聴覚情報処理障害(APD)が生じるメカニズム

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2018.04.06

聴覚情報処理障害(APD)が生じるメカニズム

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■ 連載:聴覚情報処理障害(APD)が生じるメカニズム
■ 連載:気になる行動の捉え方:親心をはぐくむ
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─■ 連載:聞こえているのに聞き取れない、分からないって?
第2回 聴覚情報処理障害(APD)が生じるメカニズム
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聴力は正常、すなわち聞こえているにも関わらず、聞き取りにくさを訴えるという聴覚情報処理障害(APD)。第1回目では、APD症状を抱える方について具体的にお話ししました。では、これはどのような原因によって生じているのでしょうか?

ASHA(American Speech-Language-Hearing Association (ASHA), 2005)によると、何らかの中枢神経システムの障害が関与しているとしています。中枢神経システムの障害、といってもいろいろと考えられるため、そのいくつかについて具体的に説明していきたいと思います。

まず初めに、頭部外傷、脳梗塞などの脳の器質的な障害があげられます。両側の聴覚に関わる脳の一部に障害を受けると、全くことばが分からなくなること(聴覚失認)があります。一方で、片方の聴覚に関わる脳の一部だけに障害を受けると、APDの症状がみられることがあります。すなわち、静かなところでの聞き取りは良いのですが、例えば左右の耳に違うことばが入ってくるような特殊な聞き取り環境になると、聞き取りにくくなります。このような聞き取りの特徴は、雑音が多い環境で聞きにくいという症状につながってきます。しかしながら、聴覚に関係した脳だけが限定的に障害を受けることは少なく、その他の要因がAPD症状に関係している場合がほとんどといえます。

その他の要因のひとつに、中耳炎があります。幼児期に中耳炎に長期間かかり、それが治った後も同様な聞き取りにくさが続く、というものです。国内外でそのような報告がわずかながらみられますが、どの程度の期間、中耳炎にかかることが、その後の聞き取りに影響するのかについてはまだ分かっていません。

そして睡眠障害。睡眠と聞き取り、というのは関係のないように感じるかもしれませんが、睡眠不足は「聞く」、という基本的な態度に影響します。睡眠不足であると、日中の思考力が働きにくくなり、物事への集中力に影響します。特に話に集中することが難しくなり、聞いている途中で睡魔に襲われ、話の理解が断片的となります。このような特性がある場合には、睡眠障害の治療を受けることが必要になります。

次に、最も多いのが発達障害傾向です。既に幼児期から診断を受けている方もいれば、そのような特性はあっても診断には至らなかった、という方もいらっしゃいます。
自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などの発達障害傾向がある場合には、症状のひとつとして、聞き取りにくさを示すことがあります。例えば、自閉スペクトラム症の場合には、他者の意図を理解する、様々な情報をまとめる、大事な情報に目を向ける、などが難しいといわれています。「聞く」という面で考えてみると、声のイントネーションなどから話し手の感情を感じ取ることができない、話の中で大事な意図を汲み取れない、などが生じることになります。また、雑音の中では不要な雑音と必要な声の情報を区別しにくいので、聞き取りにくい、話が分からないという症状につながります。

そして、発達障害の診断には該当しないものの、注意する力や覚える力が人よりも弱い場合には、APD症状がみられることになります。「聞く」という行動を成立させる上では、話のひとつひとつに注意する、内容を理解して保持しながら次の話を聞く、というように様々な認知的な能力が必要になります。このため、注意力や記憶力などの認知的な能力のひとつでも弱さがある場合には、最終的に「聞き取れない」「分からない」という症状に結びつくことになります。このような認知的な能力のアンバランスが聞き取りに影響している、という方が多数みられます。

以上のように様々な要因が考えられ、ここにさらに心理的な要因と聞き取り環境という2つの要因が加わることで、ご本人が感じる聞き取りにくさは悪化したり、軽減したりします。

心理的な要因とは、その人自身の性格や気持ちの持ち方、などです。物事に対して神経質でこだわりが強い方に比べて、穏やかで楽観的な方は、「聞き取りにくい」という症状があってもあまり考え込まず、その症状を受け入れる可能性があります。一方で、神経質でこだわりが強い場合には、聞き取れないことで生じた失敗を強く心に残し、自分の聞き取りにくさについて悩むことになります。また、何か別の事で不安やストレスがあった場合には、その悩みが更に膨らむことになるでしょう。このため、心理的な要因の程度によって、ご本人が感じる聞き取りにくさの程度は変わってくると思われます。

そして、聞き取り環境についても症状は変化することになります。静かな環境で働いている場合には自身の聞き取りにくさを実感しにくいですが、雑音の多い環境で正確に聞くことを求められるような職場においては、聞き取りにくさを日々実感することになり、聞き取りにくさで失敗するごとに、自責の念を感じることになります。

以上のようにAPD症状は様々な要因が絡み合って生じていることが分かります。このため、単に「聞き取りにくい」といっても、どのようなメカニズムによって生じているのかについては、ひとりひとり見極めなくてはなりません。そこで次の回では、そのような症状があった場合にどうすればよいか?について説明したいと思います。

小渕千絵・国際医療福祉大学保健医療学部言語聴覚学科准教授

 

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─■ 連載:気になる行動の捉え方
第4回 親心をはぐくむ
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前回までの行動から考える対応(関わり)を実際には、ペアレントトレーニングや教育相談で子どもの行動から具体的にどう対応するか、どのタイミングでどんな声をかけるのかなど一緒に考えています。

例えば、ペアレントトレーニングであれば二週間に一度、半年の間、小集団で行動を考えていきます。教育相談に至っては、月に一度、その時々の抱えている問題や子どもの様子から対応を考えていきます。いずれも、一緒に考え対応する親御さんがどういった事ならできるのかを見極めながら進めています。正直、こういった子育てのHow toを読んでご自身だけでできる方はそう多くないと思っています。今までの例をお話しすると、多い方なら毎週お会いして、一週間の出来事をお話しいただき、その中で親御さんの好ましいくないと思う行動や好ましいと思う行動、我が子の行動がどうなってほしいのかを具体的に言葉にしていただき、そのために必要なもの、どんな言葉かけや環境が適切か考えるという時間を半年続けていきます。そこから二週間に一度になり、一か月に一度、二か月に一度と徐々に親御さん自身で子どもの行動を客観的に見て判断し対応できるようになっていきました。

行動から分かることや本人の特性から対応策を考えたとしても、その対応を行うのは親御さんです。上手くできないこともあれば、やる気をなくすこともあります。上手くできなかったことにひどく落ち込む方もいれば、諦めてしまう方もいます。子どもたちと同じように親御さんもまた個々に特性(個性)がありますから、必ずしもうまくいくとは限らないのです、そう理解していてもHow toがあるとかえってできなかった自分に自信を失くすこともあります。「できなくてもいい」「落ち込んだっていいんですよ」と誰かに言ってもらうことで気持ちを保てる方もいます。親御さんの個性にあわせてできることの妥協点をみつけていくことで徐々に自信をつけていきます。

我が子に戸惑いながら、オロオロしたり失敗したりすることを恐れずに、目の前の子どもと向き合いながら手探りで歩んでいくと自然に『親心』が育ちます。何度もくじけては起き上がっていると、やがて心がしなやかになり、自信の力で歩んでいくことができます。
これは、大人も子どもも同じです。でも、それには誰かが必要なこともあるのです。
自分一人で頑張ろうとせず、ひとりじゃないと思えることが大切ですね。

また今回は、いただいたご質問、ご相談より行動(言動)を考えてみたいと思います。

〇質問
「カードを引き、お題に書かれた運動(お尻で自分の名前を書く、いもむしごろごろをする等)を行ったり、お題にかかれた場面でどんな行動をとるのが適切かを考えて発表させたりしています(休憩が終わるチャイムがなったらどうする?、朝寝坊しないためにはどうする?等)。そういった際に、できない子や、やりたくない子、わからない子に対してどのような対応をすれば良いのでしょうか。また、その対応をする際に、周りの子はどうすればよいのでしょうか。

やりたくないものや分からないものをやらせるべきではないと思いますし、場合によってはパニックになってしまいます。
しかし「やりたくない」という理由であれば、駄々をこねれば回避できると学習してしまうかもしれません。
あるいは、やりたくないのではなく、障害や発達レベルによって、そもそもできないものやわからないものもあるのかもしれません。
しかし、簡単にする、免除する等をしてしまうと、周りの子が「ずるい!」となる場合もあります。

〇回答
このような場合に限らず、まず『何を目的とした課題なのか』を明確にすることが大切です。この運動表現に「参加すること自体が目的」という場合もあります。あるいは「ゲームを楽しむこと」「理解すること」「場面の対応を考えること」といった目的もあります。例えば理解することが目的ならば、友達がやっているのを見て理解することでも目的は達成できます。『観て参加』もOK、見ているうちに楽しいものであれば、やりたくなるでしょう。

『できない』という言葉に、何ができないのかを考えてみる必要があります。やり方が分からないからできない、やったことがあって上手くできなかった経験からできない等、一つとってみても様々な要因が考えられます。行動分析でいえば、『できない』『やらない』という行動の『先行刺激(要因)』になります。

以前にも書いたようにまずは、先行刺激となる要因を考えてみてください。一人だけやらないのは周囲に悪い影響を与えるというのなら、その要因を分かりやすく周囲に伝えると良いと思います。例えば、「やり方がよくわからないから初めは見ててもらおう」など、また周囲に投げかけてもいいですね。「みんなの前で声を出すのが恥ずかしいみたい、みんなは恥ずかしい時どうしてる?」など問いかけると、お互いに理解し合えるチャンスにもなりますね。

柳下記子
視覚発達支援センター 学習支援室「グッドイナフ」室長

 

─■ あとがき
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今回、柳下さんが読者からの質問に答えるコーナーを設けました。質問がまだほとんど来ていませんので、過去に困った経験のある方は、それについて編集部宛にご質問くだされば、柳下さんにお答えいただきます。採用された方には薄謝(QUOカード2,000円分)を進呈いたしますので、どしどしご連絡ください。

次回のメルマガは、4月20日(金)を予定しています。

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