ことばの獲得メカニズム

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2014.06.27

ことばの獲得メカニズム

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■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係: ことばの獲得メカニズム
■ 書籍:慣用句びっくりことば事典--ドラえもんの国語おもしろ攻略
■ あとがき: 臨床神経生理とオージオロジーのワークショップ
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■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係 第6回
ことばの獲得メカニズム
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われわれは、ごく自然の成り行きに母語「日本語」をしゃべれるようになります。両親が海外勤務の幼児なら、2年もその国にいれば、特別に訓練しなくても現地のことばも身につけていきます。しかし、同じように海外での生活を過ごしても、乳幼児期・学童期・青年期ではことばの身に付き方は大きく異なります。ことばの体得は、環境や年齢という要因の影響を色濃く受けているようなのです。

多くの日本人は、[R]と[L]あるいは[th]と[θ]といった発音の違いの聞き分けや、それらの音を区別してきれいに発音することが苦手です。一方で帰国子女と言われる子どもたちは、特別な訓練もせずにそうした音を聞き分けたり発音したりする能力を体得しています。私が思うには、だいたい幼児期に2年以上過ごしたお子さんがそうした能力を自然に体得しているように思います。他方、大人になってから外国語に取り組んだ人たちは、母語のアクセントやイントネーションが抜けず、きれいな英語を話すのが苦手です。

※編者注) θは環境依存の発音記号です。にごらないthの音です。

乳幼児期の環境が、ことばの獲得に大きな影響を持つ。

このことはわれわれに「言語の獲得が、耳から始まる」ことを教えてくれます。それでは、耳はいったいどのような仕組みで音声言語とそれ以外のノイズとも思える環境音とを区別しているのでしょうか?

今回は「ことばの獲得メカニズム」と題して、われわれが母語を体得していくプロセスについて解説します。

換気扇の音、テレビやラジオから漏れ出る音声、隣室からの扉の閉める音、屋外には都会なら自動車の走行音、閑静な場所でも風やら川のせせらぎ。われわれの周りは、実に多くの音に溢れています。われわれは、それぞれにいろいろな意味やら価値やらを認識しています。

例えば、虫の音。われわれは「スイーッチョン、スイーッチョン」とウマオイの発する羽音を音声のように「声」のように認識します。ところが、ほと
んどの外国人は、この虫の音を「声」として、あるいは意味のある音として聴き取ることができません。雑音として意識の外で処理されてしまいます。しかし、数十年も日本で過ごし、俳句などもたしなめるほどに日本通になれば、雑音でなく「声」として聞こえるようになるそうです。まあしかし多くの外国人は、虫の音を声として認識することは難しいようです。
著者注)参考webページ

日本人が虫の音を声として認識できるのは日本語が擬態音・擬声音に対して寛容で、それを音声として取り扱うという様式を持ち合わせているからという見解が一般的なようです。自然との接点を大切にしたことばあそび(俳句俳諧など)の文化を持つ日本人は、フォニックスや韻律にこだわり、有意味音をベースにことばあそびする英語圏の人と「聞く・聴く・分かる」の情報処理に違いがあるのかもしれません。

しかしこうした音素処理あるいは音韻処理の違いと文化の違いを比べて学ぶことで、言語の獲得のメカニズムを理解することができると私は考えています。

耳は24時間365日いつも働き通しです。手は触れなければ、目は閉じればその感覚を遮断できますが、耳は音を遮ることができません。周りの音はすべて耳の中に飛び込んできます。ある意味、耳の中は音の洪水のような状態と言えます。そんな雑然とした音が溢れた中から「聴き」たい声だけをピックアップして「聞き」わけるなんてことを、こともなげにやってのけるのはヒトの耳のスゴイところです。

聞いて→(切り取り)→聴いて→(脳内辞書と照らし合わせて)→そのことばが何であるかを認識し→(隠喩や暗喩と言った言語の二重性さえも理解した上で)→行動(ことばとして返答したり、身体的行動に移ったり)するわけです。

そうした能力が発揮される場面のひとつが、パーティー会場です。たくさん人がいる場所であっても、意中の人の声はあっというまにピックアップ(検知)することができます。こんなに進んだIT技術でも未だにできない芸当をヒトの脳は瞬時に、難なくやってのけます。

○音の選択
ヒトの脳の基本的な働きは、「選択」です。この選択というプロセスは語感すべての感覚情報に対して行われています。

選択は、2つの目安によって処理されます。それは「好き嫌い」と「損得」の2軸です。

「好き嫌い」は、セロトニン神経系回路で処理されます。「好き嫌い」を処理するセロトニン神経系回路は、大脳辺縁系という場所にあります。この大脳辺縁系は、大脳皮質よりも深い部位に存在しています。大脳辺縁系の中にアーモンドのような形状をした非常に小さな神経核があります。この神経核は扁桃体(アミダラ)と呼ばれています。扁桃体の働き方は非常にシンプルです。「珍しいうちは無視する」「皆がこぞってというようなタイミングでもブームに乗らず行動しない」というものです。扁桃体は感情のスタビライザーという働きを持っている半面、忙しすぎたり、あるいは刺激が不足してしまうとあっという間にワインドアップ(キレる、燃え尽き)やドルマント(うつ状態、自殺)を引き起こします。適度な刺激の時に適切に機能するが忙しすぎたり、閑すぎると困った状態を引き起こしてしまう、そんな気まぐれさを持ち合わせています。

ここで少しだけ脳の構造について解説しておきます。脳は、大脳皮質→大脳辺縁系→中脳→延髄→脳幹と複数の層構造からなっています。大脳皮質より深いところは解剖学的に古い脳に分類され、サルやラットといった動物を含め哺乳類に共通した構造となっています。いちばん浅いところにある大脳皮質は人類固有のもので、解剖学的に新しい脳に分類されます。この大脳皮質を進化の過程で手に入れたことが、われわれが今日の文明的発展の源であると考えられています。

大脳辺縁系の活動は、脳の深部の活動のため脳波や光トポグラフィー(全頭型NIRSとも呼ばれます)で観測することは困難ですが、機能的MRI(fMRI)を用いればその活動の様を詳細に観察することができます。しかし、fMRIの計測は、臥床安静にした狭い場所でガントリーノイズと呼ばれる騒音にあふれた検査室でしか計測できません。そうしたストレスの多い環境の検査室でしか調べることができないので、fMRIを用いた好き嫌いに関する脳研究の結果については、少しだけ斜に構えて眺めて、鵜呑みにしないことが大事じゃないかと私は考えています。

さてもう一つのめやすである「損得」は、ドーパミン神経系回路と呼ばれる脳内神経回路で行われます。このドーパミン神経系回路は、ヒトにしかない大脳皮質に備わっています。くわしく言うと大脳皮質の前頭前皮質部位の下縁(おでこの生え際あたり)に「損得」を処理する神経回路があります。この部位の活動は、脳波や光トポグラフィーといった、場所や姿勢に関する制限がfMRIよりもずっと少ない検査法で確認することができます。たとえば光トポグラフィーで、おでこの部分で脳活動の活性化を観測できたとき、ヒトは大いなる期待に満ちあふれているといえます。つまり「これはお得だ!」とか「買わなきゃ損だ!」というふうな脳の活動の高まりの時に、この前頭前皮質下縁が活動するわけです。ドーパミン神経系回路は、アクセルのような役割を担っていますので、この部位の過活動は時に理性的な活動をも妨げてしまいます。

ヒトは、脳内の好き嫌いと損得の2軸だけで「選択」という情報処理をしているのです。

○音の記憶
選択を通して脳は情報に重みづけをしていきます。ランクの高い情報はいつでも出し入れできる「引き出し」に収め、あまり価値のない情報は奥の方のあまり利用しない引き出しに収めていきます。ここで言う「引き出しに収める」とは記憶するということ。価値のある情報は出し入れしやすい引き出しに収め、必要に応じてその情報を出力します。そうです。学習したことばのうち価値のあるものは、聞くだけでなくことばとして出力するようになるのです。

例えば、赤ちゃんにとって、おあそび・おむつ・オッパイ・ねんねの4つは最重要ミッションです。そして、それらの問題をその都度手際よく対応してくれるのは「ママ」です。「ママ」とか「オッパイ」は赤ちゃんにとって最も重要なことばになります。ですから、「んま」とか「まー」とか「ッパイ」とか言ったことばがまず、最初に発せられることばであったりするわけです。

好きなことや得なことと同時に、あるいは前後して音が提示されるとき、その音にはある種の価値や意味が付帯されます。そうした価値や意味が付帯された音情報を繰り返し与えることで、音の記憶が定着していきます。日本に住んで日本人の両親に育てられている赤ちゃんや幼児にとって、[R]や[L]の発音を聞き分けられることはなんのメリットもありません。ですからわれわれ日本人の耳と脳、はRとLの2つの音を脳内の同じ引き出しに片付けてしまう。その結果、それら2つの区別にもたもたしてしまうのです。

○音の分類
われわれの話声は、音素、単語、文という時間長で定義されるかたまり(エンベロープ)から構成されています。また、そこには、ブレス(息づかい)、アクセント(強調)、イントネーション(抑揚)といった、音の緩急や区切りを生み出す成分が含まれています。単語や文章によってはイントネーションやアクセントが異なると、そのことばのもつ意味が変わってしまうこともあります。ぶっきらぼうに、あるいはたどたどしくしゃべるのでは相手の心になかなか届きようもありません。

音の強弱や句読点といったブレス使いを聞き分けることなしに、ことばを理解することはできません。難聴があると小さな音は聞き取れずブレスとして認識されてしまいます。高度難聴の子に「おはようございます」ということばを教えても、きれいに発音できず「おぁよ・ござっ・ますっ」と発音してしまうようなことがあります。補聴器の設定が不十分で、補聴器を介していても正しい音を脳まで届けることに失敗している、というようなことが背景にあるとこうしたことが生じます。またその逆に、騒がしいところにいつもおかれていると2つの単語の区切りがどこにあるか分からず、妙に長い単語になってしまい、覚えることが難しいというようなこともあります。

不思議なことに、平均律になる以前の時代のクラシック音楽(モーツアルトなど)をBGMにしたときはその音は阻害でなく、学習強化という良い作用を生み出します。

○よりよいことばの学習環境を作るには・・
ことばを身につけるにはまず、身につけさせたいことば自体に価値を持たせることが必要です。学童期に入った子どもなら、ご褒美という取引で価値にひもづけるのもひとつの手段でしょう。好き嫌いは大きなファクターだからです。

小学校の低学年の時期の子どもの場合、相性の悪い担任に巡りあうほどの不幸はないでしょう。でも実は、子どものそうした好き嫌いは親の感情を反映した結果であることが少なくありません。両親が担任の先生に対する不安やら不満を話題にする様子を、親の気がつかないところでお子さんが肌で感じとった結果として、そうした好き嫌いが生じてしまっていることが少なくないからです。もちろん力量不足のダメ教師もいるでしょう。でもそれ以上に親の不安の裏返しが子どもの先生嫌いを助長し、勉強嫌いや学校嫌いを生み出していることのほうが多いのです。嫌いになったときの最善の方略は「たくさんの先生につける」。お父さん先生、お母さん先生、おばあちゃん先生、お姉ちゃん先生、さらには、お稽古事に行かせたりしてピアノの先生や水泳の先生やお絵かきの先生というように、たくさんの先生につけることです。5人以上の先生を作ると不思議なことに「嫌い!」という気持ちが話題にさえしないレベルにまで小さくなり、問題を自分で解決できるようになります。ポイントは五分の一以上に希釈(希薄化)させることです。

ことばの勉強をするときは、テレビやラジオの音声はじゃまなだけです。耳の中にごちゃ混ぜに入ってくるために、新しいことばの学習がとても難しくなるのです。大人からみれば「なんで?」なのかもしれませんが、それは大人は知っていることばだから、テレビやラジオの音と聞かなければならないことばとを区別できるのです。でも知らないことばばかりのお子さんには、それは阻害因子でしかありません。静かな集中できる勉強部屋を用意してあげる。それができないならお子さんが勉強しているときはご両親も静かに新聞や本を読むように配慮してあげてください。

あらゆるものに貪欲に、そしてそこに価値があると親が信じ、そうした姿勢をみせたとき、子どもたちの関心のチャンネルも開かれます。例えば英語を聞き取ることをあきらめた親の子どもは、英語に対する情熱も価値も見いだしません。そうした幼児期の出遅れが、子どもの将来の語学力に影響するのです。これはことばに限ったことではなく、算数も国語も社会科も理科もすべてに共通する学習の基本的な姿勢といえます。

(中川雅文・国際医療福祉大学教授、同大学病院耳鼻科部長)

 

■ 書籍:慣用句びっくりことば事典--ドラえもんの国語おもしろ攻略
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日本語というのはほかの言語と比べて慣用句が多いと言われています。
しかも、多いだけじゃなくて実際の会話で使われる率も高いんだとか。
つまり、日本という国で日本語を使って暮らす以上、慣用句は避けて通れないものなのです。

言われてみれば、私も日常的に使っているように思います。
「今日は仕事が手につかないわ」とか
「忙しくて目が回る」などは
慣用句と意識せずに普段から使っている言い回しです。

でも字義通りに解釈すると
“仕事と手は、そもそもくっつくものなのか”
“目が回るというのは、めまいのことなのか”
などという素朴な疑問を抱えることに。

そして実際にそう感じながら、時には相手が何を言っているのか、さっぱりわからなくて困ったりしながら暮らしていると思われるのが発達障害を持つ子どもたち。(もしかしたら大人も)

もちろん、全員が全員というわけありませんが、アスペルガー障害を持っているお子さんなどは学校の先生からも「うーん…慣用句が苦手なようですねぇ…」などと言われることが少なからずあるようです。

文字として書かれたことはバッチリ理解できても、それは字面通りに解釈したということ。
「前後の文脈の中で、比喩的に使われていると想定してその意味を理解せよ」というのは彼らにとってかなりハードな課題なのではないかと思うわけです。

日常生活の中からの自然習得も不可能ではないと思いますが残念ながら少々効率は悪いかもしれません。ですからここはひとつ、本腰を据えて覚える方向でいきたいもの。

そんな時に活用していただきたいのがこの本です。
国語辞典などでも調べることはできますが、いかんせん、子どもにとって面白い作業ではありません。
よって「ドラえもん」におまかせ。
マンガと同じ判型の本に460種類もの慣用句が収録されています。

体に関係するもの、色や数に関係するもの、などに分類されていて文章による説明のほか、4コマ漫画やイラストによる面白おかしい補足も。
巻末には五十音順の索引もついていますから辞書のように使うこともできます。

最初のうちはマンガだけを読むのでもOK。
身近に置いて、時折ぱらぱらとめくって親しんでもらうところからスタートです。小学生も中学年になると授業でも取り上げられたり、テストに出たりし始めるので、それまでに少しずつでも覚えていけるといいですね。

ちなみに、慣用句が「語句をつなげることで、その語本来の意味とは異なる内容を表すもの」として定義されているのに対して、ことわざは「教訓や反省などを含むもの」と分類されているようです。ことわざ、そして四字熟語も同じく、日常生活によく登場します。
シリーズで併せて手元においておくのがおススメです。

●ドラえもんの国語おもしろ攻略-ことわざ辞典[改訂新版]
★詳細はこちら>>

●ドラえもんの国語おもしろ攻略-四字熟語100
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●ドラえもんの国語おもしろ攻略-慣用句びっくりことば事典
栗岩英雄著、1995年6月発行、小学館、B6版、192ページ、760円(税別)
★詳細はこちら>>

(小林雅子)

 

■ あとがき
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本メルマガで連載中の中川先生が主催するワークショップが7月12日・13日の両日、海浜幕張駅前のプレナ幕張で開催されます。CNAW2014(臨床神経生理とオージオロジーのワークショップ)と題名は難しいですが、聴覚及び認知理解に関するメカニズムと、聴覚を取り巻く社会事象について、医師や言語聴覚士、工学関係者などが最新情報と持てる知見を披露し合うというものです。教育講演として、基本的な内容を学生向けにレクチャーしたり、出席者が体験できる工夫がなされたりしていますので、ご関心のある方は参加をご検討ください。特に学生さん(社会人枠を除く)は無料で参加ができます。

中川先生の特別講演「感性工学、脳科学、そしてその社会への適応」、川崎聡大・富山大学准教授の教育講演「自立支援教室、障碍児を取り巻く 過去現在 未来」小森智康・NHK放送技術研究所専任研究員「高齢者に聴き取りやすい音」は、興味深いと思います。

なお、中川先生のご指導を受けながら開発に取り組んでいる新ソフト「聴覚認知バランサー」(12月発売予定)の試作版等を使って、編者も「ほんとうにみえていますか?きこえていますか?」という教育講演を行います。

詳細ページは、facebookイベントとして下記にまとめられています。
★facebookの記事はこちら>>

もし、facebookが利用できないなどで上記ページがご覧になれず、内容を知りたい方は、編者までメールでお問い合わせいただければ、内容をまとめたpdfファイルをお送りします。

次回メルマガは、7月11日(金)の予定です。

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