知的な遅れと視機能に課題のある小2の事例

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2013.01.11

知的な遅れと視機能に課題のある小2の事例

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■ 連載:知的な遅れと視機能に課題のある小2の事例
■ 有用サイト:Facebook 発達障害&知的障害ページ
■ あとがき
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謹賀新春 明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

■ 連載:ビジョントレーニング 第3回
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今回は、ビジョントレーニングの全体イメージを読者の方々に知っていただけるように、実際の事例を北出勝也先生にお願いしました。

北出先生の著書、図書文化社「学ぶことが大好きになるビジョントレーニング」を参考に、小学2年生担当のT先生がビジョントレーニングを実施されたレポートと、北出先生の解説をいただきましたのでご紹介させていただきます。なお、北出先生とT先生は、直接お会いになったことはないとのことです。

※編者の判断で文章表現の一部を修正しているところがあります。かえって読みにくくなっているとしたら編者の責任です。(五藤博義)

●知的な遅れと視機能に課題のある小2の事例

T先生:
Aくんは通常学級に在籍する軽度の知的障がいのある小学2年生です。音読は読むのに、非常に時間がかかり、板書を書き写すことができないことも度々ありました。漢字を書くと線が一本足りなかったり多かったりと形を正確に書くことができませんでした。ひらがなやカタカナも筆圧が低く、丸みを帯びた形で書き、終点の押さえができませんでした。注視・追視のテスト※を行ったところ、寄り目ができないこと、追視時に目をスムーズに動かせていないことが分かりました。また模写テストをしたところ、形のとらえや線の重なりを意識できていないようでした。

知的な遅れだけでなく視機能の問題がより、Aくんの困難を増加させていると考え、ビジョントレーニングに取り組むことにしました。週3回の個別のトレーニングに加え、家庭でも10分程度の課題に取り組んでもらいました。

またトレーニングを、習得に合わせて内容を変え、その時その時のAくんの課題に合ったものを選び、かつ本人も飽きずに継続して取り組めるものにしました。

※編者注: 指定したものを見るのが注視、動くものを目で追うのが追視。

北出先生:
音読に時間がかかり、板書が難しいというのは眼の動きの問題であることが多いです。眼でスムーズに文章を追っていけない、黒板からノート、ノートから黒板への視点移動が時間がかかってしまうなどということがあります。終点を見定めて書くということも難しいです。また本の中の模写テストから形のとらえ方や線の重なりが認知できていないということですので、視空間認知力の問題もあると判断されました。

そこでトレーニングの第一段階として眼球運動のトレーニングのプログラムからやっていくことにされました。トレーニングを本人が取り組みやすい、継続しやすい内容にされたということですが、トレーニングを継続する上で楽しみながら出来るように支援していくことはとても大事です。

T先生: Aくんのトレーニングの内容
〇第一段階(30分)6週間
1 眼球運動のトレーニング
指標を使っての寄り目、指先を見よう(左右の手の指先を交互に見る)、目のジャンプ、数字カード、カードを分別

〇第二段階(45分)3週間
1 眼球運動のトレーニング
カードを分別、文字さがし(文字の羅列表から文字を探す)、ランダム読み(文字の羅列表を読む)、線なぞり、線めいろ
2 お楽しみで塗り絵

〇第三段階(45分)6週間~継続中
1 ボディイメージのトレーニング
両手でグルグル(左右の手で二つの円などを同時になぞる)
2 視空間認知のトレーニング
ジオボード、タングラム・パズル
3 お楽しみでスーパーボールのキャッチボール

なお家庭でも、学校でのトレーニング内容に合わせて部分的ではありますが毎日取り組んでもらいました。

北出先生:
第一段階では眼を大きく動かすトレーニングを中心に、第二段階では紙の上で行う細かく眼を動かしていくトレーニングを中心に取り組まれています。大きく眼を動かしていくことからトレーニングを始めて、文字を追っていくなどの細かい眼の動きのトレーニングに入っていくことは、粗大運動から微細運動へという、体の動きのトレーニングの流れと同じで理に適っています。

第一段階、第二段階の中に、大きく体を動かすボディーイメージのトレーニングなどを入れてもよかったと思います。

第三段階で視空間認知のトレーニングが始まりました。これも眼がある程度動くようになり、形の線などを見やすくなってからのほうが、視空間認知のトレーニングは行いやすいので、よかったと思います。

T先生: 具体的な指導とAくんの様子について
○第一段階
6週目には寄り目ができるようになりました。保護者からは筆算の時に足す数字を間違わなくなったという報告がありました。また、拡大した教科書であればスムーズに読むことができるようになりました。

○第二段階
線迷路はよく間違うことが多くあったため色鉛筆を使って取り組みました。徐々に線を見分けることができるようになり、色の手助けがなくとも鉛筆だけでできるようになりました。きのこやリンゴなどに色を塗るなどの活動も本人の楽しみとなり、また手を使ういい運動にもなりました。

○第三段階
線迷路ができるようになったので、ボディイメージや視空間認知のトレーニングに移ることにしました。本人のストレスを軽減するために、比較的得意なジオボードを中心に取り組みました。初めは見本とジオボードに1から5の数字を書き、数字を照らし合わせて輪ゴムを引っかけるようにしました。数字の手がかりを声かけし、一緒に「〇番から△番にかける。」などと声に出すようにしました。

Aくんは手先も不器用だったため、輪ゴムの出し入れや片付け、輪ゴムをジオボードから取ることも大事な活動としました。

徐々にではありますが、難しい課題もできるようになってきています。

北出先生:
拡大教科書を使うと、文字のつまりが緩和されるので、眼の動きの負担が楽になります。行に定規を当てるなどして、読みやすくなるように工夫することも大事です。色鉛筆を使ったり、色塗りをしたりするなどトレーニングを楽しんでできるような工夫もされていますね。また、ジオボードに数字を書いて分かりやすくし、声掛けもしながら取り組みやすくされています。ジオボードは輪ゴムをピンにかけるということが必要ですので、細かい手先の作業のトレーニングにもなります。

T先生: Aくんの変容と課題
Aくんの漢字の変容ビジョントレーニングを始めて15週間、少しずつではありますが、変容が見られるようになってきました。今までほとんどできなかった板書をできるようになり、音読でのつまずきが減りました。

また、見る力が高まり塗る場所がよく分かってきたのか、塗り絵を好んでするようになりました。使う色も多くなり隅々まできれいに塗ることができています。字を書いたり読んだりする学習だけでなく、絵を描く、体を動かすなどの学習にも良い影響があり、全体的に本人の学習に対する意欲が高まりました。
※Aくんの漢字の変容…画像

T先生: 指導を通して

知的障がいがあっても、ビジョントレーニングをしたことでできることは確実に増えてきています。トレーニングを続ける中で「自分もできた」という体験がもっと学習したいという意欲にもつながっていると感じました。

Aくんのひらがなの変容また、保護者も闇雲に書字や音読の練習をさせることよりも、ビジョントレーニングに確かな手応えを感じてくださり、本人だけでなく保護者の負担も軽減されていると感じました。

トレーニングを続けて行くには、課題をその子どもの実態に合わせて手を加え、子どもに無理のない内容にすること。称賛を意識して多く取り入れ、子どもが達成感を感じる経験を増やすようにすることが、とても必要であると思いました。
※Aくんのひらがなの変容…画像

北出先生:
視覚能力の弱さがありますので本人の苦手なことですが、取り組みやすくなるように工夫してトレーニングをされましたので、約3か月で少しずつ能力が伸び、学習意欲の向上にもつながりました。細かいステップをたくさん設けて、一歩ずつ確実に進み、「できた」という達成感を持ってもらうことはどのような指導でも大切ですね。

保護者の方に理解してもらい、家庭でも少しずつトレーニングをしてもらうことも重要です。このような非常に参考になる事例のご報告をしていただき、とても嬉しく感謝を申し上げたい気持ちでいっぱいです。
ありがとうございます。

 

■ 有用サイト:Facebook 発達障害&知的障害ページ
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我田引水で恐縮ですが、認知機能や教育に関連して蓄積しておきたい情報を整理しているWebページを紹介させていただきます。
世界最大規模のソーシャルネットワークシステムの一つ、Facebookは基本的に会員になった人同士が交流できる仕組みですが、会員以外にも閲覧できるWebページを作ることができます。それが「ページ」です。

「発達障害&知的障害 」のページはこちら>>

編者はTwitterを使って、日々これはと思う情報を流しています。
(TwitterID:gotoledex
Twitterにもお気に入りという機能がありますが、後々参照したい情報を一覧できるFacebookページを使って、自分なりにささやかな情報データベースを作ろうと取り組んできた訳です。

内容は、読者の皆さんご自身でご評価いただければと思いますが、主な内容と最近の記事は以下の通りです。

1)国や自治体の制度や提供サービス
例:厚生労働省「発達障害者の就労支援」サイトはこちら>>

2)役立つと思われる情報がまとめられたWebサイト
例:ADHDの情報が充実したサイトbyイーライ・リリーはこちら>>

3)研究機関等の新しい知見などの論文
例:国立特別支援教育総合研究所研究論文:発達障害と情緒障害の関連と
教育的支援に関する研究-二次障害の予防的対応を考えるために-
研究成果報告書(PDF形式)はこちら>>

4)強くお勧めしたいイベントや製品の情報
例:烏山病院公開講座:発達障害の最前線
大人の発達障害の第一人者、加藤進昌先生の講演他。

5)レデックスからの情報:新製品やモニター募集
例:ビジョントレーニング新ソフト事前申込のご案内(終了しています)
こども脳機能バランサープラス効果測定モニター募集(同上)

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■ あとがき
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年明け早々興味深いセミナー等が目白押しです。その中から一つだけ選んで紹介させていただきます。
NHKで発達障害の解説をたびたびなさっている榊原洋一・お茶の水女子大学教授の講演です。

1月26日(土)新座市の十文字学園女子大学で、演題は、「発達障害はどこまで解明されているか-学習障害を考える」
※公開講座についての詳細はこちら>>

比較にはなりませんが、編者も親の会からご依頼いただき、1月27日東京・日野市、3月3日山梨・甲府市、3月24日東京・港区と講演をする予定です。メルマガでは紹介を割愛させていただきますので、参加をご希望の方は、レデックスホームページのニュース欄をご覧くださるか、五藤までお問い合わせください。
※セミナーの詳細はこちら>>

次回メルマガは、1月25日(金)です。

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