特別支援教育のための教材

MAILMAGAZINE
メルマガ情報

2021.04.19

特別支援教育のための教材

----TOPIC----------------------------------------------------------------------------------------
■   まえがき
■□  新連載:子どもゆめ基金のデジタル教材「特別支援教育のための教材」
■□■ 連載:「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、だれもが気軽に協力し合える「エンパワー・プロジェクト」
---------------------------------------------------------------------------------------------------

■□ まえがき ■□--------------------------
子どもゆめ基金のデジタル教材第4弾の連載がスタートします。特別支援教育に関わる専門家たちが協力して、現場のニーズに対応する教材を実現しようと取り組んでおられます。これまでにたくさんのデジタル教材を開発し、提供しています。


───────────────────────────────────…‥・ 
 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材「特別支援教育のための教材」
                          第1回 すぐに使える!プリント+ビデオクリップ
───────────────────────────────────…‥・
1.はじめに

IT時代と言われるようになって数十年たちますが、私たち特別支援教育デザイン研究会では「IT」を「ICT」と言います。InformationとTechnologyの間に必ずCommunicationが必要だからです。教育や学習も同じで、ネット環境や機器類を導入してもその中に人が介入しなければ成り立たないのではないでしょうか。

教育の情報化元年であった1998年、学校ではパソコンの使い方や操作教育が行われていました。しかし、特別支援教育デザイン研究会のメンバーや私は、恵まれない地域にICT環境を整え、地域の学習コンテンツを開発しました。それは、授業の中で先生がちょっと使いし、わからなかったことをわかるようにするためのものでした。子どもたちに向かい合うのは教員や保護者で、その人たちに役立つ教材が必要だと考えたからです。

様々な教材開発を行う中で、パソコンで聞く音や色、動きのあるマルチメディア機能を特別支援教育に使えないか、と考えました。そこで、結成されたのが、特別支援教育デザイン研究会です。当時、東京学芸大学の上野一彦教授を会長に、同大学の小池敏英教授、大阪大学の前迫孝憲教授、イーココロ協議会の伊原和夫理事長など特別支援教育、教育工学、インタフェース研究などの学識経験者やICTの専門家、学校教員が集まり、2005年度の子どもゆめ基金の教材開発・普及活動に参加しました。私も結成時より共同開発者として加わり、毎年1本ずつ、13本の教材を作り全て無料で配信しています。

2.1日6万件のアクセスがあるWEB教材「すぐに使える!プリント+ビデオクリップ」

今回ご紹介する教材は、13本の教材の中で一番人気のある教材です。2013年に子どもゆめ基金の助成を受けて開発し、その後、利用者の方々から意見をいただき少しずつ改良も加えています。

※すぐに使える!プリント+ビデオクリップ

この教材は、国語、算数、生活(ソーシャル・スキル)に役立ちます。それぞれに、プリント、WEBコンテンツ、ビデオクリップ、ドキュメント、イラストなどの素材から構成されています。プリント教材は、PDFファイルをダウンロードして「すぐに使える!」ものから、フォーマットにイラストや文字を入れて自分で作れる「可変プリント」があります。WEBコンテンツはFlash技術で作成したもので、残念ながら昨年12月末でFlashプレイヤーのサポートが終了しました。こちらは多くの利用者からの声もあり作り直すことも検討しています。

また、素材は、子どもたちが好きなオートバイや新幹線などの「乗り物」や、ウサギやハムスターなどの「動物」など自然に近い優しいタッチで描かれたイラストや、計算に使えるお金イラスト、感情表現に使える表情イラストなど当研究会で作画したものを数多く集めました。教材作成にご利用いただけると思います。

3.人気の教材 "ベスト5"

★★★★★ベスト1
絵文字カード「拗音(ようおん)ひらがな」

拗音:(小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」)のつく単語と絵のカードです。「きゃ、きゅ、きょ」から「ぎゃ、ぎゅ、ぎょ」までそろっています。ひらがなの文字と音は一対一対応が基本ですが、そうでないものを「特殊音節」といいます。特殊音節には「拗音」「促音」「長音」「撥音(はつおん)」の4つとその組み合わせがあります。

・拗音:ねじれる音「きゃ、きゅ、きょ」
・促音:つまる音「っ」
・長音:のばす音「おとうさんの"う"」
・撥音:「ん」

学習障がいを持つ子どもの中には、ひらがなの読み書きでは、一対一対応でない特殊音節のつまずきがよく見られます。特に拗音はにがての子が多いようです。音韻に注意を向け音と文字の対応関係のルールを知ることはとても大切です。教材には、使い方や指導方法、アセスメントも入っていますので、子どもに合わせて教材を選んで使ってください。



★★★★ベスト2
声のものさし

聴力が弱い子どもや声の大きさが適した場所や場面で使えていない子どもには「声のものさし表」をおすすめします。大きな声を「ゾウさんの声」、小さな声を「アリさんの声」、声の大きさを5段階にした「声のものさし」ポスターです。いつも見えるところに貼っておき、声の出し方が適していない時にポスターを指差したり、「アリさんの声で話そうネ!」と声をかけましょう。



★★★ベスト3
お金計算ドリル「36マス計算」

ゲーム感覚で足し算のトレーニングが行えます。1、5、10、50、100、500円までの硬貨を使った36マス計算の練習問題です。計算のトレーニングになりますが、買い物が苦手な子どもたちのお金に慣れるトレーニングにもなります。レベルに合わせた「お金マス計算」を選んでください。10まで、100まで、1000までの桁でくくり、マス目の数を増やしていくとレベルアップにつながります。また、計算時間を決めて短くすることで難易度も上がります。グループで競争したり楽しみながら計算のトレーニングをしましょう。




★★ベスト4
気持ちの理解「15の表情絵」

顔の表情や仕草を絵に表したポスターです。相手の気持ちを理解することが難しいことのひとつに、表情の読み取りが苦手なことがあげられます。15の気持ちの表情や仕草の絵を見て、変化や違いに注意を向けるようにしましょう。また、「超ムカつく」や「モヤモヤする」など自分の気持ちの言葉を入れて表情と合わせてみてください。気持ちの温度計もありますので、程度を測り感情をコントロールすることに役立ててください。


 
★ベスト5
一日の生活絵カード

生活場面を描いた絵カードです。一日の見通しが立てられず不安を感じる子どもたちに役立ちます。子どもと一緒に絵を見て、朝起きたらまず何をするのかを考えましょう。「歯をみがく」「洋服を着替える」「朝食を食べる」など生活場面の絵カードで、子どもと一緒に生活の見通しを立てましょう。計画を立てると、子どもたちの不安も取り除くことができると思います。時間を書くことができる小さなカードもありますので、順番に貼っておき、できたものから裏返しにするなど「できた感」があるとより楽しくなると思います。

 

◆笹田 能美(Yoshimi Sasada)
大阪大学大学院前期博士課程修了(教育工学)
特別支援教育デザイン研究会 共同開発者 株式会社イングラムジャパン代表
先進的教育情報環境整備推進協議会 主席研究員
国際ボランティア学会会員
母子健康手帳データ化推進協議会委員
国際ビジネスデザイン専門学校メディアデザイン講師
明治図書『特別支援教育の実践情報』連載中
教材のユニバーサルデザインを専門とし、教材デザイナーと言う分野の確立を目指す。


───────────────────────────────────…‥・ 
 ■ 連載:SDGsとは未来を変える目標、一人ひとりにできることとは?
                     第3回 「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、だれもが気軽に協力し合える「エンパワー・プロジェクト」
───────────────────────────────────…‥・
SDGsということばを聞いたことのある人はたくさんいるでしょう。
でも、SDGsの本質について本当にわかっている人はどのくらいいるでしょうか?
4月に、中学生から読める書籍『10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること』※を発行する予定です。その書籍の著者として、その本に書かれているSDGsについて、ダイジェスト版でお伝えしていきたいと思います。

※書籍 

SDGsを達成するために、「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、企業や行政、学生も含めて、たくさんの活動が行われています。

今回は、東大生が始めた活動についてお知らせします。

〇プロジェクトが生まれた経緯と「エンパワー・プロジェクト」について

「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、だれもが気軽に協力し合えるようになるため、「エンパワー・プロジェクト」を立ち上げたのが、東京大学の学生たちです。まず、代表である飯山智史さんにそのきっかけや経緯、目的などを聞いてみました。

飯山さんは、大学1年生の時に「国連とインクルージョン」という授業を受け、そこでフォーカスされていた、精神障害のある人のアクセシビリティ(利用しやすさ)について考えました。

精神障害は、見た目にはわかりづらい障害で、どういったことが必要とされているかもわかりにくいという特徴があります。さらに、社会には差別や偏見があります。インフラの不十分さもあり、これまで有効な施策が少ないように思われます。

そんな中で、精神障害のある人のアクセスセキュリティを上げるにはどういう施策がいいかをその時、みんなで考えました。その時期に、飯山さんが出会ったのが、「障害の社会モデル」※という考え方です。

※編者注 21年1月15日号からの飯野由里子さんの連載を参照ください。

それ以前は、車椅子に乗っている人など体や心に不自由のある人が障害者であるという風に考えていました。ところが2006年に障害者権利条約ができました。ここで、障害の考え方が社会モデルに変わったのです。

車椅子に乗っている人でも、スロープやエレベーターがあれば、行きたいところに行け、やりたいことができます。すると、それは別に障害者ではなく、ただ車椅子に乗っているという状態になります。環境や社会が変わることで障害によって行動などが制限されなくなれば障害者ではなくなるのです。

飯野さんは次のように語ります。「精神障害者は、それぞれニーズが違います。そこをどうしたらいいのかを、授業の後1年間かけて担当教員である(本の監修者でもある)井筒先生や仲間と話しました。その結果、まわりの人がやさしくなるのがよいと思うに至りました。困った時に協力してくれる人が周囲にいればよいのではないか、そう考えたのです」

飯山さんに取材をした筆者自身、生まれつきの股関節障害で杖をついて歩いています。世の中のバリアについてのありさまが痛いほどよくわかります。
そして、人の心もまた、バリアフリーにはなっていないことに気づきます。杖をついた人や妊婦さんを目の前にして、電車では座席に座る人が多いです。他方、車内の遠くからでもわざわざ座ってくださいと声をかけてくれる人もいらっしゃいます。本来なら、優先座席など特別につくらなくても、健康な人が困っている人を見かけ席を譲る社会になれば、障害はその人の持っている特徴となるはずです。

飯山さんたちは人にやさしくするという当たり前のことをさらに広めるためにはどうすればいいのか。そして考えついたのが、この協力者カミングアウトシステム「エンパワー・プロジェクト」※だったのです。

※編者注 パラサポWEBの紹介記事 

今までも、マタニティマークや、ヘルプマークなどの協力を促すしくみはありました。しかし、そもそもつらい思いをしている側が、自分の状況を表明しなきゃいけないのはどうなのか、という考え方ができるのではないでしょうか?

飯山さんたちが考えた協力者がマークをつけるというシステムはとても画期的なもので、世界からも注目されています。

次回からは、「誰一人取り残さない社会」の実現のために、行政や企業などがどんなことを行っているかについてお伝えします。

◆原 佐知子
フリー編集者・ライター 
 障害福祉や教育関係の書籍や雑誌、進学情報誌等の編集や取材・ライティングを行う。また、執筆だけでなく、コミュニケーションや発達障害についてのセミナーやワークショップ講師としても活動中。
全国手をつなぐ育成会機関誌『手をつなぐ』では、映画や本、舞台の評を不定期に連載中。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』などがある。
2021年3月、平凡社より「発達障害のおはなしシリーズ3巻」を、大月書店より「10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること」上梓予定


■□ あとがき ■□--------------------------

次号は4月23日(金)です。

メルマガ登録はこちら

本文からさがす

テーマからさがす

全ての記事を表示する

執筆者及び専門家

©LEDEX Corporation All Rights Reserved.