幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作

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2021.12.03

幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作

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■  新連載:幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作
■□ 連載:「レッテルを貼らないで」愛華のものがたり
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
                   新連載:幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作
          第1回 親が貸し与えたスマホ、子供が好き勝手に使っていいの?
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〇当機構の紹介
こんにちは。私はI-ROI(アイ・ロイ)の事務局長をしております、久保谷政義と申します。I-ROIは、正式名称を「一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構」(Internet-Rating Observation Institute)と言います。2008年に設立されました。

当機構は、その名称からすると、インターネット上のコンテンツに不適切な表現が含まれていないかを審査したり監視したりしている存在で、堅苦しい団体というイメージを受けるかもしれません。もちろん、真面目な活動に従事している団体という意味で、そのイメージは半分くらいは当たってはいます。しかし、子供たちに対して、「ネットは危険だから使わないようにしよう」というような呼び掛けをしている団体というイメージを持たれた方がいたとしたら、それは少し違っています。

「ネットを使う上で、どのようなことに気を付ければいいか」とか、「ネット上で効果的な情報発信をするにはどうしたらよいか」とか、「ネット上の情報を効果的に生かしていくにはどうしたらよいか」といったように、「ネットを使う上で気を付けること」を一人ひとりが自分の頭で考えていくことが大切です。当機構は、このような教育・啓発・人材育成といったことも主な活動の柱に据えています。

〇当機構の取り組み
当機構は、子どもゆめ基金(独立行政法人国立青少年教育振興機構)の助成を受けて教材開発を行っていますが、これは、そうした教育・啓発・人材育成の一環として行っているものです。また、当機構の活動の特徴の一つとして、幼児から成人まで、幅広い年齢層に対してアプローチをしているという点が挙げられます。当機構は、これまで、2014年度から2020年度にかけて、子どもゆめ基金の助成を受けて4つの教材を開発してきました。その対象年齢は、最も低いもので幼児・児童向けで、最も高いもので高校生・大学生向けとなっています。

そして、これらの子どもゆめ基金の教材開発とは別に、独自に実施している人材育成事業として、デジタルコンテンツアセッサ資格制度(DCA: Digital Contents Assessor)があります。これは当機構が運営する民間資格ですが、一言で言えば、ICTのテクノロジー的知識を認定する資格というよりは、著作権やプライバシー保護といったようなコンプライアンスの側面に焦点を合わせた資格となっています。同時に、この資格は、子供というよりは、大人たちがインターネットを適切に活用していく場合に求められるコンピテンシー(知識や能力・態度)を認定しているところが特徴です。

今回紹介する教材は、「どうぶつの町でトラブルがおきた!」と題するもので、幼児・児童を対象年齢としたものですが、次回以降は高い年齢層を対象とした教材もご紹介していきますので、高い年齢層向けの教材にご関心のある方々には、次回以降の記事もご一読いただけると幸いです。

〇幼児・児童向け教材「どうぶつの町でトラブルがおきた!」
「どうぶつの町でトラブルがおきた! ~スマホやゲームの使い方、キミならどうする?~」は、当機構が開発した教材の中で最も低年齢向けのものであり、2017年度子どもゆめ基金教材開発・普及活動の助成金によって開発したものです。

※教材は下記でご覧ください。
【どうぶつの町でトラブルがおきた!】

※ご希望の方には教材を収録したDVDを無料で郵送します。下記フォームよりお申込みください。
(申し込みはこちら>>

この教材は、子供たちがスマートフォンやデジタル機器を普通に使う時代に「小さな子供向けの教材がない」ということで開発したものです。そして、子供が楽しみながら、何がやっていいことか、何をしてはいけないのか、どんなことが危ないのか、こうすれば安全なのね、などが体験的に学べるように作成しています。

この教材の特徴の一つは、子供たちが親しみやすい動物のキャラクターを登場させていることです。そして、メインのコンテンツは、以下の2つです。

・ドラマ教材「どうしてあぶないの?」
・シミュレーション教材「たいけんゲームをしよう」

教材に収録されているテーマには、「ゲーム依存」や「フィルタリング」、「個人情報」「過大消費※1」「コンタクト・リスク※2」「フィッシング※3」などが含まれています。おそらく、多くの人がこれらの内容を思い浮かべたことかと思います。

※1 過大消費 ネット通販や有料のネットサービスをついつい使いすぎてしまうこと
※2 コンタクトリスク ネットで出会った人と現実世界で接触することに伴うリスク
※3 フィッシング 巧妙な偽情報を用いて個人情報等を詐取する行為

そして、こうしたスタンダードとも言えるコンテンツのほか、この年齢の子供たちだからこそ意識してほしいコンテンツも収録しています。それは、ドラマ教材の中にある「かりていることをわすれないで」です。ここには、端的に言うと、「子供が親のスマホを借りてアニメを見ていたら、電話がかかってきてしまった・・さあ、どうする?」というドラマが収録されています。

低年齢向けの子供たちがスマホを使うことの問題の一つに、「子供専用のスマホではなく、親のスマホを使用している」ということが挙げられます。すなわち、子供専用のスマホであればフィルタリング・ソフトウェアがインストールされているでしょうが、親のスマホの場合、フィルタリングはインストールされていない状態となっています。本来は大人が使うことを前提している端末を、せがまれた親が子供に使わせてしまうというケースは、よく耳にします。

この問題は、なかなか難しい問題です。現代の日本では、共働き世帯が多く、子育て中の親御さんは多忙な生活をおくっています。「しばらくの間、子供におとなしくしてもらいたいという思いから、子供にスマホを与える」という行動をする親に対して、「そんなことはするべきではない!」と批判するのは、間違いではないかもしれません。しかし、一方では、そういった批判をするだけでは、問題が解決されないという現実もあります。

それでは、親にアプローチして解決されない問題があるのだとしたら、子供に対してアプローチすることで、たとえわずかであっても解決に向けて近づいていくことはできないのでしょうか?

この「かりていることをわすれないで」というコンテンツを通じて、子供たちに、「親のスマホは親の持ち物であって、自分が勝手気ままに使ってよいオモチャとは違う」ということと、「親のスマホを使っているときに、分からないことがあったら、すぐに親に聞くのが大切」ということを伝えることができればよいと考えています。

次回は、もう少し上の年齢向けの教材「インターネットを使いこなす6つのひけつ」をご紹介します。


◆久保谷 政義(くぼや まさよし)
I-ROI事務局長
1975年生まれ。東海大学大学院修了。博士(政治学)。
最近の論文として、久保谷政義・田辺亮「大学生のスマートフォンの利用状況とICT活用能力」『教育情報研究』35巻1号、2019年。
2013年より一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)事務局職員。2021年より同事務局長。
 

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 ■ 連載:ヤングケアラーたちのものがたり
                     第2回:「レッテルを貼らないで」愛華のものがたり―
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こんにちは。公認心理師・社会福祉士の美濃屋 裕子(みのや ゆうこ)と申します。若者支援の専門ソーシャルワーカー事務所SURVIVEの代表をしております。15歳から、30歳代までの若者の自立に向けて、あらゆる相談にのっています。

前回の「七海のものがたり」につづき、今回も、私が出会ったヤングケアラーたちについて、事実を元にした完全にフィクションのものがたり形式でお送りします。

◆ヤングケアラーは可哀想?当たり前?
 ヤングケアラーと聞いて、みなさんはどんなイメージを持ちますか?
大変、立派、可哀想、献身的、自己犠牲的、昔はよくあることだった……様々なイメージが浮かぶことかと思いますが、支援をする上では、一人ひとりの気持ちに寄り添って、本人の気持ちを尊重しながら進めていくことが大切です。

今回は、「孫介護」を行っている中学生の愛華(仮名)のものがたりを紹介します。

◆「レッテルを貼らないで」-愛華のものがたり―
望月愛華は高校受験を控えた中学3年生です。看護師をしている母と、母方祖母の3人暮らしです。昨年までは4歳年上の兄、蓮人(仮名)が一緒に住んでいましたが、この春から蓮人は他県の大学に進学するため一人暮らしを始めました。蓮人から「ばーちゃんの介護と家事が大変で、妹は受験勉強ができていないらしい。相談にのってやってもらえませんか」というメールを受けて、帰郷してきた蓮人の付き添いのもと、愛華と会うことになりました。

愛華は、ユーモアと茶目っ気があり、相手を楽しませることがとても上手な少女でした。
「うちのオババ(祖母のこと)はさ、待機児童ならぬ待機オババなんだよ~」要介護度3の祖母は特養への入居申請をしているのですが、もう半年も待たされているそうです。『待機オババ』というフレーズに思わずこちらも噴き出してしまいましたが、明るい口調とは裏腹に愛華の状況はハードなものでした。

4年前に両親が離婚してから、実父からは養育費含め一切の支援なく愛華たちは暮らしていました。看護師として主任を務める母はそれなりの収入があるものの、大変な多忙で、家にいる時間は限られています。気が強く口の立つ祖母は、伯父たちの妻と折り合いが悪いこともあり、介護を担っているのは同居している愛華親子のみ。『オババの隔世遺伝』と言われるくらいおしゃべり好き同士の愛華と祖母は気が合っており、祖母の世話は愛華が一手に担っています。
「ママもマジで気が強いから、オババとは喧嘩ばかりでさ。愛華じゃないとオババは世話されるのを嫌がるんだ」 と愛華は、少し誇らしそうに話します。「オババのマシンガントークの相手をするのは平気なんだけど、夜起こされるのは正直しんどいなぁ」足が悪く、認知症の症状もある祖母は、常時の見守りと、トイレや入浴の介助が必要です。夜、祖母のトイレのたびに、愛華は何度も起こされているようです。

状況を整理すると、愛華は、放課後、認知症デイサービスから祖母が帰ってくる前に、買い物を済ませて夕食を準備し、帰宅してきた祖母に食事をとらせ、夜間は祖母のトイレ介助をおこなっているようです。蓮人が一緒に暮らしていたころは、二人で家事と祖母の世話を分担していたようですが、この春からそのすべてを愛華一人で担っており、キャパシティオーバーになっているようです。受験勉強はタブレットを利用した通信教育を隙間時間にするのが精いっぱい。寝不足で、授業中に寝てしまうこともあり、内申点も低迷するばかりだとか。

「このままだと、ヤバいんだよね~」と話す愛華の口調は極めて明るいまま。愛華はそんな状況をどう思っているのかなと訊きました。
「なんかね~・・・・・ビミョウ。別に行きたい高校があるわけじゃないし、勉強嫌いだし。愛華はオババの世話、嫌じゃないんだよね。キツいけど。愛華が世話をやめて、みんなが困るくらいなら、愛華ががんばりたい。やりがい?っていうとなんか違うけど、家族だしね。あ、でも、他人から家族だからがんばれみたいなことを言われたらムカつくな。立派とか可哀想とか言われるのも気持ち悪い。勝手に立派にしたり、可哀想にすんなって感じ。“同情するなら休みくれ”だよ~」 元ネタわかる?といたずらっ子のように目くばせをして、愛華はニコっと笑います。

ヤングケアラーには自分の将来よりも、家族の現在が大事だと考えている場合が少なくありません。その背景には、自分の将来を考える余裕がない状況もあるでしょうし、家族のことを理由に自分の課題に向き合うこと避けているという場合もあります。そして、ケアラーとしてのアイデンティティにプライドや自負心を持っていることも。愛華の言葉や表情からはそのいずれも当てはまる印象を受けました。

「そっか。たださ、オババもママも蓮人も、愛華の人生を家族のために犠牲にするようなことにはなってほしくないと思ってるんじゃない?家族に残念な想いをさせるのは、愛華も本意じゃないよね。学校とか受験とか、愛華の人生のことは、愛華にしかできないからさ。愛華がそれをこなしつつ、オババや家族をサポートする方法を考えさせてよ。ママやオババのケアマネージャーさんと話し合ってもいい?」
私の提案に、最初は「大げさだよ~」と戸惑っていた愛華でしたが、兄の蓮人からの強い促しもあり、母親らと話すことを承諾してくれました。

しかし、幕切れはあっけない形でやってきました。私と、母親、ケアマネージャーが3人で話し合う予定だった、その3日前、祖母は突然帰らぬ人となりました。家族が朝起こそうとしたところ、穏やかな顔で息を引き取っておられたそうです。
喪失感とショックで、愛華は1週間ほど学校を休んでいたようですが、今は元気に学校に通っています。
愛華の母親は、私の助言を受けて、愛華の受験まで食事や食材の宅配サービスを利用して、受験勉強に専念しやすい環境を作ってくれました。勉強は嫌いといいつつも、もともと頭の回転が速い愛華は、成績が少しずつ伸びてきているそうです。

「オババに、愛華の高校の制服を見せてあげたかった。オババってば、愛華の成人式の振袖も準備するんだとか言ってたくせにさぁ。
……オババがしんじゃったから、嫌いな勉強をするしかなくなっちゃったじゃないか~オババめ~化けて出てやる~、じゃなかった、化けて出てきたら、文句言ってやる~」
久々に会った愛華は、おどけてそんな風に話しました。みんなに心配をかけたくない、気持ちよく楽しく過ごしてほしい。愛華は健気なまでにそんな気持ちが伝わってくる子でした。

ふと、祖母が存命であったなら、どんな支援をすることできただろうか、どんなふうに進めただろうか、と考えます。

ヤングケアラーの負担を減らすことは大切ですが、本人の意思や意向を無視して、ケアを一方的に“取り上げる”ようなことをしてはならないんじゃないか、と考えるきっかけになったケースでした。

◆美濃屋 裕子(みのや ゆうこ)
1982年生まれ。臨床心理学科卒業後、民間企業へ就職。
その後、紆余曲折を経て児童福祉業界へ。15歳以降の“若者”世代への支援の手薄さに危機感を感じ、若者支援専門のソーシャルワーカー事務所SURVIVEを設立。同代表。
高校スクールソーシャルワーカー、公的機関の外国人教育相談のケース会議アドバイザー等を兼任。


■□ あとがき ■□--------------------------
次号は年内最後のメルマガ、12月17日(金)に刊行予定です。

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