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聴覚障害児の療育に iPad を活用する

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■ 連載:聴覚障害児の療育にiPadを活用する(最終回)
■ 連載:夢や将来を諦めない
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──■ 連載:聴覚障害のある子を育てる
(最終回)聴覚障害児の療育にiPadを活用する
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○聴覚障害児とiPadの親和性
携帯電話やスマートフォン、iPadなどの多機能情報端末は、学習やコミュニケーション、生活管理に困難のある障害児にとっては、非常に大きな支援となる有益なツールとなります。近年では、障害児を対象にiPadを活用した学習支援に関する研究が始まっています。たとえば、ソフトバンクモバイル株式会社は、東京大学と共同で、携帯電話を使用した学習支援事例研究プロジェクトを2009年から開始し、2011年4月からは特別支援学校にiPadを無償で貸し出し、授業に活用する事例研究を展開しています。

実際に、私も聴覚障害児の長男を養育する中で、彼が3歳頃からiPadを一人で自由自在に操作し、さまざまなアプリケーションを活用している様子を観察しており、幼い聴覚障害児がiPadと非常に親和性が高いことを経験しています。彼は、iPadを使って、日本語を学び始めた外国人を想定して作られた動画をよく見ていました。 たとえば、「赤」「黄」「青」といった色、「一」「二」「三」といった数字、「前」「後ろ」「右」「左」といった位置などに関する漢字を、日本語初学者が学ぶための動画がいくつかありました。漢字にふりがなをふった文字情報が画面の真ん中に大きく提示されると同時に、学ぼうとしている漢字の意味に関連する映像とリズミカルな音楽が楽しそうな様子で繰り返し流れるものです。シンプルで分かりやすく、かつ、みていて楽しい映像だったため、息子はこういった動画をiPadで視聴し、ひとつの動画が終わったらYouTubeが提示する関連動画を続けてみる、といったことをよくおこなっていました。

聴覚障害のある子どもを育てる親にとって、言語獲得はとても大きな課題です。一昔前のろう学校では、文字や文章とイラストを同時提示する絵カードを保護者が手作りして療育に用いていたと思います。絵の苦手な親御さんにとっては非常に厳しい課題ですし、時間も労力もかかります。

しかし、今は技術の発展により、iPadを用いて親子で楽しみながら言葉を覚えることが可能となっています。もちろん、子どもの言葉を育むためにはiPadだけでは足りません。実際に見て聞いて、心を動かして体験することは、子どもの言葉を育むためにとても重要です。その上で、最先端の技術が凝縮されているiPadも、障害児の療育や言語訓練にうまく活用していくのが望ましいと思われます。技術はどんどん進化し、新しいものが次々と開発されています。障害児の療育に関わる先生や親御さんは、こういった新しいものに常にアンテナを張っておく必要があるのではないかと思っています。我が家のiPadに最近入った新しいアプリをこれから2つご紹介します。ひとつ目は「聴覚認知バランサー for iPad」、二つ目は私も開発にかかわった「手話うたアプリ」です。

○「聴覚認知バランサー for iPad」
聴覚障害児の長男は、人工内耳を装用することによって、音声言語を獲得しました。手話ではなく、音声言語でコミュニケーションをおこなっています。そのため、普段の生活の中では、この子の聴覚には障害があり、人工内耳を装用していても、私たちの聞こえとまったく同じようには聞こえていないという事実を、母親の私ですら忘れてしまうことがあります。

最近では、 我が家のiPadは子ども達がゲームをしたり、マンガを読んだりするのにもっぱら使われていますが、ときどき「聴覚認知バランサー for iPad」を立ち上げて、長男にゲーム感覚でやってもらいます。そうすると、「ああ、この子の聞こえは私と違う聞こえなんだな」ということが改めて実感できます。

「聴覚認知バランサー for iPad」は、このメルマガを発行しているレデックス株式会社が開発したアプリです。簡単なゲームで聴覚の困りの原因を推定し、「きく力」を改善することができるものです。きく力を確認するアセスメントと、聴覚認知を様々な角度から刺激する6つのタスクから構成されており、実施する内容は非常に専門的なものですが、簡単にゲーム感覚で取り組むことができます。医療機関や、ろう学校などでおこなう聴力検査や語音弁別検査が自宅で気軽に iPadで試せるのです。医療機関やろう学校の防音室で純音をヘッドフォンから提示しておこなうそれらの検査と比べると、「聴覚認知バランサー for iPad」でおこなう、きこえのアセスメント結果の精度は当然低いものにはなりますが、おおまかな傾向を把握するには十分だと思います。

息子が「聴覚認知バランサー for iPad」に取り組んでいる様子を横で見ていると、か行とた行の混同があったり、濁音の聞き取りが難しかったりすることがよく分かります。ただし、フィードバックされる結果は「か行とた行の混同がある」「濁音の聞き取りが苦手」といったものではありません。たとえば、「Bランク、星の数3つ」という形やグラフで視覚的にフィードバックされます。本人はもっとランクをあげようと再度タスクに取り組み、楽しみながらおこなっています。また、繰り返しタスクをおこなうことが聴能訓練にもつながります。人工内耳装用児にはおすすめのアプリだと思います。

ちなみに、前回のメルマガでご紹介したストループ干渉の実験課題は、「聴覚認知バランサー for iPad」の「いろあて」タスクに用いられています。この「いろあて」タスクの成績は、私よりも息子の方がかなりよいです。

○「手話うたアプリ」
私は、聴覚障害児の長男がiPadを使って言葉を覚える様子を目の当たりにして、聴覚障害児がiPadをどのように活用していったらいいのかという問題に対して心理学研究者として取り組むようになりました。そして、平成24年に「聴覚障害児のためのアプリ教材開発研究会」を設立しました。この研究会では、聴覚障害のある子どもの自立と社会参加を目標に、聴覚障害教育に携わる教員および聴覚障害児の保護者に対する支援の一環として、心理学・聴覚障害教育・手話言語学といったさまざまな専門家と連携して、有効なアプリ教材の開発とその普及に取り組んでいます。

今年、この研究会では、 聴こえる子も聴こえない子も、iPadのアプリを使って一緒に歌を楽しんで欲しいという願いから、「手話うたアプリ」を開発し、このアプリを使った第1回手話うたコンテストを実施しています。
※Shuwa Uta:手話で歌おう (詳細はこちら>>

手話は、聴こえない人がコミュニケーションをとるためのことばで、手指の動きや表情などを使って概念や意思を視覚的に表現する視覚言語です。手話の使用は聴こえない人のコミュニティに限定されているわけではありません。たとえば、聴こえる子どもが通う保育園で、手話や身振りをつけて合唱することがよくあります。また、聴こえない人の中でも、補聴器や人工内耳を通じて聴こえるわずかな音を手がかりに、音声言語でコニュニケーションをとったり、音楽を楽しむことができます。聴こえない人も歌詞などの視覚情報があれば、聴こえる人と一緒に手話と音声言語で歌を楽しむことができるのです。聴覚障害に関わらず、手話をしながら歌を歌うことを「手話うた」と呼んでいます。

「手話うたアプリ」では、井上あずみさんの歌う「ビリーヴ」動画とともに、歌詞、楽譜、ビートが視覚的に提示される仕組みになっています。また、動画を視聴するだけではなく、iPadの動画撮影機能を使って、手話で歌っている様子を簡単に録画することができます。 なお、このアプリは、平成27年度子どもゆめ基金(独立行政法人国立青少年教育振興機構)の助成金の交付を受けて開発されました。

聴こえる人も聴こえない人も、 ご家族やお友達と一緒にぜひ「手話うたアプリ」を使って「ビリーヴ」を楽しんでください。そして、手話を工夫し、うまく歌えたら、このアプリを使って撮影し、その動画をYouTubeにアップロードして第1回手話うたコンテストに応募してください。優秀作品には豪華な景品を贈呈する予定ですので、ふるってご応募ください。このコンテストを通じて、これからの社会を担う子ども達が手話うたに親しみ、聴こえる人も聴こえない人も、ともに生きていく社会を作り上げていくようになることを願っています。

○さいごに
7回にわたってお送りしてきたメルマガ連載は今回で最後となりました。長い間おつきあいいただき、誠にありがとうございました。聴覚障害のある子を育てることがどんなことなのか、皆様にお伝えすることができたでしょうか。この連載が皆様にとって少しでもなにかのヒントになれば幸いです。

金沢大学人間社会学域人間科学系
准教授 荒木友希子

 

──■ 連載:母親として発達凸凹の子育てが面白い!楽しい!を広めたい
第6回 夢や将来を諦めない
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子供の障害を受容していく初期段階で、子供の能力を過度に低く見積もり、将来を悲観し、夢や学習機会を諦めてしまうご家庭があります。

療育センターや保健センター、発達障害に特化した学校の教員のアドバイスで、将来の夢や学習、教育環境を諦めたというご家庭も時々あります。支援者側からすれば、家族が本人に無理な課題や環境設定を作ってしまったりしないかという思いの善意なのかもしれません。

私自身の子育てや周囲の凸凹のお子さんの成長から、特に思春期あたりでご家族が諦めているお子さんと、ご家族が応援団なお子さんとでは、精神状態に明らかに違いを感じています。

周囲には、支援者に説得されて進学を諦め、夢を持たずに福祉が受けられる範囲での将来しか子供に望まない決断をする親御さんが時々いらっしゃいます。

実際に、保健センターや療育センターの職員や発達障害に特化した学校の教員から「無駄に凸凹の凸部分に期待し、学習能力を伸ばすとプライドが高くなり、将来、福祉の恩恵が得られなくなる」と言われたと、多くのご家庭から何度も聞かされたことがあります。

私自身は、モチベーションの問題が家族関係や子供の生きる気力に繋がり、子供たちが夢を持ってチャレンジしたり学習をがんばったりすることで、思春期の心や学習面での成長や精神的な状態がずいぶん違ってくると、考えています。

もちろん、障害の種類や程度、困り感、環境によっては、諦めざるを得ない、諦めるべきという意見があるでしょう。

発達障害の子供の将来の目標設定とモチベーションと成長期、思春期、青年期の心とからだの発達について研究し、調査した論文や研究成果が文献になっていると、専門家や支援者が「諦めさせる」支援を変えてくれるのではないかなと考えます。

子供のモチベーションと発達や精神状態についての研究は、まだ始まったばかりですが、発達障害専門の医師の一部には、「諦めさせ路線」ばかりが基調路線となっている公的療育の現場で「夢を持とう」と、抗う医師も出てきています。

実感値として、子供の人生を諦めているご家庭と、子供の夢の応援団として頑張るご家族とでは、思春期以降の子供の精神状態や発達が変わってくると感じている支援者もいます。

私が行動療法のペアレントトレーニングを行う中で、思春期以降の発達障害のお子さんについて、親から見捨てられたお子さんの精神状態が過酷である一方、子供の将来に希望を持ち、夢の応援団となっているご家庭では、お子さんの状態が大変素晴らしく、社会適応に問題が少ないケースが多いのです。

当事者研究においても、ADHDやアスペルガーの当事者による幼児期から青年期にかけての絶望による様々な不利益が語られています。

これまでには、ドキュメンタリー映画『彼女の名はサビーヌ』サンドリーヌ・ボネール監督(仏)で自閉症の妹が親と姉から見捨てられたと感じた時点から、悲惨な状態になってしまった状況が描かれています。
※映画『彼女の名はサビーヌ』公式サイト (詳細はこちら>>

日本では、自閉症スペクトラム児に対する育児放棄、虐待、ネグレクトは、子供の貧困とも絡んで、社会問題となって久しい状態のままです。特に知的障害を伴わないケースの場合は、支援のはざまに放置され、各家庭の自助努力のみで放置されています。

なぜ、現在「諦めさせ路線」ばかりが基調路線となりえているのでしょうか。自閉症スペクトラム、もしくはその疑いと診断された子の、保護者の障害受容の初期段階(文献1)(文献3)において、支援者からのアドバイスによって、過度に子供の能力や将来を低く考え、発達や将来性を諦めるケースが、ADHDやアスペルガー、ADDなどのお子さんのご家庭で出ていることが考えられます。

受容の初期段階は「ショックと混乱」の時期であり、わが子への情緒への対処に大変な多くの努力が注がれ、特に母親は疲弊します。周囲に効果的に対処し実践するためのエネルギーが無い状態です。そのような時期に、公的な療育や保健センターでは、決定的な未来のない説得がおこなわれています。いわゆる「諦めさせ路線」です。また、この「諦めさせ路線」を積極的におこなっているのが、子どもを長い期間支援したことがない支援者であることが多いのが現状です。

文献1によると、10の発達の危機段階(1.診断時、2.普通の子供が歩き始める時、3.子供がしゃべり出す時、4.下の子供が障害のある子供の能力に追い付く時、5.家以外の場所に障害のある子供を預ける時、6.学校に通わせ始め、特別学級に入れる時、7.問題行動や発作、健康問題などの危機に対処する時、8.障害のある子供が思界期に入った時、9.障害のある子供が成人になった時、10.親が死んで障害のある子供の保護と世話についての問題が起こった時)において、苦痛に感じる度合いを点数化することを試みた。その結果、専門家と障害児の親との認識に差が見られたことを報告している。

すなわち専門家は、初期に経験する苦悩(2.普通の子供が歩き始める時、4.下の子供が障害のある子供の能力に追い付く時、6.障害のある子供が特別学級に入る時)においては悲しみの度合いを親よりも過大評価し、また後期に経験する苦悩(9.子供が成人になった時)においては親よりも過小評価する傾向にあると分析した、とあり、この研究結果からも専門家である支援者と親との間の認識の違いが分かります。

また、この中では、受容に関して、次のような報告がなされています。
親(特に母親)の障害受容の過程は一度だけではなく、子供の発達を達成しようとする時に繰り返して悲しみは体験される。また子供の養育の仕方が分かり子供の成長発達が実感できると、障害を受容するきっかけとなる。

また、重度心身障害児の母親の障害受容についての研究で、母親の人間的成長と名付けて結論付けている点が興味深いです。(文献2)自閉症スペクトラム症の子供たちは幅広く、様々なタイプが存在するのですが、経験値の少ない支援者は、多様なケースを知りません。特に、境界領域の子供たちが発達の凸凹を指摘されるようになったのは、ごく最近のことです。これまで療育センターが実績を積んできた重度域の子供を受容するための手法がそのまま、それ以外の子供たちの親に対しても行われているのが現状で、ショック状態の親が一応はプロである支援者から「諦めさせ路線」の支援を受ければ、それしか道がないと視野狭窄になってしまいます。

私自身も長女が生後10か月の時、初めて療育センターに相談に行った時も、3歳で通った公的な集団療育の際にも、この子の能力に寄り添い、健常の子供と同じような進学や就職などということは諦めてくださいと、心理士さんから言われたことを今でも覚えています。

しかしながら、私は、諦めませんでした。生後間もなくや幼児期に諦めることは、思考停止だと感じたからです。赤ちゃんの時と幼児期に将来を諦めろと言われた長女は、今では、音楽で生きていきたいという夢を持った中学生に育っています。実際に、コンサートの舞台に立ち、報酬もいただけるようになりました。この春には、音楽学校の特待生として選ばれました。赤ちゃんや幼児期に、諦めなくてよかったです。

関東のある市の療育センターでは、長年行われてきた「諦めさせ路線」を変えようと立ち上がった医師がいます。親へのトレーニングの際に「目の前の丁度良い目標をたてたら、あとは夢も見ようよ」と伝え始めています。その医師は、「夢は未来ではなく今のためにある」と話しています。私も、夢があることで今、目の前の生活が豊かになり、ポジティブな育児ができると考えています。

また、ハイブリディアンを提唱する東大・先端研の中邑賢龍教授や、発達障害は特定の環境における脆弱性というだけだと考える侍学園スクオーラ・今人(いまじん)の長岡先生のほか、発達凸凹の子供の強みを活かす教育を行う高校も増えています。

日本における発達障害療育は、発達障害の症状とほかの障害との症状に関して、対応を分けていないことが問題ですが、発達障害の身体症状に関して栄養療法に取り組む医療機関も少ないながら出てきています。このような支援者たちは、少なくとも「諦めさせ路線」ではありません。

私も今後の支援活動の中で、自閉症スペクトラム症の子供の夢を諦めない目標設定と成長について研究を進めていきます。

次回は、アウティング(Outing)の問題についてお伝えします。

○参考文献
文献1 阿南あゆみ、山口雅子(2007):親が子供の障害を受容して行く過程に関する文献的検討 JOUEI(産業医科大学雑誌)29:p73〜85
文献2 牛尾つや子(1998):重症心身障害児をもつ母親の人間的成長過程についての研究.小児保健研究 57:p63〜70
文献3 山根隆宏(2009):高機能広汎性発達障害児をもつ親の適応に関する文献的検討 神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要第3巻第1号2009

あしたん
スーパーバイザー
こころことば教室 (ブログはこちら>>

 

──■ あとがき
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ポケモンGOが大きな話題になっています。駅構内などの歩きスマホや交通事故が起きるなどの問題も起きていますが、よい点がたくさんあることは多くの人が知ってもよいと思います。

ポケモンを捕まえるためにはいろいろな場所に徒歩で出かける必要があります。屋内にとどまる傾向のある子どもや、高齢の方などには外出するきっかけになります。また、ポケストップと呼ばれるボケモンに必要な道具を入手できる場所は、ちょっとした地元の名所ともいえる場所に設置されており、地域を再発見する手段になり得ていると思います。読者でスマホを保有されている方は、一度は試してみられることをお勧めします。

9月26日(月)から29日(木)は、札幌と函館で、放課後等デイサービスの施設の方を対象にセミナーを行います。子どもたちの発達の困りを知ることと、それを考慮した支援の仕方を解説します。ご興味のある方は、下記ページをご参照ください。
○子どもの成長支援セミナー@北海道 (詳細はこちら>>

次号は、9月23日(金)の刊行予定です。