カナダの自閉症を取り巻く環境と社会サポート(最終回)

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2014.11.28

カナダの自閉症を取り巻く環境と社会サポート(最終回)

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■ 連載:カナダの自閉症を取り巻く環境と社会サポート(最終回)
■ 書籍:「ニセ医学」に騙されないために
■ 予告:新連載「子どもの発達障害に向き合う保護者の方へ」
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■ 連載 自閉症は『自閉』する障害ではない
第6回 まとめ:カナダの自閉症を取り巻く環境と社会サポート
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みなさんこんにちは。体験を元にDIR/フロアータイムと、その他の発達系自閉症アプローチについていろいろと書かせていただきましたが、今回で最後となります。そこで、自閉症と共に生きる子供・方たちとそのご家族が心身ともに疲弊せずに社会生活を営むために、もっと普及したらいいな、と思ったサポートシステムや社会の現状を紹介してまとめとさせていただきます。

【AUTISM FUND(自閉症基金)】
まず初めに挙げたいのが、この基金の存在です。自閉症に関わらず、少し「一般」から型がずれると何かと費用がかさんでしまう医療費、教育費。少なくとも北米では自閉症と生きる子供達は必ずこの基金を活用することができるようです(もちろん、医師の診断は必要ですし、支給額は程度により同じとは限りませんが)。

私が「特別教育指導員」の立場で、一対一で様々なセラピーや各生徒に合わせた学習カリキュラムを実行することができたのも、この基金を通じて、家族が私への「給与」を支払うことが可能であったためです。ただでさえ様々な専門家への相談事や医療に費用がかかる上に、一日4~6時間にも及ぶセッションの費用まで各家庭の自己負担になるのでは、セッションの利益を実際に享受できる子供はごく一握りとなってしまいます。この基金の使い方は様々で、各家庭が直接政府からお金を受け取ることはありませんが、関連セミナーへの参加費、教育費、教材費用、医療費、等予め申請し許可を取った経費に関して、直接基金から各関係機関・者へと支払いが行われます。

私もセッションを行うだけでなく、いくつものオンラインコースやワークショップへの参加費用を一部援助してもらいました。そうして経験と合わせて最新の情報も積み上げて行くことで、セッションの質も向上させていくことができます。

もちろん、日本でもいろいろと援助基金はあるでしょうし、私の知識不足もあるのでしょう。ただ、政府がリードを取り、特に「自閉症」の子供たちが出来るだけ平等に、よい教育と必要な医療を受ける機会が持てるようにする、そういう意図の基金は、少し欠如しているように見受けられます。これは、自閉症と聞けば、北米では誰もがすぐに思い浮かべる基金ですが、その他にも活用できる基金はいくつもありました。何よりも、少なくとも最低限子供が必要とするケアを、基金を通じて賄うことができれば、家庭へのプレッシャーとストレスはそれだけで大きく軽減されように感じます。また、自閉症を持つ子供に兄弟姉妹がいる場合、その子は「(自閉症を持つ)兄弟・姉妹のせいで、自分がいつも我慢をさせられる」と感じることがあるでしょうけれど、大変そうな両親を見て文句も呑み込んでしまうことが多いです。兄弟姉妹が複雑な心理状態でいることも多く、そんなジレンマともご両親は向かい合っていらっしゃいます。「もっと上(下)の子にも時間を割いてあげたいけど、気がつくといつも自閉症に振り回されている…」そんなお母様の心の内を、何度耳にしたか知れません。そういった意味でもこういった公共の基金の存在は大きく、またその必要性も高いように感じられます。

【HOME-SCHOOLING(ホームスクールの制度)】
これも日本では文部科学省が認めていないのが現状かと思います。学校・集団生活から学べるメリットは数多く、それは否めませんが、それがどうしても合わなくなったときのオプションとして他に教育を続けるための術が何も無い。というのは、あまりにも各家庭への負担が大きすぎる気がずっとしていました。もし、その子に合う学級が見つからなかった時や、定員オーバーで受け入れてもらえなかった時は、無理矢理にでも取りあえず学校のシステムに組み込んでしまうしかありません。

それに対して北米では、その一年、ホームスクールプロバイダー(各政府教育省が認可、カリキュラムの申請には教員資格のあるカウンセラーが関わる)を利用し、その一年の学習プランを、子供のニーズに合わせて組み立てることができます。さらに、そのプロバイダーを通じて、その他のホームスクール生と交流することも可能です。その際に、同じ悩みを持つ保護者と交流の情報交換も深まります。そういうオプションがあれば、子供の成長にとっても、各家庭への負担という観点からも有益のように感じてなりません。

【RESPITE CAREGIVER(一休みのための世話・介護人)】
これは、一般的に重度の障害を抱える子供をもつ家庭が利用できる、社会福祉システムの一つです。一定の条件を満たしたその候補者(大概は、知り合い・友人等)を、家庭がソーシャルワーカーを通して登録することで、休む暇がない家族が「ちょっと一休み」できるように設定されているものです。

私は、実際に担当している生徒のご両親の依頼で、登録をし、必要に応じてベビーシッター的に、両親共に家を空けなければならない時や、睡眠不足でどうしようもなくなった時などに3~6時間程度のシフトを担当していました。これも謝礼程度ではありますが、きちんと政府からお給料が支払われ、家庭の負担になることはありません。こういった視点は、今後どの国においても、積極に取り組むことが早急に求められると思います。税金が高いのも、こういうことに使われるのであれば納得できます。

あくまで私の関わった範囲内ですが、自閉症を持つ子供たちの「睡眠障害」の極端な例は、半端な物ではなく、これは実際に経験した人にしか全く理解できないタイプの辛さだと思います。酷い時には3時間睡眠が1ヶ月以上続いたりします。度重なる寝不足に家族全員がイライラし悪循環で、夜中に起きた子供がメルトダウン、それに起こされた兄弟が、今度は寝るのが怖くなる、、、というような事態も発生します。「一休みしてください」の気持ちをもったこのシステムは、解決にはならないかも知れませんが、緩和対策として、とても有効ではないでしょうか。

【CENTER FOR DISABILITY - MENTOR SYSTEM(障害センター:メンターシステム)】
国、自治体により現状は異なるとは思いますが、高校卒業に伴い公共の様々な支援の対象から外れてしまい、まだ社会人として自立する準備ができていない生徒たちへの支援が突然途絶えてしまう。そんな現実あります。そこで各生徒を担当してきたソーシャルワーカーが、それぞれの生徒に合った「メンター(生活・学習面での先輩、といった感じ)」をマッチングし、定期的に何かを一緒にする、というプログラムがありました。私が担当した女性は18歳、高機能自閉症との診断を受けた方でした。絵を描くこととゲームをすることが大好きで、少し運動不足の傾向にあり、また夜通しゲームに夢中になり昼夜逆転の生活に陥りがち、という問題がありました。そこで、隔週土曜日に2時間ほど一緒に絵を描く、運動をかねて近所の散歩と買い物に行く、アルバイト応募のための書類制作に取り組む、等のプランを彼女が主体となって立て、一緒に実行していました。

活動中に発生する会話もとても参考になるものでした。彼女曰く、「友達」だと思っていた女の子たちがある日突然冷たくなった、等の経験から「同世代の女子友達」と付き合うのは苦手だし、少し怖い。何かを一緒に出来る友達がいるといいとは思うが、自分と同じ物事に興味のない人たちとの付き合いにはやはり負担を感じてしまう。そしてそれを、自分が少し人と違う「自閉症」と共存しているせいだと思ってしまう…。

私がこのプラグラムを通じて知り合ったのは彼女一人ですが、サポートやボランティアの対象が幼少期・学齢期に集中しがちで、成人後、中年以降のサポートがどんどん手薄になってしまうという問題。またそれが常に保護者・ご家族の心配の種でもあるという現実を考えるきっかけにもなったプログラムです。これも上述のRESPITE CAREGIVER 同様、家族の知り合いや友人を推薦し、登録することも可能です。各家庭が活用できるネットワークは活用しつつ、完璧ではありませんが、それをある程度経済的に支援する、そんな型の支援体制はやはりとても有効であるように思えました。

【まとめ】
私がDIR/フロアータイムに大きな可能性を感じた理由。それは「発達障害」という他人事視線のラベルに執着せず、各自が向き合う「人と違った発達過程」を、その人を取り巻く(人間関係も含め)「環境」との関わり合いの中で包括的に捉え、バランスよく成長を促す姿勢と、そのためのシステムがしっかりと構築されていたからです。その観点から鑑みて、上述のサポートシステムも、「一般社会と障害者社会」とでも表現できそうな、分断された社会グループの現状を、もう少し一体化させる「中継ぎ」のような役目を果たしてくれているように感じられます。近年巷でよく聞く「ユニバーサルデザイン」も、それが本当に浸透するためには、まず、その社会で生活する一人ひとりが「人と違う」ところに注目するのではなく「共有できるところ、共通のところ」に焦点を置き、それを大前提に社会を発展させる、そんな「ユニバーサルコンセプト」の心構え持つことから始まるのではないでしょうか。

移民で成り立つ国、カナダの教育シーンで多文化共生社会を醸成するために、長年試行錯誤を繰り返し、徹底してきた教育スタンスの一つにこの言葉があります。

~Everybody has got something to offer to the table~
“誰でも、何か貢献できるいいものをもっている“

どんな人生を送ろうとも、どんな風に学習しようとも、この姿勢をお互いが持つことで自然と芽生える「違い」に対する寛容性。それがどんな社会問題を考える上でも、実は最も必要なことのように思えます。

連載の機会をくださったレデックス社さんと、お付き合いくださった読者の皆様に感謝して、おしまいにいたします。
ありがとうございました。 フェダック

(フェダック・佑子)

 

■ 書籍:「ニセ医学」に騙されないために
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日曜日の朝は朝日新聞の書評を見て、面白そうな本を見つけると図書館で予約するのが習慣です。この本もそれで見つけました。

日本人は薬漬け? 自然分娩だけが素晴らしい? などの俗説の信憑性の検証から、健康食品や水素水などの有効性、あるいはそれらを摂取することで起きるマイナスの可能性まで、根拠となるデータを探し出し、また、医師という立場から得られる世界共通の医学情報を駆使して明晰に論じています。

特に読んでほしいのは、健康に良いとされていて逆効果になる食品があるというケース。一例を挙げれば、肝臓によいとされているレバーやしじみは鉄分が多く、慢性肝炎の人などは逆に悪化する! ワインラヴァーの編者は、この部分だけでも一読の価値があったと思っております。汗)

"こんなものに騙される患者さんが本当にいるのだろうかと疑う方もいるかもしれない。ところが、病気は心を弱らせる。" この著者の冒頭の言葉は、"スティーブン・ジョブズ氏が、2003年に膵臓がんと診断されたとき、ジョブズ氏は手術を受けず、菜食や有機ハーブなどの食事療法を含む民間療法を試したそうだ。しかし、9か月後の検査でがんの増悪がわかり、ようやく手術を受けたという。" の件を読んで深く納得しました。

ワクチンやステロイド剤、抗酸化で老化を防げる?などなど、読んでおきたい情報がたくさんありますので、手に取ってぱらぱらとめくって見てはいかがでしょうか?

筆者が読んだ朝日新聞の書評はこちら>>

「ニセ医学」に騙されないために 内科医NATRON著
2014年6月発行、メタモル出版、四六版、207ページ、1380円(税別)
★詳細はこちら>>

(五藤博義)

 

■ 予告:新連載「子どもの発達障害に向き合う保護者の方へ」
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こんにちは、小林みやびです。『発達障害の子を育てる58のヒント』なる本を書いてはみましたが(よかったらお読みください!)、立場としては一保護者。試行錯誤の毎日を送っています。

発達障害の子どもを育てるというのは本当に大変なこと。経験したことがある人にしかそのしんどさはわからないのではないかと思います。そんな保護者の方向けに次号から、私なりの付き合い方、折り合いの付け方について思うところを書かせていただくことになりました。肩の力を抜いて、気軽にお読みいただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
(小林 みやび)
※発達障害の子を育てる58のヒント ★詳細はこちら>>
本メルマガの書籍紹介 ★記事はこちら>>

 

■ あとがき
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大阪で開かれた日本LD学会は、興味深い講演が多数ありました。クリストファー・エドバーグ氏の「ESSENCEという考え方」や齊藤智氏の「ワーキングメモリーと認知の構え」など、次号から少しずつ紹介させていただく予定です。

次回メルマガは、12月12日の予定です。

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