わが子と妻のための親心遺言(おやごころゆいごん)

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2020.10.02

わが子と妻のための親心遺言(おやごころゆいごん)

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■   連載:子どもの生活と実行機能わが子と妻のための親心遺言(おやごころゆいごん)
■□  連載:当事者と保護者の訴えが理解されるまで
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 ■ 連載:専門用語を使わない!!
                     16歳~19歳未成年の障がいのある子の親なきあとの「お金」の話
                      ~親として「行動」したこと、「サキヨミ」すべきこと~
                    第5回 わが子と妻のための親心遺言(おやごころゆいごん)
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今回の連載では、子どもが未成年のうちだからこそできる親なきあとの準備についてお話ししています。毎回お伝えしているように、民法改正により2022年4月から18歳で成人となります。16歳~19歳の障がいのあるお子さんのご家族には、特に知っていただきたい内容です。

今回は、連載の第5回として、わが子と妻のための「親心遺言」についてお話します。

うちの娘のことは私より家内が一番よくわかっていますし、娘を守ることができます。私たちは、娘には豊かで幸せな人生を送ってほしいと思っています。でも、人は必ず死にます。それも、どんな順番に死ぬかわかりません。

私は、娘に豊かな人生を送ってほしいと願っています。私がいなくなってから、娘のためにお金を使ってくれる人がそばにいることが娘にとって幸せで豊かな人生だと考えました。

私たち夫婦のどちらか残ったほうが娘の財産管理をすることが良いのですが、そこには法定後見が立ちはだかります。今のシステムでは、70%を超える確率で第三者の専門家が法定後見人になってしまいます。私がいなくなった場合、何も考えず、何も手を打たなければ家内が法定後見人になれる確率は低いのです。

そこで、親権のあるうちに(娘が成人する前に)任意後見契約を結ぶのが一番よいと考えて、周囲の専門家に相談し、親権を使った私たち夫婦それぞれが娘と契約するたすき掛けの契約「親心後見(おやごころこうけん)」を締結しました。この話は前回に詳しくお伝えしました。

次のステップとして、夫婦のどちらかが亡くなった時の財産の残し方の準備をしようと思いました。

現状、生命保険の受取人はすべて家内にしています。娘にお金を残せば残すほど、家内が後見人になれる確率が低くなるという現状があるためです。生命保険は、私の死亡時は家内に、家内の死亡時は私に保険金が払われるようになっています。生き残ったほうの親が娘のためにお金を持ち、使える状態が娘のためになると考えたのです。

しかし生命保険でコントロールできるのは現預金だけです。現金以外、不動産や株などほかの財産がある場合、それを娘のために残すにはどうすればよいかと考えたときに実践すべきと考えたのが「遺言」です。

最初は、そもそも遺言が必要なのかと思っていましたが、調べるうちに遺言が必ず必要だという結論にたどり着きました。私は遺言を作成して、家内に全部の財産を相続させるようにしました。この考え方を「親心遺言」と名付けました。それは、娘の幸せのためでもあります。

そしてその遺言がきちんと執行されるために、遺言執行者を指定しました。何十年も先、その遺言を実行してくれる人を指定するのです。

遺言執行者にはどういう人がなるべきか、それは、「死なない、ボケない、つぶれにくい人」にお願いすべきと思います。 個人はいつ死んでしまうかわかりません。また認知症になってしまうこともあります。そこで適切な法人に託すのが良いと考えました。

最後の「つぶれにくい」ということも重要で、つぶれにくい適切な法人を遺言執行者にすることが必要です。信頼できる人が運営している、財務体質の強固な法人を遺言執行者にすべきと考えます。

今回の私の親心遺言のポイントは下記の3つです。

1.全部家内に相続させる
2.遺言執行者を決めておく
3.予備的遺言をつくる

3の予備的遺言とは、私が死んだとき、考えたくないことではありますが、娘も家内も死亡していなくなってしまった時を想定したものです。家族がおらず、きょうだいがいる場合、相続人はきょうだいとなります。私には兄がいるので、妻と娘に先立たれてしまった場合、私の相続人は兄となります。しかし私は兄に財産を残すことは考えていません。家族三人がみんな死亡してしまった場合、全財産をある団体に寄付したいと思いました。「遺贈寄付」といいます。財産をすべてお金に換えて、指定した団体に寄付してくださいと託しています。

加えて4つ目の仕掛けとして、後見監督人へのメッセージをしたためました。
私が死んだとき、家内と娘との間の「親心後見」が発動されたときのために、後見監督人へのメッセージを書き残しました。「付言事項」といって法的には有効ではないかもしれませんが、父としての想いを未だ見ぬ後見監督人に伝えたいと考えました。

これら4つを実行される仕掛けを今から施しておかないといけないのです。それが親心遺言です。今18歳19歳のお子さんのいらっしゃる親御さんには、親心後見や親心遺言を「親権」のあるうちに検討することをお勧めします。

親心後見や親心遺言については、まだ全国的に実施件数が少なく、まだまだ取り組み始めたばかりの新しい「親なき後」対策の選択肢のひとつです。注意点やリスクについてもご説明いたします。詳しく知りたい方は私の本を読んでいただくか、個別にご相談ください。

◆鹿内 幸四朗



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 ■ 連載:北海道のある中学校で、タブレット端末の使用許可を得るまで
                     第3回 許可を得たその後・・・当事者と保護者の訴えが理解されるまで
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自分のタブレット端末の許可を得て、ようやく入学準備が完了したと思っていた。
学校長と教頭、担任の先生と保護者との確認が、入学式前日に行われた。
すでに、そこで認識のズレは起きていた。
「息子さんは、診断名があるのだからタブレット端末を使って当然いいですよ」と校長の一言。私は「えっ!診断名がないと個人のタブレット端末って使えないの?」と衝撃を受けた。

弁護士を立てた時の中学校の校長と入学時の中学校校長は、人事異動により人が変わっていた。入学後の校長は十勝教育局で義務教育指導監督官という立場であったようだが、このような立場の方でさえも、本人のタブレット端末を使用の判断基準を診断名でするのだ、と感じた。

さて、その後は2か月に1度、十勝教育局特別支援スーパーバイザーと学校管理職、担任、特別支援コーディネーターと保護者の話し合いをしていた。しかし、全く書字障害の理解がない学校側と教育局の方々は「息子さんは書字障害があっても、名前や住所を書くことはこれから必要ですから、30字以上になる回答の時にだけ、タブレット端末での回答を認める」という何とも馬鹿にされたような判断をされた。教育局のスーパーバイザーもこの判断に、何の疑問も抱かず、結局、書字に関しての配慮は30字~40字程度の記述回答が求められた時にしか、受けられなかった。どんなに、保護者が視知覚認知の困難さの体験をする機会を、前述の方々にしてもらっても、理解されることは全くなかった。その間、彼は必死に書き続けた。

これでは、すでにクレーマーの保護者になっている。と感じ、私はさらなる決断をした。
次は、弁護士を立てるのではなく、経済的な負担は大きいが、一か八かの賭けでDO-IT Japan 特別聴講生に応募をして参加することを本人に勧めてみた。もちろん、参加費や宿泊費は自己負担であるため、北海道から東京に行くとなると、十勝からだと数十万はかかる。しかし、私は、息子に、全国の仲間や先輩、そして、日本の研究者の方々に出会い、繋がることができたら、彼の応援団が大きくなり、私はクレーマーではなくなり、親子共々、今よりこの地域で生きやすくなるのではないか。と考え、本人も希望したため、応募をした。

結果は、一次選考を通過、二次選考はオンラインで面接をし、その後、奇蹟的に合格通知が届いた。2019年特別聴講生としての権利を獲得できたのである。

喜んでいたのも束の間、問題は起きた。
中学校生活での初めての夏休み。
夏休みが始まる4日前に、国語、数学、理科、社会、英語の各教科のワークで、指定されたページをこなす、という宿題範囲が出た。漢字の練習ページや数学は計算問題と応用問題を手書きで解くことであったり、社会科だと地理と歴史のキーワードを答えたり、思考を表現する問題である。英語は教科書にそった文法問題を解く等、様々なことを手書きで行わなければならなかった。
それも、25日間でこなせる量を、各教科担当が出しているため、実際に生徒が手で書く分量は、数十ページになる。
その他に芸術体育系の宿題でも、プリントに記載をする宿題も出ていた。ワークやプリントに直接手で記入することは、息子にとって書くスペースが狭く、文字が整わないため、枠からはみ出し、息子自身でも何を書いているのか、分からない状態に陥っていた。学校の学習を何とか理解することだけで精一杯の状態の息子とっては、最悪な夏休みの宿題であり、地獄の状態であった。

息子は翌日、「宿題をデータで欲しい」と教頭に伝えたが、結果は「こんな3日前に言われても無理」という回答で終わってしまった。私は呆れてしまったが、本人も全て宿題をしなければ提出物の点数が引かれるため、内容は理解していなくても、必死に宿題の手書きをしていた。保護者から見ていると、それは課題の内容を理解しているレベルではなく、ただ、書くことに必死で、手汗をかきながら、何度も書き直している状態であった。そんな姿を、私は今でもはっきり覚えている。母親として一番無力感を感じた瞬間でもあった。

北海道の夏休みは25日間と短い。その中で東京大学先端技術センターでの特別聴講生の講習参加があったため、必死で宿題を終わらして、DO-ITのプログラム参加に集中出来るような体制を整えた。

プログラム参加後、全国の様々な仲間と研究者の方、大学関係者の方と出会い、刺激を受けた。そこで知ったことを、息子なりに学校の担任教員に伝え、自分の困難さを伝えようとした。しかし、やはり伝わらず、理解されず、挙句の果てには、合わない指導方法を試され、心が折れそうになっていた。

そんな時、DO-ITのスタッフの方や仲間にメールで相談し、支えていただいた。
北海道十勝では読み書き、計算の困難さを知るための検査は、十勝教育局専門家チームでは出来なかった。家庭で出来る検査も、十勝教育局専門家チームでは出来なかった。そのため、教育局から「ウラウスやSTARW-R(読み書き、計算の検査)は札幌の特別支援教育相談センターに行かないと分析が出来ない」との一点張り。

私は、こんなに学習障害と世の中で言われ、注目されてきているのに、十勝から札幌に行かなければ検査ができないなんて、覚悟と時間と経済的余裕が保護者にはないといけないのかと感じた。さらには、本当に教育局は専門家なのか?と疑問と不信が沸いた。

そんな状態が続いた中、中学校と東京大学先端科学技術研究センター(略して先端研)のスタッフが電話で繋がることができた。学校で読み書きの困難さの検査をして、分析は、DO-IT特別聴講生ということで、先端研でしていただけることになった。息子は、東大の先生が分析をしてくれるのであれば、もちろん検査を受けると前向きだった。

中一の年度末に検査結果は届いた。本人の訴え通りの結果だった。
書字のスピードは学年よりはるかに下回り、視知覚認知に困難さがあった。さらには、本人は、耳で聞いた方が(理解が)楽な時がある。と言っていたが、この部分も、きちんと解説されていた。

保護者として、結果を見た時には、正直、頭でわかっていても可視化されるのはショックであった。しかし、息子は結果をみて冷静な一言。
「だから、僕、言ってたじゃないか。書くことが難しいって。僕の言っていた通りじゃないか」と・・・。

その後、2020年の5月末に、十勝教育局スーパーバイザーと、町教育委員会、学校管理職、学校コーディネーター、保護者、本人、応援団として先端研のスタッフの方がオンラインで会議に参加していただき、本人の思いや要望を記載した資料を作成することができた。
ようやく学校側から情報がデータで提供されたり、提出物をデータで出したりすることができるなど、環境が徐々に整い始めた。

保護者としては、読み書きの困難さを本人が伝えていたにも関わらず、中学校1年間の成績は同じスタートラインに立てないままの状態で内申点がつけられてしまったことに対して、憤りを感じた。今も1年間の学習の理解を取り戻すのに必死である。

出会う教育行政関係者、学校管理職と教員の指導力で大きく差が出る小学校、中学校生活。
このような苦労が、他の保護者や子ども達に二度と起きないことを願っている。

◆大久保 育美
2児の母親。現在は、息子と娘の学習環境を整えることが仕事。
看護師・保健師・養護教諭2種免許をもっている。
文部科学省の指定事業を受けていた高校で支援員として勤務していた経験がある。
ロストジェネレーションという年代で生きてきているので、医療現場、保健分野、教育分野で勤務していた。


■□ あとがき ■□-------------------------- 
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