成人期、壮年期の生活課題/発達障害のある人の就労

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2016.11.18

成人期、壮年期の生活課題/発達障害のある人の就労

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■ 連載:発達障害当事者が社会参加するために/発達障害のある人の就労
■ 連載:認知テスト/知能検査で何が分かるか(2)
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──■ 連載:成人期、壮年期の発達障害の生活課題を考える
~はたらくことを中心に~
第3回 発達障害のある人の就労
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筆者はさまざまな障害のある人の就職支援に従事して約14年になります。障害者雇用の最前線で多くの発達障害のある人たちの就職を見守ってきた経験から、障害者雇用枠での就職活動と障害者雇用の移り変わりをお伝えします。

1.障害者雇用について
日本では「障害者の雇用促進等に関する法律」に基づき、従業員数50名以上の企業では2.0%の雇用義務(つまり、50名以上の企業では障害のある従業員を1名以上雇用すること)が求められています。これまでの障害者雇用の実情はというと、身体障害、知的障害、精神障害のうちどの障害のある人を雇用しても障害者雇用率の算定となりますが、障害者雇用枠の中での採用は身体障害の人を中心に長らく進んできました。身体障害の人は周囲がどのような配慮をすればよいか理解しやすい(見てわかる)ことから、採用されやすい状況にありました。

2.発達障害のある人の就労状況
10数年前から医療、福祉、教育の分野では発達障害が知られ、理解が進み、特性への適切な対応が広がってきました。しかし、企業などの職場では発達障害という言葉を聞いたことがあっても、内容についてはよくわからないという実情で、発達障害への理解はまだ進んでいませんでした。発達障害の人が企業に応募しても理解の不足から採用には至らず、何度も面談を重ねても受け入れ実績がないので採用に結びつかないという状況が続いていました。

それがこの数年来、発達障害のある人の就職件数が顕著に増加してきました。それは、少しずつ発達障害への理解が広がってきたこともありますが、障害者雇用率の引き上げと、採用したい障害者人材の不足で、採用する対象を身体障害者から知的障害者、精神障害者へと対象を広げ、その過程で、発達障害のある人の真面目さ、集中して仕事に取り組むところなどが注目されるようになってきたからだと思います。

3.特別支援学校で企業実習を経験して就職へ
発達障害者の雇用は当初、特例子会社(障害者の雇用に特別に配慮し、一定の要件を満たしたうえで厚生労働大臣の認可を受け、障害者雇用率の算定において親会社の一事業所と見なされる子会社)で急速に進んでいきました。療育手帳を持つ人で就業技術科のある特別支援学校へ進んだ人は職業訓練と何回かの企業実習を経験し、障害者雇用枠で特例子会社などに就職します。就業技術科の卒業生の就職率は非常に高く、90%台後半から100%という驚異的な数字も記録しています。それ以外の特別支援学校の卒業生の就職率は就業技術科の卒業生の就職率にははるかに及ばず、就職先が決まらなかった生徒は就労移行支援機関を利用して就労を目指します。

4.発達障害のある人が大勢働く職場
その後、一般の企業でも発達障害のある人たちに注目し、発達障害に特化して数十名単位で採用する企業が出現しました。主にパソコンを駆使して業務を行うことになりますが、そのような大勢の発達障害のある社員を雇用する職場では、彼らが安心して業務に取り組むために、進め方等でわからないことがあればすぐに質問できるよう、社員5~7名に1名の支援員を配置しています。そのような安心して就業できる環境で、類まれなる集中力で活躍する社員も増えています。

5.一般就労か障害者雇用枠か
どちらの枠で応募するかは究極の決断です。筆者のところに相談に見えるのは知的能力の高い発達障害の人が多いですが、就職活動を開始した時点では、まず一般枠での採用に応募します。多くの相談者は筆記試験に合格するも面接で不合格になったという経験を持っています。若者の労働力が期待されながらも、新卒採用では即戦力を求められることが多く、コミュニケーションに苦手さを持つ人であれば、グループディスカッションなどの選考を通過するのは至難の技です。

不合格通知が続き、よい結果が出ないため、障害者雇用枠での応募に切り替える人が多くなってきています。「障害者手帳を取る、取らない」、「一般就労か障害者雇用枠か」、どちらも究極の決断ですが、特性への理解と欲しい配慮を得たいかどうかが決断の決め手になると思います。

6.一般企業での採用
一般就労経験があり、成人になってから発達障害と診断された人は、自分の特性を理解し、対応策がわかるようになると、障害者雇用枠で続々と就職していきます。正社員で採用されれば、前職のときの年収と遜色ないというケースもちょくちょく耳にしました。もちろん、過去の職務経験が物を言うことは間違いありません。経理や給与計算、社会保険手続などの管理部門での職務経験はどの企業にも必要な業務で、経験があることは非常に評価されます。発達障害のある人の中にはITの知識がある人も少なくありません。自分が得意なものを何か持っていること、仕事で必要なコミュニケーションが取れることが就職活動では重要です。

本人と保護者が想像する以上に苦戦するのが新卒採用です。一般枠でだめなら障害者雇用枠でとシフトチェンジするものの、簡単に採用されるわけではありません。それでも少しずつ新卒採用において総合職正社員で合格する人が出てきました。新卒での就職活動では早目の準備が欠かせません。大学の単位は3年までに取り終えて、就職活動に専念できるようにしていた学生は比較的早く内定を得ることができています。今年も何名かの大学生の就職活動を支援していますが、簿記二級や基本情報技術者などの資格を取得し、自分の得意なことがわかっていると他の学生よりも一足早い内定につながっています。

7.今後の障害者雇用
平成30年4月より、障害者雇用率の見直しがあり、法定雇用率の引き上げが想定されています。今後さらに障害者雇用枠の求人が増え、雇用が進むことが予測されます。今後は就職が目標であった時代から、よりよい働き方や安心して働くことのできる環境を求めていくことになるでしょう。就労を目指す発達障害のある人がひとりでも多く、自分に合った仕事に就き、活躍することを願っています。

●石井京子プロフィール
一般社団法人 日本雇用環境整備機構 理事長
上智大学外国語学部英語学科卒業。通信会社を経て、人材サービス会社で障害のある方の人材紹介事業に従事。数多くの企業へ障害者雇用に関するコンサルティングサービスを提供するほか、障害や難病を持つ方の就労支援に幅広く対応。発達障害のある方の就労に関する執筆や講演活動などにも積極的に取り組む。著書に『発達障害の人の就活ノート』『発達障害の人が働くためのQ&A』『発達障害の人の内定ハンドブック』『発達障害の人の転職ノート』など多数

 

──■ 連載:認知テストって何?
(第4回)認知テスト/知能検査で何が分かるか(2)
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こんにちは。学校心理士の青木瑛佳です。前回は、日本でよく使われている認知テスト/知能検査であるWISCとWAISに関して説明をさせていただきました。今回は、別の認知テストを紹介させていただきます。

今回紹介する認知テストは、KABC (Kaufman Assessment Battery for Children)です。こちらの知能テストは、2013年に日本語版第2版が刊行されて以来、小学生以上に対しては、日本ではWISC--IVに次いでよく使われているのではないかと思われます。

KABC-IIもWISC-IVと同じように、知能をいくつかの領域に分けて測定しているのですが、分け方が異なります。KABC-IIは、脳の認知処理過程に注目したLuriaの理論と、多くの認知テストの結果を統計分析して導かれた認知理論、CHCモデルの2つを元に作られており、4つの能力を測定しています。

1.「継次処理」能力
この能力は、複数の情報を一つずつ順番に処理する力であり、短期記憶能力、つまり、情報を短い間、覚えておく能力とも関係しています。具体的には、以下の3つの課題で測定されています。

「手の動き」=一連の手の動きを見て、同じ順番で行ってもらいます。
「数唱」=いくつかの一桁の数字を耳で聞いて、同じ順番で繰り返してもらいます。
「語の配列」=一枚の絵を見て、その中にあるものを、検査者が言った順番で指してもらいます。

「手の動き」は目で見た情報の、「数唱」は耳で聞いた情報の継次処理能力を測定し、「語の配列」は耳で聞いた情報を視覚情報に置き換える際の継次処理能力を測定しています。なお、「数唱」は同じ課題がWISC-IVにもあります。

2.「同時処理」能力
この能力は、同時に示された複数の情報を用いて問題解決をする力です。主に、見たものを記憶したり分析したり、統合して考えたりする能力と関係しています。以下の4つの課題で測定されています。

「顔さがし」=1人または2人の顔写真を数秒間見て、その後、別のページにある複数の写真の中から見つけてもらいます。
「絵の統合」=一部が欠けている影絵を見て、それが何の絵かを推測してもらいます。
「模様の構成」=黄色と青の三角形を何枚か使って、絵で示された「模様」と同じ模様を作ってもらいます。
「近道さがし」=格子で出来た障害物がある庭のような図を見て、おもちゃの犬をスタート地点から骨まで動かす最短ルートを探してもらいます。※図1
※図1 (図はこちら>>

「顔さがし」は目でみたものを覚えておく力、「絵の統合」は目でみたバラバラで曖昧な情報から、意味があるパターンやまとまりを見いだす力、「模様の構成」は図形の方向や位置などの空間的な視覚情報を的確に捉えて再現する力、「近道探し」は空間内を正しく進む道筋を素早く見つける力を測っています。

3.「計画」能力
この能力は、手に入れた情報に基づき、仮説や計画を立て、自分の行動を決定したり調整したりする力です。具体的には以下の2つの課題で測定されています。

「パターン推理」=並べられた複数枚の図からパターンを推測し、抜けている箇所に当てはまる図を選んでもらいます。
「物語の完成」=何枚かの絵で出来た物語を見て、物語を完成させるのに必要な絵を選んで、抜けている場所に入れてもらいます。

この2つの課題はどちらも、与えられた情報の中のパターンや流れ、共通する特徴を推測する力を測っています。「パターン推理」は単純な視覚情報からパターンを発見する力、「物語の完成」の方は、状況や文脈を読み取る力をみていると言えるでしょう。

4.「学習」能力
この能力は、情報に注意を向け、記憶し、必要な時に取り出す力です。情報を「長い間」覚えておき、記憶として定着させる能力でもあり、勉強や研究活動、仕事で新しいアイデアを生み出す際に、極めて大切な能力です。KABC-IIでは以下の課題で測定されています。

「語の学習」=カテゴリーの異なる(例:魚、植物など)絵につけられた無意味な(日本語として意味を成さない)名前を覚え、次のページでその名前に対応した絵を指してもらいます。※図2
「語の学習遅延」=「語の学習」の15~25分後に、もう一度同じ絵を見せ、最初に覚えた名前に対応した絵を指してもらいます。
※図2 (図はこちら>>

この2つの課題は、「学習」能力の中でも、特に、目でみた概念とことばを対応させて記憶する力、またそれを長い間覚えておく力を測定しています。この力は、新しいことばを学習していく際に、特に重要であると考えられています。

KABC-IIの日本語版ではこの4つの認知的能力の他に、語彙力、算数能力、読み書き能力の、学校での学習による「習熟度」を測定する検査が、それぞれ2~4個ずつあります。(ちなみに英語版では、Kaufman(カウフマン)は別のテストとして分けていたりします。)

このように見てみると、同じ「認知テスト」でもWISC-IVとKABC-IIでは、大分異なるものを測定していることが分かります。例えば、WISC-IVでは、言語能力を測定する指標があるのに対し、KABC-IIでは「習熟度」としての言語能力(語彙力、読み書き能力)は測定されますが、認知能力としてはありません。

したがって、総合得点は、WISC-IVの方がより言語能力を反映したものとなっていると考えられます。(WISC-IVに関しては、詳しくは前回の記事をご参照ください。)

このようなことから、認知テストの点数を見る時は、その高い低い、だけを単純に見るのでではなく、項目ごとに「この点数はどのような力を示しているのか?」という視点で常に見ていただければ、と思います。

今回と前回の2回は、認知テストが何を測定しようとしているのか、ということを解説いたしました。次回は、認知テストの点数は本当に認知機能だけを反映したものであるのか?ということについて書かせていただきます。

参考にした本:Flanagan, D.P., Ortiz, S.O., & Alfonso, V.C. (2007). Essentials of Cross-battery assessment, 2nd ed. Wiley: NJ, USA

心理士 青木 瑛佳(学校心理学博士)

 

──■ あとがき
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今回執筆の石井京子さんとは、困りのある人の就労についての研究をコラボしていく予定です。

石井さんの最新著作が11月15日に発売になりました。「人材紹介のプロがつくった 発達障害の人の転職ノート」という題名です。出版元の弘文社のWebページでは、立ち読みコーナーがありますので、ご一覧ください。
(詳細はこちら>>

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