人の行動を動機づける「基本的欲求」

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2022.12.23

人の行動を動機づける「基本的欲求」

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■  連載:人の行動を動機づける「基本的欲求」
■□ 連載:発達障害者に必要な助走と準備のプロセスとは?
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■ 連載:認知特性を考える
               第4回 人の行動を動機づける「基本的欲求」
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こんにちは。本田式認知特性研究所です。

以前ご紹介させていただいた通り、当研究所は認知特性を中心とした「理解し、糧とし、表現する」ための機能を社会の様々な領域で活用いただくための活動を行うべく2022年6月に設立された組織です。

今回は、認知特性とは異なる尺度である「基本的欲求」についてご紹介します。基本的欲求というのはアメリカの精神科医ウイリアム・グラッサーの提唱する「選択理論」の中で採用されている概念のひとつで、人の行動の動機やその背景にある遺伝的な原因を説明する際に用いられます。

グラッサーによると、人には5つの基本的欲求が遺伝子に組み込まれており、人はその欲求を満たすために行動し、その強弱のバランスによってその人の基本的な性格や行動原理が決定づけられるとしています。

人の欲求を説明した理論としては、アメリカの心理学者アブラハム・マズローの「自己実現論」の中で取り上げられるピラミッド型の「欲求5段階説」が有名です。マズローの説は、欲求がピラミッドを建てるように段階を経て満たされていき、最終的に自己実現欲求が成り立つとする考え方ですが、グラッサーの「基本的欲求」の考え方の中では、欲求は階層状ではなく並列に存在しています。

【基本的欲求-1:生存】
生存の欲求は、生存しよう、生命を維持しようとする基本的欲求です。食欲等の生理的な欲求も含まれますが、それだけではなく、生存の欲求が強い人は健康志向であったり、安心のために高額な保険に加入しようとしたり、生きるために大事な「お金」をしっかり貯めようとするる性質が強かったりします。いわゆる「慎重なタイプ」の人は生存の欲求が強いと考えられます。
逆に生存の欲求が強くないと、運動やヘルスケアに無頓着だったり、貯金などは気にせずにすぐにお金を使う傾向があったりします。

【基本的欲求-2:愛・所属】
愛・所属の欲求は、性愛の範囲のみならず、友人間やグループ、社会との関わりの中で愛し愛されたい、より強く関わりたいとする基本的欲求です。例えば、長距離の飛行機や列車で隣り合った人にすぐに話しかけたがるタイプの人や、知り合うとすぐにLINEやメアドを交換したがるタイプの人は、愛・所属の欲求が高いと考えられますが、この欲求が低い人からするとこれらの行動は「なぜ?」と思われがちです。

【基本的欲求-3:力】
力の欲求は「自分に価値があると感じたい」とする基本的欲求で、勝負に勝ちたい、目標を達成したい、人の役にたって認められたいといった欲求を指します。
この欲求は人間に特有のものだと考えられています。動物は脅威の排除や狩りをするときに力を発揮しますが、これは生存のための力の行使であって、力そのものへの欲求によるものではありません。力の欲求が強過ぎる人間はその欲求の満たし方を誤ると際限なく地位や権力を追及し、そのために人間関係を悪化させたり友情や家族を犠牲にすることすらあります。
ただし力の欲求が強い人はそのために頑張ることができるので、それによって出世や会社経営、受験、スポーツなど広い分野で成果を出すことができます。

【基本的欲求-4:自由】
自由の欲求は「自分で選びたい」「束縛・強制されたくない」という欲求です。自分で選択ができる、選択できる範囲が広いという状況を好みます。
一方で自由の欲求が高くない人は、何かをするときに人に決めてもらうことに苦痛を感じなかったり、マニュアル通りに進めることを好んだりする傾向があり、状況を与えられることに大きな不満を感じません。

【基本的欲求-5:楽しみ】
楽しみの欲求の指す「楽しみ」とは、学びと遊び、ユーモア等を指します。
楽しみの欲求が強い人は、好奇心が旺盛で新しいものに強く興味を惹かれたり、ジョーク好きだったりします。グラッサーは、良い人間関係を維持する最善の方法は学ぶ楽しみを共有することであり、笑いと学習は長期的な人間関係の基盤であると言っています。

【基本的欲求と人間関係】
冒頭で、各欲求の強弱バランスによってその人の行動や性格が決定されると書きましたが、その凹凸は人間関係にも大きく作用します。
グラッサーが行った学生向け講演会での興味深いエピソードがあります。講演会に出席した学生に、自分の両親それぞれの基本的欲求について5段階で想像して答えてもらい、またその両親の仲・不仲の状況についても答えさせました。それぞれの欲求の5段階の値が2異なると互いにかなり理解しづらい状況にあるという説明をした上で、無作為に学生の両親を選びその基本的欲求の値を画面に表示して、会場に「この夫婦の仲は良いか悪いか」を答えさせたところ、およそ95%の確率で当たっていたそうです。

例えば、夫婦間で生存の欲求の度合いが大きく異なっている場合、お金に対する感覚が異なるため家計やお金の使い方に関するトラブルになる可能性があります。
また、愛・所属欲求が強い男性と、自由の欲求が強く愛・所属が弱い女性がカップルになった場合、男性側にしてみると愛情が空振りしているように感じ、女性側からすると愛が重かったり束縛が強く感じたりするため、あまり長続きするようには思えません。

一方で力の欲求が強い人同士の場合、一見すると力がかち合って相性が悪そうに思えますが、お互いの目的や楽しみの欲求、愛・所属の欲求が合致してその力のベクトルが揃うと、強力なパートナーやチームになり得ると考えられます。

このように基本的欲求と人間関係は密接に関係しており、基本的欲求をある程度正確に測ることができれば、人と人やチームの相性をかなり正確に予測することができると私たちは考えています。

【環境と基本的欲求】
では、人間関係を円滑にするために、自分の基本的欲求の度合いを変えたりすることはできるのでしょうか。あるいは、基本的欲求は育った環境やいまの人間関係などに影響されて変動するようなものなのでしょうか。冒頭に書いた通り、グラッサーによれば基本的欲求とは遺伝子に紐づいており、変動しないものとして定義されています。つまり意図して欲求の度合いを強めたり弱めたりすることはできません。

しかし、私たちが欲求のテストを行うと、以前と強度が変わったと思われるケースがしばしば出てきます。これはなぜなのでしょうか。
これらを検討した結果、その欲求がどの程度満たされているのか、その満たされ具合によって欲求の程度が変化したように値に出るのではないかと想像しました。例えば、ある欲求が全く満たされていない場合、より強くそれを欲するようになり、逆に欲求が満たされている時には、さほど強い欲求として意識されなくなるために、それが数値に反映されたと考えられます。

【終わりに】
このように、基本的欲求は各々の性格や行動原理の根幹であり、これらの生まれながらに持つ強弱とその現在の満たされ具合を測ることで、その人の行動指針や人間関係についての予測や分析の一助になると私たちは考えています。

当研究所では、認知特性や認知機能の他にも、基本的欲求を中心とした分析やアセスメントを行うサービス、情報発信を計画しています。もし興味を持たれましたら、ぜひ研究所のWebサイトやTwitterにアクセスしてご覧いただけましたら幸いです。

 


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■ 連載:発達障害の凸凹、死角となりやすい二次障害とは?
             第5回 発達障害者に必要な助走と準備のプロセスとは?
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皆さん、こんにちは。
コミュニケーションの生き辛さを可能性に変える…イイトコサガシ・ワークショップを主催している発達障害当事者の冠地情(かんち じょう)です。
 
※イイトコサガシ・ワークショップ   
冠地情の発達障害プロフィール
※講談社から拙著(漫画)が出ていますので、よろしければご参照ください。

前回の話を簡単にまとめますと…
退化硬直している発達障害当事者は、
・ワークショップのハードルを下げても
・ルールを明確にしても、予告しても
・テーマを大好き、楽しい、ありがとうにしても
基本、参加したくないし、参加しにくいし、試す気持ちになりにくい、と。
「もっとハードルを下げてくれ、もっとルールを緩めてくれ、もっと自分に合わせてくれ、もっと自由に勝手にやらせてくれ…というかワークショップより居場所がよいです」
となりやすいということです。※1
※1
 
初期の私は講演会で繰り返し、発達障害とは発達「機会喪失」障害だと訴えておりましたが、活動14年目に突入した私はこう言い換えます。
発達「機会活用 動機脆弱」障害である、と。※2
※2

そしてこう付け加えます。
上記を放置して問題を先送りにしていると、建設的なコミュニケーションがどんどん難しくなり、エゴに支配されたコミュニケーションの人になりやすいよ、と。※3
※3 


再三の言葉となりますが、予防が第一です。※4
※4
 

大人になってからですと、対応はとても困難となります。
早急に思春期からの建設的コミュニケーション育成インフラの整備+退化硬直予防…その理解啓発が必要です。

※こちらが参考動画です…
あすぴれんとTV19「建設的コミュニケーションを退化硬直させてしまう人は罪深い?」

その1

その2

悔しいですが、ハッキリ結論を申し上げますと…
イイトコサガシ・ワークショップは生き辛さに通用しませんでした。
その前段階の育成と支援を充実させないと真価を発揮できない、ということです。
さて、ではどのような前段階が必要なのでしょう?
具体的に提案していこうと思います。

■自己紹介100種類プロジェクト

○ステップ1
イイトコサガシ・ワークショップを1000回以上試行錯誤してみて痛感していること、それは…発達障害者のコミュニケーション経験不足!
これに尽きます。
そもそも話さない(話したくない?)から引き出しが増えない、使わないから引き出しが減る(錆びる)、恥をかきたくないから更に話さない、という悪循環。
だからこそ、イイトコサガシ・ワークショップで
・何をどう話したらよいかわからない
・何をどう考えたらよいかもわからない
頭の中が真っ白になってしまう、あるいは失敗のイメージに支配されてしまう、と。
上記の生き辛さにおける私の気づきは、
『経験不足ということは、ネタ…たたき台が少ない』
でした。

たたき台があれば10のうちの6を使い、残りの4をその場、人に合わせてアレンジして話せます。
しかしたたき台がないと?
全てゼロから考えないと、構成しないといけません。
そしてその場合、どんなに頑張っても物凄く完成度の低い内容になりやすいです。
ということは?
あらかじめネタを仕込んでおけばよい!
そしてそれを算数の九九のように定型文を創って、練習して、記憶しておけばよい!
そうすればゼロから考える必要がなくなります、考える基準が明確となります。
更に言えば、一人で創る必要はありません。
理想は大学生の優しいお兄さん、お姉さんと一緒にわいわい楽しく創れれば最高です。
色々とアイディアを出してもらってもよいし、お兄さんたちの自己紹介をアレンジして創ってもOKですし、って考えるとかなりハードルが下がりませんか?
とりあえず完成させておけば後で修正もしやすいわけです。※5

※5

100個? 多すぎない?
と思う方がほとんどですが、大丈夫です。
大好きな趣味、食べ物、タレント、漫画etcで良いんです、まずは。
そして3年かけて創ってもよいくらいの気長なスパンで取り組む、と※6

※6
諦めてしまうより、トラウマになるより、格段にマシです。
(これがかったるい、という人はいきなりワークショップに参加、で良いわけです)

○ステップ2
自己紹介を発表できるようになったら、今度はそれに質問の要素を加えてみます。←「会話のキャッチボールの構造は単純※7

※7
自分の自己紹介に質問してもらう+他者の自己紹介に質問してみる、です。
これも優しいお兄さん、お姉さんと一緒に…質問と質問の答えを考える形が理想だと、私は思います。
そうすれば不確定要素をお兄さん、お姉さんが早めにシミュレーションしてくれますから。
(この質問だとこういう答えになっちゃうかもよ?とか、この答えだとこう思われちゃうかもよ?とか…事前に準備できる!)

バッチリ準備したうえでたくさん質問してもらい、たくさん質問に答える、という経験を積み重ねていけば、少なくとも興味関心の強いジャンルについては疑心暗鬼がかなり減るのでは? と私は思います。

○ステップ3
ここまで来れば後は応用編となります。
他者の自己紹介をアレンジすることを主目的にしたり…
(俺もサッカー好きだからAさんの自己紹介をアレンジできるな、等)
あえて自分の生き辛さを自己紹介してみたり…
(相談する時、助力を求める時、一緒に何かを企画する時、必須の内容です)
あえて自分の自己紹介に耳の痛い答え、批判をしてもらったり…
(本番前にモヤモヤしておくということ…また、内容がわかれば対策を立てることが可能となります)※8

※8
そして上記の内容を公的に記録しておけば、その人の状態がわかりやすく可視化構造化されます、共有しやすくなります。※9

※9 

・どれくらいの人数&時間、取り組んだか?
・どれくらいの自己紹介、質問を完成させたか?
例えばですが、あえて耳の痛い質問をされるなんて嫌だ!と言ってステップ3に取り組まない人は、そういう課題を持っている人ということです。
企業側からすれば仕事の中で耳の痛い内容を伝えるのが難しい人、という判断になると思いますが、それを本人が選んでいるということです。
※上記に関するYouTube番組(あすぴれんとTV)がありますので、よろしければご視聴ください。

■イイトコサガシ・オリエンテーション
安心安全な形で、イイトコサガシ・ワークショップに対する不安や不満、躊躇している理由を自由に話せる場を設定するということです。
ワークショップの中ですと、発表する&取り組むのが当たり前!
というプレッシャーが強すぎて正直なことを話しにくいため、あえて分離させる、と。
ポイントは、イイトコサガシのファシリテーターや参加経験者が半数いる状態で開催すること、です。

なぜならばこの企画の目的が、どうしたら参加しやすくなるか? どうしたら不安を緩和できるか? ダイバーシティ・スモールステップ(多様性に則した小刻み段階型支援プログラム)の模索にあるからです。
(参加しない権利を要求する企画ではないのです)※10

※10

参加を説得する必要はありません。
ただ参加が難しい理由がわからないと、こちらもフォローできないということを淡々と伝えてください。
参加経験者が参加してみて感じた正直な気持ちを話すことで、不安が減ることもあるでしょう。
すれ違いやすいルールの解釈についての助言があると、安心感が増えることでしょう。
そしてただ、ハードルを下げるのではなく、ルールを緩めるのではなく、歩み寄るのではなく、そこから少しずつステップアップしていくにはどうしたらよいか? という議論はとても有益な内容になるでしょう。

例えばイイトコサガシでは、
・個別のワークショップを提案したり
・30分毎に10分の休憩を提案したり
・ゲーム(スマホや漫画でも可)をしながらの参加を提案したり
・大好きなアニメや映画を視聴しながらそれを題材にするワークショップを提案したり
・大好きな人のインタビューを題材にするワークショップを提案したり
しています。

この話の肝は、
『ずっと上記はだめだよ…少しずつステップアップしていくことを約束してね』です。
例えばスマホを見ながらのワークショップは3回目まで有効で、4回目からはスマホなしで参加しようね、ということ。
そして上記も公的な記録に残す!
こういうざっくばらんな話を色々な人と何回もできる場があって、それでもワークショップに参加しない人は、フォローするのが難しい人、ということです。
オリエンテーションにすら参加しない人は、もっとフォローするのが難しい人、ということです。
※上記に関するYouTube番組(あすぴれんとTV)がありますので、よろしければご視聴ください。
ちなみに
・ゲーム(スマホや漫画でも可)をしながらの参加を提案
これを承諾した人は今のところ、ゼロです。
公的機関の提案、支援者・専門家の提案ならまた話は変わってくるでしょうが…
イイトコサガシ単独でハードルを下げても、ルールを緩めても効果はほとんどない、ということです。
やりたくない人は、やりたくないで押し切ろうとします。
だからこそ、やりたくないで押し切ったことを公的な記録に残す必要があるのです。
(やりたくないで押し切ったら、不参加を続けたら、立場がどんどん不利になるシステムを構築しない限り、押し切り得なのです)

次回は、どのような支援者・専門家が必要なのか? という命題を具体的に問題提起していきます。

冠地情(かんち じょう)
不登校・ひきこもり・いじめ・発達障害の四冠王だったと語る、イイトコサガシ代表。
全国各地でいいところを探し、互いに応援するワークショップ&講演会等を43都道府県で1000回以上開催、10000人以上が参加。
合言葉は「試した時点で大成功!」
NHK「ハートネットTV」「バリバラ」に出演。
嫌われる・孤立する・批判される勇気を武器に、文字通り生き辛さ界隈の異端児。
あすぴれんとテレビでYouTube番組「人間臭さTV」を放送。
東京都狛江市のラジオ局コマラジ・第四火曜日正午~13時のアフタヌーンナビにレギュラー出演。
東京都東久留米市のラジオ局くるめラ・第一火曜日18時~19時の超イイトコサガシ宣言でメインパーソナリティ。

 
■□ あとがき ■□--------------------------
本年最後のメルマガをお読みいただき、ありがとうございます。
次回メルマガ通算300号は、新年1月13日(金)に刊行します。
発達の困りに関する診断基準が新しくなっています。
その解説をする連載がスタートします。

ご愛読していただきましたこと、重ねて心より感謝申し上げます。
皆さま、どうかよいお歳をお迎えください。

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