバッドなイメージなんでしたっけ?
もうお先真っ暗な感じなんでしたっけ?
実際、世間一般の認識はそうかもしれません。それを保護者の方まで同じように考えて落ち込んでしまうのはちょっともったいない気がします。

だいたい「発達障害」という言葉が大くくりすぎです。
「発達障害」とは簡単に言えば、子どもの持つさまざまな能力の発達に凹凸があるということ。ちょっとゆっくりな部分もあれば、逆にとても高い能力を持つ部分があったり。もちろんその凹凸は一人ひとり異なるわけです。

凹な部分は療育だったり環境調整だったりが必要。逆に凸の部分は大事に伸ばしてあげたい。ですからまず、子どもの凹凸をできるだけ正確にトレースしてあげなければなりません。発達検査や専門医へ相談が必要なのはこのためだと考えています。

ちなみに私は、診断を受けてショックを受けるどころか、ほっとしてしまったクチです。というのも本当に子育てが大変だったので・・。たとえば我が子はおもちゃの取り合いなどで思うようにいかない時、相手に噛みつこうとしました。慌てて止めて抱き上げると勢い余って私の肩や腕に噛みついてしまうため、私の体はあちこちにどす黒い内出血が。こだわりや癇癪も相当なものでした。もう肉体的にも精神的にもボロボロになったところに発達障害の診断。正直なところ、「私の育て方のせいじゃなかったんだ」と心底ほっとしたのを覚えています。

私は、発達障害の診断は保護者と子どもを救う初めの一歩だと思っています。
適切な支援を行うための手がかりが得られるのは、何もわからないままよりもずっとよいこと。子どもが抱える困難に気づかずに、ただ子どもを叱責し続けるほうがよっぽど怖いことだと今は考えています。

診断名が分かった保護者の方、数少ない専門医に予約を入れて何か月も待ってのことでしょう。その行動力に拍手です。これから相談を、と思っている方、その決断は必ず子どもを救ってくれます。あなたを、そしてお子さんを支えてくれる味方を、たくさん作ってくださいね。

(小林 みやび)

 

■ 報告:日本LD学会レポート・1 DSM-5における発達障害
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11月23日・24日に大阪国際会議場とリーガロイヤルホテルで、第23回日本LD学会和歌山・大阪大会が開かれました。4,000人以上の参加、17会場で並列の講演・シンポジウム・ポスター発表という大規模な催しでした。当然ながらもっとも多く出席できても全体の1/17という状況で、悩んだ末に出席した、いくつかの企画の中から、メルマガ読者の方に興味を持ってもらえそうなものに絞って、今後、何度かに分けて紹介させていただきます。

その第一弾は、宮本信也・筑波大学教授・人間系系長の「DSM-5における発達障害」です。

★宮本信也氏の研究業績等一覧はこちら>>

精神神経系の疾患の診断に使われる2種類の基準のうち、統計に用いられることが多いWHO(世界保健機関)の定めるICD-10(国際疾病分類)に対して、米国精神医学会が定めているのがDSMで、一昨年にその第5版であるDSM-5が出され、昨年、日本精神神経学会が翻訳した日本語版が出版されました。精神疾患は治る可能性があるということ、似た特性のものが多く判断がつきにくいということからゆるやかな基準となっています

日本語版の特徴を挙げると、精神疾患の分類名である”disorder”はこれまで「障害」と訳されていましたが、子どもに関連するものについては「症」と訳したことです。

(1)神経発達障害群という大カテゴリーの新設

分類そのものの特徴で第一に挙げられるべきは、神経発達障害群の新設です。
定義としては、発達期に精神神経系の問題があるものをまとめたということになります。これまでは行動障害などの他の分類に含まれていたADHDがここに含まれ、日本で一般的な認識となっていた発達障害の概念と共通するものになりました。

神経発達障害群は以下の8つに分かれます。
1.知的能力症群
2.コミュニケーション症群
3.自閉スペクトラム症群
4.注意欠如多動症群
5.限局性学習症群
6.運動症群
7.チック症群
8.その他の神経発達症群

(2)知的障害の名称変更と診断基準から知的指数の削除

知的発達症群は従来、知的障害(精神遅滞)とされていたもので、知的指数(IQ)によって自動的に軽度、中度、重度に分類されていました。それが今回からは「臨床的な判断と知能検査で総合的に判断」して分類されることになりました。

この分類が日本でも福祉制度で受ける支援の程度を決定する基準となっていますから、社会生活に適応できる能力を尺度として判断されるようになったことは、意義のあることだと思われます。

(3)広汎性発達障害の名称と診断基準の変更及び下位分類の廃止
これまで自閉症やアスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害などに分類されていたものは、自閉スペクトラム症群として一本化されることになりました。さらに、この分類の基準として、A)複数の人間とのコミュニケーションや相互作用の持続的な問題、B)限定した活動や関心の保持、の両方を満たすこととされ、このどちらかしか満たさないアスペルガー障害などの従来の広汎性発達障害の一部は、この範疇からはずれることになりました。

(4)コミュニケーション症群
話せない、話を理解できないなどの言語症や吃音などが含まれます。さらに社会的コミュニケーション障害という分類が新設されました。「状況や聞き手に合わせての会話が困難」「会話や物語の流れの理解が困難」などで、社会生活を送るのに支障が出るレベルの場合は、この障害に含まれることになりました。特定不能の広汎性発達障害や、文部科学省の定義の高機能自閉症の一部は、この分類に含まれることになります。

(5)注意欠如多動症群(ADHD)
これまで認められなかった成人のADHDが、小児と同じ診断基準で認められることになりました。また、重複除外項目とされていた広汎性発達障害がなくなりましたので、自閉スペクトラム症とADHDの2つの診断名が可能になりました。
もう一つ特筆すべきことに、部分寛解状態が新設されたことがあります。注意や多動の症状が軽微になり、この分類の基準を満たさなくなっても「生活上の困難」がある場合は、この分類に含まれることになります。

(6)学習障害から限局性学習症群へ
これまで、読字障害、書字表出障害、算数障害に分けられていたものが統合されました。「学習スキルの習得と使用の困難」が診断基準となります。その際には、構造化された個別学力検査と詳細な臨床評価を行う、とされていますが、日本には該当する検査はありません。また、医師が学習スキルを診断できるのか、という問題があり、今後、療育や教育の現場に混乱が生じる可能性があると宮本先生はコメントされていました。

(7)主な変更点とまとめ
今回の改定は、次のような診断の考え方の変更に基づくものです。
#詳しい説明は割愛させていただきます。

1.カテゴリー診断は踏襲
2.疾患横断的症状評価と重症度による状態像の提唱
3.多軸診断の廃止
(参考)1軸 精神、2軸 人格・精神 3軸 一般身体
4.特定不能の廃止
5.生涯発達視点の導入
状態像が変化している、という考え
6.文化や性差に関する考慮の強調

これまでと大きな違いはなく、診断名や基準にこだわらず子どもに「適切な評価」をし、「必要な支援」を考えることが大切と、宮本先生は最後にまとめられました。

(五藤博義)

 

■ あとがき
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来週は、年内最後の出張で富山に行きます。講義は富山大生が対象ですが、12月16日午後6時からの平成26年度富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践センター講演会はどなたでも参加が可能です。ただし、申し込みは12月12日までですので、ご希望の方はお急ぎください。
○講演会「認知機能と学びを支援するソフトウエア・テクノロジー」 
★詳細PDFはこちら>>

次回は年内最後のメルマガ、12月26日の予定です。

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