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● 連載:先進諸外国のプログラミング教育と日本の課題
● 連載:キャリアアップ創出プロジェクトの2年目を終えて
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● 連載:プログラミング教育への期待(最終回)
第5回 先進諸外国のプログラミング教育と日本の課題
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プログラミング教育への期待というテーマで連載してきたこのシリーズもいよいよ最終回である。2020年から始まる次期学習指導要領で、小学校の学習内容としてプログラミング教育が初めて開始されるが、プログラミング教育自体は何も今に始まったものではない。コンピュータが世に出た1950年代から、コンピュータに目的の仕事をさせるためのソフトウェア開発に不可欠のものとしてITの専門家なら誰しもがその知識や技術を習得したのだ。
大学時代に工学部で制御工学を専攻した筆者も、コンピュータと付き合うために0と1のコードが並ぶマシン語からアセンブラー、FORTRAN、C言語と様々な言語を勉強したものだ。ITの専門家にとっては必須の道具であったのだ。しかし、この情報社会にあって、そしてIoTやAIが様々に働く次の未来社会にあって、必ずしもITの専門家になるわけでもない国民皆が学ぶ必須の学習内容としてプログラミング教育が位置づけられた。
その背景については既に述べたが、IoTやAIなどが駆使された便利な「魔法の箱」が私達の生活や社会を支える未来社会にあって、便利な魔法の箱をブラックボックスとしてただ受け入れていいのかという問題だ。便利な魔法の箱を作るのも人、使うのも人。何も専門家と同じように理解できなくても、その仕組みについて発達段階に応じて多少なりとも理解しておくことが必要だという考えからきている。国民の科学リテラシーとして、「魔法の箱」を少しでもクリアーにする知識を持つことが健全な未来社会の構築につながるとの考えだ。また、プログラミングという行為には、分析、構造化、論理的思考、評価など様々な問題解決に必要な思考力や創造力が求められ、これからの時代にとって、そのような能力が汎用的能力として期待されるのである。その意味で、プログラミングが小学校段階で、必修の学習内容として位置づけられた点は大いに評価したいが、現実には、算数や理科など限られた教科での体験的な学習となっていることにはいささか問題を感じる。
プログラミング教育への期待は、何も日本だけではなく、英国、フランス、エストニア、オーストラリア、韓国、シンガポール、ロシア、ハンガリー、インド、台湾など、科学技術教育に力を入れている先進諸外国では日本よりも早く始められてきている。ここでは、これらの内容をいくつか紹介し、日本のプログラミング教育の課題や可能性を展望したい。
1.英国のプログラミング教育
英国では、もともと小学校段階から高等学校段階まで、コンピュータに関する系統的学習としてICTという教科があった。その内容が2014年から「Computing」という教科となり、より体系的なコンピュータ教育が導入されたのだ。この教科「Computing」の内容は大きく分けて次の3つから構成されている。1つは、コンピュータの仕組みについて理解し、「Computational Thinking」 について学ぶ、コンピュータ科学。2つは、コンピュータやインターネットなどの情報通信技術を効果的に使う情報技術。3つは、情報技術を安全に自信を持って使う態度を育てるデジタルリテラシーだ。
日本の情報教育についてご存知の方は既におわかりかと思うが、これらの内容は「情報の科学的理解」「情報活用の実践力」「情報社会に参画する態度」を育てる情報教育の目標と全く一致する内容である。ただ、日本の場合は、情報教育の充実が、文部科学省の教育の情報化ビジョンや教育の情報化に関する手引き、学習指導要領総則などで謳われているが、教科としての位置づけがない。積極的に推進している地域や学校がある一方、なかなか進んでいないところもあるなど、情報格差、教育格差問題として深刻になってきているのである。
さて、本題のプログラミング教育に戻ろう。英国では、上述したように教科「Computing」の中で、情報科学として小学校から高等学校までプログラミングが体系的に学習されている。英国の教育内容は、小学校段階を、Keyステージ1と2、中学校段階をKeyステージ3、高等学校段階をKeyステージ4というように発達段階に応じて学習内容が定められている。Computingに関しても、CS:情報科学、IT:情報技術、DL:デジタルリテラシーの内容ごとに、各Keyステージでの学習目標が定められている。特に、プログラミングに関わる内容を、キーステージごとに簡単に紹介しておこう。
Keyステージ1:
・アルゴリズムとは何か?ロボットなどを使って、目的の行動をさせるために、明確で正確な手順が必要なことを学ぶ。
・簡単なプログラム作りとデバッグを学ぶ。
・簡単なプログラム作りを通して、問題解決のための論理的推論を学ぶ。
Keyステージ2:
・問題解決のための分析や構造化を学び、身近なシステムの制御やシミュレーションのためのプログラムづくりを通して、プログラミングの設計や創造的力を育てる。
・入力と出力の関係、順次処理、条件選択、繰り返しなど、プログラミングの基礎を学ぶ。
・アルゴリズムやプログラム作りを通して、どんな手順で問題が解決されるか、ミスがどこにあるかなど論理的推論能力を育てる。
Keyステージ3:
・現実の問題解決のためのシステムモデルを設計・評価する能力を育てる。
・プログラミングの基本技能であるソートや検索技法を学ぶと同時に、同じ問題を解决する多様なアルゴリズムについて比較し考える。
・2つ以上のプログラム言語を学ぶと同時に、プログラム開発のためのデータ構造や、モジュール、関数などについて学ぶ。
Keyステージ4は、これまでのステージで学んできたことをより深く学習する内容で、それは、高校終了後就職する生徒にとっても、また大学へ進学する生徒にとっても重要な科目として位置づいている。
この点では、日本でも高等学校で、教科「情報」が普通教科で必修科目になっている。将来、コンピュータ関連の専門分野を勉強したいという生徒のみならず、就職も含めどのような分野に進もうとも、これからの情報社会を生きるすべての生徒に必要な知識や技術として学ぶということになっているのだ。
ただ、日本との大きな違いは、入試制度の違いだ。ご存知のかたも多いと思いますが、英国の大学では、入試は、高校卒業資格試験(GCSE)と、各大学がその専門性に対応して課す個別試験とを総合して評価・選別される。このGCSEはほとんどの教科にあり、その点数が評価基準に達していないと大学への進学も難しいので、生徒は高校での各教科の学習に力が入っている。プログラミングを含めコンピュータに関するGCSEとして情報科学が設置されている。ついでにいうと、大学への進学を志す英国の高校3年生(シックス・フォームと言う)は、自分が進みたい大学の専攻に関連した科目を中心に限られた科目を勉強し、関連の内容について卒業論文のようなレポートをまとめる。このレポートも入学試験の評価にされる。このような教育システムなので、大学へ入る目的が明確で、入学後の学習意欲も高い。大学の入試科目にないと、その科目を勉強しない高校生、大学へ入ることが目標になって、入学後目標が見えない日本の大学生を見ていると、日本も入試改革を早急に進めないと世界に遅れを取ってしまうと心配するのは筆者だけではあるまい。
さて、この連載の最初に、プログラミング的思考についての私見を述べさせていただいたが、その際、コンピュータ的思考という言葉を用いた。これは、紹介した英国のComputational Thinkingのことだ。コンピュータの機能や働きを理解し、プログラミングを通してコンピュータを使った問題解決を図る能力を育てること。それが情報社会、いや情報社会のあとに来るIoTやAIが活躍するSociety 5.0と言われる未来社会を生きる上で不可欠の能力なのだ。だから英国のみならず世界の先進諸外国では、その教育に力を入れてきているのだ。
英国のプログラミング教育の紹介の最後に、プログラミング教育を通してどのような能力が育成されるかまとめておこう。
プログラミングという行為には、予測と分析、アルゴリズム、構造化、パターン化、捨象化、評価などを行う能力が求められる。実際には、試行錯誤する様々な体験、考え作らせる創造的活動、誤りを見つけるデバッグ作業、やり遂げる活動、協働作業などの活動を通して、そのような能力を未来に生きる児童生徒に育成しようとするのだ。
ここで、プログラミングということで、教科Computingを中心に紹介したが、実は筆者が英国の教育で評価するもう一つの教科「デザインと 技術」がある。この教科も小学校から高等学校までを通した教科で、ものづくりに必要な充実した工作道具や機械が学校設備として備えられているのだ。木材加工や金属加工を通してものを製作、製作したものにコンピュータなどのシステムを加え、まさに情報社会の様々なシステムを実モデルの製作を通して学ぶ教育が行われているのである。
※簡単なプログラミングロボットでプログラミングの基礎を学習する小学生
(画像はこちら>>)
2.オーストラリアのプログラミング教育
オーストラリアでのプログラミング教育やSTEAM教育についても紹介しておきたい。英国と同様、オーストラリアでは、2014年から下の写真にあるような3次元カリキュラムのもと、すべての国民に情報社会やその後の未来社会に生きる知識や技術の教育を行っている。教科横断的優先事項として、アボリジニの歴史や文化、オーストラリアとアジアの結びつき、持続可能な学習の3要素があり、7つの汎用的能力として、読み書き能力、計算能力、ICT活用能力、批判的及び創造的思考力、自己理解と社会的適応力、異文化理解能力、倫理と道徳が挙げられ、各教科としては、国語、数学、理科、歴史、地理、経済・ビジネス、公民・公民権、美術、保健体育、外国語、デザインと技術、デジタル技術の12の学習分野が構成されている。ここで、日本で言う21世紀型スキルに相当する能力をオーストラリアでは汎用的スキルと呼んでいる。
※オーストラリアの3次元カリキュラム (画像はこちら>>)
プログラミングにかかわる内容としては、デザインと技術、デジタル技術の2科目が教科として位置づけられているのだ。ここでは、単に技術を教えるのではなく、現代社会を支える技術がS:Science、T:Technology、E:Engineering、M:Mathematicsなどの様々な教科の基礎知識や技術から作り上げられているということを理解するよう、STEM教育というコンセプトのもと教科横断的授業が実施されている。最近では、STEMにArtを取り入れ、STEAM教育と言う場合があったり、EをEngineeringではなく、Enterprise(事業)に置き換え、より社会的意義を明確にする学校などもある。
クイーンズランド州では、この科目に関しては、教師の指導力向上と児童・生徒の興味関心や学習意欲向上に向け、GoogleとYouTube Kidsとのパートナー契約のもと、写真に示すようなデモカーで、クイーンズランド州内15,000Kmを走行し、小学校を巡回して、Create Queensland Regional Roadshowという一日のワークショップを実施している。4ヶ月で65の小学校で実施。今後全900校で実施するとのこと。科学技術教育振興に国をあげて取り組んでいるのだ。
※STEAM教育を啓発するワークショップカー (画像はこちら>>)
また英国同様、中高等学校レベルでのものづくりに関する学校の施設設備も素晴らしい。州立の中高一貫校のものづくりの設備を写真に示す。日本では工業高校でこのような施設を見ることはあっても、普通科高校で見ることはまずない。
※普通科の中高等学校に設備されたものづくり環境・1 (画像はこちら>>)
※普通科の中高等学校に設備されたものづくり環境・2 (画像はこちら>>)
デザインと技術の授業では、ゲームアプリケーション、ソフトウェア、ロボット開発にも力が入れられている。自動ロボットやAI、データマイニングなどの授業も展開され、この分野での国際競争に勝ち抜く力を持つ生徒を育てることが目標だという。
STEAMの「E」は「Engineering」ではなく「Enterprise」の「E」として社会に直結した教育を実践している学校もあり、それらの学校では、生徒が自由にものづくりに取り組めるMakerspaceが設置されている。問題解決学習の一環として、授業で学んだ知識や技術を駆使して、社会に役立つシステムづくりに取り組み、国際コンテストに出展したり、企業に自らの作品を売り込んだりすることもあるという。
※社会に役立つシステムづくりに取り組む生徒・1 (画像はこちら>>)
※社会に役立つシステムづくりに取り組む生徒・2 (画像はこちら>>)
日本でも学校の教室に、学習活動に関する目標や行動規範が掲示されていることが多いが、オーストラリアでは多くの学校で、以下の写真のような掲示が見られる。キャッチフレーズ、「I Do, You Do, We Do」は、日本での主体的・対話的で深い学びを実現するアクティブ・ラーニングの考え方を実践するフレーズである。まず、自分自身がしっかり見て、聞いて学び、次に、学んだことを互いに教え合い、最後に、協働学習としての課題解決を図るのだ。国を挙げて、これからの時代に求められる能力育成に向けたアクティブ・ラーニングに取り組む姿勢が見て取れる。日本も次期学習指導要領では、アクティブ・ラーニングが強く打ち出されている。日本の学校でも、このような掲示が掲げられる日が来るかもしれない。
※教室に掲げられているアクティブ・ラーニングを進めるキャッチフレーズ
(画像はこちら>>)
(画像はこちら>>)
(画像はこちら>>)
3.日本のプログラミング教育の課題と展望
いよいよ日本でも小学校からのプログラミング教育が始まる。期待と同時に不安や課題も多い。筆者はこの3年ほど、このプログラミング教育をどのように行えばいいか、実践的な指導法の研修を数多く行ってきた。そこに参加した先生方の9割は、何をどう指導すればいいのか不安がいっぱい。プログラムの経験のない教師にとっては当然である。と同時に、コンピュータが難しいものという先入観が先に立ってしまう。筆者は教師のための講座だけではなく、子どもたちのための楽しいプログラミング教室も毎年主催してきている。ここに参加する子供たちは、実に簡単にプログラムでロボットを動かしたり、システムづくりを楽しく行っている。デジタル世代の子どもたちにとって、プログラミングは勉強であると同時に遊び感覚だ。遊び感覚で魔法の箱の仕組みを考え、新たなシステムを創造できる楽しい学習活動なのだ。
※プログラミング教育の研修をする教師・1 (画像はこちら>>)
※プログラミング教育の研修をする教師・2 (画像はこちら>>)
ただ、先進諸外国の例で見ていただいたように、日本のプログラミング教育は教科としての位置づけはなく、いくつかの教科や総合的な学習活動での学びである。教科の中での僅かな時間のプログラミング体験で、単に画面上に絵を描いたり、音を出すだけでは、なかなか魔法の箱を解き明かす知識や技術を習得するのは難しい。IoT社会がそうなってきているように、ロボットやインターフェースを使った実システムづくりが必要だ。その意味では、日本のプログラミング教育はまだまだ点であって、線や面への展開といった系統的な学習が期待できない。その点では、教科の中でしっかりとした位置づけのもと、体系的に学ぶ先進諸外国とは大きな開きがあり、国民の科学リテラシーや将来のIT人材育成という面では問題だ。
また、学習指導要領が求めるアクティブ・ラーニングの視点から見ても、学習した成果をいかに社会のために活かすか、望ましい未来社会を構築するにはどうすればいいか、社会との関わりを考えたプログラミング教育は、まさに問題解決学習のいい課題になりうる。個々の教科の限られた時間ではなく、総合的な学習の時間をうまく活用し、教科での学びと総合での学習を教科横断的に組み合わせるカリキュラムマネージメントが大いに求められる。
更に、これらの学習は学校だけで閉じるものではない。学校で野球やサッカーに興味を持った子どもたちは、地域のサッカークラブや野球クラブでその力を伸ばす。プログラミングについても、学校の限られた時間から、地域のICTクラブなどで大いにその才能を伸ばそうという試みが総務省では始まっている。そのための指導者として地域人材の育成研修も始まっている。
プログラミングはSTEAMなど様々な教科で学んだ知識や技術を総合する問題解決学習だ。未来社会は間違いなく、IoTやAIが身近に溢れる社会だ。より良い未来社会を作り出していくために、課題も多いが可能性を信じて皆で努力したいものだ。
山西潤一
(富山大学名誉教授、ICT教育アドバイザー)
 
● 連載:発達障害のある人のキャリアアップについて(最終回)
第4回 キャリアアップ創出プロジェクトの2年目を終えて
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2017年の1月にスタートした「発達障害のある人のキャリアアップ創出プロジェクト」は就業中の方のステップアップ、キャリアアップしたいという気持ちに応えたいと、発達障害の就労に関わる有志ではじめたプロジェクト(キリン福祉財団計画事業)です。
プロジェクトは、ビジネスの様々な場面で必要な「言葉にする力」、そしてビジネスを行っていくベースとなる知識として「仕事をする力」を学び、そして発達障害のある人が能力を発揮していくために必要な「考え抜く力」を身に着ける構成となっています。
※プロジェクトの全体像 (画像はこちら>>)
参加者の多くは知的レベルは高いものの、幼少期、学生時代において自身の障害特性により周囲との関係性が築けず、社会人になっても、精神疾患を患って長期入院をしたり、職場でのいじめやリストラにより離職したり、様々な社会的困難を経験しています。また、高機能であるがために、当事者会※1があわないと話すなど、一匹狼的な人が多い印象を持ちます。
※1 編者注 当事者会:同じ困りを持った人が集まって、情報を共有したり、対処方法考えたりするグループ
一方で、知的好奇心が旺盛で、実際に様々な資格を取得したり、働きながら学校に通ったりと学ぶ意欲はとてもあります。しかしながら、資格や知識を仕事に活かせないという現実もあり、経験不足や障害特性がひとつの原因になっているように感じます。
このプロジェクトの1年目は、働くうえでの基本情報につながる知識の取得と自身のことを様々なフレームワークを使って言語化するトレーニングを行います。
※ビジネススキル基礎講座の構成 (画像はこちら>>)
※「自分のこと」をビジネス手法で言葉にする (画像はこちら>>)
講座は10回シリーズで毎月実施しており、初回と最終回ではそれぞれプレゼンの機会があり、その他にも事前に出された課題に対して、グループワーク形式での発表(任意)があります。グループワークの進め方、まとめ方、役割など、決め事は設けず、メンバーの自主性に基づいて「考え」「判断し」「決定する」実践の機会にもしています。
※講座スケジュール (詳細はこちら>>)
先週の土曜日には、一期生の1年目の最終回がありましたが、そこではメンバーによるまとめ発表が行われました。発表は、自己紹介、参加動機、プロジェクトで学んだこと・印象に残ったこと、その理由、参加による変化や成果、今後の課題や抱負、という流れです。自身の特性に応じた資料やプレゼン方法でバラエティーに富んだ内容となり、退屈することなく一年間の成果を感じる機会となりました。
■主な発表内容
(1)障害者雇用の仕組みや実態を知ることができた
企業人事や障害者雇用に精通している方々の話は、雇う側、支援する側、それぞれの立場で豊富な事例に基づいた話であったので、「こういう特性の人が、このような職場環境の下、このような配慮を受けながら、このような職種で活躍している」という『障害者雇用の「リアル」』を知る機会になったとのことです。またインターネットや本では分からなかった情報であり、自分の特性に合わせた職種、合理的配慮を深く考えるキッカケになり、障害者枠で働くということの理解がすすみ、前向きに考えられるようになったと参加者は話します。現在の職場で将来に対する不安を抱え転職するか悩んでいたメンバーが、実際に障害者雇用でキャリアチェンジにつながった人もいます。
(2)フレームワークを学んだ
発達障害のある方は情報の整理が苦手、頭の中で思考が渦巻いて、まとまらない、話し出すととまらない、等、の傾向があります。それが、フレームワークを学んで、効率よく思考を整理できるようになった、自分のことを様々なフレームワークで言語化することで自分理解が進んだ、深まった、そして自己理解が進んだことで自分を肯定できるようになったと、のコメントが多くありました。
(3)『仲間』と学んだ、 『仲間』から学んだ
毎回のグループワーク=アウトプットを通じての学びと、他のプロジェクトメンバーから得た、大きな刺激があったようです。発達障害といっても、特性も仕事上の悩みも十人十色だけど、頑張って働いているという仲間の存在、そして前向きに進もうとする姿勢の中で一緒に行うワークには、そうだよね、という共感、この人はそう考えて対処しているんだという気づき、自分もそうしてみようという学びがあったと話します。いろんな役割を担う中で失敗しても肯定してくれる安心感で、発表に自信をもつようになったとのことです。
また、1年を通して仕事の中でいろんな変化があったようです。例えば、苦手なことに積極的に挑戦して、自分に自信が持てるようになった、前むきな言葉で自分を表現できるようになってきた、「しなければいけない」→「~したい」ネガティブな思考が起きることがなくなった、と。生活に対しても、生活に対するマネジメント力が高まり、QOLが向上した、仕事、家事、子育て、介護と並行して、研修会に参加することで、自分のキャパシティやリソース(資源)に自信を持った、等でした。
メンバー全員が前向きに活力を持って前進したというわけではありませんが、その人なりのスモールステップは築けたのではと思います。
■プロジェクトを通じてわかったこと
昨年のゼロ期生、今年の一期生を通じて、参加者に見られた変化で共通するのは、自己効力感の高まりでした。
今後の課題として、学んだことを仕事に実践していくことを挙げ、今はあくまで通過点であると発言した人が多く、目標を持って先を意識して歩み始めていることを感じました。次の目標を立てたり、資格取得にチャレンジしたり、同じような悩みを持つ人たちの居場所づくりを始めるなど、将来に向けてその人なりの行動変容がありました。
今年からグループワークを毎回取り入れましたが、「発達障害=グループワークは苦手」というわけではなく、拙い発言や話が迷走しても周囲が温かく受けいれてくれる(肯定してくれる)状況では、職場では見せない表情や積極的な発言や行動をするということです。
また、場面緘黙や言葉が出にくいASDの人は、話す内容を付箋に書くというスタイルをとることが、多弁な傾向のあるADHDの人とのワークには有効でした。その人の特性を活かしたコミュニケーション方法を見つけることが、対人関係を良好にする一助となります。
プロジェクトを補完する意味合いで月に2回MANABIYAカフェという学びのある居場所を開催していますが、ここでは興味関心のある専門的な話題提供や思考力をフルに働かせる議論を行っており、知的好奇心を激しく揺さぶられると毎回多くの方が参加されます。
これらの学びにもあるように、プロジェクト全体を通じて、日ごろ知る・学ぶ機会のない質の高い情報提供が知的好奇心の高まりとともに、学習意欲やモチベーションのアップにつながったようです。
発表会で印象に残った言葉を紹介します。
「来月から、新しい職場での仕事が始まる、今までとは全く異なる職場環境で、不安もある。しかし、障害をオープンにしたうえで、自分が最も得意なスキルを活かせる職場で働きたい、と主体的に選んだことと、プロジェクトを通じて、相談する「場」と「仲間」ができたことで、前向きにチャレンジできると信じている」と。
発達障害のある人は、人とのコミュニケーションが苦手だからといって、1人であることを望んでいるわけでもなく、共感できる仲間は必要であることが再確認できました。
このキャリアアップ創出プロジェクトでは、さまざまな学びや実践を通じて自身で道を切り開く力を得ることを狙いとしていますが、2年目を終えてその意義や役割が明確になったと感じます。
■最後に
定型発達の人が中心の企業社会の中で、発達障害のある人がキャリアアップを目指すというのは、とてもチャレンジングなことだと思います。
しかしながら、日々、彼ら、彼女たちと接する中で、その苦労や苦悩と向き合い、試行錯誤を繰り返している姿を見ると、いつか多くの方が活躍するときが来ることを確信します。
参加者の一人がこのプロジェクトを「教室で勉強している小鳥が、一回り成長して帰ってきて、そこで羽を休めて、新しいことを学んでまた外に飛んでいく」と表してくれました。
自分の強さや弱さに向き合い、自身を鼓舞して前向きに生きようとしている人たちを応援し、疲れた時はいつでも戻って来られるような居場所として、このプロジェクトはキャリアアップしたいと願う人の巣箱であり学び舎でありたいと思っています。
そして、ここから巣立っていく人たちの足跡が、後に続く人たちの道標になっていくことを願っています
2月16日に二年目の報告会を予定しています。ご関心、ご興味ある方はどうぞご参加ください。
(詳細はこちら>>)
榎本哲
(つむぐびとプロジェクト主宰)
※発達障害のある人のキャリアアップ創出プロジェクト (詳細はこちら>>)
※「働く発達障害の人のキャリアアップに必要な50のこと」(弘文堂)
(詳細はこちら>>)
 
● あとがき
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2月13日(水)14日(木)は、障害者自立支援機器シーズニーズ・マッチング交流会が東京で開催されます。編者もブースで説明をしておりますので、関心を持たれた方は来訪くださればうれしいです。
※公益財団法人テクノエイド協会 (詳細はこちら>>)
これまでのメルマガで紹介した写真の中に、お子さんの鮮明な顔が出ていた、と心配の問い合わせをいただきました。顔の表情を見ていただくことがその実践の効果を示していると考え、ぼかしを入れないで掲載することについて、ご本人と保護者の了解を得ておりますので、心配なされませんようお願いします。
次回メルマガは、2月8日(金)です。新しい連載が2つスタートします。著者は阿部利彦・星槎大学大学院准教授と、簗田明教・視覚発達支援センター所長です。ご期待ください。										
									
									
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