52ヘルツのクジラたち 2023年度ナースカフェスタート!

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2024.03.29

52ヘルツのクジラたち 2023年度ナースカフェスタート!

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■   連載:2023年度ナースカフェスタート!
■□  コラム:映画:52ヘルツのクジラたち
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■ 新連載:居場所カフェ×ナースの可能性               
      第2回 2023年度ナースカフェスタート!
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1.第1回「ダイエットする?しない?どうする?」
「性教育」を全面に出したテーマを掲げると、参加しにくい生徒さんがいる可能性が考えられたため、テーマ決めは慎重にしました。
普段のカフェでの会話でよく出てくる話題の一つに「食事」がありました。内容はダイエット目的で手っ取り早く欠食を選ぶ、家族が準備していなくて食べていない、食べる物がないなど食生活の乱れが目立ったので、テーマを「ダイエット」に決めました。
なお、居場所カフェでも、遅刻防止や朝食摂取目的で月1回モーニングカフェを実施しています。

とにかく、ナースカフェは「対話」を大切にしているので、私が提供する情報は少な目にして、対話の時間を大切にしています。
対話をすることで、掲げたテーマを深堀り出来たり、普段出てこない話題に発展したり、結果的にアウトリーチにつながることもあります。

本題に戻って、第1回目はダイエットやBMI(肥満度)の計算など基本的な情報提供をしてから、ダイエットのメリットやデメリットなどを出し合ってもらいました。
健康のため、自信をつけるため、きれいになりたいなどが動機理由で、デメリットとしては面倒、体に悪い、動けなくなるなどが上がりました。ダイエットによる体への影響はなにがしかの知識を得ているようでした。

※ナースカフェの様子

家族一緒に食べるよう言われるからどうしても夕飯が遅くなってしまう(遅い生徒さんは22時頃になることもあると)、自分は小食だけど兄弟は大食い、親が用意していないと食べないなど、食生活が不安定である発言もありました。
 
私が一方的に話さず、各々話題を提供してくれることで、時に共感したり疑問に思ったりしながら話が進んでいき、自身の食生活を見つめ直し、どう改善していくか考えるきっかけになりました。
また、スタッフとして参加した大学生が自身の経験を語ることで更に対話に深みが増し、ピアエデュケーションの良さも発揮していました。高校生同士でも、質問したりアドバイスしたりするシーンも見られ、対話が広がっていく光景は素敵な時間でした。
そして、過度なダイエットによる急激な体重減少は、エストロゲンという女性ホルモンの減少により月経停止になることも、併せて情報提供しました。

思春期の月経停止は、特に骨密度への影響があります。成長と共に骨密度は上昇していきますが、20歳頃をピークに徐々に減少し、閉経とともに更に低下していきます。
審美系のアスリートの中にも体重管理が厳しく、無月経になることでパフォーマンスが低下してしまう場合があります。中には骨折を繰り返すケースもあります。
月経は、骨密度だけでなく重要なサインが隠れていることがあるので、スポーツに関わる方々はぜひともこの辺りの情報を共有して頂けたらと思います。

また、月経の話題からピル※の情報提供も行いました。いまだに、親世代は低用量ピル※に対して消極的なイメージを持っている方が一定数おられます。実際「ピルって避妊のためじゃないんですか?」と聞かれることもあります。
これは、親自身というよりも社会やメディアがそういうイメージを刷り込んでいる可能性があるので、いかに正しい知識が必要かを伝える機会を虎視眈々と狙っています。

2.第2回「フリーテーマ」
第2回は生徒さんのニーズを知るために、テーマを決めずにやってみました。しかし、いきなり「自由に話して」と言っても難しいと思ったので、出前授業でもやっていてカフェでもやってみたかった「水の実験※」をしてみました。水に試薬を入れ、水の交換を行い性感染症がどのように広がっていくかを目で見て分かるようにするワークです。

※水の実験

ワーク後に、性感染症を防ぐ方法の一つとして、避妊具の装着体験をしました。その時に、「こんなん(避妊具)必要ないやん。」と言いながら参加している生徒さんがいました。
避妊具体験だけでなく、メジャーな性感染症を紹介し、検査の方法(匿名でできる所も含め)や費用(医療保険内、自費など)、治療法なども説明しました。
すると、後日カフェをしている日に「あれ(避妊具)ちょうだい。」と言って来てくれたことがありました。

必要ないと言いながらも私の話に耳を傾けてくれ、取りに来てくれるようになった変化に、何とも言えない気持ちになりました。自分から、大人に繋がろうとした経験が今後への糧になっていったらいいな~

他にも、自身の恋愛話や、間食の方法のアドバイスを求めてきたり、自身の発達特性が気になるが親が否定的で前に進まないといった悩みが出てきたりしました。私が看護師ということで「発達障害って知ってる?」の質問がきっかけでした。この時点では情報提供に留め、後日、本人了解のもと学校と連携し、生徒さんの思いを実現することが出来ました。

3.第3回「コミュニケーションどうしてる?」
例年、コミュニケーションについての問題や悩みなどが上がってくるためコミュニケーションに関することをテーマにしました。
普段高校生と関わっていて、思っていることの一つに「距離感」がありました。実際に、体と体の距離もだし、心の距離も噛み合っていないと感じることもありました。

まずは、バウンダリー(境界線)について。人には見えない境界線が存在していて、それは相手によってどこに線を引くかが異なります。
相手が仲の良い友達、親、学校の先生では自然と自分の中で、相手に合わせた距離をとることが多いと思います。そして、自分の心身の調子によってもその距離は異なってきます。毎日いつでも同じとは限りません。

そこで、大事になってくるのが「同意」です。昨日は大丈夫でも今日大丈夫とは限りません。昨日、貸してくれた消しゴムを今日も貸してくれるとは限りません。
一般的に、自分から提供する時は自分がいいと思って行うから抵抗感は低いのですが、相手から来られると自分のテリトリーやペースを乱されることに繋がるので、無意識に不安になり、提供に対してのハードルが上がることがあります。

だからこそ、「同意」をとって確認することで、お互いの安心出来る空間を作ることが出来ます。
普段からこのやり取りを行うことで、いざ親密な相手が出来、性的な関わりをする時にも「同意」を前提にコミュニケーションをとることになるので、相手も自分も傷つかない配慮をすることにつながり、自分も相手も大切にすることにつながることが期待できます。

この回では、性経験が豊富な生徒さんと未知な生徒さんが混在していたので、最初どう話題をもっていこうか悩んでいたのですが、そんな心配は杞憂でした。お互いの立場から話題を提供していて、質問やアドバイスをしていて、これまたいい空間でした。

カフェをしていると、大人が思うよりも子どもたちって立派にコミュニティを作っているなーと思うことがあります。中には、そのコミュニティに属するのが苦手な子どもたちもいるので、時に大人の介入は必要ですが、みんな一生懸命です。
大人から見たら、口を突っ込みたくなることもあるかもしれないけど、その必死さを心から応援したくなる瞬間が、たくさんあります。思春期の揺れの中にいる子どもたちはとても輝いています。

4.第4回「自分の中の自分」
自分の「性」に揺らぎを感じ、日々悩んでいる生徒さんが一定数おり、ナースカフェで取り上げて欲しいという要望があったため、第4回は多様性をメインに行いました。

自分で選択して人生を歩んでいる生徒さんがいる一方で、養育者からの虐待や過保護、環境、発達特性などにより、自分の人生を自分で決めることが出来ず他者に決定権を委ねるしかない状況の生徒さんもいました。よって、自分の人生は自分で切り開いていいというメッセージを最初に伝えてみました。

多様性を説明する時に、私がよく使っているのが「おにぎりの具」です。おにぎりって見た目は同じでも、中に入っている具は無限大!食べてみないと分からないし、その好みもバラバラです。実際に授業でこの質問をすると、具が被る事の方が少なく見事に違う具を出してくる学校もありました。

他にも、社長といえば?長髪といえば?と男性や女性を連想させるワードを並べてジェンダー問題も提起しました。

ジェンダー問題は、社会の至る所にあります。いわゆる「男らしさ・女らしさ」と言われるものです。みなさんの周りで思いつくことはありますか?
「男が泣くな」、どろっどろになって帰ったら「女の子なのに」、暴れている子に「男の子だしね」、おませな事を言うと「さすが女の子」など、言ったり言われたりした経験はあるでしょうか。

普段の何気ない言動により、知らず知らずジェンダーに対する価値観は育っていきます。それにより、苦しんでいる人もいます。実際、普段から関わっている高校生からもジェンダーや性別二元制による息苦しさを聞くことがあります。

これは社会の価値観の影響力の強さだと思います。世の中に起きている様々な事象は一側面だけでは語れないことが沢山あります。それを多角的に見ること=多様化でもあると思います。その辺りを一人一人が意識し、語り合っていくことで、結果的にダイバーシティ化していくのではないかと考えます。

このように、性教育は身体的性だけでなく多角的に語ることが出来るから面白いと思っています。2023年はこのようなテーマで行いました。この一年で、私が性について語れる人という認識が一部の生徒さんに生まれたことでカフェ以外でも語る機会が増えていきました。

次回は、2024年の取り組みをお伝えし、その次にナースカフェの効果についてお伝えしようと思います。長々とお付き合いありがとうございました。つづく・・・

※ピルの解説
月経は、排卵後妊娠が成立しなかった場合に、子宮内膜が剥がれ落ち、経血となって体外に排出されることをいいます。卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2種類の女性ホルモンが配合されているピルを内服することで、排卵を抑制することにより、月経を起こさせないようにします(不正出血などはあり)。

方法は、毎日1錠ずつ決められた時間に内服します。避妊効果は約99%。また、排卵抑制により、卵巣や子宮への負担が減るため、チョコレート嚢胞や子宮内膜症などの婦人科疾患のリスクを減らすことにもつながります。その他、ホルモンバランスが整うので、ニキビや気分の浮き沈みなどの月経随伴症状、月経痛、貧血、自律神経調整などの改善にもつながると言われています。

吐き気や頭痛などの副作用も言われていますが、徐々に治まることもあるし、薬が合わなければ他の種類に変更などの検討も可能です。ただ、投与に注意が必要な場合や飲めない方もおられるので、まずは産婦人科の受診して相談されるのが望ましいです。
アフターピルと言われている緊急避妊薬は、避妊がうまくいかなかった時や避妊せずに性行為をした後の避妊目的で使用します。72時間以内に緊急的に内服するよう言われていますが、より早い時間に内服した方が避妊効果は上がります。

※水の実験の解説

1.ペアを組んで、片方のコップに水を全量入れ、半分戻します。←この時、交感していいか確認してもらうことで「同意」も意識してもらいます。

2.ペアを替えて、1を何回か繰り返します。

3.交換後の水にフェノールフタレインを入れます。

結果・・・一部の水がピンク色に変化します。実は、一つだけアルカリ性の水を仕込ませていたのです。見た目だけでは気付かないため知らずに交換が繰り返され(避妊なしの性行為)、感染が広がっていくというワークです。しかし、その後ラップをする=コンドームの使用で防げることや、酸性の水=治療薬を入れることで治療出来ることも併せて説明します。気を付けていても病気とは予期せず罹ることがあるので、罹った時にどう対処するかも含めて説明する必要があります。そして知ることで、怖いと思う気持ちも少しは下がるかなとも思っています。

◆新山愛子(にいやまあいこ)
看護師/思春期保健相談士/性教育認定講師
officeドーナツトーク非常勤スタッフ
 

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■ コラム:本や映画の当事者たち(10)          
        映画:52ヘルツのクジラたち
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今回は、52ヘルツのクジラたち(TOHOシネマズ日比谷など。24年3月公開中)をご紹介します。

町田そのこの原作(中央公論新社)を読んで、映画も絶対に観たいと楽しみにしていました。この本は、全国の書店員の投票で「一番売りたい本」を選ぶ「2021年本屋大賞」を受賞。自分の人生を家族に搾取されてきた女性と、母から虐待を受けている少年の出会いを描いています。長編なのですが、休日に本屋で買って一気読みしました。

辛い過去を背負い、九州の海辺の街に引っ越してきた 貴瑚きこ (杉咲花)は、海の近くで声を発しない、みすぼらしい身なりの長髪の少年と出会います。雨に濡れてしまったその少年を家に連れていき風呂に入れようとシャツを脱がせると、そのからだ中にはあざが……。

虐待された過去を持つ貴瑚は、少年を引き取り、一緒に暮らし始めるのです。

主人公の貴瑚は、幼いころから母親に虐げられ、高校を卒業すると義父の介護をさせられてきたのです。そんな生活から自分を救ってくれたのは安吾(志尊淳 しそんじゅん)でした。

タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、クジラの中では珍しい高い周波数の鳴き声を持つ特別なクジラです。仲間にはその声が届かず、群れから離れて大海を遊泳する孤独なクジラに、同じように思いを誰にも伝えることなく過ごしてきた登場人物たちが重なります。

声を発しない子どもは、母親に「虫」と言われて虐待されて生きてきました。その母親は甘やかされて育てられ、母親となるための覚悟がないまま彼を生んだのです。主人公の貴瑚には、虐げられた彼の気持ちが痛いほどわかります。そして、安吾は、出生時は女性だったトランスジェンダーの男性。同じ時を生きてはいない3人ですが、重なり合っています。貴瑚を慈しむ安吾との関係はやがて悲しい別れが訪れます。

救われたのち、貴瑚には大会社の御曹司である男性、主税が現れ、初めて愛されるのですが、幸せを感じたのもほんの一瞬、貴瑚は何もかも失い、祖母の最後に住んだ家に移り住み、少年と出会います。

貴瑚は孤独を感じながらも、抑圧や束縛から自由になり、祖母の暮らした家で過ごしながら、近隣の人たちと緩やかなつながりを持ち、たくましく自立していきます。

人はみな自由で縛られることはない、そして家族からも解放されていいのだとこの映画を観ると理解できます。伝えるための声が仲間に届かないクジラの声は、哀愁を帯びていて、本当につらいときに安吾、貴瑚、虫と言われる少年の心を癒すのです。

貴瑚を演じる杉咲花は、深い悲しみをたたえた瞳や、あきらめたような表情で、この哀れな主人公をしっかりと演じています。その細くて小さな体は痛々しくて、守ってあげたいと誰もが思うでしょう。物静かで慈悲深く、優しい安吾を志尊淳が好演しています。

貴瑚を一方的に愛する主税は、甘いイメージだった宮沢 氷魚(ひお)が、恵まれた家庭に育ったゆえのサディスティックな部分をしっかり演じています。

その他のキャストもそれぞれの役にピッタリとはまっていて、不幸がこれでもかと重なり合うストーリーですが、最後は希望を感じられます。

社会的な課題を描きながら、映画としてのエンターメントが楽しめる作品です。

※52ヘルツのクジラたち公式サイト 

◆はら さちこ
ライター。
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』『発達障害のおはなしシリーズ』、『10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること』などがある。


■□あとがき ■□--------------------------
次回は、4月12日(金)の配信予定です。

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